空っぽの心〜獅子奮闘 編
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夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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そして、ついに試合開始!
上空に放たれたジャンプボールの行く先は武園学園のセンター・小田竜政の手元へ。
すかさずシュートを決め、会場全体が沸いた。怪我の影響を微塵も感じさせないプレイの連続にこのまま勢いづくかと思いきや‥‥
( ! 小田くんの様子が…… )
モーションが乱れボールを奪われてしまった小田。
綾はこの時、彼の体の異変に気が付いた。
フルメンバーでないということは自身らが格下のチームだと舐められている何よりの証拠。
憤りを感じる武園の選手たちは牧や高砂をベンチから引っ張り出そうと健闘するが‥‥
事態は形勢逆転し、インターハイ常連校である王者・海南の快進撃が始まる。
フロントコート内に突入した途端、武藤と控えの選手層によるフェイクも含めた巧みなノールックパス。
その目的はノーマークだった背番号・6
海南の秘密兵器ともいえる
強力なスコアラー・神 宗一郎。
彼が繰り出す正確無比な3Pシュートであった。
「「 おおっ……! 入った……! 」」
「タダ者じゃないわね、神さん……」
「いとも簡単に……」
「あれが神だ。」
6m以上も離れたラインから、精細な弧を描き連続してゴールを射抜いた!
( 何度見ても、すごい……
やっぱり努力家なんだなぁ…… )
過去にコツを教わった、あのシュート。
どんなに打っても打っても、リングにかすりもしなかったのに。
大観衆を前にしてもなお落ち着いた様子でこなす毅然とした姿を前にして
尊敬の念を‥‥声を出さずにはいられなかった。
「宗くん……! ナイッシュー!!」
「……!」
「春野さん……」
「綾……」
「「 綾ちゃん? 」」
「「 春野……? 」」
神は微笑みながら綾に向かって拳を掲げた。
距離はあれど、見つめ合う二人の姿を見兼ねてある人物が声をかける。
「春野さん、海南の奴らとは知り合いなのか?」
「うん。前々から、よく学校に差し入れを持っていったりしてたから面識があるの。
それに、あの6番の神宗一郎くんと、ベンチにいる清田信長くんとはお友だちだよ!」
「へぇ……友達、ねぇ……」
( どうする?
ミッチーのこと、思いきって聞いてみるか……? )
その声の主は、隣に座る水戸だった。
近頃、心にしこりが残る綾と三井との間柄。日に日に親密度が増していっている様に思えて気に留めていた。
彼は真面目な表情をして、こう嘆く。
「本当に、ダチ……なのか?」
「え……?」
「向こうはそう思ってなかったとしたら……?」
「水戸くん……?」
「神に、藤真って奴も……
それに……ミッチーのことも………」
(( 洋平……? ))
( ちょっと水戸くん、何言って…… )
「えっ、えっと……
二人とも、それ以上でも、それ以下でもないと思うよ……?
三井先輩だって、ただの後輩だとしか……」
「…………」
" 友人と思ってなかったとしたら‥‥? "
水戸の急な問いかけに綾は目を逸らすことなく答えた。
仙道と会話を‥‥
一昨日、牧と通話をした時もこうだった。
ーー‥
これは、もしもの話だが
奴は、藤真は……お前を恋愛対象として見ているとしたら……どうする?
そうそう、それぐらいの元気がないとな。お前らしくねえよ。
‥ーー
似たり寄ったりな問いに戸惑う綾。
そんな風に苦しそうな声を、悲しみや切なさに満ちた表情をするものだから
こちらまで物悲しい気持ちになってしまう。
また、近頃は三井の雰囲気が変わった様に感じられていたが‥‥自身への罪滅ぼし等も含め色々と手を焼かせている後輩でしかないと、そう述べ表した。
ーー‥
牧さんや信長とはデートしたことあるよね。俺も綾ちゃんと一度してみたかったから、好都合かな。
ひょっとしたら俺って、好きな女の子をいじめたくなっちゃうタチなのかもね?
顔真っ赤にしちゃって、可愛い。
友達なんだから、助けるのは当たり前だよ。
もう俺……どうなっても、いいかも……
俺……君の元へ飛んでいくから。
綾ちゃんが来てくれるなら、頑張れるから……!
綾ちゃんのこと、守るから……!!
‥ーー
( ねぇ、宗くん……
私は、ただのガールフレンドで……
貴方とは、お友だち……だよね……? )
ごめんなさいと返事をした、あの日から‥‥
今までずっと年齢や身分などの垣根を越えた仲の良い友人だと、そう思っていた。
あわよくば現在進行形であってほしい。
言葉や表情、仕草などを思い返し心の中で訴えかける綾。
胸のざわつきを抑えながら、武園と戦いを繰り広げる海南の‥‥
コート内を走り回る神の姿を目で追っていた。
― そして
前半戦は残り16分。
武園は点差を大きく開かれている。ベスト8まで上がってきたチームだが海南にはまるで歯が立たず、壊滅的な状況に立たされていた。
「試合はどうなったんだ、試合は!?」
その時、背後からヌッと桜木の姿が。
徹夜で練習したまま眠りに落ちてしまったのであろう。ランニングシャツと短パンといった出で立ちをしていた。
「「 花道! 」」
「桜木くん……!」
( 何をやってやがる、小田……! )
スコアボードを見やり、あまりの点差とライバルの醜態に顔が強張る。
その後すぐ彼はカナの顔を睨みつけ、どいてほしいと言わんばかりの表情をした。
どうやら綾の隣に座りたいらしい。
( ……はいはい。
どいてあげるから、睨まないでよね!
図々しいと言うか何というか
桜木くんってホント分かりやすい人。
綾は気付いてないんかな~? )
すぐさま席を移動したカナ。友人のこうした気遣いもあり、綾は水戸と桜木の板ばさみに。
( 綾さんが隣に……!
あらためて見るとロングも良かったけど、ショートヘアも似合うなぁ。
いいニオイもするし……ああ、シアワセ……
おまけに、昨日は二人だけの秘密まで……♡ )
( いやいや、俺らも聞いてたから! )
( なに都合のいい解釈してんだ。)
( そんなだから仙道に遅れをとられちまったんじゃねーのか? )
( んだと!? テメーら!! )
( やれやれ…… )
何者かに狙われていると、暴動が発覚すれば出場停止や廃部となる可能性もある。
何よりも犠牲者を出したくないと彼女は辛い胸の内を打ち明けた。
湘北の部員には内密に、との頼み事を自分だけの秘密だと勘違いをしているらしい。
かぐわしい花の匂いと幸福に酔いしれていた桜木だが、連中に痛いところを突かれシラフに戻ってしまう。
「桜木くん?」
ハッ‥‥!
( いかん! あのことは、ゴリとメガネ君にはバレないようにしねえと…… )
「と、ところで綾さん、昨日話していた " キヨタ " という男はどこに?」
「清田くんなら、あそこのベンチに……」
「ほぅほぅ。アイツがデブのオットセイ……」
「え? オットセイ?」
( ぬ……? 横にいるのは、ジイ……!! )
牧の存在に気付き瞬時に顔を歪ませた。
彼が顎に手を当て指すものとは、昨日話した「一等星・はくちょう座のデネブ」のこと。
その清田によるセンセーショナルな発言により好意を持たれている事実を知り、また少なからず意識もしている綾。
しかし彼女は今、桜木のことは眼中に無く‥‥全く別のことを考えていた。
「小田くん……さっきから観客席を見てるね。
葉子ちゃんのこと……見てるのかな……」
( 綾さん…… )
( 春野さん…… )
( 綾……? )
(( 春野…… ))
紳ちゃん……
一度もこっちを振り向いてくれない。
どうして? って、そんなこと分かりきってる。
貴方に会う勇気がなくて
顔を見せられないことを分かってるから、敢えてそうして、配慮してくれてるんだよね……?
私のペースに合わせてくれるって、だから……
広くて、大きくて、たくましい背中。
姿形が確認できるぐらい、近くにいるのに。
なんだか、すごく遠くに感じるよ……
貴方の欠点なんて……何ひとつ見当たらないよ。
見た目も、考え方も、立ち振る舞いも
どれを取っても見劣りせず、大人っぽくて……
一人の恋人として、男性として、人間として
いつも心から尊敬しているのに。
完全に元通りじゃないけれど
せっかく修復することができたのに。
別れよりも苦しいことが、残酷なことが……
これ以上、行き詰まることなんてあるの……?
一歩ずつ踏み出して行くんだって
支え続けて、全力でエールを送るんだって
貴方にふさわしい女性になるんだって……
そう宣言したばかりなのに。
後ろを向いて、目を背けてばかりで……
なんで……こんな風になっちゃったんだろう……
勝利に向かって、みんな一生懸命に頑張ってるのに……
私は、私は……!
っ……やっぱり、今は……辛いよ………
どれだけ手を伸ばしても伸ばしても、届かない。
今の自分では決して越えることはできない。
目には見えない隔たりが‥‥
巨大な壁が立ちはだかっているように思えた。
綾は内心‥‥
バスケットの話をすることが辛かった。
ましてや観戦など、もってのほか。
しかし様々な恩人である神に、恩を仇で返すわけにはいかない。
懸命に努力を続けている彼に対して
バスケが嫌いになりそうだとは言えなかった。
そして‥‥それは最愛の人にも
牧にも伝わってしまうかも知れないから‥‥
気持ちが沈み、ひとり苦しみに耐える彼女。
しおれた花の様にうなだれ活気を失ってしまっていた。
( ………… )
その時、手の甲に人肌の温もりを感じた。
そっと優しく包み込む様に
水戸はその小さな手をぎゅっと握りしめる。
「!」
(( 洋平……!? ))
( 水戸くん!? )
「アマドコロ……だっけか?」
彼がそう言って話し始め、水を撒くと
薄日が差し込み、しょぼくれた花はみるみると
回復に向かい、徐々に顔を上げていく。
「止まない雨はないんじゃねえかな。」
「えっ……水戸くん……?」
「俺が本を買ったワケ。
春野さんに近付きたいってのもあるが、いつもの笑顔を取り戻して……元気を出してほしかったからなんだぜ。」
「笑顔と、元気……?」
「ああ。
それに、あれこれ考え過ぎなんじゃねえかな。
腹が減ったから、食う。
おもしれーから、笑う。
上手くなりたいから、練習する。
好きだから、一緒にいたいって思う。
もっと気軽にいこうぜ。
シンプルイズ・ベスト! ってな具合にさ。」
「水戸くん……」
って複雑にさせちまったのは俺か、と
先ほど混乱を招いてしまったことを詫びた。
アマドコロの花言葉は‥‥「元気を出して」
もっと単純明快でいい。
あれこれ深く考えず、シンプルに。
想いを寄せる彼女に向けた、彼なりの優しさ。
しょぼくれて意気消沈としている様を、心が折れそうになっている綾があまりに不憫で助力せずにはいられなかったのだ。
「あの、手……」
「あ……悪ぃ。」
ハッとした水戸は、少し照れくさそうにして重ねていた手を離した。
「シンプルが一番……
うん……そうだよね。
私、もっと本能に忠実になってみようかな。
水戸くん、本当にありがとう……」
「どーいたしまして。
あの図鑑が早速役に立ったな。」
( 好きだから、こうして今一緒に……
隣にいるんだぜ……? 春野さん…… )
いたたまれなくて咄嗟に握った小さな手。
好きだから、一緒にいたい。触れていたい。
これは本能的にもごく自然で当たり前のこと。
水戸は綾の横顔を切なげな表情で見つめていた。
「ふぬーっ! 洋平! 綾さん!」
「「 ひゅーひゅー、熱いねぇお二人さん。」」
「なに二人だけの世界に浸ってんのよ。
試合中ってこと忘れてない?」
「「……!!」」
観客席でのそんな和やかな雰囲気とは対照的に小田が前の試合で受けた足の怪我が明るみになり、全国制覇の夢は幻のものに、暗礁に乗り上げようとしていた。
この時、ある言葉を思い返していた桜木は綾の心苦しそうな姿を目の当たりにし今まで耐えていたが、我慢の限界に達していた‥‥
ーー‥
桜木くん……! ダメっ……!!
紳……牧先輩には、言わないで……!!
お願い……!!
彼にだけは……知られたくないの。
会いたくても会えないのも、先輩呼びなのも、全部、私のせいなの。
私が恋愛に臆病になっちゃってるだけで、牧先輩はなんにも悪くないの。だから……
‥ーー
( 綾さん……!! )
「あれ、桜木くんは?」
「「 花道……!? 」」
気が付くと桜木の姿が跡形も無く消えていた。
嫌な予感がした綾は‥‥
「桜木……!」
「あの馬鹿……!」
( ま、まさか……!? )
そのまさかだった。
桜木はコートへと向かい一目散に小田の元へ。
先日、体育館や校舎裏で牧に怒りの矛先を向けていた桜木。バスケットのことは禁句だと彼を責めないでほしいと切実に願い、再三言い続けてきた綾だったのだが
二度あることは、三度ある。
怒り狂った彼は、二人に向かって叫んだ‥‥!
「もう勝負はついてるだと……!?
ふざけたこと抜かしてんじゃねえ!!
やい小田!! お前の夢はそんなモンなのかよ!! こんな怪我ぐらい、こうして……俺がお前の根性を叩き直してやる!!
それに、分かってんのか!? 今までずっと支えてくれてた葉子さんのことを……!!」
「さ、桜木……!」
「「 お前は、湘北の……!? 」」
「「 やめろ……! 花道、落ち着けよ! 」」
突然の乱入者に騒然とする館内‥‥
桜木軍団の4人は必死で体を押さえつける。
「ジイ! テメェ、綾さんを悲しませやがって……許さねえ!!
聞いてんのか、コラァ!!」
「何だと……?」
「脳天&コートに頭突き男……!」
「桜木……!」
「綾さんはなぁ、いらねえ嘘までついて、テメーの名前を呼びたくても呼べなくて、ずっと一人で苦しんでんだ!
おまけにスランプにまで陥って
大好きな……大好きな、バスケットを……!!」
「「……!?」」
( 桜木くん!!)
( 綾……やはりお前は
藤真の言った通り、バスケットを…… )
桜木の言葉に確信を得た牧は、言い返すことも動揺することもなかった。
愛しの彼女を危うく綾の姿を見ようとしたが‥‥それは止めた。
ある人物が、こちらを睨み付けていたから。
( お前は、水戸……!)
( 牧…… )
その後、桜木はようやく平常心を取り戻した。
一時中断していた試合は再開され小田は最後まで諦めず戦い抜くことを誓い、忘れかけていた大切なことを教えてくれた友に心からの敬意を払った。
全国制覇への夢は自分一人だけのものではなく恋人である葉子との夢でもあることを。
武園は勝機を取り戻し尽力を尽くすが
結果 150 - 78で、海南大附属の圧勝。武園学園は惨敗に終わった。
「カナちゃん。みんなも、もう出よっ……!」
「えっ、ちょっと綾……?」
「「 綾ちゃん…… 」」
( 綾さん…… )
(( 春野…… ))
「本当に寄らなくていいのか? 控え室……」
「うん、いいの……」
試合をラストまで観続けることは困難だと、無理に等しいと思われたが友人の支援の甲斐もあり、かろうじて居続けることができた。
桜木と同様、我慢の限界に達していた綾。
一刻も早くこの場から立ち去りたい‥‥
水戸の問いかけに覇気の無い声で返す。赤木と木暮に挨拶をし、急ぎ足で会場を後にした。
( あれ? 綾ちゃん……帰ったのかな。)
一方、試合直後に観客席を見渡した神は
姿を消してしまった綾に対し違和感を感じていた。
( 桜木のあの発言も、気になるな…… )
彼は、バスケットを嫌いになりそうということを知らなかった‥‥
――
結局、互いに一度も顔を合わせることのないまま試合は終末を迎えた。
朗らかに晴れた青空。暖かな風が吹く。
一同の視線の先には50人目の友人だと話していた、桜木の思い出の女の子である葉子と小田の姿があった。
「葉子……」
「小田くん……」
朱色のセーラー服が細身の体によく似合い、そよそよと風になびく焦げ茶色のロングヘアー。
彼はそんな彼女の頭を撫で愛おしそうに微笑む。
絵に描いた様な二人の姿に綾は‥‥
「素敵だね、あの二人……
すごく優しい目をしてる……」
( いいな……
少し前まで、あんな風に呼び合って、見つめ合っていたのに……
ううん……今だって腕の中に飛び込めば、きっと熱く抱きしめてもらえるのに。
本当にごめんね。紳ちゃん…… )
愛し合う二人の姿に、綾は牧と自分の姿を重ね合わせていた。
その陽だまりは、今の彼女には眩しすぎるほどに残酷な光景だった。
「あ……あのっ、海南の応援をしておきながらこんなこと言うのも何ですけど……みなさんのひたむきな姿勢に感動しました……!
足の怪我、お大事になさってください。
それじゃ……!」
「「……!!」」
「えっ、綾……!?」
「「 綾ちゃん! 」」
「春野さん!」
「綾さん!」
「待ってくれ! 君は……!」
もはや誰の声も耳に入らない。
それだけを言い残して綾は全速力で駆け出した‥‥!
その行き先とは、果たして‥‥?