第一章 記憶のカケラ編
「おい、試験なんだし本気でやるのはどうかと思うのだが…」
「そうですよ、皐月様。殺しちゃ駄目ですよ!!」
皐月の殺意に気が付いたのか、諸刃と柑亥が抑制に入る。
しかし、皐月は二人の言葉に耳を貸す事はなかった。
睨みあう皐月と刹那。完全に二人だけの世界に入ってしまった。
刹那自身は、ターゲットが皐月だと気が付いていたが、琴葉と数葉には予期せぬ相手だった。
動揺からか、大きく見開かれたその瞳は、瞳孔が開き微かに震えていた。
「ちょっと待ってよ…」
「ターゲットって…まさか…」
「そのまさかですよ。」
「俺たちの中の誰かだ。刹那から聞いてなかったの?」
腰を抜かす数葉。柑亥は咄嗟に数葉の体を支えた。
琴葉は再び刹那の傍へ駆け寄ろうとするが、また諸刃が前に立ちはだかる。
「そこを通してください。」
「皐月に邪魔させんなって言われてるからね~。そうもいかないんだよ。俺たちも殺されちゃうかもしれないしね。」
笑顔で答える諸刃に、琴葉は深刻な表情で詰め寄る。
「でもっ!!このままじゃ、刹那先輩が殺されるかもしれないっ!!」
「だね…」
琴葉の言葉に、諸刃も真剣な表情を浮かべる。
しかし、それは一瞬で、いつもの笑顔に戻る。
「でも、もしそうなったら…」
「俺たちが全力で止めますよ。」
「黒炎様にもいわれるからね~」と柑亥の言葉に、諸刃が付け足した。
琴葉もさすがに折れたのか「そういうことなら…」と、身を引いた。
しかし、琴葉の表情から不安の色が消えることはなかった。それを心配した柑亥が「どうしたの?」と問いかける。
「刹那先輩は、皐月に勝てるのでしょうか…」
「大丈夫ですよ。どちらかと言うと…」
言葉を言いかけて、口を閉じた柑亥。琴葉が不審に思い柑亥の顔を見つめる。もちろん、他の二人も気になるのか、自然と柑亥に視線が集まる。
言うべきかどうか…少し悩み、口を開いた柑亥。
「皐月様は、刹那様に勝つことは出来ません…。」
「どういうことだ?」諸刃が不思議そうに問う。
「皐月は村一…いや、国一番の凄腕なんだろ?なのに、まだ修行中の身の刹那に勝てないわけないだろ…」
琴葉と数葉が同時に頷く。しかし、柑亥だけが首を横に振った。
「皐月様は、確かに強いかもしれない。でも、それは昔の話…。今の皐月様は、唯一、刹那様にだけは勝てない。」
「どういう………あっ!!!」
言葉を発しながら何かに気が付いた諸刃。「そういうことか!」と一人納得の声を上げる。
「私たちに説明してよ。」と迫る二人に「見ていれば分かりますよ。」と柑亥が答えた。
睨みあったまま動かなかった二人だが、刹那が口を開く。
「姉貴…。やっぱり姉貴だったんだね。」
「それがどうした。」
視線をどこに向けていいか分からずに、宙を泳がし始める刹那。しかし、その隙も一瞬で脳裏に自分の顔面にめがけて飛んでくる拳のイメージがはっきりとうつった。その鮮明さから、現実のものと勘違いした刹那は、自分の顔面で腕をクロスさせる。その瞬間、その腕に鈍い痛みが走る。
「…ちっ……」
自分の攻撃が防御されたのを確認して、少し距離をとる皐月。そして、体勢を整えて身構える。
刹那は一瞬何が起きたのか理解できていなかった。脳裏に一瞬よぎったイメージ。そして同じように起きた現実。昔から時々そのようなことが起こっていたが、実際のところ確信にまでは到っていなかった。
(今のは…一体…)
そしてまた、脳裏によぎるイメージ。
刹那はそっと一歩だけ下がり、ほんの少しだけ体を反らす。
瞬間的に土煙が上がる。しかし、目をつぶる時間など与えないかのように、土煙の中から拳が飛んでくる。刹那は片手でその攻撃を受ける。次は、下、上、左…次々と攻撃を受けている刹那に、皐月が余裕の笑みで一言言い放つ。
「受けてばかりじゃ、欲しいものなんて奪えないだろ。」
確かにそうだ、攻撃を受けてばかりでは皐月が持っているであろう秘水晶を奪うことなど到底叶わない。
だが、正直なところ刹那は攻撃を防ぐので精一杯だった。
「だって…勝てるわけ…ないじゃないか…」
悲しそうな表情を浮かべる刹那に、皐月は攻撃の手を止めなかった。
「お前…。この先のこと、なめてるだろ…」
「えっ…」
皐月の動きが一瞬だが早くなる。行動が追いつけない刹那は、皐月の蹴りをまともに腹にくらった。
「うぇっ!!」
その場に崩れ落ちる刹那。王立ちで見下ろしてくる皐月を涙目になりながら見上げる。
「この先、忍びとして生きていくのなら、どんな奴が敵になるか分からない。最初から全力を尽くしてもいないのに、勝てないと決め付けるようならば…ここで負けろ。そして、学校も辞めてしまえ。」
皐月の言葉が心に深く突き刺さる。確かに分かってはいる。でも、相手の実力を知ってしまっている以上、どうしていいかも分からない。悔しさのあまり涙が止まらなくなる。
その様子をずっと見ていた琴葉が刹那に向かって叫ぶ。
「先輩!!皐月相手に、攻撃を受け続けれていたのなら反撃も出来ますって!!」
「そうよ!!何か方法があるはずよ!!」
数葉も後に続いた。
「方法って…」
刹那には、目の前の皐月が大きな壁にしか見えなかった。こえられない。そう確信するしかなかった。
そのときだった…
「おーぃ、刹那ぁ。お前、どうやって皐月の行動を読んだんだ?」
諸刃の一言が刹那の表情を変えた。なぜなら、その一言で、皐月の表情が一瞬曇ったからだ。
そして、刹那の心に一つの感情が流れ込んでくる。
(諸刃のやつ…後で覚えてろよ…)
脳裏によぎるイメージ・流れ込んでくる自分のものではない何かの感情。そして今まで、なぜか皐月の記憶が自分の中にあるのか。全ての辻褄が刹那の中でつながった。
(そうか…。そうだったんだ。)
刹那は立ち上がる。そして、身構えた。
皐月はめんどくさそうに、戦闘態勢を取った。
「やんのか?なーんか、めんどくさくなってきたんだが…」
「やるよ。だって、きっと…」
「勝てる気がするから。」
刹那は勢い良く地面を蹴った。そして、真正面から皐月に突っ込む。放たれた拳は、軽くよけられた。しかし、その避けた先に刹那の蹴りがまっていた。
(しまった!!!)
蹴りは皐月の横腹にヒットする。そして、そのまま勢いを殺さないように力いっぱい振り切った。皐月の体は、投げ飛ばされて木にめり込む。
「っつぅ…」
すぐに立ち上がった皐月だが、口の中を切ったのか、拳で口元の血を拭い去った。
しかし、その正面には刹那の姿はない。
(居ない!!見失った!?)
すぐさま辺りに神経を集中させたが、僅かな差で皐月の真上から、刹那が現れる。
鞘に入ったままの刀を強く振り下ろし、皐月の脳天を直撃する。
脳が揺れる。視界が歪み、吐き気さえも覚えるその鈍い痛みから、皐月はそのまま地面へと崩れ落ちた。
刹那は、少し距離を取り、様子を伺う。
しかし、皐月が起き上がる気配はない。肩で息をする刹那に、琴葉と数葉が駆け寄った。
「刹那先輩!!」
「刹那ぁ!!」
「数葉…琴葉…。ありがと」
刹那は、ホッとしてその場に腰を下ろす。というより、腰を抜かした。
皐月の傍には、諸刃と柑亥が駆け寄り、二人で体を抱えていた。
「刹那様、そのまま黒炎様のところに向かってください。」
「えっ?でも秘水晶は…」
柑亥が刹那の持っている刀を指差す。
刀の柄には、深緑色の綺麗な水晶が付いていた。
「無意識のうちに皐月様から奪っていたんですよ。そして、そのまま自分の力にしてしまうなんて…」
「やっぱり、刹那は天才型だな。」
そう言うと、二人は皐月を抱えて去って行った。
肩に入っていた力がすぅっと抜けていく。それと同時に、刀は姿を消し、水晶だけが残った。
「刹那、黒炎様のところに戻りましょう。」
「黒炎様にこれを届けて、試験終了ですよ!!」
「うん…」
(これでいいのだろうか…)と思いつつも、刹那は立ち上がり、黒炎の居る大宮へと向かった。
******************************************
「全く…加減を知らないのは姉弟譲りなのか?」
「姉弟はやめろ…」
「動かないでください!皐月様!!治療が出来ないでしょ!!」
龍牙邸に戻った3人は、皐月の手当てをしていた。
頭に包帯をぐるぐると巻かれながら、難しい顔をしている皐月を、諸刃が面白おかしく弄る。それにキレた皐月が暴れ、柑亥が皐月の痛めている部分をわざとらしく握る。
「いたぁっ!!!柑亥!!お前わざとだろ!!」
「痛いのが嫌なら、おとなしくしていてください。諸刃も、皐月様にちょっかい出さないでくださいね。」
「へーぃ」
縁側に座って、3人仲良く(?)はしゃいでいる所に、突然、黒炎に似た少女が真っ赤な炎と共にあわられた。
『皐月…大変…』
「どうした、赤炎?」
【赤炎(せきえん)】と呼ばれた少女は、少し宙に浮いていた。黒炎と違い、表情が無い。目は虚ろで、その瞳と髪・背中の色は燃える炎のように赤い。
その虚ろで何を考えているか分からない表情からも、付き合いの長い3人は、尋常ではない雰囲気を掴んでいた。
「赤炎様、なにかよからぬ自体でも?」
ちょうど、皐月の手当てを終えたところで、諸刃と柑亥はその場で跪き頭を下げる。黒炎の時とは違い、皐月も同じく跪き頭を下げた。
『刹那の…秘水晶が……狙われている…。このままでは…黒炎の元に…たどりつく前に…。』
「一体、誰に?」
『それは……』
******************************************
「数葉、琴葉、ちょっと急ごうよ。」
「ちょっと、先輩が早いんですよ。」
「そうよ、ちょっと休ませてぇ…。疲れちゃった。」
「君達二人はただ見てただけでしょ!!」
黒炎の元へ急いでいた3人。大宮まではそんなに距離はないところまで来ていたが、極度な緊張感の中、精神的に疲れた琴葉と数葉の足取りが重かった。
どこか不安を覚えた刹那は、早く黒炎の元へ辿り着かなければいけないという思いでいっぱいだった。
「どうして、そんなに急ぐのよ。」
試験は、確かにもう目の前に終了が迫っている。時間もまだまだ余裕がある。なのに、いつも以上に急かしてくる刹那に、不満を覚えた数葉が講義した。
「どうしてって…」
口ごもる刹那。何か理由があるからだろうと察した琴葉が数葉を背負う。
数葉は嫌がる様子も無く。そのまま、琴葉の背中でホッとしていた。
「先輩、何か理由が…」
「嫌な予感がするんだ…」
「嫌な予感?」
「うん…」
琴葉はそれ以上聞くことも無く、「急ぎましょう」と言うと、刹那と共に早足で駆けて行った。
『気づかれたのかな?』
『どうだろうね?でも…』
『あの子が持ってるんでしょ?』
『そうみたいだね』
『『秘水晶』』
第六話へつづく…
「そうですよ、皐月様。殺しちゃ駄目ですよ!!」
皐月の殺意に気が付いたのか、諸刃と柑亥が抑制に入る。
しかし、皐月は二人の言葉に耳を貸す事はなかった。
睨みあう皐月と刹那。完全に二人だけの世界に入ってしまった。
刹那自身は、ターゲットが皐月だと気が付いていたが、琴葉と数葉には予期せぬ相手だった。
動揺からか、大きく見開かれたその瞳は、瞳孔が開き微かに震えていた。
「ちょっと待ってよ…」
「ターゲットって…まさか…」
「そのまさかですよ。」
「俺たちの中の誰かだ。刹那から聞いてなかったの?」
腰を抜かす数葉。柑亥は咄嗟に数葉の体を支えた。
琴葉は再び刹那の傍へ駆け寄ろうとするが、また諸刃が前に立ちはだかる。
「そこを通してください。」
「皐月に邪魔させんなって言われてるからね~。そうもいかないんだよ。俺たちも殺されちゃうかもしれないしね。」
笑顔で答える諸刃に、琴葉は深刻な表情で詰め寄る。
「でもっ!!このままじゃ、刹那先輩が殺されるかもしれないっ!!」
「だね…」
琴葉の言葉に、諸刃も真剣な表情を浮かべる。
しかし、それは一瞬で、いつもの笑顔に戻る。
「でも、もしそうなったら…」
「俺たちが全力で止めますよ。」
「黒炎様にもいわれるからね~」と柑亥の言葉に、諸刃が付け足した。
琴葉もさすがに折れたのか「そういうことなら…」と、身を引いた。
しかし、琴葉の表情から不安の色が消えることはなかった。それを心配した柑亥が「どうしたの?」と問いかける。
「刹那先輩は、皐月に勝てるのでしょうか…」
「大丈夫ですよ。どちらかと言うと…」
言葉を言いかけて、口を閉じた柑亥。琴葉が不審に思い柑亥の顔を見つめる。もちろん、他の二人も気になるのか、自然と柑亥に視線が集まる。
言うべきかどうか…少し悩み、口を開いた柑亥。
「皐月様は、刹那様に勝つことは出来ません…。」
「どういうことだ?」諸刃が不思議そうに問う。
「皐月は村一…いや、国一番の凄腕なんだろ?なのに、まだ修行中の身の刹那に勝てないわけないだろ…」
琴葉と数葉が同時に頷く。しかし、柑亥だけが首を横に振った。
「皐月様は、確かに強いかもしれない。でも、それは昔の話…。今の皐月様は、唯一、刹那様にだけは勝てない。」
「どういう………あっ!!!」
言葉を発しながら何かに気が付いた諸刃。「そういうことか!」と一人納得の声を上げる。
「私たちに説明してよ。」と迫る二人に「見ていれば分かりますよ。」と柑亥が答えた。
睨みあったまま動かなかった二人だが、刹那が口を開く。
「姉貴…。やっぱり姉貴だったんだね。」
「それがどうした。」
視線をどこに向けていいか分からずに、宙を泳がし始める刹那。しかし、その隙も一瞬で脳裏に自分の顔面にめがけて飛んでくる拳のイメージがはっきりとうつった。その鮮明さから、現実のものと勘違いした刹那は、自分の顔面で腕をクロスさせる。その瞬間、その腕に鈍い痛みが走る。
「…ちっ……」
自分の攻撃が防御されたのを確認して、少し距離をとる皐月。そして、体勢を整えて身構える。
刹那は一瞬何が起きたのか理解できていなかった。脳裏に一瞬よぎったイメージ。そして同じように起きた現実。昔から時々そのようなことが起こっていたが、実際のところ確信にまでは到っていなかった。
(今のは…一体…)
そしてまた、脳裏によぎるイメージ。
刹那はそっと一歩だけ下がり、ほんの少しだけ体を反らす。
瞬間的に土煙が上がる。しかし、目をつぶる時間など与えないかのように、土煙の中から拳が飛んでくる。刹那は片手でその攻撃を受ける。次は、下、上、左…次々と攻撃を受けている刹那に、皐月が余裕の笑みで一言言い放つ。
「受けてばかりじゃ、欲しいものなんて奪えないだろ。」
確かにそうだ、攻撃を受けてばかりでは皐月が持っているであろう秘水晶を奪うことなど到底叶わない。
だが、正直なところ刹那は攻撃を防ぐので精一杯だった。
「だって…勝てるわけ…ないじゃないか…」
悲しそうな表情を浮かべる刹那に、皐月は攻撃の手を止めなかった。
「お前…。この先のこと、なめてるだろ…」
「えっ…」
皐月の動きが一瞬だが早くなる。行動が追いつけない刹那は、皐月の蹴りをまともに腹にくらった。
「うぇっ!!」
その場に崩れ落ちる刹那。王立ちで見下ろしてくる皐月を涙目になりながら見上げる。
「この先、忍びとして生きていくのなら、どんな奴が敵になるか分からない。最初から全力を尽くしてもいないのに、勝てないと決め付けるようならば…ここで負けろ。そして、学校も辞めてしまえ。」
皐月の言葉が心に深く突き刺さる。確かに分かってはいる。でも、相手の実力を知ってしまっている以上、どうしていいかも分からない。悔しさのあまり涙が止まらなくなる。
その様子をずっと見ていた琴葉が刹那に向かって叫ぶ。
「先輩!!皐月相手に、攻撃を受け続けれていたのなら反撃も出来ますって!!」
「そうよ!!何か方法があるはずよ!!」
数葉も後に続いた。
「方法って…」
刹那には、目の前の皐月が大きな壁にしか見えなかった。こえられない。そう確信するしかなかった。
そのときだった…
「おーぃ、刹那ぁ。お前、どうやって皐月の行動を読んだんだ?」
諸刃の一言が刹那の表情を変えた。なぜなら、その一言で、皐月の表情が一瞬曇ったからだ。
そして、刹那の心に一つの感情が流れ込んでくる。
(諸刃のやつ…後で覚えてろよ…)
脳裏によぎるイメージ・流れ込んでくる自分のものではない何かの感情。そして今まで、なぜか皐月の記憶が自分の中にあるのか。全ての辻褄が刹那の中でつながった。
(そうか…。そうだったんだ。)
刹那は立ち上がる。そして、身構えた。
皐月はめんどくさそうに、戦闘態勢を取った。
「やんのか?なーんか、めんどくさくなってきたんだが…」
「やるよ。だって、きっと…」
「勝てる気がするから。」
刹那は勢い良く地面を蹴った。そして、真正面から皐月に突っ込む。放たれた拳は、軽くよけられた。しかし、その避けた先に刹那の蹴りがまっていた。
(しまった!!!)
蹴りは皐月の横腹にヒットする。そして、そのまま勢いを殺さないように力いっぱい振り切った。皐月の体は、投げ飛ばされて木にめり込む。
「っつぅ…」
すぐに立ち上がった皐月だが、口の中を切ったのか、拳で口元の血を拭い去った。
しかし、その正面には刹那の姿はない。
(居ない!!見失った!?)
すぐさま辺りに神経を集中させたが、僅かな差で皐月の真上から、刹那が現れる。
鞘に入ったままの刀を強く振り下ろし、皐月の脳天を直撃する。
脳が揺れる。視界が歪み、吐き気さえも覚えるその鈍い痛みから、皐月はそのまま地面へと崩れ落ちた。
刹那は、少し距離を取り、様子を伺う。
しかし、皐月が起き上がる気配はない。肩で息をする刹那に、琴葉と数葉が駆け寄った。
「刹那先輩!!」
「刹那ぁ!!」
「数葉…琴葉…。ありがと」
刹那は、ホッとしてその場に腰を下ろす。というより、腰を抜かした。
皐月の傍には、諸刃と柑亥が駆け寄り、二人で体を抱えていた。
「刹那様、そのまま黒炎様のところに向かってください。」
「えっ?でも秘水晶は…」
柑亥が刹那の持っている刀を指差す。
刀の柄には、深緑色の綺麗な水晶が付いていた。
「無意識のうちに皐月様から奪っていたんですよ。そして、そのまま自分の力にしてしまうなんて…」
「やっぱり、刹那は天才型だな。」
そう言うと、二人は皐月を抱えて去って行った。
肩に入っていた力がすぅっと抜けていく。それと同時に、刀は姿を消し、水晶だけが残った。
「刹那、黒炎様のところに戻りましょう。」
「黒炎様にこれを届けて、試験終了ですよ!!」
「うん…」
(これでいいのだろうか…)と思いつつも、刹那は立ち上がり、黒炎の居る大宮へと向かった。
******************************************
「全く…加減を知らないのは姉弟譲りなのか?」
「姉弟はやめろ…」
「動かないでください!皐月様!!治療が出来ないでしょ!!」
龍牙邸に戻った3人は、皐月の手当てをしていた。
頭に包帯をぐるぐると巻かれながら、難しい顔をしている皐月を、諸刃が面白おかしく弄る。それにキレた皐月が暴れ、柑亥が皐月の痛めている部分をわざとらしく握る。
「いたぁっ!!!柑亥!!お前わざとだろ!!」
「痛いのが嫌なら、おとなしくしていてください。諸刃も、皐月様にちょっかい出さないでくださいね。」
「へーぃ」
縁側に座って、3人仲良く(?)はしゃいでいる所に、突然、黒炎に似た少女が真っ赤な炎と共にあわられた。
『皐月…大変…』
「どうした、赤炎?」
【赤炎(せきえん)】と呼ばれた少女は、少し宙に浮いていた。黒炎と違い、表情が無い。目は虚ろで、その瞳と髪・背中の色は燃える炎のように赤い。
その虚ろで何を考えているか分からない表情からも、付き合いの長い3人は、尋常ではない雰囲気を掴んでいた。
「赤炎様、なにかよからぬ自体でも?」
ちょうど、皐月の手当てを終えたところで、諸刃と柑亥はその場で跪き頭を下げる。黒炎の時とは違い、皐月も同じく跪き頭を下げた。
『刹那の…秘水晶が……狙われている…。このままでは…黒炎の元に…たどりつく前に…。』
「一体、誰に?」
『それは……』
******************************************
「数葉、琴葉、ちょっと急ごうよ。」
「ちょっと、先輩が早いんですよ。」
「そうよ、ちょっと休ませてぇ…。疲れちゃった。」
「君達二人はただ見てただけでしょ!!」
黒炎の元へ急いでいた3人。大宮まではそんなに距離はないところまで来ていたが、極度な緊張感の中、精神的に疲れた琴葉と数葉の足取りが重かった。
どこか不安を覚えた刹那は、早く黒炎の元へ辿り着かなければいけないという思いでいっぱいだった。
「どうして、そんなに急ぐのよ。」
試験は、確かにもう目の前に終了が迫っている。時間もまだまだ余裕がある。なのに、いつも以上に急かしてくる刹那に、不満を覚えた数葉が講義した。
「どうしてって…」
口ごもる刹那。何か理由があるからだろうと察した琴葉が数葉を背負う。
数葉は嫌がる様子も無く。そのまま、琴葉の背中でホッとしていた。
「先輩、何か理由が…」
「嫌な予感がするんだ…」
「嫌な予感?」
「うん…」
琴葉はそれ以上聞くことも無く、「急ぎましょう」と言うと、刹那と共に早足で駆けて行った。
『気づかれたのかな?』
『どうだろうね?でも…』
『あの子が持ってるんでしょ?』
『そうみたいだね』
『『秘水晶』』
第六話へつづく…
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