寮の周辺まで来ると、体からひっつくフジを離す。
「もう寮まで来ちゃったんだね」
「うん」
いつもなら別れの挨拶を交わしてすんなり別れるのだが、何か今日のフジは私に思うことがあったのか悲しそうな表情で別れた。
フジと別れたあと、偶然居合わせた同僚トレーナーから話しかけられた。
「おー、そっちも同じか？」
「同じとは何ですか？」
「担当ウマ娘のお見送りのことだよ」
「ああ、そういうことでしたか」
この同僚トレーナーは同じ時期にトレセン学園に入った、まぁ所謂話しやすい存在というわけ。
気さくに喋って、歳も近いから話しやすいのだ。
地味に私が仕事でヘマしても笑わないどころか、丁寧に指導してくれたりする。
しかも仕事も完璧で、担当ウマ娘はG1を連勝しており、上司にあたるトレーナーからは脅威的な存在、またウマ娘たちからはあのトレーナーさんに担当してもらいたいーという噂が流れている。
「前のレースを見させていただいたんですけど、本当にすごかったです」
「おだててもなんにも出ないぞ？それに同い年なんだから敬語はヤメな？」
「それは分かってます！」
その同僚トレーナーと別れ、寮部屋に戻ってきたら時計は夜10時を指していた。
「お風呂...入らないとだし、明日のトレーニング内容具体的にまとめなきゃ...」
そうして寝落ちしてしまった。
それからというもの、フジにバレないようにホワイトデーのことは隠しておいた。
フジの口からホワイトデーのお返しの話題が出る度、急いで話題を変えた。
ホワイトデーから数ヶ月が経ち、フジの口からはホワイトデーなる言葉は出なかった。

何事もなくトレーニングは進み、いつものように帰る。
しかし今日はフジの体のひっつき具合が酷いどころか、何も私たちの関係生を知らない人から見たらカップル同士と勘違いされそうな距離感だ。
「今日のフジ、な、何か近いね」
「そうなのかい？」
そうやってフジは問答無用で私の体に対して、自分の体をスリスリさせてくる。
それ以上は私の心が持たないので正直言えばやめて欲しいが、フジが喜ぶなら...と受け入れた。
「また明日ね、フジ。ちゃんと寝るんだよ？」
いつものように別れ、その場を離れた。