第一章

叶と拓慧は本部を飛び出し大通りを抜けて、猫の居る南門まであと少しというところまできていた。
拓慧は、相方・黒烏と連絡を取り合いながら進む。

拓慧「よく聞こえねぇ・・・」
黒烏『ダカラ・・・ミナミモンノ・・・ガガガッ・・ハオワッタミタイデス』

拓慧が走っているせいかインカムの電波は悪く、言葉がうまく聞き取れない。そのせいもあって、拓慧は苛々していた。

叶「聞こえないの?」
拓慧「あぁ・・・ったく・・・ちゃんとしたインカムを作れっての!」
黒烏『タクエサマ・・・?』
拓慧「あっわりぃわりぃ・・・で?」
黒烏『ミナミモンノヒナンハ・・リョウシマシタ』
拓慧「はいはい、了解。もう少しだけ、猫を見張っていてくれるか?」
黒烏『リョウカイ・・・・・ブツン・・』

拓慧は切られたインカムを頭から外し、腰の専用ポーチに突っ込んだ。
南門が近づいてきたのもあり、物陰に身を潜めながら進んでいく。

叶「猫って・・・強いのかな?」

叶は声を潜めて、拓慧に聞く。

拓慧「ん・・・まぁ事実上、猫は今存在している機体の基礎になった機体だからな。何とも言えない」
叶「基礎?」
拓慧「ああ。猫の設計図とプログラムを基にして作られているんだ。だから、他の機体は猫の複製といってもいい。」

拓慧「その逆で、猫は旧式の戦闘機・・・能力的には、俺たちのパートナーの方が上回っているってことさ」
叶「そっか・・・」

納得したような表情を見せる叶に、拓慧は(本当に何も知らないんだな・・・)と思うしかなかった。

砂漠の猫『ドコダ・・・ドコニイル・・・』
叶・拓慧「「!?」」

聞きなれない機械音声に顔を見合す二人。かなり近いところから聞こえてきたその声に、拓慧はインカムを装備する。
そして、そっと物陰から頭を出した。

拓慧「叶・・・恐らくあれが砂漠の猫・Type-00に違いない・・・」

拓慧に唆されて叶もそっと頭を出した。
そこには、茶色の七分丈のズボンにボロボロの返り血の付いたコート、首にはぶかぶかのマフラーを巻いている少年がポツンと立っていた。

叶「あれが・・・砂漠の猫・・・」

叶はゴクンと息を飲んだ。猫の瞳は赤く不気味に光っている。
見ているだけで、体が動かなくなるほどの殺気を感じていた。

拓慧は近くに居るであろう黒烏に戦闘態勢に入るように指示していた。

叶「拓慧・・・僕、行ってくるよ」
拓慧「おっおい!!」

拓慧の待ったも耳に入っていない叶は物陰から飛び出し、インカムを装着した。
拓慧は舌打ちしながらも叶を追いかけることはなかった。

拓慧「あの馬鹿が・・・」

叶はゆっくりと猫に近づいていく。一歩、一歩確実に・・・。足を踏み出すたびに不安が募る。

叶(どうしよう・・・出たはいいけど・・・どうしたら・・・)

衝動に突き動かされて出たはいいものの、特に考えは無く、猫を目の前にして、体がふるえだす。

砂漠の猫「ねぇ・・・」

ビクッ・・・
突如、口を開いた猫に驚いた叶は、恐怖からか全身が凍りついたように動かなくなってしまった。

拓慧(叶のやつ・・・どうしたんだ?)

物陰に身を潜めている拓慧には、猫の声が聞こえていない。
目を細めて見ても、猫の口は少しも動いていない。
今の状況を確認するにはここを出て行くしか方法はない。

しかし、今ここを出て、二人共助かる確率はゼロに等しい。
叶には「能力的には・・・」とは言ったものの、猫のデータは殆ど残されておらず力は未知数。
勝てるかどうかも見込みは……ない。

拓慧(もう少し・・・もう少しだけ・・・)

そう自分に言い聞かせて、ここから二人を見守るしかなかった。

一方、叶は猫と向き合ったままである。

砂漠の猫「君は・・・何故逃げないの?」

叶に質問を投げかけながら一歩ずつ叶に近づいてゆく。

砂漠の猫「何故、ここに来たの?何故、僕の前に現れたの?」

気がつけば、猫は叶と息がかかる程の距離まで近づいてきていた。

砂漠の猫「ねぇ・・・君は僕が怖くないの?僕を知らないの?それとも・・・」

猫は持っていた槍を叶の頭上に振り上げた。

拓慧(あれ・・・危なくねぇか!?叶のやつ何やってんだよ!!)

物陰に隠れていた拓慧はインカムの出力を最大値まで上昇させた。

拓慧「黒烏!!バトルオン!!」
黒烏『ショウニン』

叶の危険に冷静さを欠いてしまった拓慧は、大きな声をだしてしまった。

砂漠の猫「クキキ・・・誰かそこに居るの?」

猫は腕を上げたまま、拓慧の隠れている方に顔を向ける。拓慧は猫の声で我に返った。

拓慧(やべぇ・・・マジかよ。ばれちまった・・・)

ばれたものの物陰からそっと顔だけ覗かせて、猫の様子を確認する拓慧。

砂漠の猫「居るんだね、出てきなよ」

拓慧(誰が出て行くかってーの・・・一先ず・・・・・・退散)

拓慧はそっとこの場から離れた。叶のことが心配だが、自分がやられてしまっては守るものも守れないと判断したからだ。

砂漠の猫「・・・逃げられちゃった」

少し寂しそうな猫の表情に叶は恐怖心が消えた。

叶(感情?どこか寂しそうな・・・でも・・・)

叶は勇気を出して猫のコートを掴んでみた。

叶「ねぇ・・・」

その言葉に猫は振り返る。

砂漠の猫「なに?」

叶「君は・・・何を考えているの?」

脈が速くなる。先程消えていた恐怖心が、再び戻ってきた。
手が震えて落ち着かない。息がだんだん荒くなってきた。

砂漠の猫「僕?僕は・・・・・・・・・・・・・・・・・」

猫は大きく腕を振るい、叶めがけて容赦なく振り下ろした。

砂漠の猫『ナニモカンガエテナンカナイヨ・・・』

ガキィィィィィィィィン!!!

猫の振り下ろした槍は空を切り煉瓦道に突き刺さった。
目の前には叶の姿はなく、遠くに消える黒い影が一つあった。




砂漠の猫『・・・イマノハ・・クロチャン・・』




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━━大通(北門側)

拓慧「はぁっはぁっ・・・っはぁっ・・黒烏・・・」

黒烏『ココデス』

拓慧と黒烏は猫の居る南門とは反対側の北門に来ていた。

拓慧「叶は?」

そう言い黒烏にゆっくりと近づく。
黒烏は、背から叶をそっと地面に降ろした。

黒烏『イシキハアリマセンガ、イノチニベツジョウハナイヨウデス』

拓慧「そうか・・・」

叶は間一髪のところで黒烏に救われた。
拓慧は黒烏に「ありがとう」と一言言うと安心した表情で叶の額を撫でる。

黒烏『タクエサマ・・・ニゲテバカリデハ・・』

拓慧「ったく、わかってるよ。でも、あの状況じゃ仕方ないだろ。」

街の北側には、施設はほとんどなく、住民の居住区となっている。
物陰も多く、気絶している叶を一時的にかくまうには絶好の場所。

拓慧(とりあえず、北側に来てみたはいいものの…どうするか…)

拓慧の相方である黒烏は、銃器を操る遠距離特化型の機体だ。
想定では、こちらの性能が上だと、過信しすぎるのも良くない。

万が一、猫に間合いを詰められてしまえば、黒烏の勝機は大幅に減ってしまう。

一度、猫という機体の性能と動向をある程度把握し、作戦を練りたいという拓慧の思いも、
一人飛び出してしまった叶のおかけで、すべてがゼロになってしまった。

かといって、今から、考えている時間も余裕もない。

黒烏『タクエサマ…』

黒烏は何かの気配を察知したかのように、拓慧をせかす。
そして、拓慧もそれを感じ取ったのか、黒烏の肩にポンっと手をおいた。

拓慧「黒烏、バトル・ドライブモードオン・・・解除コードType-96、スーパードライブチャージ!!」

黒烏は目を瞑ると光の粒子に包まれる。そして、その場から姿が見えなくなった。
拓慧はどこから来るかも分からない猫を警戒して、叶を寝かせた物陰を背に立ちつくす。

耳には風の音しか入ってこない。人々はシェルターに逃げ込んでいるため、人の気配なんてものは無い。

だからこそ、全身の神経を張り詰めておかなければいざと言う時に即座に対応できない。
戦闘経験が豊富だからこそ学びえた事だろう。

息を潜めて耳を傾ける。微かだが、風の音に混じってこちらに近づいてくる足音が分かる。

拓慧(来る・・・)

拓慧がそう確信したときだった。急に空が暗くなったかと思うと、鼓膜が裂けそうなほどの爆音が辺りに鳴り響いた。

拓慧「なっ何だ!?」

耳を押さえて軽く背後へステップする。と同時に、何者かが目の前に舞い降りてきた。

砂漠の猫『見つけたよ。』

ふわりと舞う茶色のコート。間違いない、猫だ。

機械の体とは思えないほどの軽い身のこなしで、ストンっと着地すると、ゆっくりと体を起こす。

拓慧は状況を想定してはいたが、足音から判断した距離からの早すぎる猫の登場に驚き、その場に尻餅をついてしまった。
立ち上がろうとするが、体に力が入らない。

拓慧「くっ…猫っ…」

力の入らない体で、何とか右手を天に向ける拓慧をよそに、猫はきょろきょろと辺りを見回す。

砂漠の猫『黒ちゃんは?』

拓慧「黒ちゃん??黒烏のことか?」

猫は黙って頷く。キョトンとした可愛らしい猫の目には、戦意どころか悪意すら見えない。
拓慧は右手をゆっくりと振り下ろす。すると、ふわっとした風と共に両手に銃を構えた黒烏が現れた。

砂漠の猫「黒ちゃん!!」

黒烏『ネ・・・コ・・・』

猫は大喜びで黒烏に飛びつく。
拓慧は、何が何だかよくわからない状況に唖然としつつも、
猫に敵意がないことを察し、小さな声で「バトルオフ・・・」と呟いた。
黒烏の持っていた銃は光の粒子となって消える。

砂漠の猫「黒ちゃんは見つけたんだね!!」

黒烏『アァ・・・ネコハマダナノカ?』

砂漠の猫「うん・・・皆、僕のことを避けるんだ。捕まえようとするし・・・この間なんて・・・壊されかけた。」


砂漠の猫「でも気配を頼りにここまできたんだよ。きっとこの街に居るんだ・・・きっと・・・」

悲しそうな猫に黒烏はそっと猫の頭を撫でる。そんな様子を拓慧は微笑ましく見ていた。

砂漠の猫「ねぇ黒ちゃん。」

黒烏『ナンダ?』

猫は黒烏の手を握る。

砂漠の猫「僕は戦いに来たんじゃないんだ。ただ探しに来ただけ・・・でも・・・」

寂しそうに俯き呟く。

砂漠の猫「人間は分かってくれないんだ・・・」

ギュッと黒烏の服を握り締める。
黒烏は猫を抱きしめたまま、拓慧に視線を送った。

黒烏『タクエサマ・・・』

拓慧「なんかよくわかんねぇけど、言いたいことは分かった・・・。なら、良い所に案内してやるよ。」

ニコッと微笑んで笑いかけるが、猫は警戒したままだ。

砂漠の猫「人間は信用できない・・・。前の町でも同じ事を言われて、分解されかけたんだから・・・」

黒烏から離れようとはせず、拓慧を睨みつける。

拓慧「こっちも、相当な被害が出てるんだよ。」

拓慧は猫に呆れた視線を送る。

砂漠の猫「僕たちにとって、分解は『死』と同じなんだよ!」
拓慧「だからって、罪もない人たちを殺めていいわけじゃないだろ!」

ヒートアップしていく二人に、黒烏が割って入る。

黒烏『タクエサマハ、ウソヲツクヨウナオカタデハナイ。ネコ、シンヨウシテモダイチョウブダ。』

猫はムスッとして黒烏を見るが、コクッと頷いた。

砂漠の猫「黒ちゃんが言うなら…もう一度だけ・・・人間を信用する。もう一度だけだからね!」

黒烏から離れて拓慧の前に移動する。

拓慧「ありがとうな、猫」

目の前に来た猫の頭を撫でようと手を伸ばすと、猫は、その手を軽く振り払った。

猫「人間が軽々しく僕の名前を呼ばないでほしい。」

そして、キッっと睨み付ける。

拓慧(生意気なやつ・・・)

拓慧はそう心の中で思いながら、黒烏に叶を背負わせ、移動を始めた。



第三話へ続く・・・
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