目分量な恋にトキメキを (藤真健司)
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「ああ。性格、成績、生活状況……
これから毎日、お互いのことをじっくり観察するんだ。
観察結果はきちんとノートに筆記すること。そうすることによって相手のことがよく分かるようになるさ」
「観察って……」
「じゃあな。数日後、この場所で発表会をしよう」
「ちょっ、なに勝手に決めて……!」
「みょうじさん。
俺は、君のことをもっと観察したい」
「は……? もっと……?」
この瞬間から、俺と君の観察会が始まった。
見極めるというのは建前で
本音は己の気持ちを確かめるためだが
そのような意図があるなんて微塵も知らないんだろう。
― そして
数日後。待ち望んだ発表会の日。
誰も居なくなった放課後、君の机へと向かう。
椅子に腰かけ、淡々とした表情でバインダーに閉じられた一枚のルーズリーフを見せてきた。
「一通りまとめたけど」
「ありがとう」
正直、ここまで思惑通りに……順風満帆に事が進むとは思いもしなかった。
怠惰な性格とはにわかには信じがたい。
「あ、一つだけ分からないところがあったんだけどさ」
「…………」
意外にも彼女は言ったことを素直に受け入れ
「好きな女子のタイプは?」
「素直でマメでひたむきな可愛い人」
「ふむふむ、素直で……
「みょうじさん、君のことだ」」
「!?!?」
「根は真面目なんだな。
更生せずとも、そうやって言われたことを実行に移してくれた。成長の証だ。君はもう目分量な人間じゃない」
「……!!」
「俺もあらためて君のことを調べた結果、様々なことが分かったんだ」
つい最近、風の便りで知った。
街中で彼女が雑誌の読者モデルにスカウトされたこと。
そしてそのスタイルの良さから道ゆく男に軽い気持ちで声をかけられ付き合ったが、すぐに浮気された……と。
知らなかった。
君がそんな深い悲しみを抱いていることを。
「毎朝とても眠そうにしていたが
本当は、辛かったんじゃないのか……?」
「あっ、あの欠伸は涙なんかじゃ……!
ただ、学校が退屈で……」
ここは廊下側の中心の席。死角に入るため、人の目につきにくい。さらには俺が君の壁となる。
ここぞとばかりに大いに感情を解放するんだ。
「泣きたい時は、思いきり泣いた方がいい」
「……そうさせてもらうわ……
……っ」
紙に書かれた文字がじわじわと滲んでいく。
何が書いてあったのか、今となっては解読することは極めて難しい。
「失恋……思ってたよりも超ツラくて、毎晩思い出しては泣いてて……はー……私、カッコ悪……」
「カッコ悪いなんてことはない。正直に話してくれてありがとう。寧ろ、再び思い出させてしまって申し訳ない……」
「……別に……」
毎夜、失恋の反動で頬を濡らしていたらしい……
不謹慎かもしれないが、なんて綺麗なんだろう。瞳から垂れ落ちた数滴の液体は宝石のように光り輝いている。
これでハッキリした。
あれはただの欠伸ではなかったことが。
何も相手だけじゃない。この度の観察会によって、自分自身の心の中身まで見えただろう。結果的に泣かせてしまったが……収穫や意味は充分にあったはずだ。
「こんな時に、このようなことを言うのは不適切かもしれない」
「……?」
こんなに繊細な心の持ち主を傷つけた人物を許せないと思うと同時に、ふつふつと嫉妬心さえ沸き出る。
「もう涙を流すことはない。俺といることで傷口が塞がるのなら、ずっと、君のそばに……」
「えっ……」
誰もが湧き上がるこの想いを、抑えられやしない。
やはり俺は……
心から、君のことが好きなんだ。
俺は、とっくに君にときめいている。
君は、いつか俺にときめいてくれるだろうか。
気付いてほしい。
身近に自分をしっかりと見つめている男がいることを。
そしてその振った男のことを忘れてくれたらもっといい。
俺たちなら、きっと良い関係(恋人)になれるはずだ。
さあ行こう。
悲しみのない明るい未来に向かって ――
The End ‥‥
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