日常編
「皐月様、本当にその依頼受けるんですか?」
一枚の依頼書を挟み、柑亥と皐月が机を囲む。
困惑した面持ちをする柑亥に対し、へらへらとした皐月は椅子に寄りかかりながら、お茶を飲む。
「あぁ、矯正は必要だろ?」
「できますかねぇ…。今までだって無理だったんですよ?」
「できるかできないかじゃねぇ。とりあえずやってみんだよ。」
にやりと笑う皐月は、依頼書を持って、アレンの元へと行った。
柑亥はその背に向かって、
「あなたはいつもそうなんですよね。考えなしというかなんというか…。」
と、ぽつりと呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「え?その依頼を受けるのですか?」
アレンは、カウンターを拭く手を止めて、受け取った依頼書に目を通す。
「おぅ。その依頼、ずっと残ってただろ?いい加減に終わらせちまわねぇとなと思ってさ。」
皐月はアレンが拭いたばかりのカウンターに腰をかける。
それを見たアレンは黙って布巾を皐月に渡す。
「ちょっと依頼書確認するので、これを…」
「へいへい。」
渡された布巾でカウンターを拭きながら、皐月は「依頼の詳細は?」と、アレンに問う。
アレンはゆっくりと依頼の説明を始めた。
「この依頼は、郊外の屋敷に住みついたアンデッドの討伐ですね。依頼されたのは一カ月ほど前。その時の調査だと数もそんなに居なかったと、ダザンさんから聞いています。」
依頼の内容を聞いて、皐月は不審に思った点を一つあげた。
「討伐だけか?なのにずっと残ってたのはなぜだ?」
「居なかったんです。」
「居なかった?」
「はい。アンデッドは不死の存在。神聖な魔法や浄化された武器を持ってる冒険者がこの宿にいなかったんですよ。」
アンデッド。それは、死者が現世へ蘇ったものであり、不死なる存在。
その存在は、神に信仰を捧げた聖なる魔法や清められた武具・聖具で浄化するしか倒す術はない。
主に、聖職者等がそれにあたる。
「夕凪亭は、盗賊かぶれの冒険者が多いですからね。神聖魔法を使える方は居なかったのでは?」
「それに、清められた武具は高値ですし、手が届きにくいですからねぇ…」
「なら、他の宿に回せばよかっただろ?」
「そうしたかったらしいのですが、依頼主と連絡がしばらく取れなくなっていたみたいで…回すに回せない状態が続いてたんです。」
「なら、報酬はどうなるんだ?」
「それは、前もって預かってありますよ。」
皐月は「ふぅん」と鼻で返事すると、
「それなら、問題ないな。」
報酬も問題なくもらえることを確認した皐月は、カウンターを拭き終わり、布巾を隅に追いやった。
「しかし…」
アレンは、少し首を傾げた。気がかりだったのである。
「皐月さんたちのパーティには、不死に対抗する術を持っているのですか?」
「あぁ、あるぜ。」
「柑亥はあぁ見えて、聖属性の技を使える。刹那の持ってる刀・雪雨(ユキサメ)は祝福を受けていて、不浄な存在に対して強い力を発揮できるぜ。」
「どやぁ」と腕を組んでアレンを見る皐月だが、
「つまり、皐月さんとあの猫は無力ってことですか」
と、アレンに一蹴されてしまった。
「さぁどうだかねぇ。」
皐月はヘラヘラと笑いながら、カウンターの隅に視線を送る。
「それでさ。」
「はい。」
「いつもカウンターの隅に居ついてた、魔術師は今日は居ないのか?」
「あいつさ…」と皐月が言いかけたところでアレンはそっと耳打ちをする。
「あの方の事はあまり探らないでおいてくれませんか?」
皐月は「ふぅん」と何かを察したのか、
「魔術師がいれば、もう少し楽だったんだけどなぁ~。」
と言い残し、その場を去った。
アレンは、去っていく皐月の背中を見て、
「アリス様もどこに行かれたのか…まったく…」
と、ぽつりと呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コンッコンッ
皐月は、ある部屋の扉をノックする。
すると、「はぁい」という声と共に扉が開き、中に居た住人が顔をのぞかせる。
「よぉ、Zero。刹那も居るか?」
「うん!居るよ!」
Zeroは、皐月の手を取り部屋へ招き入れる。
「せーつな!皐月が来たよ~」
黙々と机に向かう刹那の背中に向けて、声をかける。
何かの資料をまとめている刹那は、「うん~」と返事をしてからその手を止め、皐月の方へと身体を向ける。
「姉貴が部屋に来るなんて珍しいね。どうしたの?」
「あぁ、依頼を受けたからな。お前に行ってもらいたくてさ。」
「お前に」という言葉に少し疑問を抱きつつ、「うん、良いけど、どんな依頼?」と皐月に返す。
「俺は一緒に行けないから、お前たちと柑亥の三人でこなしてきてくれ。柑亥は先に現地に行ってっから、現地で詳細を聞いてくれな。」
と、皐月は依頼先の場所までの地図を刹那に渡した。
「姉貴、来ないの?」
少し寂しげに刹那は、皐月の顔を見る。
「俺は別の用事があって行けねぇんだよ。だから頼むわ。」
「ならなんで受けたのさっ!」
刹那の正論をよそに、皐月は「それじゃぁな~」と部屋を後にした。
「ほんっと、自由すぎだよ。ねっ?Zeroもそう思わない?」
と、Zeroに投げかけるが、「まぁ皐月だからね。」とベッドで転がってるZeroは答えた。
刹那とZeroの二人は、早々に身支度を整えると、皐月から貰った地図を片手に、宿を出るのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
森の中にたたずむ洋館は、長らく放置されていたのか、辺りの草は伸び、木々も手入れが施されていないのが一目でわかる。
壁にはツタが這い、ところどころヒビのようなものも見える。
そんな洋館の近くで、柑亥は一人刹那を待っていた。
「柑亥さん、遅くなってごめんなさい。」
「わ~、柑亥だー!」
刹那・Zero・柑亥が合流したのは、日も落ちかけ、辺りが暗くなってきたころだった。
辺りの暗さが、洋館の不気味さをより一層際立たせた。
「待たせてしまってごめんなさい。」
「いえ、大丈夫ですよ。その間に、少し辺りを調査していましたので。」
と言って、柑亥は自身で書いたであろう周辺地図を刹那たちに見せた。
「館は見た目ほど大きくはありません。周辺は見ての通り、手入れがほとんどされていなくて足場も悪いです。けもの道もなく、今俺たちが立っているこの細道しか道はありませんでした。」
ふむふむ。と二人は柑亥の話に耳を向ける。
「中の様子を少し確認したのですが、アンデッドの数は、おそらく当初より増えてはいません。」
そこで、刹那は「ん?」となった。
「柑亥さん?」
「はい。」
「今回の依頼内容って何なんです?」
「あぁ」と柑亥は思い出したかのように、依頼書を取り出した。
「この館に発生した、「アンデッド数体の殲滅」が今回の依頼です。」
その瞬間、刹那の顔は曇った。
「だましたな!!あの姉貴ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ほら、行きますよ。」
「刹那ぁ、もうあきらめよう?僕も頑張るし。」
近くの少し太めの木にしがみついて離れない刹那に、二人は手こずっていた。
その間、日は完全に落ち、辺りは真っ暗に。
柑亥はランタンを人数分用意しながら、刹那の説得を試みていたが、刹那は一向に動こうとしなかった。
「刹那様、受けた依頼はきちんとこなしましょう。でないと、俺たちだけじゃなく宿の評判も落ちますよ。」
「でも…でも…姉貴もいないじゃん!」
「皐月様は別の依頼でお忙しいんですよ。」
「なんで一度に二つも依頼を受けたのさ!!!」
「Zero君が増えたでしょ?なので、その分稼がないといけませんし、各々の実力を見たときの人数配分は、当然皐月様一人、あとは俺たち。これが丁度いい配分なんですよ。」
「いや!わかる!わかるけどさっ!!!」
Zeroが刹那をひっぱるも、刹那の細い体のどこにそんな力があるのか、木から1ミリも離れる気配はなかった。
「でもさ、刹那。」
「なにっ!?」
「これ以上時間たっちゃったら、あの洋館で一晩過ごすことになるんじゃないの?」
「Zero君の言う通りです。夜は危険ですから、部屋をお借りして一晩過ごして帰ることになりそうですね。」
「いやあああああああああああああああああああああ!」
刹那の悲しい悲鳴が辺りに響いた。
しばらくして、ようやく観念したのか、刹那は力なく洋館のほうの向き直り、
「行きます。行きますよ!やればいいんでしょ!!!」
と、気合を入れた。
柑亥はランタンの少ない明かりの中、依頼主からあらかじめ貰っていた、館の見取り図を広げた。
「アンデッドの報告があったのは、この部屋だけです。見つけたときに扉を固く封鎖したので、ここから出てる可能性は低いとのことです。」
「だいぶ奥の部屋で出たんだね。」
「うん…これ、扉の封鎖方法によっては時間がたってるから、破られてる可能性もあるね。」
「はい、破られている可能性は十分に考えられます。」
「なら、一旦みんなで奥の部屋を見に行って、破られていたら分かれて探索したほうがいいよね。」
と、ここで柑亥が棒を三本取り出した。
「えぇ、なので、くじを引きたいと思います。」
「なんで??」
「公平に二組に分けるためです。」
「なんでそんなことする必要があるのさっ!!!」
「おかしいよぉぉぉぉ!」とごねる刹那だったが、ここでごねても仕方ないとすぐに思いなおし、一つ小さなため息をついた。
「柑亥さん一人、僕とZeroの二人じゃダメなんですか???」
「俺と刹那様は、できれば別々に行動したほうがいいですね。」
「じゃぁ!」
少し明るい表情を見せる刹那だったが、柑亥はZeroのほうに視線を送り、
「Zero君はどちらについていきたいですか?」
と問いかけた。
Zeroは少し考えた後に、
「僕はどっちでもいいかなぁ~」
しっぽをパタパタさせながら、宙に視線を泳がせながら答える。
「うーん、だって、僕はどちらかについていくしかないもん。」
「と、言うと?」
「アンデッドって、神聖な攻撃じゃないと完全に倒せないんでしょ?僕は、行動不能までは持っていけるかもしれないけど、とどめを刺すことができないもん。」
「なるほど、つまりZero君は神聖な魔法とか祝福を受けた武器などを持っていない…と。」
「そうだね。」
柑亥とZeroの二人で話し合ってると刹那が割り込む。
「と、とりあえず、Zeroは僕と一緒でいいよね??」
柑亥とZeroは顔を合わせる。
そして、何かを感じ取ったかのように、Zeroが口を開く。
「僕、今日は柑亥といっしょがいい。」
「え?」
Zeroの言葉に刹那は驚いた。
いつも一緒だった。
何をするにもいつもついてきて、そばを離れようとしないZeroが、今日に限って柑亥といっしょがいいと言うのだ。
「Zero、じょ…冗談ですよね?」
恐る恐るZeroに聞き返すが、Zeroは首を横に振った。
「ううん、たまには柑亥のそばにいるのもいいかなって。戦いのお勉強もしたいし。」
Zeroは柑亥の腕にそのふわふわのしっぽを巻き付ける。
「屋内での三人行動は戦闘になった際、少々狭いですし、Zero君もこう言ってますしねぇ…」
柑亥は刹那の両肩に手を置く。
そして視線を合わせる。
「刹那様…。俺はあなたの強さを信じています。」
刹那は目を見開く。
そして、柑亥は優しく微笑んだ。
「最奥の部屋まではみんな一緒なんですよね?」
「えぇ、まだ最奥に居ると思われるアンデッドを一旦みんなで見に行きましょう。」
各々がランタンを持って屋敷に侵入する。
もちろんだが入り口も屋敷内部も明かりが灯っていない。
暗い廊下を進んでいく一同。
何事もなく、最奥の扉?の前につく。
「これは…」
扉は無残に破壊され、部屋の中にはアンデッドの姿はない。
扉の破片は内側に向かって飛び散っていた。
「だーれもいないね」
「扉は外側から破壊されてますね…一体誰がこんなことを…」
外にあったであろうバリケードらしき破片も、無残にも粉々に砕けている。
「誰かが意図的に壊したってこと?」
「もしくは、外側にもアンデッドが残っていて、偶然この扉を壊したとか…」
アンデッドにそんな力があるのか?と刹那は疑問に思いながらも、背筋を這う冷たい空気に身を震わせ、「はやく終わらせたい」という気持ちでいっぱいになった。
「扉がなぜ壊れたかを詮索するより、先に外に出たアンデッドの処理が先かも…」
「たしかにそうですね。館から出られると厄介です」
「しかし、道中、そんな気配は…」
アンデッドが外に出ているのなら、最奥に来るまで出会っていてもおかしくはない。
が、ここまで安全に到達できてしまっている。なら、どこへ姿を隠したのだろうか?
刹那と柑亥は神経を集中させるが、不死者は生者ではないため、気配を感じ取るのが難しい。
しかしZeroが頭に生えているアホ毛をピロピロとさせると、「お?!」と何かを感じ取る。
「あのねあのね!このお家のあっちこっちになんか動いてるの居るよ!」
「それが本当なら、まだ外部には出てないということかな」
「では、予定通り二組に分かれて討伐しましょう」
「組って言うか、僕は単独だけどね…」
ということで、柑亥・Zero組と刹那に分かれて、屋敷内を探索することとなった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「柑亥さんたちと別れたけど、明かりのない館ってこわいなぁ…」
一旦来た道を引き返し、入り口まで戻ってきた刹那。
ランタンの明かりと自分の足音だけが支配する暗い空間に、足取りも重かった。
入り口には二階へ通じる大きな階段があり、その上は踊り場となっている。
刹那は階段に背を向けて、辺りをランタンで照らそうとしたところで、階段上から、カタッと物音がした。
「ん?」
恐る恐るランタンの明かりと共に振り返る刹那。
「えっ!?」
暗がりから照らされる目のない人型の腐臭を放つソレ。アンデッドだ。
複数体のアンデッドが刹那の方向を見ている。
「ヒィッ!?」
ランタンを投げ飛ばし、目に涙を浮かべながら、入り口に向かって走る。
しかし、整えられてないカーペットの上では、満足に走れず足元を取られて転んでしまった。
手に握りしめていた治癒玉は、転んだ衝撃で手から離れて届かぬところまで転がってしまう。
「しまっ!?」
瞬間、大量のアンデッドが刹那に襲い掛かった。
(助けて…姉貴!!)
第四話 END
一枚の依頼書を挟み、柑亥と皐月が机を囲む。
困惑した面持ちをする柑亥に対し、へらへらとした皐月は椅子に寄りかかりながら、お茶を飲む。
「あぁ、矯正は必要だろ?」
「できますかねぇ…。今までだって無理だったんですよ?」
「できるかできないかじゃねぇ。とりあえずやってみんだよ。」
にやりと笑う皐月は、依頼書を持って、アレンの元へと行った。
柑亥はその背に向かって、
「あなたはいつもそうなんですよね。考えなしというかなんというか…。」
と、ぽつりと呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「え?その依頼を受けるのですか?」
アレンは、カウンターを拭く手を止めて、受け取った依頼書に目を通す。
「おぅ。その依頼、ずっと残ってただろ?いい加減に終わらせちまわねぇとなと思ってさ。」
皐月はアレンが拭いたばかりのカウンターに腰をかける。
それを見たアレンは黙って布巾を皐月に渡す。
「ちょっと依頼書確認するので、これを…」
「へいへい。」
渡された布巾でカウンターを拭きながら、皐月は「依頼の詳細は?」と、アレンに問う。
アレンはゆっくりと依頼の説明を始めた。
「この依頼は、郊外の屋敷に住みついたアンデッドの討伐ですね。依頼されたのは一カ月ほど前。その時の調査だと数もそんなに居なかったと、ダザンさんから聞いています。」
依頼の内容を聞いて、皐月は不審に思った点を一つあげた。
「討伐だけか?なのにずっと残ってたのはなぜだ?」
「居なかったんです。」
「居なかった?」
「はい。アンデッドは不死の存在。神聖な魔法や浄化された武器を持ってる冒険者がこの宿にいなかったんですよ。」
アンデッド。それは、死者が現世へ蘇ったものであり、不死なる存在。
その存在は、神に信仰を捧げた聖なる魔法や清められた武具・聖具で浄化するしか倒す術はない。
主に、聖職者等がそれにあたる。
「夕凪亭は、盗賊かぶれの冒険者が多いですからね。神聖魔法を使える方は居なかったのでは?」
「それに、清められた武具は高値ですし、手が届きにくいですからねぇ…」
「なら、他の宿に回せばよかっただろ?」
「そうしたかったらしいのですが、依頼主と連絡がしばらく取れなくなっていたみたいで…回すに回せない状態が続いてたんです。」
「なら、報酬はどうなるんだ?」
「それは、前もって預かってありますよ。」
皐月は「ふぅん」と鼻で返事すると、
「それなら、問題ないな。」
報酬も問題なくもらえることを確認した皐月は、カウンターを拭き終わり、布巾を隅に追いやった。
「しかし…」
アレンは、少し首を傾げた。気がかりだったのである。
「皐月さんたちのパーティには、不死に対抗する術を持っているのですか?」
「あぁ、あるぜ。」
「柑亥はあぁ見えて、聖属性の技を使える。刹那の持ってる刀・雪雨(ユキサメ)は祝福を受けていて、不浄な存在に対して強い力を発揮できるぜ。」
「どやぁ」と腕を組んでアレンを見る皐月だが、
「つまり、皐月さんとあの猫は無力ってことですか」
と、アレンに一蹴されてしまった。
「さぁどうだかねぇ。」
皐月はヘラヘラと笑いながら、カウンターの隅に視線を送る。
「それでさ。」
「はい。」
「いつもカウンターの隅に居ついてた、魔術師は今日は居ないのか?」
「あいつさ…」と皐月が言いかけたところでアレンはそっと耳打ちをする。
「あの方の事はあまり探らないでおいてくれませんか?」
皐月は「ふぅん」と何かを察したのか、
「魔術師がいれば、もう少し楽だったんだけどなぁ~。」
と言い残し、その場を去った。
アレンは、去っていく皐月の背中を見て、
「アリス様もどこに行かれたのか…まったく…」
と、ぽつりと呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コンッコンッ
皐月は、ある部屋の扉をノックする。
すると、「はぁい」という声と共に扉が開き、中に居た住人が顔をのぞかせる。
「よぉ、Zero。刹那も居るか?」
「うん!居るよ!」
Zeroは、皐月の手を取り部屋へ招き入れる。
「せーつな!皐月が来たよ~」
黙々と机に向かう刹那の背中に向けて、声をかける。
何かの資料をまとめている刹那は、「うん~」と返事をしてからその手を止め、皐月の方へと身体を向ける。
「姉貴が部屋に来るなんて珍しいね。どうしたの?」
「あぁ、依頼を受けたからな。お前に行ってもらいたくてさ。」
「お前に」という言葉に少し疑問を抱きつつ、「うん、良いけど、どんな依頼?」と皐月に返す。
「俺は一緒に行けないから、お前たちと柑亥の三人でこなしてきてくれ。柑亥は先に現地に行ってっから、現地で詳細を聞いてくれな。」
と、皐月は依頼先の場所までの地図を刹那に渡した。
「姉貴、来ないの?」
少し寂しげに刹那は、皐月の顔を見る。
「俺は別の用事があって行けねぇんだよ。だから頼むわ。」
「ならなんで受けたのさっ!」
刹那の正論をよそに、皐月は「それじゃぁな~」と部屋を後にした。
「ほんっと、自由すぎだよ。ねっ?Zeroもそう思わない?」
と、Zeroに投げかけるが、「まぁ皐月だからね。」とベッドで転がってるZeroは答えた。
刹那とZeroの二人は、早々に身支度を整えると、皐月から貰った地図を片手に、宿を出るのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
森の中にたたずむ洋館は、長らく放置されていたのか、辺りの草は伸び、木々も手入れが施されていないのが一目でわかる。
壁にはツタが這い、ところどころヒビのようなものも見える。
そんな洋館の近くで、柑亥は一人刹那を待っていた。
「柑亥さん、遅くなってごめんなさい。」
「わ~、柑亥だー!」
刹那・Zero・柑亥が合流したのは、日も落ちかけ、辺りが暗くなってきたころだった。
辺りの暗さが、洋館の不気味さをより一層際立たせた。
「待たせてしまってごめんなさい。」
「いえ、大丈夫ですよ。その間に、少し辺りを調査していましたので。」
と言って、柑亥は自身で書いたであろう周辺地図を刹那たちに見せた。
「館は見た目ほど大きくはありません。周辺は見ての通り、手入れがほとんどされていなくて足場も悪いです。けもの道もなく、今俺たちが立っているこの細道しか道はありませんでした。」
ふむふむ。と二人は柑亥の話に耳を向ける。
「中の様子を少し確認したのですが、アンデッドの数は、おそらく当初より増えてはいません。」
そこで、刹那は「ん?」となった。
「柑亥さん?」
「はい。」
「今回の依頼内容って何なんです?」
「あぁ」と柑亥は思い出したかのように、依頼書を取り出した。
「この館に発生した、「アンデッド数体の殲滅」が今回の依頼です。」
その瞬間、刹那の顔は曇った。
「だましたな!!あの姉貴ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ほら、行きますよ。」
「刹那ぁ、もうあきらめよう?僕も頑張るし。」
近くの少し太めの木にしがみついて離れない刹那に、二人は手こずっていた。
その間、日は完全に落ち、辺りは真っ暗に。
柑亥はランタンを人数分用意しながら、刹那の説得を試みていたが、刹那は一向に動こうとしなかった。
「刹那様、受けた依頼はきちんとこなしましょう。でないと、俺たちだけじゃなく宿の評判も落ちますよ。」
「でも…でも…姉貴もいないじゃん!」
「皐月様は別の依頼でお忙しいんですよ。」
「なんで一度に二つも依頼を受けたのさ!!!」
「Zero君が増えたでしょ?なので、その分稼がないといけませんし、各々の実力を見たときの人数配分は、当然皐月様一人、あとは俺たち。これが丁度いい配分なんですよ。」
「いや!わかる!わかるけどさっ!!!」
Zeroが刹那をひっぱるも、刹那の細い体のどこにそんな力があるのか、木から1ミリも離れる気配はなかった。
「でもさ、刹那。」
「なにっ!?」
「これ以上時間たっちゃったら、あの洋館で一晩過ごすことになるんじゃないの?」
「Zero君の言う通りです。夜は危険ですから、部屋をお借りして一晩過ごして帰ることになりそうですね。」
「いやあああああああああああああああああああああ!」
刹那の悲しい悲鳴が辺りに響いた。
しばらくして、ようやく観念したのか、刹那は力なく洋館のほうの向き直り、
「行きます。行きますよ!やればいいんでしょ!!!」
と、気合を入れた。
柑亥はランタンの少ない明かりの中、依頼主からあらかじめ貰っていた、館の見取り図を広げた。
「アンデッドの報告があったのは、この部屋だけです。見つけたときに扉を固く封鎖したので、ここから出てる可能性は低いとのことです。」
「だいぶ奥の部屋で出たんだね。」
「うん…これ、扉の封鎖方法によっては時間がたってるから、破られてる可能性もあるね。」
「はい、破られている可能性は十分に考えられます。」
「なら、一旦みんなで奥の部屋を見に行って、破られていたら分かれて探索したほうがいいよね。」
と、ここで柑亥が棒を三本取り出した。
「えぇ、なので、くじを引きたいと思います。」
「なんで??」
「公平に二組に分けるためです。」
「なんでそんなことする必要があるのさっ!!!」
「おかしいよぉぉぉぉ!」とごねる刹那だったが、ここでごねても仕方ないとすぐに思いなおし、一つ小さなため息をついた。
「柑亥さん一人、僕とZeroの二人じゃダメなんですか???」
「俺と刹那様は、できれば別々に行動したほうがいいですね。」
「じゃぁ!」
少し明るい表情を見せる刹那だったが、柑亥はZeroのほうに視線を送り、
「Zero君はどちらについていきたいですか?」
と問いかけた。
Zeroは少し考えた後に、
「僕はどっちでもいいかなぁ~」
しっぽをパタパタさせながら、宙に視線を泳がせながら答える。
「うーん、だって、僕はどちらかについていくしかないもん。」
「と、言うと?」
「アンデッドって、神聖な攻撃じゃないと完全に倒せないんでしょ?僕は、行動不能までは持っていけるかもしれないけど、とどめを刺すことができないもん。」
「なるほど、つまりZero君は神聖な魔法とか祝福を受けた武器などを持っていない…と。」
「そうだね。」
柑亥とZeroの二人で話し合ってると刹那が割り込む。
「と、とりあえず、Zeroは僕と一緒でいいよね??」
柑亥とZeroは顔を合わせる。
そして、何かを感じ取ったかのように、Zeroが口を開く。
「僕、今日は柑亥といっしょがいい。」
「え?」
Zeroの言葉に刹那は驚いた。
いつも一緒だった。
何をするにもいつもついてきて、そばを離れようとしないZeroが、今日に限って柑亥といっしょがいいと言うのだ。
「Zero、じょ…冗談ですよね?」
恐る恐るZeroに聞き返すが、Zeroは首を横に振った。
「ううん、たまには柑亥のそばにいるのもいいかなって。戦いのお勉強もしたいし。」
Zeroは柑亥の腕にそのふわふわのしっぽを巻き付ける。
「屋内での三人行動は戦闘になった際、少々狭いですし、Zero君もこう言ってますしねぇ…」
柑亥は刹那の両肩に手を置く。
そして視線を合わせる。
「刹那様…。俺はあなたの強さを信じています。」
刹那は目を見開く。
そして、柑亥は優しく微笑んだ。
「最奥の部屋まではみんな一緒なんですよね?」
「えぇ、まだ最奥に居ると思われるアンデッドを一旦みんなで見に行きましょう。」
各々がランタンを持って屋敷に侵入する。
もちろんだが入り口も屋敷内部も明かりが灯っていない。
暗い廊下を進んでいく一同。
何事もなく、最奥の扉?の前につく。
「これは…」
扉は無残に破壊され、部屋の中にはアンデッドの姿はない。
扉の破片は内側に向かって飛び散っていた。
「だーれもいないね」
「扉は外側から破壊されてますね…一体誰がこんなことを…」
外にあったであろうバリケードらしき破片も、無残にも粉々に砕けている。
「誰かが意図的に壊したってこと?」
「もしくは、外側にもアンデッドが残っていて、偶然この扉を壊したとか…」
アンデッドにそんな力があるのか?と刹那は疑問に思いながらも、背筋を這う冷たい空気に身を震わせ、「はやく終わらせたい」という気持ちでいっぱいになった。
「扉がなぜ壊れたかを詮索するより、先に外に出たアンデッドの処理が先かも…」
「たしかにそうですね。館から出られると厄介です」
「しかし、道中、そんな気配は…」
アンデッドが外に出ているのなら、最奥に来るまで出会っていてもおかしくはない。
が、ここまで安全に到達できてしまっている。なら、どこへ姿を隠したのだろうか?
刹那と柑亥は神経を集中させるが、不死者は生者ではないため、気配を感じ取るのが難しい。
しかしZeroが頭に生えているアホ毛をピロピロとさせると、「お?!」と何かを感じ取る。
「あのねあのね!このお家のあっちこっちになんか動いてるの居るよ!」
「それが本当なら、まだ外部には出てないということかな」
「では、予定通り二組に分かれて討伐しましょう」
「組って言うか、僕は単独だけどね…」
ということで、柑亥・Zero組と刹那に分かれて、屋敷内を探索することとなった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「柑亥さんたちと別れたけど、明かりのない館ってこわいなぁ…」
一旦来た道を引き返し、入り口まで戻ってきた刹那。
ランタンの明かりと自分の足音だけが支配する暗い空間に、足取りも重かった。
入り口には二階へ通じる大きな階段があり、その上は踊り場となっている。
刹那は階段に背を向けて、辺りをランタンで照らそうとしたところで、階段上から、カタッと物音がした。
「ん?」
恐る恐るランタンの明かりと共に振り返る刹那。
「えっ!?」
暗がりから照らされる目のない人型の腐臭を放つソレ。アンデッドだ。
複数体のアンデッドが刹那の方向を見ている。
「ヒィッ!?」
ランタンを投げ飛ばし、目に涙を浮かべながら、入り口に向かって走る。
しかし、整えられてないカーペットの上では、満足に走れず足元を取られて転んでしまった。
手に握りしめていた治癒玉は、転んだ衝撃で手から離れて届かぬところまで転がってしまう。
「しまっ!?」
瞬間、大量のアンデッドが刹那に襲い掛かった。
(助けて…姉貴!!)
第四話 END
4/4ページ