料理

 組織が壊滅した。僕と赤井は、現場から有無を言わさず救急搬送され、今、隣同士のベッドに寝かされている。
「全治1か月か。まあ、君がそこにいてくれれば退屈はせんよ」
「あなたは1か月半でしょう。いつかの続きの殴り合いでもしますか?」
「そうだな、消灯後に」
 そんな会話ばかりしているから、お見舞いに来てくれるコナン君たちは、呆れて帰っていく。
 食事は、仕方ないとは思うけど、味が薄い。今まで入院したことがないから、いろいろと驚く。
「ここのは豪華だぞ。量も、十分とは言えんが及第点だ」
「そういうものですか」
 当たり前だけど、同じ時間に食事をし、寝る時間も一緒だ。二人部屋だから、眠れなければ、ひそひそ話くらいはできる。
 いろんな話をした。ヒロのことも。ずっと前から僕は本当のことに気づいていて、謝りそびれていたのだと。赤井は、謝るのは自分の方だと言い、僕は、あなたはもう謝ってくれたでしょう、と言って。きりがないから、二人でヒロに謝った。あとは精一杯生きていこう、と誓い合った。
 目を覚ますと、赤井がいる。「やあ」とか「おはよう」とか「眠れたようだな」とか、声をかけてくる。朝食が運ばれて、午前中は何日かに一度検査があって、昼食と、長い午後、早い夕食。僕は、毎日のメニューを書きとめていくことにした。
「家で作るのか?」
「それもいいなと思って。さすがによく考えられてますよ」
「味はどうするんだ?」
「もっと濃くします」
「それがいい」
 ……食べたいのかな?食べてくれるかな。
 聞けないままに、収集したメニューを、赤井好みに頭の中でアレンジしていった。

 僕の退院が決まると、赤井も出たいと言った。担当医の判断はこうだった。
「驚異的な回復力ですからねぇ……。まあ、薬は近くにあった方がいいですからね。許可しましょう」
 赤井のベッドの足元に立っている彼は、僕を見て温かい目で頷いた。どうしてだろう。

 退院の日がやってきた。
「では、君の手料理を食べに行こうか」
「は?」
 僕たちは、寝間着を脱いで着替えたところだった。大した量ではないから、赤井の荷物は僕が下まで運ぶことにした。明日からは起きたら一人か……と寂しく思っていたのに、赤井の言葉に思考が停止した。
「今日の今日というわけではないさ。もっと体が回復したらの話だ」
「え、いや、そうじゃなくて」
「降りようか」
「あ、はい」
 エレベーターで一階へ。会計は昨夜のうちに済ませておいた。赤井は正面玄関を出ると、タクシーの運転手さんに声をかけた。僕を呼び、流れるように共に乗り込む。
「どちらまで?」
「米花町のメゾンモクバまで……だよな?」
「あ、はい」
 頷く僕に、赤井は微笑んで。明日からも「おはよう」が聞けるのかな、と思った。

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