第一章
拓慧「頼んだ。ん、じゃあお前の事は【ゼロ】って呼べば良いのか?」
猫(ゼロ)「そうだね」
拓慧を先頭に移動を始めた。
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猫「ここは?」
黒烏『オレタチガセワニナッテイルシセツ…イヤ…ソシキダ』
猫「組織?」
一同は、岩場の小さな洞穴に設置された金庫のような扉の前に辿り着いた。
拓慧は扉の横にある小さな箱のようなものにカードキーを通して、暗証番号を入力した。すると、扉は音も無くゆっくりと開き、中には地下へと通じる階段がある。
拓慧「ぼさっとするな。そう長い時間開けていられないんだ。」
物珍しそうに扉を見つめている猫を急かす。
「ごめん」と一言言うと、先を行く黒烏の後を着いて行く。その後ろに拓慧が続く。
コッコッ…
狭い通路に足音が響く。岩を人工的に刳り貫いた薄暗い通路は肌寒く、少し寂しげな雰囲気を放っている。
猫「ねぇ…まだぁ?」
同じ景色に飽きたのか、猫は退屈そうに呟いた。
だが、黒烏も拓慧も無言で歩き続けている。
猫「ねぇってば…」
痺れを切らしたのか、猫は黒烏の服を引っ張る。
拓慧「まぁまぁ、そう急くなよ。もうすぐだからさ」
にこやかに微笑んで答えた拓慧に猫は、
猫「黙れ、人間。気安く話しかけるな」
ムスッとして頬を膨らませ、丸い瞳で拓慧を睨んだ。
拓慧「んだとこらぁっ!!!もう一回言ってみろ!!!ここから放り出してスクラップにしてやろうかっ!!」
猫「言ったな人間!!!心臓を突いただけで壊れちゃうような弱い体のくせに、僕たちが居なけりゃそこら辺に居る雑魚(アンノ-ン)にも勝てないような奴が偉そうな口をたたくなっ」
二人は足を止め取っ組み合いを始めた。勿論、人間である拓慧が機械である猫に勝てるはずも無い。
黒烏が二人の異変に気がついたのは、拓慧が猫に締め上げられているときだった。
黒烏『フタリトモ、イイカゲンニシタラ、ドウデスカ…?』
冷たい視線を送る黒烏。
視線に気がついた二人は、お互い一睨みすると何事も無かったかのように再び歩き始めた。
しばらく歩いていくと、通路は廊下と呼ぶに相応しいほど整備されているようになり、次第に明かりも多くなってきた。
正面には、また先ほどの扉と同じようなものがあったが、セキュリティはかかっていないらしく普通に中に入ることができた。
拓慧「さぁ着いたぞ。俺たちの組織へようこそ。ゼロ」
猫「ここが、君たちの組織…」
中に入ると、ここが地下だということを忘れる程の造りで出来た巨大なモニター。
多くのPCが並んだデスク。そして、そこに座るオペレーター。
黒烏『オレハ、カナエヲイムシツニハコンデキマス』
拓慧「頼んだ」
そう言うと黒烏はまた小さな通路の奥へと消えていった。
拓慧「何で嫌そうにしてるんだ?ゼロ」
猫「そんなこと無いもん」
あからさまに嫌そうな態度で、拓慧の後を着いていく。物珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡している。
拓慧「そんなに珍しいのか?」
猫「ん?人間の文化も進んでるんだなぁ…と思っただけだよ」
拓慧「そうか」
他愛の無い会話を交わしながら施設の奥へと進んでいく。
奥には少しだけ高台になったところがある。そこは人一人分ほどのスペースがあり、紺色の軍服を着た男が立っていた。拓慧は迷いも無く一直線にそこへと向かっていった。
拓慧「おーい!!じじい!!」
拓慧は手を振りながらじじいと呼ばれた軍服の男に近づいていく。
重貞「誰だ!!まだわしは老いぼれてなどおらんわっ!!」
血相を変えて振り向いた男に拓慧は「わりいわりぃ」と笑顔を向けた。
拓慧の跡を追いかけてきた猫は浅く頭を下げる。
重貞「拓慧、そいつは誰だ?軍人以外を施設内に無断で入らせるのは規則違反だとお前も知っているはずだが?」
拓慧「わかっています。その規則を作ったのは僕自身なのですから。それよりも…」
拓慧は猫の背後に回って猫の両肩に手を置いた。
拓慧「指令!!ゼロ…いや、人型殺人機械オリジナルモデルType-00を捕獲してきました!!」
拓慧の言葉に血相を変える二人。
片方は驚きを隠せず、片方は怒りに満ちていた。
重貞「拓慧!!よくやったな。お前ならできると思っていたんだ。」
猫「騙したなっ人間!!これだから人間なんて信用できないんだ!」
黒烏『ネコ、オチツイテクレ。オレカラノオネガイダ。』
戻ってきた黒烏が猫をなだめようとする。
猫「黒ちゃんは騙されているんだよ。こいつ等は僕たちを実験台にして、使い物にならなくなったらごみにして捨てちゃうんだよ!!やっぱりこんなやつ等の言うことなんて信じなければよかったよ!!」
猫は黒烏の大きな体を突き飛ばして狭い通路へと駆け出していった。
黒烏は猫の後を追いかける。
拓慧「おい、黒烏!!」
黒烏『ネコノコトハ、オ…俺に任せてください。拓慧様」
残された二人は呆然とその場に立ち尽くす。
拓慧「指令…今、黒烏のやつ・・・」
重貞「あぁ、まるで人間のように…」
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━━ 一方、医務室…
麻江「叶…」
ベットに横になる叶。その横では、麻江がそっと叶の手を握っていた。
静かに息をしている叶。それは、眠っているだけのようだ。叶に繋がれている機械にも正常と表示されている。外傷は無く、血色も良い。ただただ、眠っているだけのようだ。猫に襲われたときに、あまりの恐怖で気を失ってしまった以外には考えられない。と医務員も言っていた。
だがそこは心配性の麻江。頭の中はネガティブな思考で満たされていた。
麻江(モニターには正常って表示されているけれども、もし誤表示だったら?正常だとしても、このまま目を覚まさなかったらどうしよう。)
叶の手をさらに強く握る。その手は静かに震えていた。
沈黙が室内を襲う。繋がれている機械音だけが部屋を支配する。
ふと、気がつくと機械音に混じってノイズが聞こえてきた。
麻江「ノイズ?でも、どこから…」
自分のインカムを確認するが、電源は入っていない。辺りを見渡してみるが、ノイズが発生しそうな機械は無い。そのうちにノイズ音はだんだんと大きくなり、麻江は焦りを感じ始めた。
麻江(どこからなのっ!?)
大きくなってくる音に苛立ちを覚える。ベッド近くの引き出しも、ゴミ箱の中も探したが見当たらない。
後は、叶の所持品だけだった。
麻江(さすがに…コレを見るのは気が引けるわね…)
幼馴染とはいえ他人、兄のものを見るのとはわけが違う。さすがの麻江にも抵抗があった。
麻江(相手は男の子だし、女に見られて恥ずかしいものを持って……いるわけが無いか。叶だし)
吹っ切れるのが早いのも、さすが麻江といったところか。
サイドテーブルにおいてある叶の鞄に手を伸ばす。ノイズ音だけが響く室内に負けないほどに、鼓動が大きく聞こえた。見た目、何も入ってなさそうな鞄は、手に取ると意外にずっしりとした重量感がある。
麻江(何が入っていても、驚かないことにしよう。うん。)
震える手を何とかなだめ、鞄を勢いよく開いた。
麻江(……………!!!?)
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黒烏「まったく、施設の構造も知らないでどこに行くつもりだったんだ。」
猫「ごめんなさい…」
狭い通路の突き当たりで黒烏に捕獲されてしまった猫。軽く、説教をされて少し項垂れていた。
「とりあえずあの場から逃げ出したかった」と答えた猫を、黒烏はそっと抱擁した。
黒烏「拓慧様は絶対に俺たちのことを捨てたりはしない。実験はするかもしれないけれど、俺たちに負担のかかるようなことなんてしない。」
猫「本当に?」
黒烏「うん、あの方は僕たちのことを救おうとしてくださっている人なんだ。この組織の中で一番俺たちのことを思ってくれる方なんだ。だから…」
黒烏「拓慧様だけでいいから、信じてやってはくれないか?」
猫の耳元でそっと呟く黒烏。猫は「黒ちゃんが言うなら…」と、そっとささやき返した。
???『ソコデナニヲシテイルノデスカ?』
突然音声に驚いた二人。抱擁を解いて声のほうへと振り返る。そこに立っていたのは緑色の髪の小さな女の子、蝶だった。冷たい視線を二人に送る。
蝶『トビダシテイッタネコトクロからすを、追いかけてきてみれば…。男二人で抱き合って何をしているのかしら?」
猫「えっと、コレは・・・。ね?クロちゃん!」
黒烏「えっ!?あ、あぁ、えぇと…。猫を宥めていただけだ。ほら、こいつ泣き虫だし。」
蝶「ふーん。まぁ、そんなことはどうでもかまわないわ。それよりも…」
あきれた表情を浮かべながらも、猫の元へと歩み寄る。そして、猫の頬を小さな手でそっと撫でた。
蝶「お久しぶりね、猫。何年ぶりになるかしら?」
猫「う~ん。もう数えてないよ。」
他愛の無い会話を交わす。通り過ぎる研究員に目もくれず、三人は会話する。そんな三人を不審に思った研究員の一人が、警備に連絡したことにも気がつかずに…。その光景は、まるで懐かしい友人に出会った人間のようだった。
警備員「こら!お前たち、どこから入った?関係者以外は立ち入り禁止区域だぞ。」
猫・蝶・黒烏「「「あ…」」」
警備員「ここは、施設の許可の無いものは立ち入っていけない規則となっていることぐらい分かるだろ。さあさあ地上へ戻るんだ。」
蝶「ちょっと待ってください!!!私たち、組織の…」
蝶の言葉は、警備員には届かなかった。強制的に、出口へと向かわされる。
猫「なんで、こいつを攻撃しないの?相手は人間で、僕たちは機械じゃないか。こんな奴のいうことなんか…」
人間を極度に嫌う猫にとって、人間の言いなりになることは自分のプライドが許さなかった。二人にそっと耳打ちをしたが、黒烏は首を横に振った。
蝶「ここの警備員は、みんな対アンドロイド専用武器を所持しているの。」
猫「なんで?」
黒烏「外部からの襲撃とか、機械の反乱対策だ。俺たちの”コア”を破壊するほどの威力を持つ。逆らわないほうが身のためだ。」
猫「むぅ~…」
よほど気に食わないのだろうか、猫はさらに苛立ちを表した。そんな猫を宥めるように、黒烏は猫の手を握る。
黒烏「大丈夫だ。拓慧様がきっと来てくれるさ。」
猫「ほんとに?」
蝶「そうよ、だから今は黙って歩きなさい。……おこられるわよ。」
警備員「なにをこそこそと話している!!喋るようなら一列になって歩け。」
蝶「ほら…」
猫「ごめんなさい…」
三人は警備員に案内されるがままに、出口のほうへと向かっていった。
だんだんと、薄暗い道へときた時だった。
??「おい、そいつらどうしたんだ?」
聞きなれた声が耳に入ってきた。
警備員は立ち止まり敬礼をする。同時に三人も歩みを止める。
警備員「はっ!実験室付近にて怪しい三人組を発見しました。外部の人間と判断し、送り届ける途中であります。」
??「そうか、どんな奴らだ?」
一列に並んだ三人は警備員の後ろから顔を覗かせた。それに気がついた警備員は三人を睨みつける。
警備員「こら、お前ら!」
三人は慌てて、一列に戻った。
聞きなれた声の持ち主が、三人の顔を見ようと警備員を回りこむ。
視線を逸らしていた猫はその人物に目を向けた。
猫「あ…」
それは、拓慧だった。
拓慧は、警備員にそっと耳打ちする。何を言っているのかは分からないが、警備員は敬礼すると何も言わずにその場を去っていった。
腕組をして、どっしりと構え睨みつけてくる拓慧に三人は一言も発することが出来なかった。
黒烏「申し訳ございません!!」
最初に声を出したのは黒烏だった。
黒烏「俺が、猫をもっと早くに止めていれば拓慧様のお手を煩わせることがありませんでしたのに…」
蝶「違います!」
続いて蝶も口を開く。
蝶「私が、気がついたときに早く拓慧さんの下へとお連れするべきでしたのに…」
拓慧「…」
猫は、拓慧に頭を下げる二人を驚いた表情で見ていた。拓慧はそんな二人の頭を無言で軽く撫で、猫の前にあるものを差し出した。
拓慧「コレがなんだか分かるか?」
黒いただの棒。警備員が腰に差していたものと同じ警棒のようなものだった。何か分からない猫は、首を横に振りそれを見つめた。
拓慧は、猫が首を振ったのを確認すると、棒の端についている紐を引っ張った。すると、棒は小型の銃に変形した。銃口の部分には視覚で確認できるほどの電気を帯びていた。
拓慧「これはな、対アンドロイド専用武器と呼ばれる、人間が機械から身を守るために使う武器だ。連続して二回までしか使用することが出来ないが、その威力は凄まじく、コアを一撃で破壊することが出来る。」
拓慧がもう一度紐を引っ張ると、銃は再び棒の状態に戻った。
拓慧「施設内は、この武器を持った奴が沢山うろうろしている。今回は俺がここを通りかかったからよかったものの、あまり自由に動き回られるとゼロを守りきれる保障は無い。この二人ですら自由に歩きまわれる範囲は少ないんだから、まだ、もう少しでいい自由に行動するのは我慢してくれないか?行きたいところがあれば、俺が連れて行ってやるから…な?」
拓慧は、猫を脅かさないように視線の高さを合わせた。そして、やさしく微笑む。
拓慧「コレは命令じゃない。お願いだ。」
猫はどうしていいか分からずに、黒烏に視線を向ける。黒烏も同じようにやさしく微笑みゆっくりと頷いた。
猫「分かった。」
申し訳なさそうに項垂れた。そんな猫の頭を、撫でる。そっと…優しく…。
そして、猫の首に赤い布に金色の小さな鈴の付いた首飾りをつけた。猫は、大きな目をきらきらさせて拓慧を見つめる。
猫「これなぁに?」
拓慧「お守り…なんてな。勝手にうろうろされても困るから、これからは鈴の音を頼りにゼロを探せるようにするからな。」
猫「なんかむかつく言い方。…でも、気に入ったから許す。」
拓慧は立ち上がり、猫の手を取った。そして、黒烏と蝶に「付いてきてくれ」と一言告げると、元来た道を戻っていく。二人は拓慧と猫の後を付いていった。
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鞄の中身を見た麻江は、真っ白に燃え尽きた。
麻江(な…何よ……これ…)
鞄いっぱいに入っている重量感の正体。それは、
麻江(何故に、ぎゅ…牛乳…)
大量の牛乳瓶。空のものもあれば、まだ手をつけていないものまで入っていた。腐らないように、鞄の内側は保冷バッグ仕様、きちんと保冷剤も完備されている。
いつも大事そうに抱えている鞄だっただけに、それなりに心の準備までしてのこの結果。麻江はただ、本来の目的を忘れて笑うしかなかった。
麻江「あ…あはは、何よこれ。」
拓慧「声が外にまで聞こえているぞ…」
麻江の笑いと共に、呆れ顔の拓慧が部屋に入ってきた。猫・蝶・黒烏も後に続いて室内に入る。
部屋に広がるノイズ音は未だ止まってはいない。それどころか、ますます酷くなっている。顔をしかめる蝶に対し拓慧は平然としている。そして、ベッドに近付くと叶のズボンのポケットに無造作に突っ込まれたインカムを取り出した。インカムからは酷いノイズが漏れ出している。
麻江「あ・・・それ・・・」
拓慧「こいつからか…」
取り出したインカムの電源を落とそうと電源ボタンを押す。しかし、電源は落ちない。それどころか、出力の上昇スピードが上がる。
拓慧「これは…」
拓慧はこの症状に思い当たる節があるのか、叶に繋がれた機械の電源をすべて落とし始めた。そして、自分のインカムの電源も落とし、麻江にも電源を落とすように促した。麻江が慌ててインカムの電源を落とすと、ノイズ音は嘘のように収まった。
麻江「兄さん、コレは一体…」
拓慧「前にも一度だけこの状態になったことがある。」
そして、猫に視線を向けた。
拓慧「お前だな?ゼロ。」
四人の視線が一斉に猫に向けられる中、猫は黙って頷いた。そして、拓慧から叶のインカムを受け取るとその場に座り込み、動かなくなってしまった。
蝶『ネコノドウリョクガテイシシタヨウデス』
黒烏『タクエサマ。ネコヲチョウノヘヤニハコンデ、チリョウヲオコナイマス』
拓慧「頼んだ」
黒烏は、猫を担ぐと蝶と共に退室した。
拓慧は、三人の退室を確認すると麻江の横に椅子を持って行き座る。そして、叶の方を向いてゆっくりと話し出す。
拓慧「少し、長くなるが…話そうか。俺がまだ、訓練生になったばかりの頃だ。たしかあの日は、数少ない機体との適合試験の日だった………」
第四話へ続く・・・