金魚鉢と星占い (神宗一郎)
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ざわざわした人混みの中、神先輩は小走りで私の手を引っ張って軌道に沿うようにゴールまで誘導してくれてる。
大人みたいに長くて大きな手。
強引なところも、好き……
ここはお祭り会場! 太鼓や人の声とか下駄の音で気づかれたりしないはず……! どうか、この心臓のバウンド音が先輩にバレませんように……
「ごめんね。いきなり」
「いっ、いえっ……!」
さっきよりも見物客の数が増えた気がする。私の左手は、未だ右手に守られたまま。迷子にならないように離さないでくれてるのかな。
拒否しようと思えばいつだってできるのに、先輩の道しるべにしがみついてる自分がいる。
「少し走ったから、汗かいちゃいましたー」
「そこの店で何か買おうか」
「そんな、自分で出しますから……」
「さっきのお詫びに。俺に払わせて」
「先輩、」
めちゃくちゃ嬉しい。先輩が私のために買ってくれるなんて! ここは厚意に甘えるとして……せっかくの機会。
何にしよう? わたあめ、たこ焼き、お好み焼き、チョコバナナ。
うーん。色々ありすぎて迷う……
「甘〜い!」
「飲み物じゃなくてよかったの?」
「はい!」
悩んだ末に選んだのは、大好物のリンゴ飴!
金魚鉢みたいな姿形はまさに職人技。いや、芸術品? 夕焼け空みたいに朱くて透明感があって中身まで見える。
この水晶玉でこれから先の未来も映し出せたらな……
「リンゴ飴が水晶玉みたいに透き通っててすごくキレイだったので、これに決めましたっ!」
「水晶玉?」
舌でぺろっと舐めた。甘酸っぱくて見た目も可愛くて美味しくて、尚かつ煌めいてて。
どれだけ乙女心をくすぐれば気が済むのー?
「バスケットボールも、見方によってはそう見えなくもないね」
「ホントだー!」
先輩ってユーモアも持ち合わせてるんだ……
ちゃんと話を合わせてくれることが嬉しい。先輩が買ってくれた思い出のこの味、一生忘れない。よく味わって大切に食べよう……!
「……あのさ」
「はい」
「浴衣、すごく似合ってる。かわいいね」
「!?」
え? え?
びっくりして、先輩の顔を二度見した。
先輩が私のこと、かわいいって……嘘みたい……
「みんなの前じゃ恥ずかしくてさ」
「そ、そうだったんですね! ありがとうございます」
「…………」
「…………」
もしかして照れてる? これって絶対照れてるよね!?
先輩は薄いどころかめちゃくちゃ濃い反応を示してくれた。
私も照れくさくて、リンゴ飴みたいになって黙っちゃった。
どう返事していいのか言葉が定まらなくて、とりあえず咄嗟にお礼を言った。頑張ってセットしてきた甲斐があるー! こんなに嬉しいこと続きでいいのかな。そのうちしっぺ返しがやってきそうで怖い……
「あっ……! もう打ち上げ時間ですね……!」
「うん。観に行こう」
気付いたら空の色はいつの間にか真っ黒になってた。いよいよ
「わーっ! キレイ……!」
「…………」
大きな爆発音と夜空に打ち上げられた色とりどりの花火に見とれてたら、先輩が唐突に
「なまえちゃん。今日のラッキーカラーは?」
「え……? 青ですけど……」
そう、私の今日のラッキーカラーは青。涼しげなブルーの小さなうちわが先輩の腰元に差してあった。
「ひとつ賭けをしようよ」
「賭け、ですか……?」
「この次の花火が青色だったら、俺と付き合ってくれる?」
「……!!」
「なまえちゃんのことが好き。本気だよ」
「先輩……」
神先輩……わざとなの? 女の子はこういうムードとかシチュエーションに弱いって知ってて言ってるの?
毎月定期的に読んでる少女コミックとかでよくあるシーン。まさかそれを実体験することになるなんて……
本来なら、花火の光に照らされてる先輩の横顔が凛としてて切なげで儚くて……見とれてるはずなのに。
とてもじゃないけど今は見上げてる余裕なんてなかった。
―― そして
「なまえちゃんは、俺と信長、どっちが好きなの……?」
「え……? どうしてそこでノブが……」
急に究極の選択を強いられた。
告白されて涙が出るほど最高に嬉しいのに。先輩のその賭けに外れちゃったらどうしようって戸惑ってたら
次はなぜかノブの名前まで出てきて……
だけど大丈夫だよね!
私には、こんな時こそ占いがある!
後ろ盾があるんだし、何があろうと絶対上手くいくはず!
「えっ、えっと……私っ、その賭けに……」
この時……胸元がぽかぽか温かく感じたと同時に、どこからともなく誰かの声が聞こえた。
――――――――――――――――――
本当に占いに頼ってばかりでいいのかい?
ここぞという時に頼れるのは、誰でもない。自分の心だ。
――――――――――――――――――
例の占いで選択を間違うと取り返しのつかないことになるって言ってたのを思い出した。
その通りじゃん。いいの? 占いだけで、運命かもしれない重要な人を決めちゃって本当にいいの? あとで後悔しない?
昇ったり、降りたり。
さっきから感情の浮き沈みが激しくて全然落ち着かない。
「なまえちゃん、大丈夫……?」
「はい……」
―― すると
「「 あ…… 」」

ヒュルヒュルヒュルー……ドカン……!!
豪快な音を立てて一発の花火が打ち上げられた。
それは緑色で、結局大ハズレ。
そんなぁ……
先輩との繋がりが断ち切られたみたいで超悲しい……
「残念そうだね?」
「えっ! あの、そんな……」
私、そんな残念そうな顔してた!?
たぶん無意識だった。先輩に心配かけちゃってる上に心まで見透かされて……
アタフタして戸惑ってたら、だけど安心していいよって声変わりした愛しい男性の声が
「今朝の占い。俺は緑色だったんだ」
「え……!?」
「だから、まだ付き合えるチャンスはあるかな」
「神先輩、」
「返事……聞かせて」
花火の色が青じゃなかったら、付き合えない?
先輩のうちわの色が青いから、占い通りだから付き合う?
ラッキーだとか、そうなってたから、とかじゃない!
誰も傷付かない方法なんて、どこにもない。
何かを得るってことは誰かが反対に何かを失うことになる。手に入れるためには必ず犠牲が伴うんだ。
先輩の気持ちも、自分の気持ちも、どっちも大事なこと。コンビニでジュースやおにぎりでも買うような感覚で軽く決めたりしちゃいけない……!
私は先輩の顔をしっかり見据えて答えを出した。
「私も、神先輩のこと、ずっとずっと、好きでした……!」
「なまえちゃん……」
「あのっ……よろしく、お願いします」
「うん。こちらこそ」
「……!!」
大勢の人たちが空に向かって拍手を送ってる。落ち着いた頃には、花火大会はフィナーレを迎えてた。
差し出された手を握ると、先輩の体温を直に感じられて胸の奥までじんわりあったかくなった……
「みんなの所に行こう」
「は、はい……!」
生まれて初めて占いじゃなく、ちゃんと自分の心だけを信じて選んだ。私の心を占めてる人は……
運命の彼は、この人だって ――
***
「きゃー! なまえ!? 神さん!?」
( なまえ……!? )
「……じっ、神さん! どこ行ってたんすか! 遅いっすよ! なまえも、グズグズしてんな!」
「信長、ごめん」
「ノブ……」
ーー‥
「先輩、毎日厳しい練習のあとに五百本って
キツくないんですか? それに私、お邪魔虫でしたよね……」
「そんなことないよ。毎日のことだからね、もう慣れたよ。
むしろ、今日はなまえちゃん来ないかな、っていつもワクワクしてたから来てくれた時は嬉しかったな」
「せ、先輩……」
「あとさ」
「?」
「あの日、信長は油断したんだと思うよ」
「油断?」
( 好きなコと手をつなぐって、照れくさいもんな )
「俺に対抗心剥き出しだったし。たぶん妬いてたんだろうね」
「えっ……」
‥ーー
ここに来る途中で先輩が言ってたことが心のどこかで引っ掛かってる。最低じゃん。私……ノブの気持ちを知ろうとも確認しようともしないで、今までずっと放置してたんだ。
「……おめっとさん」
「……!」
すれ違いざまに頭をポンってされた。キャップのつばで隠されて、ノブの顔は見えなかった。
顔も見たくないなんて、ごめん。
ありがとう、ノブ……
「なまえちゃんは俺のこと好きだって、分かってたよ」
「え!?」
「自惚れかもしれないけど、それこそ水晶玉みたいに鮮明に見えたよ。すごく分かりやすかった」
「そっ、そんなにですか……!?」
「うん」
「それを知ってて、あんな賭け……先輩って、確信犯……」
「ははっ。そうかもね」
勾玉が、あの正体不明の声の主が踏切の遮断機代わりになって私のいい加減な心をせき止めてくれた。
あとほんの少しでも遅かったら、自分のはもちろん先輩とノブの二人の気持ちまでないがしろにするところだった。
誰だってできるものなら楽な道を選びたい。
道に迷ったり大変な時は、星占いとか何かにすがりたい。
でも、やっぱり決め手は己の意志なんだ。
もう、何にも洗脳されない。
先入観にとらわれずに自分の意志で決めることができた。
これからも、この金魚鉢で
自分の心に正直になって生きていけますように……
「マネージャーになってくれたら、もっといいんだけどな。そうすれば、堂々と部室に居られるでしょ」
「!」
「俺の " かわいい彼女 " ってことでさ」
「先輩……!」
私は、この人が……神先輩のことが、大好き。
手と手を取り合って
私たちは走り出した ――。
The End ‥‥
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