第一章

龍美「ふむ…。さすがの蝶もコアまでは修復できなかったということか…」
猫『蝶は外傷専門だからね。外傷であれば失った部分も修復してくれるけど、内部の修復システムは記憶していなかったはずだよ。』
龍美「そうか…参考にしておく。ありがとう。」

龍美の診察を受けて終わった猫は、ベットに座りながらカルテを書き込む龍美と話をしていた。

猫『大丈夫でしょ?』
龍美「ふむ…外傷は確かに問題は無いが…」
猫『コアが心配?』
龍美「あぁ、思っていたより損傷が激しい。くわえて、見たことの無い形状だから、下手にさわることも出来んしな…」
猫『大丈夫だよコアは。』

そう言い、ベットに腰をかけながら足をブラブラさせている。

猫『僕は、コアの自動修復機能が付いているからね。他の機体のように、定期メンテナンスなんていらないよ。』
龍美「覚えておくよ。」

猫の言葉に笑顔でかえす龍美。

龍美「しかし、あれだけ人間を拒絶していたのに、よくここに来る気になったな。」

龍美は猫の横に腰をかけると頭を撫でる。
猫は笑顔でゴロゴロとのどを鳴らして頬を赤らめる。

猫『人間だって、悪い奴ばかりじゃないって分かったからさ。それに…』
龍美「それに?」

猫は突然悲しい目つきをして立ち上がった。

猫『姉様との約束だから…』

龍美には、猫がそれ以上言わなくても何が言いたいのか感じ取れた。
その哀愁漂う背中からは、何か大事な大きな使命感を背負わされているに違いないと感じた。

猫はそれ以上何も言うことなく『ありがとう、また遊びに来るね』と龍美に告げると部屋を出て行く。龍美も笑顔で手を振る。

猫が居なくなった後、龍美はパソコンの前に向かった。
【TopSecret】と書かれたフォルダを開きパスを入れる。

その中には多数のファイルがあった。龍美は迷わずに一つの映像ファイルを開く。

???『T-Pの皆さん。今までありがとうございました。また、訪れることが出来れば、その時は…』

そこには一人の女性と猫に良く似た人物が映し出されていた。
龍美は、その映像を見て一言呟いた。

龍美「帰ってきたよ。未来…。ようやく、お前との約束が果たせそうだ…」



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チリンッ

首輪の鈴の音を鳴らしながら、ご機嫌で廊下を歩く猫。機体の宿舎のほうへと向かって歩いていく。
宿舎のほうへと向かっていくので、すれ違う人の数は少ない。
すれ違う人たちは、猫に「こんばんは」と挨拶をする。もちろん猫も『こんばんは』と返す。

猫の足取りは次第にスキップへと変わっていった。



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叶「拓慧、こんな感じでいいのかな?」
拓慧「ん~そうだな。もう少しこっちでいいんじゃないか?」
叶「近すぎじゃないの!?」
拓慧「いいだろ。こんなもので。」
叶「いや近いってば!!!」

真新しい部屋で家具を設置しているのは、拓慧と叶だった。
新しい人を迎えるために準備を進めているのだ。
戦闘員ではない叶と管理人である拓慧の業務の一つ。だが、今回迎える新人は、少し違った。

猫『拓慧!!叶!!』

部屋に飛び込んできたのは猫だった。
キラキラした目で部屋の中を見渡す。

拓慧「おう、ゼロ。どうだった?」

手を止めて汗をぬぐう拓慧。
ニコッと笑う拓慧の笑顔にハッと気が付いたかのように、猫はいつものようにむすっとした表情に戻る。

猫『心配なんかしなくたって大丈夫なんだからねっ!!それより…』

猫は改めて部屋の中を見渡した。
家具は何故か二人分づつ用意されており、冷蔵庫も設置されている。
地下のため窓が無い。少し狭く見えるのはそのせいだけではないだろう。

猫『うん、僕のお願いどおりにしてくれるなんて、さすがは拓慧だね』

少し上目線から物を言う猫に、拓慧は少しイラッときたが気になるほどではなかった。

拓慧「しかし、本当にいいのか?特例中の特例だぞ。」

猫の言葉を待たずに、再び作業に戻る拓慧。

猫『いいよ。僕はここで、叶と一緒に暮らしたいんだ。』
叶「えっ!?!?」

僕聞いてないんだけど、といわんばかりの叶をよそに、拓慧と猫の間で会話が進む。

拓慧「ゼロが、未来さんの元パートナーだから特別に許可してるって言うのだけは、忘れないでおいてくれよ?」
猫『分かってるよ。でも、僕も姉様のお願いを聞いているだけなんだから、それも理解しておいてよね。』
拓慧「分かった。」

お互いに視線を合わせてニカッと笑う。
そんな二人のあいだから、恐る恐る叶が声を放つ。

叶「俺は、ここに引越しですか?」
猫・拓慧「『うん』」

叶の質問には、一瞬の間もなく二人から回答が返ってくる。
その答えを聞き、ため息を漏らす叶に猫は歩み寄り、大きな丸い瞳をウルウルさせながら首を傾げる。

猫『僕と一緒に居るのが、嫌なの?』

今にも泣き出しそうな顔で詰め寄られて断ることなんて出来ない叶は、苦笑いを浮かべた。



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雲ひとつ無い空が、これでもかと言わんばかりに青く広がっている。
それを視界に捕らえて一つため息をつく。地に体を預けると、大の字に広げて、さらにため息をついた。
優しい風が叶の赤い髪を優しく撫でる。

目を細めて見つめるその先には、自分を見下ろしている一人の影があった。鬱陶しそうにそれを見つめる。

叶「なんでかなぁ~…。」

そう目の前の人物に話しかける。

黒烏『仕方ありませんよ。拓慧様も、麻江様も会議ですし。』

叶を見下ろしながら、黒烏が無表情で答える。

叶「だからってさぁ…」

叶は起き上がって、あたりを見渡す。

T-Pの建物は、この町でも一番大きな岩をくりぬいて作られている。
その頂上は平坦になっており、屋上のように使うこともできる。
見晴らしがいいので、叶にとってはお気に入りの場所だ。

いつもは一人でぼーっと空を眺めているが、今日は違った。
自分の周りには、三体…いや三人の人影があった。

黒烏は立ったまま、叶をずっと見続けている。
蝶は目をつぶり、太陽に向かって顔を向けたまま動かない。
猫にいたっては、丸くなり完全に熟睡している。

そんな状況が気に入らないのか、ふてくされて落ち着きの無い叶。
そんな叶の不満を察したのか、黒烏が声をかける。

黒烏『俺たちのお守りをさせられているとでも、仰りたいのでしょうか?』
叶「そうではないけど…」
猫『目がずっとそういってるよ。』

猫が目を覚ましたのか、片目を開けて叶を見る。
蝶も一伸びすると、立ち上がった。

蝶『まぁ、そう思うのも無理ないわね。事実、お守りをしているようなものだし。』
黒烏『俺は、拓慧様から叶と猫を見張っていろと言われただけだ。』
猫『断固としてそう言い張るならそれでもいいけどね~。』

尻尾をパタパタさせながら、ニヤつく猫に黒烏は表情を少しこわばらせた。
叶は、また一つため息をついた。

叶「ねぇ、窮屈じゃない?」

不意に叶が立ち上がる。

猫『んにゃ?』

猫が面白そうな気配を感じ取ったのか、目をキラキラさせて飛び起きる。

叶「下に行ってみないか?」

黒い笑みを浮かべる叶。『さんせーい!』とはしゃぐ猫に対し、黒烏は眉間にしわを寄せた。

黒烏『拓慧様から、猫を人前に出してはいけないと言われております。その提案には乗れません。』
蝶『そうね、でも…』

蝶は叶の傍に寄る。

蝶『ちょっとだけなら…』

ニコッと笑う蝶に、少し表情を緩める黒烏。
叶はそれを見逃さなかった。

叶「よし!!決まりっ!!」
猫『やったぁ~!町っ町っ!!』

そう言うと、叶と猫は屋上から飛びおりた。
そして、蝶も後に続く。

黒烏『こっこらっ!!!俺は良いとは言ってない!!っと言うより、ここは屋上だぞっ!!!』

黒烏も遅れて三人の後に続いた。



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右へ左へと忙しなく行きかう人々の中に人の姿がまぎれていた。
叶はこの町で育ったので、この人混みには慣れているが、町を自由に歩いたことの無い三人にとっては、窮屈だと感じる反面、この賑やかさが少しだけ面白くもあった。

猫『人がいっぱいだね~』
黒烏『蝶、お前は小さいからはぐれないようにしなきゃ』
蝶『ちょっと!子供扱いしないでよっ!』

蝶は黒烏に手をつながれ、叶は、先に行く猫の尻尾を掴む。
だが、そんな異様な光景も、この人混みの中で気にするものはなかった。

猫『良いにおいがするよっ!!叶!!』
叶「行きたいなら、行こうか。」
猫『うんっ!!』

はしゃぐ猫を見ていると、なんだか懐かしい気分になった。
そんな叶を先頭に、とある建物に四人は入って行った。

中は、机や椅子などの家具が岩で作られていて、バーのようなカウンターがある小さな空間があった。
カウンターの奥にはガラス棚があり、そこに並べられているは、野菜やら肉やら様々な食材が並べられていた。カウンターには、ここの主人であろう、少し強面でスキンヘッドの五十代ぐらいの男が暇そうに皿を拭いていた。

叶は気にすることなく、その男の前の席へと座る。叶の左側に猫、右側に蝶と黒烏が座った。

叶「おっちゃん!!」
男「おっ!!叶じゃねぇか。今日はちょっと来るのが遅かったなぁ。」
叶「ちょっと、用事があってね。」

そう言うと、猫にメニュー表を渡す。
猫は、メニュー表を見ずに『叶と同じのにする。』と告げた。

叶「おっちゃん、いつもの二人前と…」

「これ」と言い自分の持っている鞄を男に渡した。

男「相変わらずだな。」

と笑うと鞄を受け取り、ガラス棚から食材を選び出す。
そして、食材を水で綺麗に洗うと手慣れた包丁さばきで食材を切ってゆく。
そこで、男は一回動きを止めた。
不思議そうな目で、猫、蝶、黒烏を順に見ると、時計に視線を送る。

男「おっといけねぇ。叶、表閉めてきてくれるか?」
叶「えっ?いいけど、何で?」
男「いいから。仕込みの時間だ。」

男はそう言うと、再び調理に取り掛かった。
叶は、表の看板をさげて、入り口の扉を閉める。そして、内側から鍵をかけた。

叶「これでいいの?」
男「あぁ、ありがとよ。っと出来たぞー!!」

急いで席に戻った叶の前に用意されたのは、明らかに十人前はあろう大きさのオムライスが、大きな白いお皿に盛り付けられていた。
もちろん、猫の前にももう一つ同じものが置かれていた。

ガイル「ガイル様特製特大のオムライス、叶スペシャルだ!!!」
叶「待ってましたっ!!!」

スプーンを持ち、「『いただきまーす!!!』」を声をそろえて手を合わせると、二人は同時にオムライスに夢中になる。

そんな様子を見て、目を大きくして呆気にとられる蝶と黒烏。声も出ない。

ガイル「お前さんたち二人は何か食べるかい?何でも作るぜ。」
黒烏『い…いぇ…俺たちは。』
蝶『お腹いっぱいなので、遠慮しておきます…』
ガイル「そうかい。」

そう言うと、男は二人に水を出した。

ガイル「お前さんたちは、この町でも見ない顔だな。だが、その身なりは旅人でもなさそうだ。」

男は、そう言うと蝶と黒烏よりに体を寄せた。
蝶と黒烏は互いに視線を合わせる。

ガイル「訳ありか?」

男はさらに詰め寄る。
蝶は小さい手で黒烏の服のすそを握った。

黒烏『訳ありだと思ったから、本来の営業を止めてまで、俺たちだけをこの建物の中に残した…』
ガイル「察しがいいねぇ。」
黒烏『お互いに…』

黒烏は、その片方しかない目で男を睨む。
しかし男は、それに臆することも無かった。

ガイル「俺は、ガイル。ここの食堂兼バーの主人をやってる…表の顔はな。裏では、T-Pに反する組織やそういった連中の情報を集めているのさ。」

ガイルと名乗る男は、叶の鞄から瓶を取り出して綺麗に洗っていく。
黒烏は、少し警戒心を持ちつつも、恐る恐る聞いてみた。

黒烏『俺たちもT-Pの者だが…』

その後はどう切り出していいか分からなかった。
自分たちが機械だとも言えないし、正体がばれてしまうのも極力避けねばならなかった。
もし、自分たちのことを知っている、あるいは、知ろうとしてくるようであれば、最悪の場合、ガイルを消さねばならないからだ。

しかし、ガイルからは自分が思っていたこととは違う答えが返ってきた。

ガイル「俺が知っているのは、組織の中でも龍美と拓慧だけだ。そいつら以外は信用しちゃいねーからな。」

洗い終わった瓶を拭きながら続ける。

ガイル「それに、そいつら以外のことも知らなければ、知ろうともおもわねぇ。情報やの商売ってぇのはそんなものさ。深追いはしない。」

その言葉を聞いても警戒は解かなかったが、少しホッとした。敵ではない。それ以前に、もしこの男を消さなければならなくなってしまったら、自分の主人が弟のように可愛がっている叶が、一番悲しむ。それも耐えられないからだ。

男は瓶に白い液体を注ぎながら続けた。

ガイル「今日ここにきたお前さんたちは、叶の友達。それだけだろ?」
黒烏『あ…あぁ…』

とりあえず納得しよう。黒烏は、そう思うしかなかった。

叶・猫「『ごちそうさまでした~!!!』」

手を合わせてニッコリと微笑む猫と叶。
二人の皿を速やかに片付けると、ガイルは叶の鞄を渡した。

ガイル「ほらよっ、今日もたんまりと入れてやったからな。また、無くなったら来いよ。」
叶「明日も、あさっても、ご飯食べに来るからね!!」
猫『僕もっ!!!』
ガイル「はははっ!!!いつでも来い!オチビちゃん!口元がケチャップだらけだぞっ!!」

ガイルに言われて急いで近くにあったナプキンで口元を拭く。それを見た叶と蝶は爆笑した。
笑われたことによって、恥ずかしくなってきたのか、猫は頬を赤く染めて視線を下に落とした。

ガイル「おっと、いけねぇ。叶、表を開けてきてくれ。営業再開だ。」
叶「自分で行けばいいのに~」

「またこき使われた」と呟く叶に「今日はタダにしといてやるよ」とガイルがいうと、叶はすぐに機嫌を取り戻した。そんな叶の背に向かって、ガイルは小さく呟いた。

ガイル「すまねぇ…。叶…。」

陽気な気分で鍵をはずし、扉を開け放つ。するとそこには待っていたかのように人影が、現れた。

叶「ゲッ…」

叶の顔は一瞬にして青ざめる。
自分より高い背丈、少し長めの茶色い髪を風になびかせ、真っ赤な瞳で自分を見下ろしてくる人物…

叶「た…拓慧……」
拓慧「探したぞっ!!!てめぇらぁぁぁぁぁっ!!!」
叶「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」









第七話へ続く・・・
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