夏といえば… (清田信長)
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偽りの笑顔とか、こんな姿ノブくんには見せたくない。
「私もやるー!」
「え?」
「早くスイカ食べたいし!」
「んなこと言ったって……ムズいんだぜ、意外と」
「いいからやるの!」
細かいことはぜーんぶ忘れよう。そう思って、いつものテンションで挙手をしてプレイヤーに名乗り出た。
「へいへい。そんじゃ、この清田が直々にアドバイスしてやるぜ。さあ、始めなさい!」
「はーい! ありがとー!」
バトンタッチをして意気込んだは良いものの
タオルを巻いた瞬間、真っ暗闇に包まれて一気に不安な気持ちに襲われた。
ん、十周? そういえば十はノブくんの背番号だ! って気付いた時には上下や前後左右はおろか東西南北も何もかも分からなくなってた。
「バカ! 俺を狙ってどーすんだ!」
「ごめん……! 体がふらついて、バランスが……」
うわ、体がふらふらして平衡感覚が……
大人になってお酒飲んで、酔い潰れたらこんな感じになっちゃうのかな。ノブくんの声だけを頼りに直進してるつもりだったけど期待外れもいいとこ。目標物に近付くことすら出来なくて見当違いの場所に移動してた。
こんなんじゃ一生かかっても割れる気がしないよー。
「……しゃーねえ。じゃあ、今度は一緒にやろうぜ!」
「え? 一緒に、って……」
二度目の挑戦。視界不良でもたついていたら、突然背後からあたたかい温もりが私の全身を巡った。
え……!? 私の真後ろに、密着してるーー!?
ノブくんのハネた長い黒髪が首筋に当たって……
やだ……必然的に顔が真っ赤に熟れちゃう。
吐息に、低い声と、汗のニオイもすごく近くに感じる。
初デートに、こんな……刺激的すぎるよー!
「ゔっ……すげー、スタイル抜群じゃん。やべー……」
「!?」
ここは……南極……? それとも、冷凍庫の中……?
みるみる上昇した砂浜以上の熱気は一気に凍りついた。
視覚が遮られてる分、他の器官が……特に聴覚が研ぎ澄まされてて、ノブくんのその声もハッキリそう聞こえてもうスイカ割りどころじゃなかった。
「……もう帰る!」
「は!? おい、待てよ!! なまえっ!!」
私っていう彼女がいながら……最低!
赤くなってた自分がめちゃくちゃ恥ずかしい。一気に面白くなくなって、小走りで近くの岩場まで移動した。
ノブくんのばか。スイカ割りなんて、この際もうどうでもいいよ。エンタメ性なんか必要ないし普通に包丁とまな板で切れば済むことなのに。
両手で未成熟な自分の胸を触ってみた。小玉スイカ……そんな抜群のプロポーションじゃないけど。
まな板かぁ。そこまでぺたんこじゃないと思うけどな。
この水着、何も感じなかったのかな……悲しすぎる。
幸いにもここには誰も居なくて。体育座りになって岸辺に人差し指をすーっと滑らせてノブくんの似顔絵を描いた。その顔は私の好きな、元気印のまんまる笑顔。
だけど……打ち寄せた波に跡形もなく消されちゃった。
――
あれから、途方もなく広い海を眺めながら途方に暮れてた。私って色んな意味で小さいのかも……
こんな感じで切ない気持ちに浸っていたら、ザッ、ザッって砂浜を歩くサンダルの足音が。
「なまえっ!!」
「……!」
呆気なかった。五分もしないうちにノブくんに見つかっちゃったから。
なんでここが分かったの? 身体に発信機でも付いてた? 後を追って来てくれて本当は嬉しいくせに、さっきのことが後を引いて全然かわいくない態度を取っちゃった。
「ノブくんの変態っ!」
「はぁ!? 人聞きの悪いこと言うな!」
「目隠しして見えないのをいいことに、キレイなお姉さんに鼻の下伸ばしてたんだ!」
目隠しプレイ!? みたいな行為だって一瞬でも思っちゃった私の方が変態なのかも。ううん、悪いのはノブくんだもん。他の女の人に目移りするなんて! 謝ってきたって許してあげないんだから……!
「あー、あれは……」
「……っ」
もうやだ。ヤキモチ全開なのも、全然クールダウン出来てなくて言い過ぎちゃってる自分も醜くて大嫌い。
嘘の笑顔も、こんな感情剥き出しの姿……ノブくんにだけは見せたくなかった。
彼氏の前ではかわいい自分でいたかったのに……
きっと今日は厄日なんだ。初デートの日に破局を迎えるんだって、その後のノブくんの声を聞くのが怖かった。
「なまえ、目つむって下向け」
「え……なんで」
「いいから向けよ。あ、もっと下!」
「まだ下……?」
そう確信してたけど、予想とは大ハズレの言葉が思いっきり体当たりしてきて……心が折れちゃいそうな中
とりあえず言われるがままに従ってたら
おでこにチュッ、ってリップ音が。
周りに居る人たちの声にも波の音にだって負けてない。
ちゃんとハッキリそう聞こえたんだ。
「の、ノブくん……」
「…………」
柔らかい感触だった。私たちの顔はスイカに負けず劣らず赤くて、ノブくんは顔半分を片手で隠してる。キスって愛情表現の一種だよね。
それなら、まだ望みは……私……まだまだノブくんの彼女でいられるってことでオーケーなんだよね?
「勘違いすんなって……あれは、お前に向けてだな……
うしろにいる時、すげえイイ匂いがして……思わず声に出ちまったんだよ」
「え……!?」
私に向けて……? 心の声がぽろっと出ちゃった……?
私のとんだ勘違いだったんだ。
ノブくんも私自身も恋愛経験は全然なくて。
だけどここぞって時にはこうやって自分の気持ちを言葉にして、精一杯向き合おうとしてくれてる。
「……似合ってんよ! 水着!」
「……!」
「男はなァ、好きな女の前ではカッコつけたいもんなんだよ!
広島までの切符代とか、じゃなくてよ!
祭りとか、旅行とか……もっと金残しとかねーと……
それに! 他の奴らにお前のそんな姿、見せたくなかったし!
ダチを呼ばなかったのも、もっとなまえの声を聞きたかったからで……! ってこんなこと、言わせんなよ……」
かわいい……ノブくんが照れてる……
さらに赤くなったほっぺたを腕で隠してて、連鎖反応で私までスイカ色になっちゃう。
そんな熱くて優しいノブくんだから、好きになったんだよ。だから私もその情熱にキチンと向き合おう!
「…………」
「おい、なまえ?」
「ノブくん……! もう一回言って……?」
「ばっ……バーカ! 誰が言うか!」
ゴーン、ゴーンって季節外れの除夜の鐘が頭の中に鳴り響いてる。この大海原に向かって叫びたいくらいうれしい! 言葉の全部、録音して永久保存したいよー!
本当のターゲット(真の目的)は
スイカじゃなくて、私だったんだ!
だからあんなにムキになって……
私との思い出を残しておきたくて……?
「そうとは知らずに、ごめん……」
「もういいって。その代わり! 広島、ぜってー来いよ!」
「うんっ! 絶対行くっ! なんたってノブくんの全国大会デビューだし!! 風邪引いたって、熱があったって、はいつくばってでも応援に行くよっ!!」
「なまえ……」
( やべー、くそカワイイ……このまま抱き締めたい…… )
「ノブくん?」
急にうしろを向いたノブくん。どしたの?
どんなに体調が優れなくても、どんなことが起きようと、なにがなんでも応援に行くからね! 常勝・海南!
全国四位以上、ううん、優勝目指してがんばってー!!
「は、腹減ったな! とっとと割って食っちまおうぜ!」
「でも思うように進めないし、難しいよー」
「なまえ、この俺の辞書に " 不可能 " の文字はないぜ!」
「え?」
「ルーキーセンセーション・清田信長!!
リハーサルだとしても一見の価値あーーり!!」
「ノブくん……!」
胸の内を解き放ってくれたおかげで誤解が解けて、無事に和解出来たんだ!
真夏の空の下。もちろんここには白熊もペンギンも居ない。この時だけ海水が常夏のトロピカルな味に感じた。
― その後、私たちはスイカ割りに再度挑戦することに。
ノブくんがコンパスとなって方角を示してくれて……
私も観戦さながらのありったけの声を出して、エールを送ったんだ!
「おりゃー!!」
「「 わ、割れたーーっ!! 」」
「なまえ、ナイス!」
「ノブくんのおかげだよー!」
「「 うまーい(おいしー)!! 」」
こんなに美味しいデザート、初めて……!
灼熱のビーチの上で食べるスイカは格別。
ほんのり甘くてみずみずしいほっぺた。真っ黒い悩みの種が取れて、本当に良かった……!
「かっかっか! 夏といえば、やっぱスイカだな!」
「だねー!」
初デートは忘れられない一日になったよ。ありがとう!
スイカもそうだけど
私にとって……夏といえば、恋。
色んな意味でオープンになったこの心に、いつまでも忠実でいたい。
ノブくん。この夏休み、二人でいっぱい思い出つくろうね!
― おしまい ―
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