君だけの色で、俺を描いて (花形透)
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秀才と、凡人と。
翌日。通常カレンダーの数字は青いけど今日は赤の日。午前中、園内にある図書館へ足を運んだ。一日完全プライベートDAYってことで、一人を満喫するぞ! おーっ!
あともうちょっと……んー、届かない……
背伸びしてやっと届くくらいの位置に精一杯腕を伸ばした。この棚、なんでこんなに高いのー!?
段々と二の腕が痺れてきて、もう限界……
― すると
どこからともなく大きな手が現れて、ひょいと
いとも簡単に目標物を横取りされた。
「これでいいか」
「えっ、あ、うん。花形君、ありがとう」
同じクラスの花形 透君……!
ほくそ笑んでるのはなぜ? って一瞬思ったけど視線の先を見たらその理由がすぐに分かった。
そうだった。踏み台があること、すっかり忘れてたー。
とんだ赤っ恥……ドジしたとこ見られた……
漫画やドラマあるある。同じ本を取ろうとして手と手が重なり合って、運命の出会い……恋の始まり……
なんてことは現実には起こり得ない。
こんな乙女的思考、さっさと封じ込めないと。
「 " ビギナーのためのお絵描き講座 " ……?
ん? みょうじは確か美術部の部長だったよな」
「よくご存知で……まあ、ちょっと色々あって……」
「?」
「そんなことより、花形君は? どんな本を借りに?」
「俺はミステリー小説ってところか」
「へぇ、さすが……!」
さすが名前に秀が入ってる秀才君……
全然名前負けしてない。
恋も、本も、迷路に迷い込んでる自分とは次元が違う。
私なんて読む前から謎めいたミステリーの世界に片足突っ込んじゃってるし。もしくは両足?
何にせよ、部長って知ってもらえてただけで充分だよ。
オレンジとイエローを足したような明るい日差しを浴びながらその一冊だけを手にいつもの写生場所へ。
外に出た理由は図書館の中でぺちゃくちゃ話ができないから、だよね。
悠々自適なひとり時間を満喫する予定だったけどこれはこれで悪くないかも……
たぶん四十センチぐらいはありそう。
同い年なのに大人と子供みたいな身長差。高身長、長い手足に映える赤のワイシャツと黄色のベスト。私服のセレクトも上品でセンスがある! 凡人の私はというと比較対象にすらならない、ちんちくりんな地味色コーデ……
絵もお洒落も、やっぱりモデルが良くなくちゃ。
「よくこの辺りで描いてるんだ」
「ふうん……わざわざ絵に関する本を借りに来るってことは、よっぽど美術が好きなんだな」
「うん。けど最近、ちょっと不調気味なんだよねー。後輩には内緒にしてるんだけどさ」
「不調?」
「調子が良かった頃の話だと
手前味噌だけど中三の頃、文集の表紙を依頼されたことがあって……でもそれぐらいで賞状をもらったことはないよ。今思えばその頃がピークだったのかなー」
「…………」
一番好きなのは風景画。水彩画で描くのがお気に入り。淡い優しい色合いでシンプルそうに見えて難しい。
お父さんもスケッチが趣味で、それに影響されて小さい頃から絵を描いてた。みかん畑に田んぼに、花火大会。美術館にも連れていってもらった記憶がある。親子水入らずで……って、今じゃあり得ないけど。名画や作品に触れさせて娘に芸術センスを磨かせたかったのかなー。
ハイ、チーズ! って感じで写真みたいに目の前に広がる景色をスケッチブックに収めたい。
「画材に支障が有るのか、それとも画力が無いのか……」
「花形君〜……」
「あ、悪い」
「うゔ……」
花形君ってジョークとか言う人だっけ? 画力が無いのは認めるし、仰る通りです……はい。
「だが、白羽の矢が立ったのは事実だろ。それだけでも凄いことだと思うぜ」
「そうかなー……」
だけど言いっ放しで終わらないのが花形君。こうやってきちんとアフターフォローしてくれるから。顔つきだけじゃなく話し方にだって隠しきれない知性を感じる。
「俺も同じだ」
「あ……」
「
「そうだったね……ごめん」
この時、背景にある青空がかすんで見えたのは気のせいじゃないと思う。
そんなこと連想させるつもりなかったのに。なんか腹黒い女みたい……地面を見つめる暗転した顔を前にして謝るだけで、気の利いた返しができない自分がすごく嫌。
「大丈夫だ。……気付けば、俺も藤真も三年だ。
今年が最後の夏なんだ。
海南とあたり、なんとしても全国へ行く!
ジャンルは違えどみょうじも頑張って功績を残そうぜ」
「花形君……」
近くにあった青柳がざわざわって風に揺れた。
優しいな……それに、カラダ全体がピカピカ光ってる。
花形君たちは最後のチャンスを掴もうとしてるんだ。
こんな所で結末を迎えたくないって。
なのに私はデッサンすらまともにできなくて、投げやりになって路頭に迷ってるなんて……
そのまま自然と花形君の隣をてくてく歩いて、砂地の広場にあるバスケットコートに来た。
「花形君」
「ん?」
「私……ダメ元で、コンクールに応募してみようかな」
「やる気になったんだな」
「うん。傑作や佳作は無理でも、頑張ったで賞くらいは狙えるかもしれないし。賞品は自由帳とかボールペン?
最悪ポケットティッシュでもいいかなー、なんて」
「それは参加賞だろ?
それなら俺でも貰えるぜ。街中で」
「確かにー」
笑い合ってることが嘘みたい。
彼と一緒にいることで、無意識のうちに気分がアガって心がウキウキ弾んで、本を借りに来たことも忘れてた。
頭脳派の花形君なら分かってるはずだよ。
やる気になったのは
目標を持とうと思ったのは
あなたに触発されたから ――。
― そして
練習は午後からだ、って言ってた矢先に
思いがけない
「みょうじ。
都合がつくなら、来週の準決勝。観に来てくれないか」
「えっ、試合……?」
「なんなら応援アイテムは筆でもいいぜ」
「あはは、画期的すぎー」
「ハハハ」
「分かった……必ず行くね」
「ああ。よろしくな」
淀んだ心の色のままじゃダメだから。
一方的に励まされてばかりじゃいけないから。
気の利いた言葉ひとつ浮かばなくてセンチな顔にさせたお詫びと、浅はかだった考え方に反省の色を見せたい。
白黒つける大事な試合。
大して役に立たないだろうけど……自分の学校でもあるわけだし、応援に行くことに決めた。
ゴールは此処にあるのに、肝心のボールは無い。
だけどバウンドするように心はもっともっと弾んでた。
