第一章

猫『待たせちゃったね、蝶』
黒烏『ここからは、俺たちに任せてくれ。』

舞い上がる砂煙の中、現れたのは猫と黒烏だった。
黒烏は両手に銃を持ち、猫は自身のしっぽを光槍にして構えていた。

麻江「猫!黒烏!」

麻江は今にも倒れそうな体を起こしながら、二人を見る。
二人は視線だけ麻江に向けると「下がってて」と小さくつぶやいた。
よろめく体を必死に抑えながら、麻江は物陰に身を隠した。

ちょうどその時、

叶「麻江ー!」
拓慧「麻江!」

叶と拓慧も同時に戦闘現場に到着した。
疲弊しきった麻江の汗をぬぐいながら、拓慧は水を差しだした。

拓慧「ドライブモードを使ったのか!?」
麻江「うん…さすがにね…五体はきつかった…」
拓慧「すまない…」

拓慧は麻江の頭をそっと撫でた。

拓慧「あとは俺たちに任せろ」
叶「俺…たち??」
拓慧「お前も行くんだよ!」
叶「いぇす!ボス!」

にこりと笑って背を向ける二人に、少しの不安を感じながら、麻江は見送った。

麻江(ありがとう…叶…お兄ちゃん…)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


累「さて、本命ご登場というわけか…」

累は少しだるそうに、黒烏と猫を見る。
大して三知流は、余裕そうにケラケラと笑っていた。

三知流「いいの?アンドロイドが増えるってことは、自分の敵を増やしてるのと一緒なんだよ?」
拓慧「…ハッキングだろ?」
三知流「そう!わかってるんだ!なら早速…」

三知流「夢衣!Type-00をハッキング!」

三知流の合図とともに、霞から玉が現れて、紫色の電気を帯びる。
その電気は、猫の周りに瞬時に移動し、バリバリと音を立てながら旋回する。

だが、その電気は、数回転したところではじけ飛んだ。
猫は、丸い目で夢衣であろう霞を見つめて、にやりと笑った。

猫『僕にハッキングは通用しないよ?』
三知流「なっ…なんで!お前!アンドロイドだろ!」
猫『残念だけど、僕は他の機体とは違うからね。』

「なら…」と、三知流は対象を黒烏に変更した。だが、先ほどの猫と同じように、紫色の雷は数回転だけしてはじかれてしまった。

三知流「なんだ…お前たち!夢衣の力でハッキングできない機体は…」
猫『あるんだよ』
黒烏『なぜなら、俺と猫・蝶は人間を素体として作られている。だから、機械構造がそもそも他のアンドロイドとは違うんだよ。』

黒烏はバリア外から中のアンノーンを銃で破壊しつつ、答える。

三知流「じゃ…じゃぁ…」
累「三知流と夢衣は戦力外ってことねぇ…」

累はだるそうに、自身のインカムに手を当てると、側面についてるボタンを押す。
すると、ボタンの近くについているランプが緑から赤へと変わった。

累「弍娑、ドライブモード。」

背後に佇む弍娑に指示を出すが…

弍娑『拒否します。』
累「え…」

弍娑は持っていた鎌の先を地面に向けると、累から一歩距離を取る。

弍娑『私は00番と96番との戦いに勝算を見出せません。戦闘を拒否します。』
累「なにいって…」
弍娑『以前、勝てない戦いに無理に突っ込むなと仰ったのは累様です。』

弍娑は『申し訳ありません』と深々と頭を下げた。

累「三知流!」
三知流「夢衣。どう思う?」
夢衣『マスター、累さんの言う通り、弍娑単体での勝率は0.001%よ。』
三知流「だってさ、夢衣の計算に間違いないよ」
累「ぐわああああ!」

「どうするんだよぉおお!」と累はその外見にそぐわないあらぶりを見せた。

猫『じゃあさ』

猫が一歩前に出る。

猫『和解しようよ。』
黒烏『猫…それは…』
猫『T-Pの中は見た。適合者のいる機体は少なそうだった。』

猫『なら、T-Pに引き入れるのはどう?』
黒烏『でもこいつらは、民間人を殺めたんだぞ。』
猫『だからこそだよ。引き入れた後に、処分する。そしたら、機体も確保できるし、パートナーも逃がさなくて済むでしょ?』
拓慧「お前、勝手に話し進めるなよ。」

拓慧が猫の頭をポンとたたく。
猫はものすごく嫌そうな顔をしながら、その手をペイッと払った。

猫『僕は組織のことを考えて発言したつもりなんだけどな。』
拓慧「そりゃまぁパートナーと一緒にT-Pに来てくれるならうれしい限りではあるが…」

「そのつもりはないんだろう?」と累と三知流に視線を送った。
二人は顔を見合わせた後、相手を下に見たような笑いをあげる。

三知流「そもそも、僕らは僕らで…ねぇ?」
累「そうねぇ。俺たちも命令を受けてここにいるから…ねぇ?」
拓慧「どこの組織だ!」
累「それは言えないよ。」
三知流「言うわけないじゃんねー」

二人はケラケラと笑う。
その時だった、猫の前を黒い物体が横切り風が起こる。その物体は、三知流と累の間に入り、二人の頭に銃を突きつけた。

黒烏『拓慧様のお手を煩わせるな。』

黒烏は引き金に指をかけ、今にも発砲しそうな勢いだ。
だが、二人はいたって冷静だった。

三知流「ちょっと今日は無理そうだね。累。」
累「そうだな、帰るか。」

そう言うと、弍娑のフードの中から黒い大きな手が出現した。
その手は、三知流と累をつかむとフードの中へと取り込み、弍娑自身も『失礼します』と残して、黒いオーラの中へと消えていった。

蝶『あの人たち、アンノーンを使役してた。もしかしたら、また、襲撃してくるかもしれないわ。』

蝶は中のアンノーンが機能停止してるのを確認し、バリアを解除して麻江の元へ駆け寄った。
麻江は息をきらせては居るものの、少し休んだおかげか汗も引き、表情はすごく穏やかになっていた。

拓慧「そうだな。現場の処理は担当班に任せて、俺たちは戻ろう。」
猫『そうだね。次の襲撃に備えたほうがいい。』
黒烏『拓慧様、担当班には俺から連絡を入れておきます。』
拓慧「任せた、俺は麻江を龍美のところへ連れて行くよ。」

各々がやることを確認し、T-Pの施設へと戻ろうとした時だった。

猫『叶?』

叶が、突っ立ったまま俯いて動こうとしない。その肩は震え、下唇を噛みしめていた。
様子がおかしい叶に猫は近寄り、赤く染まるその頬に手を沿えた。

猫『何もできないの悔しかった?』
叶「うん…」
猫『いいんだよ。初めてなんでしょ?それに、今回は戦闘じゃなかったし。叶が気にすることないよ。』

『ほら、行こう』と猫が叶の手を取ると、叶はとぼとぼと歩き始めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


襲撃から三日後…


叶『あ~…ひ~ま~あ~』

アンドロイドの居住区。とある一室。
叶は、ふかふかのベッドの上で右へ左へと体をゴロゴロさせていた。

猫『叶、暇なの?』

猫もその隣のベッドの上で横になり、体を丸めてしっぽをパタパタとさせていた。
猫がゴロンと叶の方へ向くと、叶と目が合った。

叶「ひま~」
猫『じゃあ、トランプとかボードゲームとかする?』
叶「やだ!!だって、猫に絶対に勝てないって昨日わかったんだもん!」
猫『まぁ、一応僕、ロボットだからねぇ。』

叶は天井を向き、右手を天井に向ける。その行動に何の意図があるかはわからないが、なぜだか猫も同じように真似をした。

叶「ねぇ」
猫『何?』

叶は尋ねる。

叶「どうしてあの時、和解しようと思ったの?」

叶「だって、あいつら、人殺したり町を破壊したりした悪いやつだよ?」
猫『うーん…そうだねぇ。あの人たち、多分だけど、やりたくてやったわけじゃないと思うよ。』
叶「どうしてそう思うの?町が壊れるところ見て笑ってたんでしょ?」
猫『……でも、目は笑ってなかったよ。』

猫『だから、話し合えば間違いを正してあげられるかと思った。』
猫『僕も、あまり血を見るのは好きじゃないからさ。』
叶「そっか…」

二人の間に沈黙が流れる。
聞こえてくるのは、大きな冷蔵庫の稼働音。それ以外には、極まれに部屋の外を大きな機械が通るときにちょっとした音が聞こえるだけ。
特に何かするわけでもなく、二人はただただ天井を眺めていた。

猫『ごめんね、叶。』
叶「何が?」
猫『僕たちのせいで、謹慎処分になっちゃって。』
叶「ほんとそれな!!!連帯責任で僕までだよ!」

やだやだやだ~とベッドの上で駄々をこねる叶を横目で見ると、『フフッ』っと笑った。

叶「何がおかしいのさ!」
猫『いや、たまにはこんなのんびりした時間もいいなって思っただけだよ。』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一方、星崎邸・拓慧の部屋…


拓慧「無断外出。」
黒烏『はい。』
拓慧「無許可で接続コードの変更。」
黒烏『はい。』
拓慧「ほかに思い当たるのは?」
黒烏『襲撃者への恐喝。』
拓慧「いや、それは良いんだけどさ…。」

拓慧は机で書類を書いていた。始末書だ。
叶と同様、勝手に失踪した件について、四日間の自宅謹慎を言い渡されていた。
「まさか自分が…?自分の機体が…?反抗…?」と、数日悩んだ末にようやく机に向かう気になった拓慧は、書きなれない始末書を進めていた。

だが、拓慧にはそれより気になることがあった。
黒烏の異変だ。
猫が来てからというもの、とてもプログラムされたと思えない行動が見て取れるからだ。
まるで人のように自分で考え行動し、言動を発しているかのよう。

叶の反省文の時の発砲も、襲撃者に銃を向けたときも、以前の黒烏では考えられない行動だった。

拓慧(なんか黒烏のやつ、攻撃性増した気がするんだよな…)

ちらっと黒烏に視線を送る。
ドアの前で立ったまま、どこを見ているのかもわからない視線。その目は泳ぐこともなく、ただ一点を見つめていた。

拓慧「なぁ、黒烏。」
黒烏『なんでしょう、拓慧様。』
拓慧「お前さ、どうして俺の前から居なくなったんだ?」
黒烏『…』
拓慧「何か言いたくないことか?」
黒烏『…』
拓慧「まぁ言いたくないんならいいんだけどさ。」

拓慧は視線を書類に戻し、筆を走らせた。
黒烏は、やはり何も言わず、ただ一点を見つめていた。

拓慧「俺に隠し事って、なんかお前らしくねぇな。」

拓慧のその一言に、黒烏はようやく口を開いた。

黒烏『俺らしさ…って何でしょうか?』
拓慧「ん?」
黒烏『猫が来てから、俺は感情を【取り戻しました】。』
拓慧「そうだな。」
黒烏『以前の俺と今の俺。どっちが本当の俺なんでしょう。』

拓慧は「ん~」と考えながらペンをくるくると回す。

拓慧「前の『主人の命令は絶対です。』って黒烏も、『少し一人になりたい。抵抗したい。』と思う黒烏も、どっちも黒烏だろ。」
拓慧「ちょっと感情が芽生えて、自由な思考を得れただけで、本質は変わってないと思うけどな。」
拓慧「ただ、隠し事をされたのは、なんかちょっと複雑だった。嬉しいような悲しいような感じ。」

拓慧は始末書の最後のサインを書き終わると、トントンと書類を整えた。

拓慧「黒烏が何に悩んで、何に困ってるのかは、俺にはわからん。でも、相談してくれたら、一緒に考えるし、苦しいならそばにいてやりたい。」

「それが相棒だろ?」と、拓慧はニカッと笑うが、黒烏はそれを視界に入れているのか入れていないのか、やはり視線は動かさず、ただ一点を見つめている。

黒烏『………その時が来たら、ご相談させてもらいます。』
拓慧「あぁ、いつでも待ってる。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



麻江「蝶…どうだった?」
蝶『三時間四十九秒よ。』
麻江「よし!進歩!」

T-Pの施設内にある、アンドロイドとパートナー専用の訓練室。その中でも、入室制限二名の個人訓練室に麻江たちは居た。
麻江は額に汗をにじませて、それを蝶が冷たいタオルで拭う。

蝶『麻江、無理はだめよ。今日はもうこれくらいにしましょう。』
麻江「そうね。今日はちょっともう厳しいかも~…」

麻江は、くてんと蝶の小さな膝に体を預けた。
蝶の膝は、小さく、やわらかく、そして冷たい。その冷たさが、麻江の火照った体に心地よい感触を与えていた。
そんな麻江の頭を蝶は優しく撫でる。麻江は「ふにゃ~」っと全身の力を抜いた。

麻江「私さ」
蝶『はい』
麻江「もっと強くなりたいと思ったよ。」

麻江「猫がこの町に現れた日も、あの襲撃があった日も、守りたいものを守れなかった。」

麻江「私は…すごく悔しい。」

麻江の表情は、蝶からは見えなかった。ただ、声色から読み取れるものもあった。
麻江の声は、何かを怖がるような、そんな感情が見え隠れしていた。

麻江「両親の話したでしょ?仕入れに向かった先でアンノーンに襲われたって。」
麻江「あれからいっぱい勉強してT-Pに入った。蝶とも出会った。」

麻江「でも、私は瞬間的に力を使っちゃうから、せっかくの耐久型の蝶をうまく扱えてないの。自分でもわかってる。」
麻江「どんなに訓練しても、どんなに体力をつけても、糸口が見つからないの。自分が弱いのが悔しくて…。」

蝶はしばらく沈黙したまま、麻江の髪をなでる。

蝶『……麻江は…頑張ってるよ。』

蝶『大事なものを失った悲しみも知ってる。誰かを守る勇気を持ってる。それが麻江の強さだと思うわ。』
蝶『だから、ゆっくりでいいのよ。麻江のペースで。』

麻江「でも、またあいつらが襲撃してきたら?またその時黒烏たちが出動できなかったら?」

麻江は体を起こして、蝶の顔を見つめる。不安そうなその表情をなだめるように、蝶は麻江の両頬に手を沿えた。

蝶『その時は私がサポートするわ。大丈夫。』

蝶『今の私は、麻江のサポートができるぐらい力をコントロールできるの。急いで強くなろうと思わなくていいわ。』

蝶『もし誰かがせかしたり、麻江をいじめるようなことをしたら。私が守るわ。』

『だから安心して』と、蝶は麻江に微笑んだ。
麻江の目からは大量の雫が零れ、蝶の胸に顔をうずめた。

麻江「なんか、蝶のほうがお姉さんみたい…悔しい…」
蝶『わけのわからないことを言わないの。』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



???[で?どうだった?]

累「いや、ダメでした。」
三知流「58と96、あとオリジナルの三体同時相手は難しいっしょ。」

???[そうか…絶対防御(アブソリュートディフェンス)と鷹の目(イーグルアイ)が居たのか。]
???[しかし、せっかく適合者をあてがったというのに、逃げ帰ってきたのか。]

累「オリジナルの射程圏内に入ったら、弍娑が反抗してしまって。」

???[ほぉ?]

三知流「なんか、意思を持って行動したって感じだったよね。機械なのにおかしいね。」

???[弍娑と夢衣にはわたしから伝えておこう。引き続きオリジナルの捕獲を遂行せよ。]

累・三知流「「おおせのままに…」」









第十話へ続く…
9/12ページ
スキ