君だけの色で、俺を描いて (花形透)
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情熱的に君を描く
「「 翔陽!! 翔陽!! 」」
「今年は海南を食うかもしれん!」
「なんたって優勝候補二番手!」
うわ……我が高校ながら、すごい歓声。
会場は満員御礼。応援席はレタスグリーン一色であふれ返ってる。
ベンチにも入れない人たちがこんなにいるんだ。不思議な感覚。その選ばれた主要メンバーの一人の男子と親しい間柄になってるなんて。
海南に次ぐ全国区のチーム……
まだ始まってもないのになんか緊張してきた……
ごくっと無意識に生唾を飲み込んだ。
キャプテンの藤真君と息の合うナイスプレー。
終盤になって、湘北が一気にガンガン追い上げてきた。
「がんばれ……!! がんばれ……!!」
叫んだところで届くわけないって分かってる。
だけど、お腹の底から大きな声を出した。身体の内側にまで響かせるようにして。
試合中、群衆の声色に紛れて懸命に花形コールをした。
ずっと無心になって応援してた。
この時ばかりは確実に頭をまっさらにできてたと思う。
無惨にもブザーが鳴った。思わずもらい泣きした。
みんなが、花形君が流す涙は、悔し涙は
全然濁ってなくて……とんでもなくクリアだった……
― 翌日
いつもの公園のベンチで、スラスラと筆を走らせてた。
我ながら自画自賛するほど良い構図だと思う。
試合中、ずっと目で追ってた。ダメだと思ってても彼がいるだけで嬉しくなる自分がいる。心に嘘はつけない。
絵で一等賞を狙うことも
彼と付き合うことも、全部夢のまた夢。
チキンだから面と向かっては言えないけど。
いつの日か、ちゃんと言うんだ。こんな風に……
「花形君…… 好き……」
「俺もだ」
「!?」
黄緑色に生い茂った草っ原が、そよ風で揺れてた。
作品が仕上がった瞬間
その声に驚いて慌てて後ろを振り返った。
草むらを掻き分けて
そこに現れたのは絵の中の人物。
どんな絵よりもリアルな、本物のあの人だった。
「はっ……花形君……!」
「よう」
そんなーー!! 聞かれてたなんてーー!!
こんなの絶対ファウルだよ! 退場だよ!
両手が四方八方に動いて止まんない。早く止めなきゃ、挙動不審だと思われちゃうー!
というか「俺も」って……
幻聴……だよね……?
「きょ、今日は蒸すねー、なんて……
あっ……メガネ……
肘打ちされて、目も……だ、大丈夫……?」
「? 新調したから大丈夫だ。目も特に心配いらんさ」
「そ、そうなんだ……! 良かったー……!」
何ともなさそうで、とりあえずホッとした。
私は全然大丈夫じゃないけど……
気温と恥ずかしさのコンボで今にも蒸発しちゃいそう。
「なあ。描いた絵、見せてくれないか」
「えっ……うん。じゃあ、一ページだけ……」
手汗がすごい。
誤って手と手が触れちゃいそうで、緊張する。
「みょうじ? 大丈夫か?」
「う、うん」
余計な気遣いさせちゃってる。
急に顔を真っ赤にして舌っ足らずな口調になって……
めっちゃ恥ずかしー……動揺してるの丸分かり。
そろそろ冷静にならないと。
「例の筆、絵に描いたような餅だったね」
「うまいな」
不審がられても嫌だし……人生初! 男子にスケッチブックを渡して見せた。人様に見せるなんて、日記を公開してるようなもの。それくらい恥ずかしい代物。
だけど……この人になら、一ページだけなら……
「さすが……良い絵だ。
本物の絵も上手いな。みょうじのカラーが出てる」
「それほどでも……とんだ拙作だよ」
上手くなんてないない。
本当に何の力にもなってあげられなかったんだし……
そんなものは理想で、絵空事だって理解してる。
これが魔法のステッキだったら勝たせてあげられたかもしれないのにさ。褒められて嬉しいのか照れ臭いのか、自分でも訳が分からなくなっちゃった。
「(これを)コンクールに出すのか?」
ふるふる、って私はすぐさま首を左右に振った。
「出すわけないよー。肖像権もあるし」
「それもそうだな」
「仮に俺が審査員なら、金賞間違いなしだぜ」
「プッ……それって、えこひいき……
コネでもらっても嬉しくないぞーっ」
「ハハハ……」
時間も忘れて没頭して、記憶を頼りに心の赴くままに描いた。あなただけを。
フェイダウェイジャンプシュートをキメてる瞬間の絵。
それは、筆と同じくらい画期的だったんだ。
ゴールは目の前にあるのに、守備をかわすために後ろに跳びながら放って……
まさにスーパーテクニック! 花形君の得意技!
コットンみたいに柔軟で、なめらかな動き。
文化部に所属してる私でも高度な技なんだと分かった。
「ありがとう。お世辞だとしても嬉しい。
花形君が褒めてくれたってだけで、受賞したも同然。何より価値があるものになったよ」
「みょうじ、」
「試合は惜しまれるけど……個人の感想としてはカッコ良かった。カッコ良すぎて、すごいビビっときて……
とにかく、めっちゃ黄金色に光ってた!」
言葉じゃ上手く伝えられないや。やっぱりフォロー返しは無理っぽい。私の進むべき道は、美術。これ一本!
この筆で、絵で自分の心を表現するんだ!
「今の今まで風景画にこだわってたけど、人物画も悪くないね!」
「…………」
絶対にとびきり良いものを描くんだ! って意地になりすぎてた。
モデルがどうこうって問題じゃなくて、私の感性が死んじゃってたんだ。
" 朱に交われば赤くなる "
あなたのおかげで白に一歩近付けたような気がする。
それに、これは花形君と仲良くなれた記念に残しておきたくて描いただけだから……
「お世辞じゃない」
「えっ……」
一瞬、彼の眼鏡のレンズが太陽光に反射して光った。
「……この絵、俺にくれないか」
「え……?」
「みょうじのことを、いつも身近に感じていたいんだ」
「……花形君……」
あれは幻聴なんかじゃなかった。
額縁に入れるようなものじゃないのに……
何の価値もない私の絵を気に入ってくれたんだー……
遅まきながら
ルーレットは、
今度は白や青だけじゃなく、他の色も買おう。
黒や緑にペールオレンジ。
そして……恋の色にするための赤も。
色んな色を混ぜ合って、いつかはあなたの色に染まっていきたい。
これから先、同じ道を一緒に走り続けて
鮮やかな未来を思い描いていくんだ。
若草色の、あなたと ――。
The End ‥‥
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