第一章 記憶のカケラ編

大雨の降る大通り-

人一人通らない時間帯なのだろうか、霧がかかった薄暗い大通りを4人の影が大宮に向かい歩いていく。
一人は血に塗れて、一人は担がれて・・・
そんな状態の4人は大きな門の前にたどり着いた。血に塗れた手が門を叩く。弱弱しい音を立てながら何度も何度も門を叩いた。

ゆっくりと開かれる門の奥には黒炎が険しい顔をして立っている。

『やらかしたのはどっちだ』

黒炎は血に塗れた者と担がれている者に交互に視線を送る。
血に塗れたものが恐怖からかその場に崩れ落ちる。

『やったのはお前か・・・刹那・・・』

座ったまま首を横に振る刹那。体は振るえが止まらない。

「やったのは・・・俺だ・・・」

担がれている者がゆっくりと地面に足をつける。
黒炎の表情はさらに険しくなってゆく。

『庇うのは止せ、皐月。もう分っているんだ。』
「刹那じゃない!!俺だ!!」
『嘘をついてまで刹那を庇ってお前に得など無いだろう!!刹那を連れて行くぞ。』
「やめろっ!!」

刹那に伸びる黒炎の手を皐月が必死に抑える。

『刹那の力が暴走したのだろう!一番傷ついたのはお前じゃないのか?』
「違う!俺が・・・俺が刹那の暴走を促したんだっ!!刹那の意思じゃないっ!!」

黒炎は疑うような目で皐月を見るが、皐月の目は真っ直ぐで嘘をついているようには思えない。一緒に居た琴葉と数葉も首を縦に振っている。

『そうか・・・・だが、お前ともあろう者が何故・・・』
「刹那のために・・・」

皐月はそう言うと元来た道を戻り始めた。

『どこへ行く!!』
「後片付けが未だだから・・・」

黒炎の静止も聞かずに皐月は姿を消した。

場には重い空気が流れる。

『刹那・・・最後に確認しておく。本当にお前じゃないんだな?』

その言葉に対し、刹那は何かをブツブツと繰り返す。その表情は確認できないが、普通じゃない空気が刹那の周りを覆う。

「わた…わたし…だよ・・・。わた…わ…ぼ…ぼく…僕がみんなを殺したんだ。僕がっ僕がっ!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ」叫びながら黒炎に襲い掛かる刹那。とっさに琴葉と数葉が刹那を押さえ込む。

「落ち着いて!!!刹那!!」

「はなせっはなせっ」

暴れる刹那に数葉は体を飛ばされ、近くの木に体を打ちつけた。

「うぅ・・・・・・」

「数葉!!!」

琴葉は数葉に駆け寄った。勿論、刹那を抑える人は居なくなり、刹那は黒炎に殴りかかる。

「やめろっ!!刹那ぁっ!」
「うぅっ・・・刹那っ・・・やめてぇ・・・」

琴葉と数葉の言葉に反応したかのように刹那の拳は黒炎の目の前で動きを止めた。
そして体は黒炎に覆い被さる様に崩れ落ちる。

「黒炎様…ーさん…は・・・どうなるんですか・・・」

先程までの勢いが嘘のように静かで囁くような声で黒炎に耳打ちした。
黒炎は刹那の頭を優しく撫でながら小さな声で呟いた・・・

『本当なら・・・死罪なのだがな・・・』

刹那はその言葉を最後に黒炎の腕の中で静かに目を閉じた・・・


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「確かに・・・そんなこともあったわね・・・」

尻餅をついたまま記憶を辿る数葉・・・。
その間のも、琴葉と刹那の乱闘は続く。

「落ち着いてくださいっ!!!刹那先輩!!!」

琴葉は戸惑いながらも暴走を続ける刹那の頭を掴み地に叩き付けた。
(やりすぎた・・・)と思いながらも、右手で頭を押さえつけたまま左手で刹那の両腕を何とか締め上げる。

「琴葉・・・やりすぎじゃぁ・・・」

ようやく立ち上がった数葉に見向きもせず、琴葉は刹那を締め上げる。

「やりすぎっ?!やらなきゃやられるんだよ!!ボーっとしていないで誰か助けを呼んできて!!!」

怒鳴るように言い放つ琴葉。「あっ…うん…」と戸惑いながらも返事をして数葉はその場から離れていく。
締め上げている刹那の腕は想像以上に力が入っている。少しでも気を抜けば腕から抜けられて、何をされるかわからない。だが、男と女の力の差は大きく、琴葉の体力もいつまで持つかわからない。とにかく、今は目の前の刹那を取り押さえて、琴葉が早く戻ってくることを祈るしかなかった。

(数葉・・・早く戻ってきて・・・)


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(刹那があんな風になっちゃうなんて…)

目に涙を浮かべてある場所に向かって走る数葉。
どうしていいかもわからず、誰を呼んでいいのかもわからない。
ただひたすらに、今、頭を過ぎった人のところへと足を進める。

(そうよ…柑亥さんなら…)

何とかしてくれるかもしれないという期待と、どうしようもならなかったときの不安を胸に、柑亥という人物の元へと向かった。

【紅蛇 柑亥(くだ かんい)】……代々・龍牙一族に仕えている紅蛇一族の一人で、刹那の世話役。小さい時から、刹那達とよく遊んでくれた人物だ。
刹那達とは少し年齢も高く、お兄さんのように慕っていた。

刹那のことをよく知る人物だからこそ、何とかしてくれるかもしれないという期待は大きかった。

数葉がたどり着いたのは、紛れもなく刹那の屋敷。
そこそこ大きな建物でこんなところに3人しか住んでいないほうが驚いてしまう。

コッコッ…

大きな門を叩く。

コッコッ…

中から人の気配はしない。

(どこかに出かけているのかな…)

そんな不安を抱えてその場を立ち去ろうとしたとき、目の前に白い着物の男が立っていた。

「何か御用ですか?数葉…」

短い銀髪、赤い瞳…
背は高く、透き通った声…
それは、よく知る人物…

「柑亥さん!!」

数葉は柑亥の衣を握り引っ張った。

「ちょっちょっと!?服が破けますって!!!何かあったんですか?」

いつもと様子が違う数葉に気付いた柑亥は、数葉の手を衣から優しく引き離し握る。

「刹那が!!!刹那が!!!」
「刹那様がどうかなされたんですか!?」

柑亥の表情が先程とは一変した…


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「くそっ…数葉、遅い…」

押さえつけている手も締め上げている方の手も、限界が来ていた琴葉。一瞬でも気を抜いてしまえば、刹那が暴走したまま逃げ出してしまう。
精神的にもきつい状況の中、琴葉は一人で耐えていた。

「よぅ…」

どこからともなく聞こえてきた声に気をとられてしまった琴葉。力が緩んだ一瞬の隙に刹那は琴葉の手から逃れる。

「しまっ…!!!」

刹那が自分の腕から離れていることに気が付いた時、刹那は目の前でうつ伏せになり、倒れていた。
恐る恐る側により、刹那の様子を確かめる。

「せ・・・つ…な?」

息はあるがピクリとも動かない。

「気を失ってるだけだ…」

後ろからの声に反応し、戦闘の構えを取る。

「血の気が多いこと…」

そこに居たのは、刹那に瓜二つの女。背丈も顔つきも年齢も同じぐらいだろうか。
違うといえば、刹那よりは髪が長く青みのかかった黒色、目つきが鋭いくらいだろうか。
だが、琴葉はこの人物を知っていた。

「さ…皐月…?」
「さぁな…」

腕を組み人を見下しているかのような視線。そして、少しでも動けば殺されてしまいそうなほどの殺気…
間違いない。いや、間違えるはずがない。

「なんであんたがここに居るんだよ」
「あぁ?どっかの誰かさんが、俺の弟に馬乗りになってたんで何かやらしいことでもおっぱじめるのかと思って見てただけだが?」
「最低…」
「いつものことだろ?」

ニヤニヤと不気味に笑う。

「警告に来たんだよ。」
「警告?」

またどうせくだらないことだろうと思いながら、琴葉は皐月の言葉に耳を傾ける。

「刹那の前で俺の話をしないほうが良い。今回のように暴走を始めてしまうからな。」
「なぜ?」
「刹那は俺と比べられるのを極度に拒む。小さいとき、あの事件の前からそうだった。暴走すると手がつけられなくなってしまう。刹那はやさしいから言葉では口に出そうとしない。その分、心に住み着いた闇が表に出てしまう。最近はエスカレートして俺の話をするだけで闇が表に出くるようになってきている。だから…」
「その闇を出てこないようにするためにも、皐月の話をするな…ということか」
「話がわかるじゃねぇか。どっかのお嬢さんよりはわかるみたいだな。」

フンッ…と鼻で笑う皐月。
(お嬢さん…って数葉のことか…)と飽きれたかのような表情を浮かべる。
ただ、琴葉には一つ引っかかるものがあった。

「なぁ、心の闇って?」

皐月は一瞬眉間にしわを寄せる。話したくないような表情を浮かべて一つため息をついた。

「呪眼か?」
「…」

皐月が答えるよりも早く、琴葉が口を開いた。
「さぁな…」そう答えると、皐月はその場を立ち去った。

「…呪われた一族…龍の牙を食らいし魂の共鳴……」

悲しそうな表情を浮かべて、琴葉は刹那の体を優しく起こした。

無邪気な表情で眠る刹那…
その表情にはどこか皐月と似た何かが見えた。

「何も…知らないほうが良いのかな………」

数葉と柑亥が走って二人の元へ駆けて来ているのも気にも留めず、琴葉は拳を強く握りしめた。


第三話へつづく…
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