秋桜が見たものは ーここから脱出せよー (牧紳一)
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「もう、ダメ……」
「なまえ……!?」
あれから何時間経過したのか。
体力も精神力も消耗し、身体は悲鳴を上げていた。限界に達したなまえはついにその場に倒れ込んでしまう。
「なまえ!! 大丈夫か!?
なまえ……!!」
モニター越しに映る憔悴しきった彼女の姿。
牧は大声で名前を呼ぶも、その声は本人には届かない。
「なんだ、もうバテちゃったのか。だらしない。
仕方ない、ここらで最大のヒントを与えよう」
「なにっ!? 貴様……!!」
「それは、君たち二人が失いかけているものだ」
「「……!?」」
「その謎を解くことが出来れば、元の世界に戻れる。
が、無理だろうねぇ。「今の」君たちじゃあ」
助かる道は、ただひとつ。
失いかけているものを言い当てること。
「……失いかけているもの……?
そういえば……近頃、紳一とは顔を合わせれば言い合いになってて……」
「なまえとは、笑い合ってなかったな……」
「愛情……?」
「笑顔か……!?
一刻も早く脱出しなければ、なまえが……!!」
依然として答えは分からぬまま。
が、この三ヶ月間の自分自身の言動や行動を振り返るとどうだろう。至らぬ点や配慮に欠けていた点がわんさか頭の中に浮かんでくる。
「紳一……いつもいつも意地を張ってばかりで、ごめんなさい。あなたの彼女でいられて……幸せだった……
私が居なくても……プロの……選手に……」
「なまえ……
お前は、いつだって全力投球でぶつかってきたのにな。
彼女の嘆き一つ受け止められなかった
器の小さかった俺を、許してくれ……」
― そして‥‥
「私はどうなったって、構わない!!」
「俺はどうなろうと、構わん!!」
(( だから、頼む!!
なまえを助けてやってくれ……!! ))
(( だから、お願い!!
紳一を、助けてあげて……!! ))
己のことはいい。どうか、愛する者を救ってほしい。
どんなに声を張っても相手には届かない。
声の主のヒントを耳にしひどく疲弊した二人は
ごく自然に、同時に、心からの願いを叫んだ。
― すると
どこからともなく神々しい光が‥‥!
目を開けていられないほどのまばゆい光が部屋全体に差し込む。
「え……!?」
「これは……!」
まさに渡りに船。このチャンスを逃すべく二人は最後の力を振り絞り、それに向かって右手を伸ばした。
そう。この希望の光はここへ来た時と同様のものだったのだ。
そして、再びどこからか謎の声が。
「おめでとう!! 正解だ!!
いいかい。人と人は、いわば鏡。合わせ鏡だ。
片方が笑えば、もう片方も笑う。
要は常に隣り合わせなのだよ。お分かりかな?
ではでは、これにてショータイムは終了だ。
シーユー!!」
去り際に意味深なメッセージを告げた次の瞬間
牧となまえは青白い光の中に吸い込まれ、瞬く間に消え去った。
重たい瞼を開くと、そこには青空が広がっていた。
「ここは……?」
「どうやら眠っていたらしいな」
二人はタータンチェック柄の
レジャーシートの上に横たわっている。
様々な形をした雲がゆったりと動き、空気の美味しさや風の心地良さが肌で感じ取れる。
紅葉やイチョウの葉も美しく色づいており
自然が生み出す景色とぽかぽかな陽気が衣となり、やつれきった全身を包んだ。
「現実世界に、帰ってきたんだ……!」
「ああ。なかなかに大変だったな……」
「うん……本当に良かった……」
「ところで、体調は大丈夫か? なまえ」
あのような不思議な体験をした直後だというのに、冷静さを失わない牧。当然のように彼女の身体を気遣う。
いつもの生活に戻れたことで安心しきっていたなまえ。しかし油断大敵。私服や所持品等すべてワープする前の状態に戻っていたが、常に見られているという恥じらいだけはそのまま持ち帰っていたのだ。
「大丈夫だけど……見たでしょ? 下着……」
「ああ、見たぜ。いい眺めだったな」
「しっ、信じらんない!
紳一のバカ! えっち! スケベ!」
「すまん。だが、男はみんな助平だぞ」
「なっ……!」
「そう怒るな。せっかくの飯が不味くなる」
( 〜〜っ……そのアダルトな表情、反則だって…… )
見事日常を取り戻した二人。
大地に座り、手付かずだった弁当のおかずを頬張る牧。
対するなまえの頬は赤い。
あの体験は彼らの記憶の片隅にいつまでも残るだろう。
「俺たちが失いかけているもの、か……分かったぜ」
「うん。私も」
その答えは、お互いを思いやる心。
コスモスが見ていたものは
花言葉である " 乙女の純情 " 。
まだピュアだった頃の、二人の初々しい過去であった。
「バスケットでいえば、基礎からやり直せってことか」
「そうだね」
夢か幻か。謎の声も含め、一体あれは何だったのか。
今となっては誰が知る由もない。
ただ、パートナーを助けたい! という想いが明暗を分け
そしてその一心により帰ることができた。
この気持ちが交差することは、二度とない。
自分たちは合わせ鏡、ということ。
何ヘクタールあるだろう。
広い園内には子供たちの声が響き、青空は澄み渡り、微笑み合い、当然のように手をつなぐ。
二人の距離は交際当初よりも縮まり、より親密な仲に。
あの体験を通して隣にいられるという
今あるこの幸せに感謝するのだった ――
The End‥‥
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