日常編
交易都市・リエーニャ…交易路の中心に位置し、東西南北様々な品々が行き交うアトモレスでも多くの人が溢れかえる大きな都市だ。
相も変わらずリエーニャの大門は、牛車や旅人・冒険者が常に行き交い、門の両脇に居る門番も、神経を張り詰めながら警備という業務を全うしている。
「ここが、リエーニャか…」
そんななか、二人の影が新たにリエーニャの土地を踏んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕凪亭--
今日も今日とて夕凪亭も、多くの人で賑わっていた。
というのも、アレンが調理担当になってから、安い・早い・美味いの三大サービスで所得の少ない新米冒険者からの支持がとても厚くなっていた。
皐月も、多忙な日々が続いたからか、料理を運ぶその手つきも慣れたもので、素早く配膳したり注文を取ったりしている。
「ねーちゃん!今日も繁盛してるねぇ~!」
「ありがとよ」
相も変わらずハルトも居た。よほどアレンの料理が気に入ったのだろう。毎日夕凪亭へ通っているらしい。
「でも、これだけ繁盛して人も多ければ、食い逃げとかもありそうよねぇ~」
ハルトと相席になっていた、少し酔った女性客が、ふと物騒なことを口にする。
しかし、皐月は胸を張り自慢げに、
「あー、そんときゃ俺がぶっとば…」
と言いかけた時だった。
「ねーちゃん!!」
ハルトの大声が皐月の耳を貫く。
「後ろ!」
席を立ちあがり入り口を指差す。
そこには、まだ会計を終わらせていない客が、背を向けて外へ慌てて飛び出していく姿があった。
「あっ!!!」
忙しさ故に注意が散漫になっていたのだろう、食い逃げを許してしまったのだ。
皐月は拳を握りしめ、目を細める。
「あの野郎…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方そのころ――
夕凪亭の近くにある噴水広場を、二人の青年が少し大きな荷物を抱えて歩いていた。
「この道で合ってるんですか?」
不安げに道を聞く青年は、女性とも取れる中性的な顔をしており、どことなく目元が皐月に似ている。
「えぇ、この路地の先ですよ」
問いに答える青年は、背が高く整った容姿に綺麗な赤い瞳をしており、迷った様子のない足取りでリードしていた。
その時、正面から男性が二人に向かって駆けてきた。
「おや?」
その様子は、何やら慌てており、ただ事じゃない雰囲気が一瞬で見て取れた。
男性は、青年の肩をつかむと必死な表情で、
「兄ちゃんたち!助けてくれ!!」
と縋った。
「えっ?」
「どうしたんですか?」
「追われてるんだ!!!」
二人は顔を見合わせる。
「追われてる??誰に???」
男性は今にも泣きだしそうな表情で、小さくつぶやく。
「鬼に…」
「鬼?」
こんな静かな住宅街に魔物でも出たのだろうか?
そう思った二人は少し気を張り詰めた。
―だがそれも一瞬。
「誰が…鬼だって???」
「ひぃぃぃぃぃぃいいいいい!」
男性の頭を片手でつかみ、体を持ち上げる者がそこに居た。
蒼い髪に青い瞳をした女。―皐月だ。
皐月は、食い逃げ犯を捕まえたと同時に、青年二人の存在に気が付く。
「ってお前ら…刹那に柑亥か!」
刹那と呼ばれた中性的な青年と、柑亥と呼ばれた背の高い男性は、突然の皐月との再会に驚きと笑みをこぼした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕凪亭―
「―で、追ってきたと…。」
昼の繁忙時間を過ぎた夕凪亭では、刹那・柑亥・皐月がテーブルを囲っていた。
「はい、お一人ではいろいろと大変だと思いまして。」
「うっぜ」
「僕も勢いでついてきちゃった…」
どうやら柑亥と刹那は、皐月がダザンから送られてきた手紙を読み、後を追ってきたらしい。
皐月は一つため息をつく。
「帰れ。村長…飛炎が心配する。」
冷たく言い放たれる言葉。
だが、
「大丈夫ですよ。ちゃんと許可をいただいて出てきてますから。」
柑亥は湯呑みを持ち、いつものにこやかな笑顔を皐月に向ける。
「ほんっっっっとお前のそういうところ嫌い。」
皐月がむくれていると、柑亥は「きらい?きらいなの?」と皐月の頬を人差し指でプニプニとつつく。
その横では、刹那が宿の中を見渡していた。
宿というよりは食堂と言う方が似合うその内装は、刹那に一つの疑問を浮かばせた。
「この宿って、食堂と兼用なんだよね?料理はどうしてたの?」
食い逃げ犯が居たということは食堂としても、現在営業をしているという証拠であった。
刹那と皐月は双子の姉弟だ。もちろん皐月が料理出来ないことも知っている。
となると、料理は誰が提供しているのか…という疑問が生まれても不思議ではない。
「あ~、それは…」
と、皐月が説明しかけたところだった。
甘い焼き菓子の香りが二人の鼻をくすぐる。
「私が、お手伝いをさせていただいております。」
アレンだった。
皐月のお客さん…ということで、つまめるものを作って持ってきてくれたのだ。
「魔族!?」
刹那は、目の前に置かれる焼き菓子よりも、アレンの瞳の色を見て、少し驚きを隠せなかった。
「魔族が給仕をしているのは、おかしいですか?」
「あっ…いや…その…」
おかしくはない…と言いたかったが、魔族は自身をとても気高い存在と認識しており、自分たち以外の種族を下に見ている…と一般的には言われている。
もちろん、刹那の中の魔族の知識はそういったものだ。
だからこそ、魔族が皐月の下に付き、給仕している…という状況は少し不思議な感覚があった。
だが、皐月は言い放つ。
「この宿はな、獣人・魔族・エルフ、そして人間。種族問わず訳アリのやつらがここを利用してる。ダザンは今までそうしてた。俺もこれからそうする。」
「ここは誰も拒まねぇ…夕凪亭だ―」
ダザンは、以前の夕凪亭の店主。
夕凪亭は、訳アリの人々が、その理由を隠し、身を寄せ合う場所。
皐月もそのうちの一人だった。
幼い皐月に世界のことを教えてくれたのはダザンだ。
ダザンが居たから、自分は世界を知れた。
本当の父のように慕っていたダザンの遺した夕凪亭を、そしてその意志を、皐月は継ぎたかったのだ。
「ふふっ…それは素晴らしい心がけですね。」
柑亥はにこやかに笑う。
「なら、俺と刹那様もここに居ていいということですよね?」
刹那は首を上げて皐月を見る。
少し困ったような表情を浮かべながら、皐月は
「あぁ、お前ら二人はしゃーなしだ」
と小さい息を漏らした。
「もちろん、ただじゃねーからな!お前らは客じゃねぇ、従業員だ!」
「うん!僕は帳簿とか書類関係任せてよ!」
「それでは、それ以外のことを俺がやりましょうか」
ということで話がまとまった。
(やった、これで楽できるぜ…!)
皐月は働き手が二人も増えたことで心の中でガッツポーズをしたとかなんとか…
新たな二人を加えて、夕凪亭はまた一つ動き出す!
第二話 END
相も変わらずリエーニャの大門は、牛車や旅人・冒険者が常に行き交い、門の両脇に居る門番も、神経を張り詰めながら警備という業務を全うしている。
「ここが、リエーニャか…」
そんななか、二人の影が新たにリエーニャの土地を踏んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕凪亭--
今日も今日とて夕凪亭も、多くの人で賑わっていた。
というのも、アレンが調理担当になってから、安い・早い・美味いの三大サービスで所得の少ない新米冒険者からの支持がとても厚くなっていた。
皐月も、多忙な日々が続いたからか、料理を運ぶその手つきも慣れたもので、素早く配膳したり注文を取ったりしている。
「ねーちゃん!今日も繁盛してるねぇ~!」
「ありがとよ」
相も変わらずハルトも居た。よほどアレンの料理が気に入ったのだろう。毎日夕凪亭へ通っているらしい。
「でも、これだけ繁盛して人も多ければ、食い逃げとかもありそうよねぇ~」
ハルトと相席になっていた、少し酔った女性客が、ふと物騒なことを口にする。
しかし、皐月は胸を張り自慢げに、
「あー、そんときゃ俺がぶっとば…」
と言いかけた時だった。
「ねーちゃん!!」
ハルトの大声が皐月の耳を貫く。
「後ろ!」
席を立ちあがり入り口を指差す。
そこには、まだ会計を終わらせていない客が、背を向けて外へ慌てて飛び出していく姿があった。
「あっ!!!」
忙しさ故に注意が散漫になっていたのだろう、食い逃げを許してしまったのだ。
皐月は拳を握りしめ、目を細める。
「あの野郎…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方そのころ――
夕凪亭の近くにある噴水広場を、二人の青年が少し大きな荷物を抱えて歩いていた。
「この道で合ってるんですか?」
不安げに道を聞く青年は、女性とも取れる中性的な顔をしており、どことなく目元が皐月に似ている。
「えぇ、この路地の先ですよ」
問いに答える青年は、背が高く整った容姿に綺麗な赤い瞳をしており、迷った様子のない足取りでリードしていた。
その時、正面から男性が二人に向かって駆けてきた。
「おや?」
その様子は、何やら慌てており、ただ事じゃない雰囲気が一瞬で見て取れた。
男性は、青年の肩をつかむと必死な表情で、
「兄ちゃんたち!助けてくれ!!」
と縋った。
「えっ?」
「どうしたんですか?」
「追われてるんだ!!!」
二人は顔を見合わせる。
「追われてる??誰に???」
男性は今にも泣きだしそうな表情で、小さくつぶやく。
「鬼に…」
「鬼?」
こんな静かな住宅街に魔物でも出たのだろうか?
そう思った二人は少し気を張り詰めた。
―だがそれも一瞬。
「誰が…鬼だって???」
「ひぃぃぃぃぃぃいいいいい!」
男性の頭を片手でつかみ、体を持ち上げる者がそこに居た。
蒼い髪に青い瞳をした女。―皐月だ。
皐月は、食い逃げ犯を捕まえたと同時に、青年二人の存在に気が付く。
「ってお前ら…刹那に柑亥か!」
刹那と呼ばれた中性的な青年と、柑亥と呼ばれた背の高い男性は、突然の皐月との再会に驚きと笑みをこぼした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕凪亭―
「―で、追ってきたと…。」
昼の繁忙時間を過ぎた夕凪亭では、刹那・柑亥・皐月がテーブルを囲っていた。
「はい、お一人ではいろいろと大変だと思いまして。」
「うっぜ」
「僕も勢いでついてきちゃった…」
どうやら柑亥と刹那は、皐月がダザンから送られてきた手紙を読み、後を追ってきたらしい。
皐月は一つため息をつく。
「帰れ。村長…飛炎が心配する。」
冷たく言い放たれる言葉。
だが、
「大丈夫ですよ。ちゃんと許可をいただいて出てきてますから。」
柑亥は湯呑みを持ち、いつものにこやかな笑顔を皐月に向ける。
「ほんっっっっとお前のそういうところ嫌い。」
皐月がむくれていると、柑亥は「きらい?きらいなの?」と皐月の頬を人差し指でプニプニとつつく。
その横では、刹那が宿の中を見渡していた。
宿というよりは食堂と言う方が似合うその内装は、刹那に一つの疑問を浮かばせた。
「この宿って、食堂と兼用なんだよね?料理はどうしてたの?」
食い逃げ犯が居たということは食堂としても、現在営業をしているという証拠であった。
刹那と皐月は双子の姉弟だ。もちろん皐月が料理出来ないことも知っている。
となると、料理は誰が提供しているのか…という疑問が生まれても不思議ではない。
「あ~、それは…」
と、皐月が説明しかけたところだった。
甘い焼き菓子の香りが二人の鼻をくすぐる。
「私が、お手伝いをさせていただいております。」
アレンだった。
皐月のお客さん…ということで、つまめるものを作って持ってきてくれたのだ。
「魔族!?」
刹那は、目の前に置かれる焼き菓子よりも、アレンの瞳の色を見て、少し驚きを隠せなかった。
「魔族が給仕をしているのは、おかしいですか?」
「あっ…いや…その…」
おかしくはない…と言いたかったが、魔族は自身をとても気高い存在と認識しており、自分たち以外の種族を下に見ている…と一般的には言われている。
もちろん、刹那の中の魔族の知識はそういったものだ。
だからこそ、魔族が皐月の下に付き、給仕している…という状況は少し不思議な感覚があった。
だが、皐月は言い放つ。
「この宿はな、獣人・魔族・エルフ、そして人間。種族問わず訳アリのやつらがここを利用してる。ダザンは今までそうしてた。俺もこれからそうする。」
「ここは誰も拒まねぇ…夕凪亭だ―」
ダザンは、以前の夕凪亭の店主。
夕凪亭は、訳アリの人々が、その理由を隠し、身を寄せ合う場所。
皐月もそのうちの一人だった。
幼い皐月に世界のことを教えてくれたのはダザンだ。
ダザンが居たから、自分は世界を知れた。
本当の父のように慕っていたダザンの遺した夕凪亭を、そしてその意志を、皐月は継ぎたかったのだ。
「ふふっ…それは素晴らしい心がけですね。」
柑亥はにこやかに笑う。
「なら、俺と刹那様もここに居ていいということですよね?」
刹那は首を上げて皐月を見る。
少し困ったような表情を浮かべながら、皐月は
「あぁ、お前ら二人はしゃーなしだ」
と小さい息を漏らした。
「もちろん、ただじゃねーからな!お前らは客じゃねぇ、従業員だ!」
「うん!僕は帳簿とか書類関係任せてよ!」
「それでは、それ以外のことを俺がやりましょうか」
ということで話がまとまった。
(やった、これで楽できるぜ…!)
皐月は働き手が二人も増えたことで心の中でガッツポーズをしたとかなんとか…
新たな二人を加えて、夕凪亭はまた一つ動き出す!
第二話 END