第一章

拓慧「身元不明のアンドロイドだとっ!?」

拓慧の表情は一変して険しくなった。
横で居眠りをしていた叶も、その大きな声で目を覚ます。

職員「はい、しかもパートナーも一緒のようです。」
拓慧「すぐ行く。」

職員を押しのけ、拓慧は施設内へと駆けていった。
叶は眠そうな目を擦りながら、職員と顔を見合わせている。

叶「身元不明って?アンドロイドは、T-Pが全部管理してるんじゃないの?」
職員「いえ、各地のT-P施設含めても、管理している機体はほんのわずかです。まだ回収できていない機体や、Type-00のように、そもそも行方が分からなくなっている機体も数多くいます。」
叶「でも、パートナーが居るって…」
職員「はい、アンドロイドは、パートナーと接続していないときは目が赤色に光ります。今回出現した機体は、目の色が紫でした。」
叶「つまり、パートナーが一緒にいると。」
職員「えぇ、その可能性がとても高いです。」

職員と叶は話しながら、駆け足で拓慧の後を追った。


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拓慧「状況は?」

叶達より先に複数のモニターのあるフロアへ来た拓慧。
ここはメインルーム。巨大なモニターを中心に小さなモニターが複数設置されている。
職員のデスクにもいくつかのモニターが設置されており、シティ内の状況や、心電図のような画面が表示されている。

拓慧は、その中心に立っている重貞に駆け寄った。

重貞「猫の時よりひどいな。五体の蛇型のアンノーンに、二体のアンドロイドだ。」
拓慧「アンノーンはともかく、アンドロイドが二体???」
重貞「あぁ…」

「これを見てくれ」と、重貞は大きなモニターに三人の影を映した。
そこには、大きな鎌を持った黒いフードの機体と白髪でけだるそうな目をした人間、キャップをかぶって元気そうに何かを応援している少年が映し出されていた。

拓慧「アンドロイドは、この鎌を持った奴だけか?」
重貞「いや…この後ろをよく見てくれ。」

重貞は、少年の後ろを拡大した。
そこにはうっすらと靄のように人の形をした何かが映し出されていた。

拓慧「こいつは…」
重貞「おそらく、Type-61・夢衣(むい)だ。電磁障壁を突破したのはこいつだろう。」
拓慧「Type-60シリーズか…厄介だな。」
重貞「あぁ、60シリーズはハッキングを得意とするシリーズだ。特に61番は対アンドロイド専用機。こちらの機体を乗っ取られかねん。」

重貞は、フードをかぶった機体へとモニターを切り替えた。

重貞「こっちはType-23・弍娑(ニーサ)だ。」
拓慧「暗殺特化の20シリーズ…」
重貞「そうだ…」

「出撃できる機体は?」と拓慧が問うが、重貞は首を横に振った。

重貞「それがな…今、パートナーと機体へのシンクロが謎の電波によって妨害されていてな…」
拓慧「なぜ、そのタイミングで…」
重貞「わからぬ。それより、黒烏はどうした?」

拓慧は目を泳がせた。

拓慧「あー…ちょっと失踪というか…どっか行ったというか。猫と一緒というか…」
重貞「…」

重貞の無言の圧が拓慧に向けられる。

拓慧「大丈夫。あいつは絶対に戻ってきます。裏切るような奴じゃないのは俺が一番わかってる。」

重貞は渋い顔をしながらも、「今はお前の言うことを信じよう」と言うと、モニターに視線を戻した。
すると、ふらりと赤い帽子の男が重貞の横に並ぶ。
にやりと笑うその顔に拓慧は嫌悪感を感じた。

町長「では、Type-58を出撃させるのはどうかな?」
重貞「58に?」
町長「えぇ、58番なら今動けますよね?」

拓慧は「たしかに…」とつぶやく。

拓慧「58番は、電波を介さずシンクロする特殊個体。外部の電波の影響は受けないですね。」

拓慧「しかし、58番のパートナーはまだ訓練中の麻江です。一人でアンノーンの群れに行かせるのは無理があります。」

と続ける拓慧に、「君の機体は?」と町長に告げられて、「うっ…」と拓慧は言葉を濁した。

重貞「行かせるしかあるまい。黒烏が戻ってくるまで、蝶に耐えてもらおう。」
拓慧「確かに蝶は防御特化型のシリーズの中でも、絶対防御と呼ばれる耐久型の機体ではありますが…。」
拓慧「パートナーが、あの麻江じゃ…」
町長「君が麻江君を一人で出撃させたくないのはわかるよ。」

町長は俯く拓慧の肩にそっと手を置いた。

町長「大事なたった一人の妹だもんね。」

町長「もう、アンノーンの手で家族を失いたくないんだろう?」
拓慧「わかってるなら!なんで!」

拓慧は町長の手を払いのけた。
しかし、町長はその不敵な笑みを崩さない。

町長「でもね、本人が行くつもりなら、君に止める権利はないんじゃないかな?」

町長は場所を少し横にずれた。
その背後には、インカムを装着して蝶を連れた麻江が立っていた。

麻江「話は全部聞かせてもらいました。私、星崎麻江…黒烏帰還まで、アンノーンの強襲から市民を守りたく思います!」

敬礼をして、拓慧と重貞の目をまっすぐ見つめる彼女の手は震えていた。
拓慧は拳を握りしめながら、重貞にアイコンタクトを送る。
重貞も、拓慧からのコンタクトを受け取り、すぅっ…と息をのんだ。

重貞「いいか、無理だと思ったらすぐに撤退をするんだ。あとスーパードライブは絶対に使うんじゃないぞ。」
麻江「はい!了解しました、指令!」

麻江は再度敬礼をし直すと、外へ飛び出していった。
蝶も一礼すると、麻江の後を追う。

重貞「黒烏はどのくらいで戻る?」
拓慧「わからない…でもきっともうすぐ戻ってくると思うんだ。」
重貞「そうか…」

拓慧(黒烏…早く…戻ってきてくれ!)


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大通り 西門付近…


???「いやぁ~逃げ惑う人間は爽快だねぇ~」
???「趣味悪~まぁ僕は新しいアンドロイドを解析できればそれでいいんだけどねぇ~」

白髪でけだるげな眼をした男と、キャップをかぶった少年は、建物の上からアンノーンが町を破壊している状況を見て楽しんでいた。

???「でも来ないね。アンドロイド。」
???「そうだねぇ。T-Pさんは、何をしているんだか。」

のんきに足をぶらつかせながら、キャップの少年は帽子をかぶりなおす。
白髪でけだるげな眼の男は、にこやかにアンノーンを応援していた。

そこに…

麻江「蝶、バトルオン!オーバープロテクト!」
蝶『メイレイジュダク バトルモードオン オーバープロテクトジッコウ』

インカムを付けた麻江と、巫女服の少女・蝶がアンノーンの前に立ちふさがった。

麻江の指示を受けた蝶は、両手を前にかざすと、緑色の風を巻き起こした。
その風は、五体のアンノーンをあっという間に取り囲むと、ドーム状のバリアを形成した。

麻江「これ以上、町は破壊させないんだから!」
蝶『オーバープロテクト プロテクトリツ100% ツギノメイレイマデ タイキュウヲイジシマス』

???「へぇ~やるねぇ。三知流(みちる)、あの機体は?」
三知流「うん、夢衣。スキャニング実行」
夢衣『タイショウヲスキャン カイセキジッコウ…』

三知流と呼ばれたキャップをかぶった少年が、インカムを通して指示を出すと、背後に揺らめいていた霞から一瞬本体と思われる丸い玉が現れた。
その玉の周りに小さな紫の電流が走ったかと思えば、次の瞬間、蝶の周りに紫の電流がまとわりつく。


夢衣『カイセキカンリョウ Type-58 キタイメイ チョウ ボウギョガタノキタイデス』
???「なーるほどね」
三知流「防御型かぁ~、ちょっとこっちの火力足りなさそうだね、累(るい)。」

累と呼ばれたけだるげな眼の男は、にんまりしながら麻江を見つめる。

累「たしかに~?でもあの子戦闘慣れしてないでしょ?」

「汗すごいよ」と、ケラケラと笑う。
麻江は「ぐぬぬ…」と喉を鳴らした。
確かに、見てとれるほど、麻江の額には汗が滲んでいる。麻江はその汗を袖で拭うと「そうね」とつぶやいた。

麻江「でも、蝶の機体性能は、私がちゃんと引き出してあげるんだから!」
累「ほぉ…」

麻江は威勢よく相手を威嚇するが…

累「後ろが疎かだよねぇ」
麻江「!?」

麻江の背後にふわりと風が舞う。
瞬間…

ガキィィィィン

と、何かがぶつかる音がした。
音で反射的に目をつぶった麻江が、ゆっくりとその瞼を開くと、自身を包むように緑色のオーラが展開されていた。

麻江「蝶!」
蝶『メイレイ イガイノ コウドウヲ オユルシクダサイ』

蝶はアンノーンの方向に左手を、麻江の方向に右手を向けていた。
顔はアンノーンの方向に向いたまま、視線だけ麻江のほうに泳がす。

麻江「大丈夫よ、ありがとう。蝶」
累「あーらま、弍娑の速度に反応するなんて、すごいね。」

「ひゅ~ぅ」と累は蝶に拍手を送る。

すると三知流が立ち上がり、アンノーンのほうへ手をかざした。
瞬間、アンノーン達の目が赤く輝いたかと思ったら、蝶の作り出したプロテクトドームを振動させるほどの雄たけびを上げる。

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアス!!!』
蝶『タイキュウチ 85% プロテクトシュウフク 88…91…』

蝶のプロテクトが雄たけびで15%吹き飛んだ。一秒間に3%のスピードでプロテクトの修復を急ぐ。
その間も、中に閉じ込められているアンノーンは、じたばたと暴れながらドームの壁に激突している。

蝶も頑張って修復をしているが、暴れまわるアンノーンの攻撃が苛烈で、やや間にあっていない様子だ。

麻江「なにをしたの!?」

異様に暴れまわるアンノーンを見て、麻江は三知流をにらみつけた。
にらまれた三知流は、まるでその反応を待ってたかのようにニコニコと満面の笑みを浮かべる。

三知流「なにって、ちょっとその子たちの本能を刺激しただけだよ☆」
麻江「なに…それ…」
蝶『ムイノノウリョク 【パワーハック】デス タイショウシャノ プログラムニカンショウシテ ノウリョクヲブーストスル チカラデス』
麻江「つまり、今このアンノーンは暴走状態ってこと!?」
蝶『ハイ』

ギリッっと歯を食いしばる。
今のままでは、いつ戻ってくるかわからない黒烏を待つのは限界がありすぎる。
かといって、スーパードライブは重貞に止められている。

三知流「ねぇねぇどうするの~?このままだと、そのバリアもたないんじゃない?」

ニタリとさげすむように笑う三知流
麻江は覚悟を決めたかのようにぐっと拳を握りしめた。

麻江「…じゃぁ、蝶のバリアを割れるものなら割ってみなさいよ!蝶!ドライブモード発動!」
蝶『メイレイヲショウニン コアカイホウリツ50%…ドライブモードオン』

麻江が蝶に命令すると、蝶は薄緑色のオーラを纏う。目は金色に光り輝き、蝶を中心に小さな衝撃波が走った。

麻江・蝶「『ハードプロテクト展開!』」

蝶の展開していたドーム状のオーラだったバリアが、六角形の防壁で緑色の風を纏い再構築されていく。
再構築されたドームは、目で見てわかるほどに分厚く、中で暴れているアンノーンの声をも遮断していた。

三知流「ドライブモード使えたの!?」
累「へぇ~」

麻江はにやりと笑う。

麻江「新人だからってバカにしないでよね。私と蝶の絆は、こんなものじゃないんだからっ!」



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一方そのころ…

叶「猫…聞こえる?猫っ!」

メインルームの入り口前。
叶はインカムを装着して、ぼそっとマイクに話しかけていた。

猫『何?どうしたの?』

叶の呼びかけに猫が答えた。

叶「今、大変なことになってるんだ。」
猫『大変なこと?』
叶「うん、アンノーンとアンドロイドが押し寄せてきて、麻江が一人で戦ってるんだ。」
猫『蝶とパートナーが!?』

『すぐ戻るよ』と猫は叶をなだめるように言うと、通信を閉じた。
それと同時に、メインルームの扉が開く。
そこには拓慧が居た。

拓慧「どうした?こんなところで。」
叶「あ、あのさ、猫がすぐ戻ってくるって」
拓慧「黒烏も一緒か?」
叶「それはわからない…」

拓慧はいまだにつながらないインカムを装着していた。

叶「それ、まだつながらないの?」

叶は心配そうに拓慧のインカムを見つめる。

拓慧「あぁ、いまだにうんともすんとも言わない。」

「俺、嫌われたのかなぁ…」と、その場で座り込んだ。
叶は、そんな拓慧の背中をポンポンと叩く。

叶「大丈夫だよ。きっと猫と一緒だって。」
拓慧「うん…」
叶「拓慧が信じなくて誰が黒烏を信じるの?パートナーは拓慧でしょ?」

拓慧は、スッと立ち上がり、いつもの凛々しい表情に戻った。

拓慧「そうだな。戻ってきたときにすぐ動けるよう、俺たちも準備しよう。」
叶「俺…た…ち??」

きょとんとする叶の腕を引っ張り、どこかへ連れて行く拓慧。

拓慧「猫はかなり自立して動く。戦闘もできる。なら、俺と一緒に来い、叶。」
叶「なあああああんでぇええええぇえ!僕、まだ戦闘員じゃないんだけどぉぉぉぉぉおおおお!」

叶の悲痛な叫びが、廊下に響いた。



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三知流「やるね、あの子。」

蝶がドライブモードを発動してから、一時間が経過していた。
展開されているバリアにはヒビどころか傷一つついていない。
ただ…

累「でも、君はそろそろかな?」

二人の視線は麻江に向けられていた。

麻江の服は汗でぐちゃぐちゃになり、息もあがっている。
目も開いているのがやっとの状態だ。

麻江「はぁっ…はぁっ…まだ、まだ大丈夫よ…」
蝶『麻江、無理しないで。』

蝶が声を発したその時だった。

???『蝶、今だ!』

聞きなれた声で合図が送られた。
その瞬間、蝶の展開しているバリアの一部が薄く透け、銃声と共にアンノーンの頭が一体吹き飛んだ。
そして、もう一体のアンノーンの体が二分される。

猫『待たせちゃったね、蝶。』
黒烏『ここからは、俺たちに任せてくれ。』








第九話へつづく…


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