第一章

黒烏『西門、50km先。アンノーンの群れが出現しました。』
重貞「アンノーンの…群れ…だと??」

重貞は急ぎメインルームへ向かい、大きなモニターに西門の様子を映す。
そこには、黒烏が見たものと同じ、地平線に沿った黒いうごめく何かが映し出されていた。

重貞「解析を急げ!五体や十体じゃないぞ!」

映像の解析を職員に急がせる。

元々アンノーン自体は群れを成すことはない。
時折二~三体ほどで活動をしていることはあるが、「群れ」と呼べる大きな集団になることはない。
彼らには知能が無い。どこで生み出されているかはいまだ不明だが、突如現れ、動くものを標的にすべてを破壊することしか頭にないのだ。
そんなアンノーン(機械生命体)が、このような大きな集団、しかも町に向かって来ているというのには、明らかに裏があるとしか思えない


そう…例えば…

重貞「以前の…61番がまた操っているとでもいうのか…?」

しかも、

重貞「また、拓慧ペアの片方が不在の時だぞ…」




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叶「西門に緊急招集だって。」
麻江「兄さんが居ないのに、また???」

叶と麻江は、猫と蝶を連れて西門に来ていた。
住民の避難は完了し、この場に居るのは黒烏を含め五人だけだった。

麻江「今回も私たちだけなのかしら。」
猫『変な電磁波が泳いでる。多分、動けるのは僕たちだけだろうね。』

猫は頭のアホ毛(アンテナ)をピコピコさせながら、地平線を眺めていた。

蝶『毎回、あのペアの片方が居ないときなのよね。』
叶「となると、スパイとかの可能性は…?」

一同に沈黙が流れる。

猫『拓慧だったりして…』
麻江「黒烏だったりして…」

二人は視線を交わす。

麻江「兄さんがスパイなわけないじゃない!必死にT-Pを表立って守ってきた人なのよ!」
猫『クロちゃんがスパイなわけないでしょ!クロちゃんはね!クロちゃんはね!すんごいんだから!』

大きな声で言い争いを始める二人。
人が居ない町中に、大きな声が反響する。

叶「黒烏…何とか言ったら?」

沈黙つ続ける黒烏を見上げ、手を振る叶。
黒烏は、叶達をちらりと見ると、真下に向かって一発銃声を響かせた。

麻江・猫「『!?』」
黒烏「俺は拓慧様についていくと決めた。何があってもだ。」

それだけ言うと、黒烏は、西門を抜け町の外へと向かっていった。

猫たちも、遅れまいと黒烏の後を追う。



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町から少し離れたところで、黒烏は立ち止った。
目だけを動かし、ぐるりとあたりを見回す。

町からも程よく離れ、アンノーン達との距離も程よい。
辺りに障害物はなく、ただただ砂の海が広がっている。

黒烏『…』

黒烏は、すこし目を伏せると、両手を前に突き出した。
手には黒い粒子が纏う。粒子は徐々に人の腕一本分はあろうかという、砲口が現れた。

黒烏『殲滅を行う。蝶、守りは任せた。』

そう言うと、砲口に青い光が纏い、数キロ先に居るアンノーンの群れに向かって光の筋が飛んだ。
着弾と同時にまばゆい光があたりを包み、光が収まると、地面から熱と砂を纏った爆炎が舞う。
振動は叶達のところにまで響き、足元が少しだけ不安定に揺れた。

叶「すごっ…」
麻江「さすがは黒烏ね…」

黒烏『感心してる暇はないぞ。接敵まで時間がない。猫も構えておいてくれ。』

そう言い、もう一発砲撃を撃った。

重貞「みんな聞こえるか…?」

その時、重貞からの通信がみんなのインカムに入る。

麻江「聞こえるよ、おじいちゃん。」
重貞「臨時回線の方なら通信可能ということか。」
重貞「よく聞いてくれ、映像を解析した結果、群れの中心にこの間襲撃してきた二体と二人、そしてもう一体アンドロイドと人が居ることが分かった。」
叶「もう…一体のアンドロイド?」
重貞「おそらく90番シリーズの機体だ。前回のように戦闘は回避できないものと思ってくれ。」
蝶『了解。』
猫『わかったよ。』

通信はそこで途絶えた。

通信の間も黒烏が攻撃を続けていたのか、群れのほとんどが瓦礫となっていた。
群れ…とはもう呼べないそれは、中心を囲めないほどになっており、中にいる三体と三人の風体が徐々にはっきりと視認できる距離まで来ている。

麻江「ねぇ…叶…」
叶「うん、麻江…あれっ…」

三体と三人の姿があらわになっていく中、二人は敵の中心に居る人物に注目した。
累と弍娑、三知流と霞になっているようだが夢衣、そして、見慣れぬアンドロイドと…

麻江・叶「拓慧…???」

数時間前に出会った姿よりは、やや埃で汚れ、髪も乱れているが、その装いは、よく見慣れた人物…拓慧だった。

拓慧は、見慣れぬアンドロイドに首根っこをつかまれ宙に浮かされている状態だった。
あの180cmはあるであろう拓慧の首根っこをつかんでいるアンドロイド…
黒烏はそれを見ると片目しか出ていない目を見開いた。

黒烏『苦無…!?』

苦無と呼ばれたアンドロイドは、すらっとした色白のボディに長い襟足を細く結んだ黒いショートヘア。きりっとした鋭く赤い目をした機体だった。
その細い腕からは想像できないほどの力で、拓慧をつかんでいる。

苦無『あら、黒烏。久しぶり。』

苦無はアンノーンの上から黒烏を見上げる。

苦無『私のこと、もう忘れたかと思ってた。』
黒烏『……せ…』

淡々と感情の無い声でしゃべる。

苦無『私は忘れたことなかったけど…』
黒烏『……放せ…』

その言葉は黒烏に向けられていた。

苦無『離れてどれくらいになるかな…』


黒烏『拓慧様を放せぇぇっ!!』

黒烏は声を荒げて、砲口を苦無に向け、光の粒子を放つ。

麻江「蝶!」
蝶『……っ!!』

それにいち早く気が付いた麻江と蝶。
蝶は、手を拓慧たちにかざす。

黒烏から放たれた光の粒子と、蝶から放たれた緑の粒子…
どちらが早かったか、それは着弾後の爆風の後にあらわになった緑色のプロテクトドームが物語っていた。

ドームの外周に居たアンノーンは粒子の影響か、朽ちて瓦礫のように動かなくなっていたが、
中で守られた苦無たちには傷一つついていなかった。

苦無『あなた、そんなに熱い男だった?』

余裕そうな笑みを浮かべて黒烏に視線を送る苦無。

黒烏『……!?』

黒烏は、ひどく焦った様子で再び砲口にエネルギーをチャージし始める。

蝶『まって!黒烏!向こうには拓慧さんが…!』
麻江「そうよ!兄さんまで蒸発しちゃう!」
黒烏『……!!』

麻江と蝶の呼びかけに、我に返った黒烏はかざしていた砲口を力なく下げた。

猫『クロちゃん、主人が捕らわれて焦る気持ちもわかるけど、ひとつひとつやってかないと、大事なもの失うよ。』

猫は叶に目配せをすると、『前衛は僕に任せて』と飛び出していった。
それを見た累が、手を前にかざすと、弍娑はローブを翻しながら、ゆっくりと前に出る。

猫『僕の相手は君ってことだね。』
弍娑『お手合わせ、お願いします。』

砂塵の中、猫の槍と弍娑の鎌がぶつかり合う音が響き渡る。

蝶も、猫の動きに合わせて、部分的にプロテクトを展開しながら、援護をしていた。

その姿を見た苦無は、先ほどまでの笑みを歪める。

苦無『あの女、邪魔ね。』

苦無は三知流に視線を送る。三知流は一つうなづくと、両手に電子キーボードのようなものを展開した。

三知流「夢衣!ドライブモード!バインドボルト!」

三知流の目を紫色のゴーグルが覆い、手にはグローブがはめられる。
カタカタとキーボードで何かを入力すると、三知流の背後にあった玉から、紫色の電撃が蝶に襲い掛かる。

蝶『プロテク…』
三知流「遅い!」

電撃の接近に気が付いたが、反応が一瞬遅れてしまった。蝶が自身にバリアを形成するより早く、夢衣の電撃が蝶に触れる。
すると、蝶を拘束するかのように、電撃が体にまとわりつく。

蝶『う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!!!』

その電撃に抵抗しようとしても、痺れるのか、蝶は天を向き大きなうめき声をあげて痙攣している。

黒烏『蝶!!!』

黒烏は蝶へと近づき電撃に触れるが、その手は電撃にはじかれてしまう。

三知流「無駄だよ、夢衣のバインドボルトはこっちが解除しない限り継続するんだ。」

にひひっと三知流はゴーグルの下から笑みを見せた。
黒烏は、ぐっと拳を握りしめ、三知流を…いや、その背後に居る夢衣をにらみつける。

黒烏『なら、解除させてしまえばいいんだな…』

黒い布を取り去り、普段隠していた不気味に赤く光る右目があらわになる。
そして、粒子でライフルを形成すると、その右目でのぞき込んだ。

黒烏『イーグルアイ、スナイピング』

黒烏の目には、丸い玉の中にある、さらに小さい玉…夢衣のコアが映っていた。
それに照準を合わせ、引き金を引くと、音もなく鉛の弾丸が夢衣を貫く。

三知流「!?」

三知流を覆っていた、紫の靄やゴーグルが消え去り、鈍い音を立てて玉が地面に落下する。
同時に、蝶を縛り付けていた、紫の電撃も消失した。

夢衣『マ…スター…』
三知流「夢衣!!夢衣っっ!!!」

三知流は地面に落ちた球を抱えて、声を荒げながら泣きだした。
その様子をみて、苦無は同情をするどころか、不満そうなため息を一つつく。

苦無『使えない子…』
三知流「…!?」

その言葉を聞くと、三知流の方は一瞬びくっと反応した後、震えだし泣き顔から絶望したかのような表情へと変わった。



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猫『あっちは決着ついたみたいだよ。』
弍娑『そうみたいですね。』

交わらせていた武器を止め、三知流たちの方を見る。

三知流は地面に向かい涙を流し、黒烏と麻江は弱った蝶を抱えていた。

猫『まだ続けるの?』
弍娑『…』

弍娑は無言のまま武器を構える。

猫『君たちはさ、本当は戦いたくないんじゃないの?』

猫は武器をおろし、弍娑のフードの奥を見つめた。

猫『例えば…』
猫『人質を取られている…とか…』

弍娑『…!?』

猫の問いかけに、弍娑の深いフードの中で動揺をはしらせた。

弍娑『ならば、どうするというのです?』

弍娑は鎌をくるりと持ち替えると、意味ありげに先端を苦無に向けた。
猫はその意図を組んだのか『そういうことね』と、弍娑にしか聞こえない声量で話した。

猫『弍娑、僕たちに任せてよ。』

黒烏に向かって、大きな声で叫ぶ。

猫『クロちゃん!苦無のコアを見て!』

黒烏は、少し疑問に思いながらも、その赤い目で苦無を見る。

苦無のコアは頭部に位置しており、丸いコアが一個。

黒烏『!!』

だが、そのコアに、何か歪なものが張り付いていた。
よくみるとそれは、触角を生やした幼虫のような機械生命体だった。目は赤く光っており、足はコアに埋め込まれている。
黒烏はそれに見覚えがあった。

黒烏『…寄生型機械生命体(パラサイト)だ。』

猫や弍娑に聞こえるように大きな声で言いなおす。





黒烏『苦無はパラサイトに操られている。』







第十二話へつづく…
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