空っぽの心〜獅子奮闘 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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「「なにぃーーっ!?
仙道が綾ちゃん(春野さん)をデートに……!?」」
驚愕する桜木軍団の一味。その経緯はというと‥‥?
ーー
「よっ、春野さん。」
「「綾ちゃん!」」
「水戸くん……みんな……」
「ちょっと話があるんだ。あとでいいかな。」
翌日。休み時間中、校舎裏に呼び出された綾。
今この場所にいるのは水戸、高宮、大楠、野間と紅一点の彼女を含めた5人。もうひとりの人物の姿はどこにも見当たらない。
彼女はキョロキョロと周囲を気にしていて落ち着きがなく非常に不安そうな面持ちをしていた。
「……? 春野さん、どうかしたのか?」
「ううん。桜木くんは一緒じゃないのかなって思って……」
「あー、花道なら今、センコーに呼び出し喰らってんだよ。」
「え? 先生に?」
その人物とは先日の翔陽戦で一躍有名に、今や湘北高校の名物ともなった紅いヘアカラーの男・桜木花道。
彼は教員から職員室に出向くよう呼び出しを受けているらしく席を外していた。居合わせてはいけない理由が分からず、水戸はある思惑を抱く。
( 花道に聞かれちゃマズいことでもあるのか?
それに……よく見たら目が赤いな。泣いたのか…… )
昨夜‥‥牧との通話中、様々な感情がぶつかり合い苦しみの涙を流した綾。瞳の色が赤く充血しわずかに眼を腫らしていたいち早くそれに気が付いた水戸は心配そうに彼女の表情を見つめる。
終わりを迎えてしまう
彼の優しい声を聞けなくなる物淋しさ。
恋人であるのに普通に接することができない申し訳なさと、バスケットへの心境の変化。
そして日に日に迫り来る、元恋人の脅威‥‥
情緒不安定となってしまうのも致し方なかった。男たちは彼女を囲み込み、友の言葉に続けるように話し出す。
「そーそー。なんせ、あの赤頭だもんなぁ。」
「おまけに授業態度も悪いときたもんだ。お咎めを受けて当然だろ。」
「いや、待てよ……ひょっとしたら例のコートの修繕費の請求が……!」
ドゴッ!
次の瞬間、鈍い衝撃音が辺り一帯に響いた。
「だーれの頭が悪いってーー!?」
「花道……!」
「桜木くん……!」
「「っってーな!! 花道!!」」
突然の本人の登場に驚く彼ら。桜木は三人の額に頭突きを喰らわせた。問題児軍団にとってはよくある光景なのだが、綾は条件反射で哀れみの声をかける。
「すごく痛そう……みんな、大丈夫……?」
(( 綾ちゃん……女神だ…… ))
そんな中、桜木は綾に攻め寄り涙ながらに叫ぶ。
「綾さん!
あんまりじゃないですか! 俺だけ除け者にするなんて……何かフツゴウなことでも……!?」
「え……!? また除け者だなんて、全然そんなつもりじゃ…! 私、みんなに折り入ってお願いがあって……」
「……!」
この直後、桜木の体がピタッと一時停止した。
「「お願い……?」」
「俺らも、聞きたいことがあってさ。」
しめた! といったように口角を上げる水戸。彼女の言葉に乗っかり、慎重に話を繋げる。
「聞きたいこと……?
じゃあ、水戸くんたちからお先にどうぞ!」
「いんや。
ここはレディーファーストってことでさ。春野さんの方から言ってくれよ。」
「!」
「「 洋平? 」」
まさかの返しに意表を突かれた綾。
水戸以外の面々は彼の見当違いな物言いに眉を潜めている。
それもそのはず。
近頃、彼女に覇気が無い理由は?
水戸を呼び止めたのは何故なのか‥‥?
真実を突きとめたいと、当初は直接話を伺う予定だったはず。まるで探りを入れている様に感じてならなかった。
この時、綾はいつかの彼の言葉を思い出していた。
ーー‥
春野さんを想う気持ちは、その牧って奴にも負けてないと思うぜ。返事はまだいいから……
今はボディーガードでいさせてくれないか?
絶対に守ってやる。何があっても、な……
男にはやらなきゃならねえ時があるんだ。
それに、正義を振りかざすには力も必要なんだぜ?
自分の好きな女ぐらい、自分の手で守らねーとな……
春野さんのそばにはいつも俺が……
俺たちが、ボディガードがいるんだからな。
そこんとこ、忘れないように!
‥ーー
( 水戸くん……! )
" 何があっても、君を守る "
心強い言葉の連続にドキドキと胸が熱くなる。
しかし、昨夜の牧との電話で
頼れる仲間たちがいるから何も心配いらないと言った手前、もし断られてしまったら‥‥もう為す術がなくなってしまう。
そんな最悪のケースと考えが脳裏に浮かぶ。
一か八かの大勝負に出た彼女はわずかな希望を胸に抱きながら、ゆっくりと口を開いた。
「い……今はね、こんな所だし詳しくは言えないんだけど……
私、誰かに狙われているみたいで……
すごく……怖くて……
助けてくれたら、嬉しいな……」
「「……!!」」
新緑の若葉が薫る、爽やかな風が吹く。
揺れ動く制服のスカートの裾をぎゅっと掴み
顔は地上を這う足元を眺める様に俯いたまま‥‥
「暴力事件の前例もあるし、こんなこと……水戸くんたちぐらいにしか言えなくて……
それに桜木くんは、もう立派なバスケットマンだもん。
ケンカなんて……絶対にしちゃダメだからね。」
折りたたんだ小さな指が、わなわなと震える。
「インターハイ予選の大事な時に
私のせいで出場停止になったり、もしバスケ部が廃部になったりしたら……私……!」
「綾さん……」
「春野さん……」
「「綾ちゃん……」」
「もちろん、水戸くんたちなら傷付いてもいいなんて、これっぽっちも思ってない。
二度とあんな光景……
もう、誰ひとり犠牲者を……みんなが傷付いてる姿なんて見たくないよ……!!」
" 目は口ほどにものを言う "
あの日
言葉を濁した彼女は、助けを求めていた‥‥
今にも泣き出してしまいそうな勢いで自身の思いを、悲痛な叫び声を上げた。
また現在はインターハイ予選の真っ最中。喧嘩はおろか暴動を起こすわけにはいかない。
最後の砦は桜木軍団だけだった‥‥
( 綾さんは、本当に天使のように優しいんだな…… )
彼女の訴えに、優しさに入り浸っていた桜木だったが、ある重要な問題に気が付いてしまう。
「はっ……! そうだ、カレシは……!?
ジイは、このことを知ってるんですか!?
大切な彼女を、綾さんを助けて……守ってやらないんですか!?」
ビクッ‥‥!
昨日もこれと似た様な出来事があった。
以前からよく言うジイとは、話の流れからして牧のことを指しているのであろう。
大きな声に瞬間的に身がすくみ、顔を上げた。
「おまけに、合わせる顔がない……?
けっ、自分の罪だろうが!! テメーのケツはテメーで拭いやがれってんだ!!」
「さっ、桜木くん……」
「「彼氏って、花道……!?」」
「どこぞの女だか知らねーが、綾さんを巻き込みやがって!! ジイめ!! もう我慢ならねえ!!」
一発ブン殴ってやる! と
ヒートアップし、ひとり怒りに震える桜木。
その時
陽の光が雲に覆われ、薄暗さを感じた。高く長く伸びる影が自身のものと重なる。
「やめとけ、花道。」
「……!!」
庇う様にして、水戸が素早い動きで綾の目の前に現れた。
「そう思う気持ちはよく分かる。だけど、さすがに言い過ぎだぜ。お前が怖がらせてどうすんだよ。」
「洋平……!」
「彼女の言い分も聞いてやらなきゃな。
だよな? 春野さん。」
と、片目を瞑ってウインクをした。
咄嗟の判断力や聡明な思考力。軍団のリーダー的存在だというのも頷けた。
「水戸くん……」
「綾さん、すみません!
俺っ……また熱くなってしまって……
あの……その、大丈夫でしたか!?」
綾に許しを乞う桜木。
大親友のお陰で目が覚めたのか、あたふたと両手を四方八方に動かし慌てふためいている。
「大丈夫だよ。ちょっとだけ驚いたけど……
水戸くん、ありがとう。」
「どーいたしまして。
それより、さっき " 彼氏 " って……
まさか……牧と復縁したのか……?」
「うん……」
「……!」
彼氏の名に、頬をほんのりピンク色に染める。
「あのね、電話で告白して……また付き合えることになって……
全力で……命がけで守ってくれるって
そう約束してくれたの。
私……彼のこと、信じてるから。」
それにね、と話を続ける。
「申し訳ないって何度も何度も謝罪をされて……すごく自分を責めてるみたい。
会いたくても会えないのも、先輩呼びなのも、全部……私のせいなの。
私が恋愛に臆病になっちゃってるだけで、牧先輩はなんにも悪くないの……だから……」
( これ以上、紳ちゃんを責めないで……! )
「綾さん……」
(( 綾ちゃん…… ))
「それは、牧と一緒にいたヤツが……
" あの女 " が関係してんのか?」
「う、うん……」
ーー‥
これは俺の予想だが
彼女に元気がないのも、たぶん
ファミレスに行った時に……牧と一緒にいた女が関係してるんじゃねえかとにらんでる。
春野さんは、きっと俺らに助けを求めて……
‥ーー
ビンゴだな、と水戸と桜木の二人は視線を合わせてアイコンタクトをした。
全ては昨夜‥‥路地で語った彼の推察通りに。
「……お姫様から、初めて依頼されたな。」
「え……?」
「お前ら、話は聞いたか?」
「「おうよ!!」」
傍で見聞きしていた三人は彼の合図で途端に気合いが入ったのか、一斉に拳を空に掲げた。
「事情は大体分かった。
春野さん、俺達が護衛するからさ。安心してくれよ。」
「水戸くん、本当に……?」
「その通り!
綾さん、この天才バスケットマン・桜木が必ず守って差し上げますから! 泥船に乗ったつもりでいてください!」
「うん、ありがとう……って、泥船……?」
水戸と自称・天才ならぬジーニアス桜木による確言に感謝を告げる綾。
言い間違いに気付いた時には、既に男たちからの訂正と言う名の的確なツッコミがされていた。
「それを言うなら「大船」だろ。」
「バスケを強調するところじゃねぇよな。」
「確かに。流川の言う通り、どあほぅだな。」
「んだと!? オメーら!!」
その光景を片方の掌で口元を押さえながら眺めていた。
水戸はチラッとその横顔を見る。他にも何か心配事が、わだかまりがある様な、そんな表情に思えて仕方がなかった。
( 春野さん、横顔も可愛いな…… )
「……心配いらねえよ。」
「え……?」
「馬鹿と天才は紙一重、ってさ。
なーに、お安い御用さ。ちょっとやそっとで倒れちまうほど俺たちはヤワじゃないって。
ミッチーの時みたいに血の海になることはねえよ。」
そう言って親指を立てたまま、笑顔を向けた。
「水戸くん……」
「そーそー。もう謹慎処分はコリゴリだぜ。」
「まったくだ。」
「そういうこと!
ええい、こうなりゃ出血大サービスだ!
綾ちゃんのためなら、たとえ火の中、水の中~~!」
ハイテンションでクロールの動きを表現する高宮。海パン姿で浮き輪とシュノーケルを装着した彼の姿が安易に想像出来てしまった。
この発言を真に受けた彼女は
「えっ……高宮くん、出血したらダメだよ~。
くれぐれも気をつけてね……?」
「なっ、綾さん?」
「「綾ちゃん……!」」
「ハハハハ、こりゃいいや!
高宮、春野さんに一本取られたな!」
( 綾さん、イカす……
本当に素直なんだな……カワイイぜ。)
目を丸くした一同は直後、ゲラゲラと笑った。
優しさに感動した桜木はその場に立ち尽くし、綾の姿を愛おしそうに見つめていた。
( みんな……私のために、ありがとう……… )
本当は言葉の意味合いも、実力も十中八九、分かっていた。だけど心の底から心配だった。
いざと言う時、実に頼りになる桜木軍団。いつも底抜けに明るい彼らが好きで、一緒にいるととても楽しかった。
「それでね、私……
その人に酷い目に遭わせるって脅されてるみたいなんだけど、何をされるのかな……?」
「「!?」」
「お金を巻き上げられたり、とか……?」
先日、神の口から告げられた驚愕の真実。
具体的にはどの様な攻撃を仕掛けてくるのか、何をされるのかまでは知らされていなかった。
恐怖心から足がすくむ。
「カツアゲなんてそんな生易しいモンじゃねぇよ。」
( ましてや、こんなイイ女を前にしたら…… )
「そりゃあ……
グフフ、あんなことやこんなことだろ~。」
二人は下心が見え見えのやらしい目つきで、段々とこちらへ近付いてくる。
横に体格が広い彼は綾の体を上から下へと舐め回す様にして眺め両手をグー、パーと動かしている。
異常を感じ、思わず後ずさりをしてしまう。
「えっ……ちょっと、大楠くん? 高宮くん?」
「「 ごうか……
ぬおっ!? 」」
「おいっ二人とも、それ以上は言うな!」
野間は大慌てで二人の口元を押さえるが‥‥
「てっ……テメーら!!」
「お前らな……」
体全体に燃えさかる炎を、業火を身にまといギロリと凄まじい剣幕で睨みつける。蛇に睨まれた蛙とは正にこのこと。
ぞくぞくと背筋が凍る思いの三人は
「「じょっ、冗談だって! 落ち着けよ!」」
「あんなこと……? 豪華?」
おそらく彼らは卑猥な、とんでもない言葉を発しようとしたのだろう。綾は何のことだか分からず疑問を抱いていた。
「ごっ……ゴーカなディナーといこうじゃねえか! なっ、綾ちゃん!」
「満腹ラーメンって店、知ってるか?
今度、俺たちと一緒に行こうぜ!」
「綾ちゃんなら、たんまりサービスしてくれるに違いない!」
「サービスって?
でもラーメン屋さんかぁ、いいなぁ。私も行ってみたいな!」
「「 OK~!! 」」
綾が鈍感なことを良いことに
せかせかと必死で言い訳をするetc(エトセトラ)の三人だったが
( ふぅ……何とかごまかせたな。
花道も洋平も、綾ちゃんのこととなるとすぐ目の色を変えるからな…… )
( くわばら、くわばら…… )
( でもやったな! これでオマケは確実だな! )
「あっ、アイツら、最初からそれが目的で……!」
「ハハハ、ただの苦しまぎれの言い訳だろ。」
( だが、マジですげぇ待遇を受けるだろうな。
なんたって、彼女は
春野さんは、心の中も綺麗だから…… )
その後、綾は
何かを思い立ったかの様にあることを尋ねた。
「そうだ。水戸くん、話って……?」
「…………」
( 水戸くん? )
「昨日の朝……深刻そうな顔して、俺に何か言いかけたよな。
どうしちまったのかなって、ずっと心配でさ。
今の今まで思い詰めてたんだろ?
洗いざらい話してくれて、ありがとな。」
そう話す彼の表情は、とても寂しそうだった。
「うん……心配かけちゃって、ごめんね……」
(( 洋平…… ))
それよりも、と話を変えた。
「 " 誠実 " 、だろ?」
「えっ……?」
「赤いシャクヤクの花言葉。調べたんだぜ。」
「!」
「ぬ? シャクヤク……?」
どこかで聞いたような気がするな、と考え込む桜木。綾はそんな彼とは対照的に、意味を即座に理解した。
まさか水戸の口から花の名前が出てくるとは思いもしなかったのか目を丸くして驚いていた。
「そーそー。洋平のやつ、綾ちゃんのために必死こいて花の図鑑を探し回ってさ~。大変だったんだぜ?」
「図書室や図書館まで付き合わされたよな。」
「おかげで本屋のオヤジには怒鳴られるしよ、散々だったよな~。」
「なっ、お前らな……!
それはお前らが立ち読みしてたからだろ!」
「おお! 昨日言ってたのは、そのことか!」
なるほど! と拳をポンと掌に打ち付けた。
またしても水戸に茶々を入れる三人は昨日の放課後、面白そうだからと興味本位で付いて行っていたらしい。
「水戸くん、本当なの……?」
「……まーな。」
綾とは視線を合わさず、照れ臭そうにそう嘆いた。
その後
桜木はふと思ったことを、衝撃的な発言を口にしてしまう。
「ん? 待てよ、図鑑……?
てっきり俺は、いかがわしい本なのかと……」
「「!!」」
「ばかやろ、花道! ちげーって!
そんなモン学校に持って……
第一、女の子に見せるわけねーだろ!」
「ぬっ、それもそうだが……」
桜木の問題発言に振り回され、慌てて訂正をする水戸。反応が気になり彼女の方を向くと
「男の子ってやっぱりそういうの、好き……?」
顔を真っ赤にして俯き恥ずかしそうに呟いた。
( 春野さん……!? )
「そりゃあ健全な男子だからな~。
エロ本の一冊や二冊、彼氏も持ってるだろ。」
「「うんうん。嫌いなわけがない!」」
「えっ……」
「くぉら! 綾さんに余計なことを吹き込むんじゃねえ!」
( ったく……付き合いきれねーな。)
男子高校生の生態に少なからずショックを受け言葉に詰まってしまった。
見兼ねた水戸は、そっと彼女の名前を呼ぶ。
「春野さん、アイツらの言うことなんて気にしなくていいから。」
「……」
スッ‥‥
突如、ズボンのポケットからある物を取り出し綾に手渡した。
「この間……花が好きだって言ってたよな。
春野さんと共通点を作りたくてさ……
ちゃっちい代物だけど
それ、結構気に入ってんだぜ。
これで憧れのマドンナに一歩近づけるかな?」
「!」
( それって……昨日、宗くんも同じことを…… )
差し出されたもの。それは日中、水戸が探し求めていたと言う先ほどまで話のタネにされていたポケットサイズの小さな花図鑑。オールカラー且つ表紙は桜やヒマワリ、コスモスといった四季折々の美しい花々で彩られていた。
「これ、見てもいいの……?」
「もちろんいいぜ。」
" 憧れのマドンナ "
彼らからのその呼ばれように頬を染める綾。パラパラ、と全体を見渡す。彼女のためにと一晩かけて熟読したであろう、あちこちのページに複数の付箋やカラーペンで目印がつけられている。
また、例の芍薬の花には
「慎ましさ」「幸せな結婚」と
「誠実」という花言葉が確かに掲載されていた‥‥
「わぁ……綺麗なお花がたくさん……!
写真はもとより、花言葉やコラムとかもいっぱい紹介されててすごく参考になるね。
水戸くんって勉強熱心なんだね!」
「……!!」
そう言って、目の前に立つ彼に満開に咲いた花の様な満面の笑顔を向けた。
彼の気持ちや心遣いがたまらなく嬉しかった。
ー そして
休み時間は残りわずか。
綾は冒頭の、例の話を打ち明けた。
「ーーと、言うわけなんだけど……」
( マジかよ…… )
( 白昼堂々デートに誘うとは、さすが仙道! )
( しかも横浜だって!? )
( どっかの誰かさんとは違うよな~? )
( なぬ……!? )
「みんなが来てくれたら心強いし、楽しいかなって思って……」
先日、体育館に現れた陵南のエース・仙道彰。
桜木を含め湘北のバスケ部員には県予選が終了した後にと報告済みだが、軍団のメンバーも一緒に出かけようと誘うと
「は、はい! もちろん行きますとも!
ダニーズには行きそびれたからな! テメーら、今度こそ抜け駆けは許さん!!」
「本当? 嬉しいな~!」
楽しいムードになるかと思いきや、頭上から横やりを入れる様に意外な発言が飛び出す。
「……俺はパスしとくぜ。」
「!」
「神奈川最強のエース御一行様と一緒な上に、みんなでワイワイガヤガヤ……
なんて俺の性分じゃねーからな。」
「えっ、水戸くん……」
「洋平……?」
( あれは完全なるヤキモチだな。)
( ああ。間違いない! )
( 本当は付いて行きたくて仕方ないんだぜ。)
仲間たちが何やらヒソヒソとぼやいているが
そんなもの、どこ吹く風。
水戸は全く気にしない様子で数歩前へ歩き距離をとる。
「桜木くん……あの……今まで黙ってて、
それに昨日、嘘をついちゃってごめんね。」
「綾さん……」
水戸の態度を前にして無神経なことを言ってしまったのかも知れないと沈み込んでいた綾だが、すぐ近くにいる人物にも謝らなければいけないと声をかけた。
「ルカワが……綾さんの目が泳いでたとか、エラソーにワケわからんことを抜かしてましたけど……」
「えっ、楓くんが……?」
「俺は、綾さんが嘘をつくワケないって最初から分かってましたよ!
それに、そういうのは嘘ではなくて……
アレですよ、重い槍!
「思いやり」って言うんじゃないスか!?」
「!」
「ふふっ。
うん、そうかも知れないね。ありがとう……!
桜木くん、さっき話したこと湘北のみんなには内緒だよ!」
と、人差し指を自身の唇に押し当てた。
( 綾さん!! )
ズキューンとハートを射抜かれた桜木。彼氏がいようが、そんなことは関係ない。恋焦がれてしまったのだから止められない。
綾への熱い想いは加速していくばかり。
優しい嘘をつかなければならなかった理由が判明し、心がすうっと軽くなった。
綾も同様、彼なりの励ましや思いやりの精神に心を突かれホッコリと温かい気持ちに包まれたのだった。
( マジかよ……あの仙道が、デートに……?
ガキみてえに素っ気ない言い方して、悪ぃ。
だけど、ビビったな……
想像通りの反応をしてくれるとは思いもしなかった。
脅し文句か……
女の子だもんな。怖くて当然だよな。
こんなに純粋無垢な彼女を、危険な目にさらすワケにはいかねーな。
やっと解決の糸口を掴めた。
俺と花道が尋ねようとした時には
「助けて」ってもう顔に書いてあったからさ。
どうしても彼女の口から本心を聞きたかった。
主犯は、あの女は
おおかた牧の元カノか何かなんだろ。
俺らのマドンナには指一本触れさせねえよ。
近頃、すげえ仲が良さそうなミッチーや
翔陽の健司くんって奴のことも
どう思ってんのか聞きたかったけど
今は、今日は……ひとまずヨシとするか。
" 高嶺の花 " ……か。
あの図鑑には載ってねえか……
自分の気持ちに正直になれて
誠実な彼氏と
牧とヨリを戻せて良かったな、春野さん…… )
ちっぽけな勇気を振り絞って伝えた
小さな小さな、SOSサイン。
" 失恋 " この二文字が頭をかすめ
初めて恋の切なさと、ほろ苦さを味わった。
ふと後ろを振り返り
安心しきった綾の横顔を見てそっと小さく微笑んだ。