秋桜が見たものは ーここから脱出せよー (牧紳一)
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「もうお前にはうんざりだ」
「私だって……!」
秋真っ盛りの十一月。
キンモクセイやコスモスといった可愛らしい色彩たちに魅せられる。大規模な公園の一角では、とあるカップルのふんぞりかえる声が行き交っていた。
「意地っ張り!」
「強情なのはなまえの方だろ」
「あーあ、せっかく早起きして作ったのに。
こんなことになるなら来なきゃ良かった」
「……これ以上、付き合いきれん」
牧となまえ。
二人は同級生であり交際歴は数ヶ月と日は浅いが、今が一番楽しい頃ではなかろうか。
ランチボックスの中にはおにぎりやサンドイッチ、その他定番のおかずなどが詰められている。
天候にも恵まれ絶好の行楽日和。
この日はピクニックにとやって来たは良いものの、些細なことでいつしか口論に‥‥
( ちっ、まいったな…… )
( もう終わりだね……私たち…… )
数ヶ月前。初めてこの場を訪れた時は嬉し恥ずかし手をつなぐことも躊躇していたのに。
秋の色が日に日に濃くなっている中、男女の関係性は季節の移り変わりのように目まぐるしく変わってしまった。
そんな二人を茶化すように園内にはキャッキャッと子供たちのはしゃぐ声が響く。
どちらとも無言の状態が続き、食事はおろか会話も全くと言っていいほど弾まない。
― そんな中、ふと平地に咲く桃色のコスモスの花に目をやると、まばゆい青白い光が差しこむ。
「まぶしいっ……!」
「なんだ!?」
彼らは甘い香りに引き寄せられるようにして、一瞬のうちにその向こうへと姿を消した。
不意に目をやり、また光の先に連れ込まれた先は窓もないドアもないシンと冷え切った八畳程度の個室。
「ここは、一体どこなの……?」
「これは……夢か……?」
こんなことがあっていいのだろうか。
なんと、見知らぬ世界にワープしてしまったのだ。
現実には起こり得ない事態に二人は驚きを隠せない。
牧の言った通り夢でも見ているよう。
「ハッ……! 紳一! 紳一はどこ!?」
隣に居たはずの彼がいない。
この直後、せせこましい室内に唯一設置された天井のモニター付近から謎の声が響き渡る。
「君が探しているのは、彼かな?」
「だっ、誰……!?」
モニターに恋人の姿が映し出される。
「紳一!」
「なまえ!」
「ようこそ、諸君。私はこの空間の支配人。
これから君たちにはあるゲームに挑戦してもらうよ」
「ゲームだと!?」
「君たちに拒否権はない。
ちなみに、ここは圏外。外部の人間との通信は完全にシャットダウンしてある。
間違っても助けを呼ぼうなんて無謀なことは考えちゃあいけない」
ここは、昼も夜もない。自然はおろか直にお互いの顔も見られない、声も聞けない。
所持品も回収され丸腰状態。さらには通信も断たれ、外部との交信も不可能な最悪の状況に。
「ふっ、ふざけないで! 早く元の世界に帰して!」
「狙いはなんだ!?」
「狙いも目的もない。これは君たち二人のためにしていることで、いわば試練さ。
自らの手で脱出する術を考えてくれたまえ。以上!」
実体を持っていないのか。
支配人と名乗る男は素性を暴くこともなく概要を言い終えると、その声はふっと途絶えた
かと思われたが‥‥
「薄情者!! 私たちが何したっていうの!?
一生こんなところで暮らすなんて、絶対イヤ!!」
女が天井をキッ、と睨みつけた
― その時
「「 !! 」」
突風が吹き荒れ、着用していたニットやスカートの一部分が瞬く間に剥がされ、純白のブラジャーやパンティといった下着が見え隠れする。
「やだ……っ!」
「なっ……! やめろ!」
彼女は赤面し、咄嗟に両手でそれを隠す。牧も素早く目を背け、卑劣な行為に怒りを露わにしていた。
「……紳一に何かしたら、私が許さないから……!」
「おお怖い。威勢の良いお嬢さんだ。
こんな恥ずかしい恰好になってもまだそんな元気があるとは。
いいかい、これは忠告だ。
私に逆らえば仕打ちがひどくなるだけだ。大人しく言うことを聞いておくのが身のためさ。
念を押して言っておこう。忠告だということを忘れてはいけないよ!」
強気な彼女は怒り叫ぶも、形勢は逆転せず。
そのまま圧力をかけられ連絡を断った。
( あの男……気に食わんな……
なぜこのようなことになったかと考えることも大事だが
俺が盾となりなまえを守ってやることのほうが先決だ……!
きっと、脱出口が……
なにか策があるはずだ。
それが分かるまで、なまえ……何とか耐えてくれ……! )
こうして彼らは男女別々の部屋に分かれ、拷問部屋という名の密室に閉じ込められてしまった。
また、壁面は白一色でなんとも無機質。
何も無いその部屋は異世界に来てしまったのだということを嫌でも痛感させられることだろう。
――
以降、先ほどのような辱めを受けたことを筆頭に各自様々な場所に送り込まれ、大変な目に遭っていた。
無数の藁に土砂、丸太、そしてコンクリートブロック。
奴隷のように力仕事を強制され、他にもくすぐり攻撃、苦手なものを食べさせられたりと自分たちにとって不利なことばかり。ありとあらゆる屈辱を受けていた。
少しでも手を休めようものなら労働量が増え、恋人への仕打ちはどんどん酷くなる。
まさかこんな事態になろうとは。
救助を呼べない。声を荒げようとも電話もない。それどころか、換気のされていない室内に息苦しさまで感じる始末。過呼吸になり、命の危機さえ覚える。
恋人のためにと、ただただ耐えるしかなく
言われるされるがままの言わばパペット人形。全身で絶望感をこれでもかと味わっていた。
果たして希望の光を見つけ出し、この地獄から脱出することが出来るのだろうか‥‥?
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