大きな愛、小さな幸せ (牧紳一)
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―― あれから、なまえとの交際という文通は順調に続いている。
伝書鳩に手紙を託し数日が経過した。
きちんと宛て先通りに届いたならいいが、未だ返事はない。当人はなまじ平然とした顔をしているだけに気味が悪いな。
何だ、空中で郵便事故でもあったのか……?
「なまえ、いるか?」
「「……!」」
「まっ……マッギーー!!」
隣のクラスまで赴きドアを開けた。
すると、特別気にはならんが室内がざわつき始めアイツを含めたクラスの奴らの視線を一身に浴びた。
「やはり事故か……」
「え?」
またか……俺の元へ駆け寄ってくるというよりは泣きつくといったものか……このパターンは最早お決まりだな。
ちなみに今は昼休み中だ。よって、顔を合わす時間はさほどある。俺たちは廊下の少し開けた場所に移動した。
「ゔう……」
「落ち着け。半ベソかいて、何があったんだ」
何かトラブルでもあったのか。
解決策を練るには先ず事情を聞き出すことだ。早速問い合わせると、返事どころか思いもしない言葉を差し出してきた。
「やばいよー! 最悪だよー!
ホントに塾に通うことになっちゃったよー!」
「何……?」
詳しい事情を聞けば、なんでも成績が急激に下がったせいで親御さんに無理やり入塾させられちまったそうだ。
「そうか……それは、災難だな……」
「うん……」
まあ、あの成績じゃあな……致し方ないといったところだがまさか現実になっちまうとは。
放課後のこうした人付き合いも部活もデートも、何もかも削られるってことだからな。
「なんで卒業間近になって塾なんか……ぶつぶつ」
「何だ、念仏でも唱えてるのか? 顔が怖いぞ」
「だってさ〜……」
「…………」
お前と一緒に居られなくなるのはこたえるが……
これはなまえ自身のためでもある。彼氏ならば激励の言葉一つでもかけて、どっしり構えてないとな。
どちらからともなく口を開こうとした時
瞬間的になまえの顔が青ざめ、この後の発言よりも俺はその表情の方に意識が向いた。
「マッキー、ごめん……
おそろのキーホルダー、失くしちゃった……」
「なまえ……」
「映画も寝ちゃって観れなくて終わったーって思ってたのに、その上キーホルダーまで失くすとか、私……」
先日劇場で買った揃いのキーホルダーを失くしたらしい。
「何やってんだろ」なんてらしくないぜ、なまえ。そう嘆き悲しむな。解決策は幾らでもある。
それよりも顔色の悪さが気になり速達で返事をしたんだが
これが、いけなかった。
「……気にするな。
また買えばいい『気にするよ!!』」
「……!」
なまえの訴えに思わず目を見張った。
「あれはあの日、仲直りの印に買ったものじゃん……! だから大切にしてたのに……!」
「そうだったな……すまん」
「んーん……私の方こそ、ごめん」
すまない。配慮に欠けた発言だった。
男女の脳みその違いによりすれ違いが生じ、殴り書きで気持ちを綴りまた割愛し、互いに丁寧さに欠けていたが
最終的にはギクシャクした関係を修復できたんだったな。
あの時に後戻りするのはごめんだ。だが、俺とて悲しくないと言えば嘘になる。紛失したことが発覚し、今や片割れになっちまったコイツに同情するぜ……
一難去ってまた一難。悪いことってのは続くもんだな。
再びお前とギクシャクしちまうのか……
以前より、態度だけじゃなく言葉で気持ちを伝えるよう最大限努力しているつもりだったんだが……
地獄に仏ってやつか? この時、ドス黒い嫌な空気を一掃するように次の授業を知らせる鐘が鳴る。
「……まぁ、そのうち見つかるよね!」
「だといいんだが……」
「たぶん何とかなるなる!
こーゆう時こそポジティブ思考だよね〜」
「切り替えが早いな」
「あはは。じゃあね、マッキー!」
「ああ」
トボトボとした足取りで教室へ戻っていくなまえの背中が、ひと回りもふた回りも小さく見える。
口ではああ言っていても、相当痛手なはずだ。俺の手前ひ弱な自分を見せまいと気丈に振る舞ってるんだな……
だが、アイツは気付いていない。
記念の品よりも、もっと重大なことに ――。
*
ここだな……
月日は十一月。時刻は午後七時過ぎ。とっくのとうに西日は沈んだ。部活後の帰り道、俺は駅から徒歩数分のとある立地の良い場所を訪れ、今は入り口付近で待機している。
全国でも三本の指に入る知名度と実績のある学習塾。そういやコマーシャルでもしょっちゅう流れてたな。二階は自習室らしい。ってことは、アイツはその上か。
こんなことで許してもらおうとは微塵も思ってないが、こうして行動に移すことで活気を取り戻すことを願って……
ん……? 何だか上の方が騒がしいな。
「おい、下にデカくて黒くてイカつい怪しい奴がいるぞ!」
「マジ? どこどこ?」
「……!」
俺は不審者扱いか……そんなに悪目立ちしていたのか?
塾生の奴らのそんな声が飛び交う中、窓辺に馴染みのある人影が現れ、俺の名を呼ぶ。
「やっぱり! マッキー!」
「おう」
手を振るなまえに片腕を上げて返した。
思いのほか元気そうだが……
向こうが笑えば、こっちも頬が緩む。我ながら締まりのない顔だな……
アイツの
―― それから約三十分後
「あははは。
暗闇に紛れちゃってたね。あ、今も」
「……笑うな。そんなに黒いか?」
「うん。めーっちゃ黒いよ」
俺たちはさも当然のように手をつなぎ、他愛もない話をしながらあの場を去った。
黄昏時も過ぎ、漆黒の空に塗り替えられたとくれば彼氏としての務めは無論、彼女である
なまえを無事に家まで送り届けることだ。
「だけど、ありがと!」
「どうってこともない。この間、迎えに行くと言ったろ」
「マッキー……」
礼を言うのはこっちの方だ。
あの一声のお陰で、寒さも疑惑も吹っ飛んだんだからな。
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