「そこに母が居る」

僕はもう死んでいる。

でも僕は生きている。

この体は僕のものではない。

この体も死んでいる。




それでも僕は生活をしていた。

祖父と父と共に一つ屋根の下で、暮らしてる。

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ある日、僕は祖父と一緒に布団に入っていた。

僕が寝付けないからと、祖父はいつものベッドではなく僕と一緒の布団に入ってくれていた。

お話もたくさん読んでくれた。
そして、祖父は先に寝てしまった。

僕は祖父を見る。目をつぶってすやすやと寝息を立てるソレは、少し苦しそうにも見えた。

僕は、祖父の体を抱えてベッドへと横たわらせた。
起きないように素早く…。

すると祖父は目を開けて虚空を見ながら、

「ハハ」

とだけ喋ると、再び目を閉じた。
その顔は、健やかな顔をしていた。

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その日、僕は夢を見た。

光の中で「●●」と名乗る女性が僕に問いかけてくる夢だ。

話の内容はほとんど覚えていない。

でも、

「昔一緒に住んでた家の、公園の近くにある、一本の桜の木で会いましょう。」

という言葉だけを覚えていた。

僕は「行かねばならない」と決意した。

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その場所は、歩いていくには少し遠い。
なので父を頼ってみることにした。

父は外仕事で遠征していることも多いが、今日は家にいた。

「これがあいつの分で、あいつを乗せて、このルートを通って…」

台所でブツブツとつぶやきながら、お弁当を二人前作っていた。

この弁当は僕の分ではない。
そして父の言うあいつとは僕のことではない。
父の仕事の相方の分だ。

父の目はいつもどこか遠くを見ている。

今日の父は波の高い海辺へ仕事に行くようだ。
僕は父を頼るのをやめた。

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僕は歩いていくことにした。

ちょっと遠いぐらいだが、僕の足ならたどり着ける。

僕には不思議な力があるからだ。

周りを寄せ付けないオーラと、その力強い足がある。

僕の歩いた道には、大きな足跡が残り、人々は僕を避けて歩く。

どんなに人通りの多い道だろうと、僕には歩けない道などないのだ。

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しばらく歩くと、道なき道へとたどり着いた。

と言っても、草で道が隠れてるとかいうものではなく、建物や壁が入り組んで、道が無いのだ。

だが、この壁の上を通るのが一番早い。

ぴょんと飛び上がり壁の上に乗ると、壁やらフェンスやらの上を伝って歩く。

時折、屋根の上をカラカラと歩きながら、丘の上を目指す。

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丘の上には電波塔がある。

左右対称で、堂々とした佇まい…とても綺麗だ。

おっと、見とれている場合ではない。先に進まなくてはならない。

そこにいるのだ。

顔も知らない母とやらが。
この体を産み落とした母とやらが。

僕は電波塔の下を抜け、少し細い小道も抜けて、桜が満開の公園へたどり着いた。

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公園の池の中央には小さな島がある。

その島の真ん中に、一本の立派な桜の木が立っていた。
そこが待ち合わせの場所だ。

島に向けてかかっている橋を渡り、花びらが舞い散るその木へたどり着いた。

だが、そこには誰もいない。

辺りを探してみるが、人っ子一人見当たらない。

しばらく立って待っていたが、誰かが来る様子も、誰かが通る様子もなかった。

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どうせ、夢の話だ。

そう思い地面に腰をかける。

手にざらッとした土の感触と、不自然な凹凸の違和感を感じた。

僕はその地面に目をやると、

「ここを掘れ」

とだけ書かれていた。

暇を持て余していた僕は、何の疑問も持たずその地面を掘った。




掘って掘って掘った




すると…




そこには…








●●●した母が居た。









END…
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