大きな愛、小さな幸せ (牧紳一)
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「なんだかんだで、不本意ながら結構頑張ってるな」
「当然でしょ!
なんたって、やればできる子ちゃんだも〜ん」
「なんだそれは」
「あははは」
その天井知らずの明るさに惹かれた日のことを忘れはしない。
学校ではあれだけ不満を並べてたのにな。両腰に拳を当て、鬼の首を取ったような顔で言うなまえがますます痩せ我慢をしているように見える。
「そんなお前に差し入れだ」
「えっ」
迎えに行く途中、自販機で買ったジュースを手渡した。
「飲めばたちまち元気になるぜ」
「あ! DHAが入ってるやつじゃん!」
「頭脳にも効くらしいからな。これで集中力も上がるだろ」
「ありがと、マッキー!」
これもお前への元気づけと、浄化してくれた礼だ。
紛失と校外での勉強と……当面の間バスケットができないなまえの苦労を思えば、こんなチンケな物では安すぎるくらいだろう。
それにこれは、代わりはきかないということに気付けなかった詫びの印でもあるんだからな。
「ところで、定期考査はどうだったんだ」
「ぼちぼちって感じ……たぶん」
今のギクッて声は何だ? 顔が引きつってるぞ。
「たぶん?」
「美味しいー!」
手応えなし、ってことか……
誤魔化すように飲んでるが、悪いが誤魔化しきれてないぞ。
二人の時間が取れないことは不満と言えば不満だが、これも本人のためだ。俺も心を鬼にすべきなのか。ガムシャラになって徹底的に勉強し、結果として成績を上げるしか手は無いだろう。
一分一秒でも早く解消できることを願ってやまない。
*

薄暗い中、俺たちは駅前の人気が少ない小さな公園に立ち寄った。ここは夜間いちゃつくカップルであふれ返っている場所だ。
多少はモヤモヤするが……場の雰囲気に飲まれ動物の発情期のように
だが、あいにく俺はそう分別が良いほうじゃない。ここで今お前に色仕掛けでもされたら、流石に我を忘れて狂っちまいそうだ……
「マッキー? 何してんの?」
「…………」
「こーんな難しい顔しちゃってさ。ふっとい眉毛が吊り上がってるよ」
お前は何も感じてないのか……?
陽気なもんだ。口を一文字に結ぶ俺に対し、なまえは身を乗り出し両手の人差し指を眉毛に当て、あっけらかんとした顔で様子を尋ねてくる。
「いや、一応警戒しとこうと思ってな」
「警戒?」
カマトトぶってるのかどうかは見抜けんが、今はこの限界値の無い朗らかさに救われたな……
「それなら
「何?」
「気付かなかった? スカート丈、あれから新調して一センチ長いやつにしたんだから!」
「五十歩百歩だな……前とあまり変わらんな」
「えー? 全然違うじゃん! ほら、よく見てよー」
太ももを凝視できるわけねーだろ……
本当に大差無いように見えるが、一体どこが改善されたんだ? 救われたかと思いきや、これでは千どころか一パーセントも安心できんな……
近くに立つ外灯の光が狙いを定めたように白い素肌を照らし当て、とことん俺を刺激する。
まずいな……
なまえ、それ以上煽るな……
「……今すぐこれで隠せ」
「え? なんで」
これで二度目か……何とか理性を保っていられるうちに、横隣に座るなまえに上着を託した。
「男ってのは目で見て興奮する生き物なんだぞ」
「えっ……マッキー、何言って……
あっ!」
「なまえ……?」
まだまだツーカーの仲には程遠いな……
俺は軽く溜め息をついた。
自分の魅力はおろか、例の印の
キスマークにすら気付いてないのか……
最も監視すべきは、お前なのかもしれんな。
大事な雌を守るのが雄の役目だ。
再び声をかけてくる奴らが居ようものなら、人相が悪くなると断言できる。
お前は良い意味でも悪い意味でも、俺の不安を見事に打ち消してくれる。
「きゃー! やったー!」
「どうした?」
「キーホルダー、あったー!」
「……!」
驚いたな……
見つからないと諦めかけていた矢先にこんな形で見つかるとはな。どうやら上着のポケットが破れて穴が空き、その奥深くまでいっちまってたようだ。
二度あることは三度も無く、ホッとしたぜ。
「もうダメかもって思ってたから、超うれしー……」
「無事に見つかってよかったな」
「うん」
「幸せってのは、案外身近なとこにあるもんだぜ」
「確かに。そーかも」
―― そして
すっかり安堵しているなまえと対面式になり、きっちり目と目を合わせた。
「なまえ、気付いてないのはお前の方だ」
「え? 何?」
「目には見えんが……
俺からお前への、どデカい愛にな……」
「……マッキー、くさい……」
「言うな……」
正直、照れ臭いが……
これだけはどうしても伝えたかったんでな……
そんな小さな物にも見劣りしない逸品だ。
悪いが受け取り拒否だけはごめんだぜ。
言い終えてすぐ、頬の一箇所にやわらかな感触が当たった。
「はい、お返し……!」
「……!」
これは言うまでもなく、なまえからの接吻だ。
サンキュ……
裏をかかれ、急激に体温が上がったみたいだ。そこら中に居る男女の……
この園内の熱気に匹敵するほどにな……
「お返し……? 何のことだ?」
「っ……しらばっくれてもムダだからね!
今だから言うけど、とっくに気付いてたから! キスマーク!」
「ほう、意外だな」
「塾で言われて、めっちゃ恥ずかったんだから!」
証拠は上がってると詰め寄るが、そう怒るな。それは照れ隠しなのか? 可愛い顔が台無しだぞ。
少々不安だったが数日後、なまえから反応という名前の返事があった。
そうか、あの手紙はとっくに配達されていたのか……
それならもう安心だ。心が一気に軽くなったぜ。
「すまん。寝顔が可愛くて、ついな」
「なっ……!?」
「フッ……強く吸い付かんと跡はつかんぞ」
「ぐっ、グロスがついたじゃん!」
その後、俺たちは
揃いのキーホルダーを鞄に引っ提げた ――。
今回の一件で、何に対しても注意深く見て考え
そして真摯に相手と向き合うことが大事なんだと、教訓になった。
これでいい加減、大事にしてるってことが伝わっただろ。
俺は、お前への恋心を失くしたりはしない。
地球規模なんてのは大袈裟だ。だからと何の保証も無い永遠という言葉を使うのも照れ臭い。
だが、これだけは言える。
飽和状態でもなお、俺の背丈よりも巨大な愛をくれてやる、とな……
今後は切手の貼り残しがないかしっかり確認し、小さな愛の印はもちろんアイツの気持ちをより大切にしていこうと思う。
未来永劫、円滑に恋文のやり取りができることを切に願う。
― 完 ―
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