空っぽの心〜獅子奮闘 編
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夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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ーー‥
試合後、突然倒れて……俺、心配してたんだぜ。
ちょっと綾ちゃんに会いたくてさ。
俺のこと、意識してくれてるってことだよな。
よかったら一緒に行かないか?
二人きりが理想なんだけど……無理だよな。
集団旅行ってことで、牧さんや友だちも連れて複数人で楽しく行こーか。
‥ーー
仙道さんに、デートに誘われちゃった……
返事、なるべく早くしなくちゃダメだよね。
確か手紙には連絡先も書いてあったはず。
もしかしてあの日から、ずっと待ってくれてたのかな……?
それなのに、私……
彼に別れを言い渡されてから、ずっとそっちに意識が向いちゃって放置しっ放しになっちゃってたんだ……
本当に本当に、ごめんなさい。
許してくれるか分からないけど、今度ちゃんとお詫びしよう。それが礼儀ってものだよね。
あと健司くんに連絡……どうしよう。
昨日、試合を終えたばかりなのに。
あんなに涙して……悔しいに決まってるよね。
今、遊びに行こうよなんて言ったら、さすがに無神経過ぎるよね……?
カナちゃんも誘いたいけど
仙道さんのこと……あんなに好きなのに。
ラブレターをもらった上に、デートに誘われたって明かしたりしたらショック過ぎるよね。
最悪の場合、絶交されちゃうかもしれないよ。
宗くん……
あれからずっと思い詰めたような顔をしてて……
もしかして具合でも悪かったのかな。
色々とお礼もしたいし、連絡してみよう!
ーー
今日一日、様々な出来事があった。
自分の部屋の壁に寄りかかり、一抹の不安を、
数多くの悩みを背負い込み思いわずらう綾。
お気に入りである桃色のハート型のクッションを両手に抱きかかえている。
高揚感、背徳感、恐怖感‥‥
それはそんな思いを、複雑な心境を包み込むかの様にフワフワで優しい肌触りをしていた。
先日、神と喫茶店を訪れた綾。
一人で帰らせるわけにはいかない、危険だと自宅まで送ってもらっていたのだが
その帰り際、彼の表情はどこかうつろげで何故かとても淋しそうで‥‥
感謝の気持ちも含め、心配せずにはいられず
携帯電話を片手に次の様なメールを送った。
そして
藤真に連絡をしない、という
その " 行動に至らない行動 " が
吉と出るか凶と出るか
この時の彼女は、まだ何も知らないでいた ー
――――――――――――――――――
To : 宗くんへ
こんばんは。夜遅くにメールしてごめんね。
昨日はわざわざ家まで送ってくれて、ありがとう!
体調の方は大丈夫?
あのね、今日一日色々あって…
宗くんに聞いておきたいことがあるの。
都合のいい時にお返事ください。待ってます。
――――――――――――――――――
To : 綾ちゃん
今日も一日お疲れさま。
綾ちゃんならいつでも連絡くれて構わないよ。俺も話したいことが山ほどあるんだ。
少ししたら電話かけるから、待っててね。
――――――――――――――――――
その後しばらくすると、彼からの着信が。
綾は何のためらいも無く通話ボタンに親指を置いた。
「もしもし、宗くん?」
「綾ちゃん……
俺の方こそ、こんな時間に電話してごめん。」
「大丈夫だよ。宗くんと電話で話すの初めてだね!」
「うん、そうだね。
電話ってさ……リスクもあるけど誰にも邪魔されなくていいよね。」
「え?」
「今、俺と綾ちゃんは電線一つで繋がってるってことだからね。」
「う、うん……?」
国内でも、海外でも
どんなに離れていてもすぐに連絡が取り合える
もはや生活に欠かせないコミュニケーションツール。
電波の状態やノイズに、割り込み通話。
そして一番恐るべきは相手に一方的に切られてしまうこと。
様々なアクシデントもつきまとう電話だが
人と人の思いを繋ぐ、いわば二人だけの世界。
リスクを背負ってはいても、それでもする価値はある。
抽象的な物言いをする彼に綾は曖昧なトーンで返した。
「かわいいメール、ありがとう。」
「え?」
「最後の一行、お返事くださいって敬語になっちゃうところ、綾ちゃんらしいなって。」
「宗くん。」
「……ちゃんと好きだ、って言えたの?」
「うん。宗くんのおかげだよ、ありがとう!」
胸の中に潜んだ、ちっぽけな、小さな勇気。
背中を押してくれたから、頑張れた。
愛しき人に自分の気持ちを告白することができた。
電話機の向かいの彼の問いかけに、綾は笑顔でそう答えた。
「そっか……良かったね。」
「元気ないんじゃない? 大丈夫……?」
「そんなことないよ。大丈夫だよ。」
「そっかぁ、よかった……
顔色が悪そうだったから、あれからずっと心配してたんだよ。」
「本当に? 嬉しいな。
けど、心配かけちゃってごめん。」
( 嬉しい……? )
「喫茶店デート、楽しかったね。」
「う、うん……」
" デート "
それは好きな人と、恋人と共に過ごすこと。今現在この言葉に敏感になっている綾は思わず頬を赤く染めた。
ーー‥
どう? 少しはデート気分を味わえた?
少なくとも俺はそのつもりだったんだけどな。
‥ーー
自分は一切そんなつもりは無かったのだが対する神は当初からデートをしたくて誘ったのだと、そう恥じらいもなく言いのけた。
この時‥‥仙道との出来事を話そうと考えたが心の中にある思いを留め、綾は黙って聞き役に徹した。
「綾ちゃんは学校中のマドンナなんでしょ?
その可愛いマドンナと二人きりになれて、光栄だよ。藤真さんに感謝しないとね。」
「マドンナだなんて、そんなんじゃ……」
自身の肩書きに驚く綾。
先人の教えにならい、七十五日もすれば収まるだろうと思っていたのに‥‥最愛の彼との熱愛の噂は広がる一方でやはり " 牧紳一 " のブランドの力は凄いとあらためて再認識をした。
「……俺、嘘は言わないよ。」
「!」
「俺も、同じ学校だったら良かったのにな。」
「え……?」
「そうすれば、綾ちゃんともっと一緒に……色んな表情がもっと見られたのに。」
「宗くん、それって……?」
もっと、って
どういう意味なの? と、聞きたかった。
なんだか彼の声が物寂しく感じて、言い淀んでしまった。その後も神は淡々と話を続ける。
「ねぇ、綾ちゃん。
今日は星月夜だから、空が澄んでいて
星がよく見えるね。」
「え……星月夜……?」
「うん。月は出ていないけど、星の光が月みたいに明るい夜のことだよ。」
事実を確かめようと立ち上がり、カーテンをめくって窓の外を見上げた。
「そうなんだ……確かに、すごくキレイな空……」
今宵は、星月夜 (ほしづきよ)。
俳句の世界では秋の季語として使われるが雨脚が強まるこの時季に驚くほど誰もがうっとりしてしまうであろう、光り輝く一面の星空。
あらゆるもの全てを浄化してくれる様な、そんな神秘的な力を感じずにはいられなかった。
「あの日も、こんな満天の星空が見えたね。
今日はあいにく見られないけど……
今度は月が……満月が出ている日に……」
「あの日って……?
それに……満月が、どうかしたの?」
「…………」
( 宗くん? )
突如、神は黙り込んでしまった。
彼が話す「あの日」とは以前、綾が海南へ一日入部体験をした日。
自宅まで送り届けている途中で月を見上げて「キレイだね」と話を振られ、神は突然の大胆発言に言葉に詰まってしまっていた。
あの時、彼女はそれが意味を成す事柄を理解していたのか、それとも‥‥?
やはりどこか調子が悪いのかと不安がる綾。
「……ううん、何でもない。
俺ばっかりマシンガントークして、ごめん。
綾ちゃんの聞きたいことって?」
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか‥‥
神は申し訳ないと詫びを入れた。
綾は過去の会話内容を思い返しどうしても知っておきたかった、とあることをゆっくりとした口調で話し始める。
「私……あれからずっと気になってて……
昨日、牧先輩と健司くん……
すごく険悪なムードみたいだったけど、何を話してたんだろう。
まさか、ケンカじゃないよね……?」
「!」
ーー‥
牧……お前とも、今度決着をつけないとな。
春野を悲しませたら、ただじゃおかないからな! 覚悟しておけよ!
近いうちに、決着をつけねばならんな……
……それは、俺の口からは言えないな。
‥ーー
" 決着 " って……
一体、何のこと……?
それに、仙道さんは言えないって、どうして?
「…………」
知り得たいこと‥‥それは
恋人である牧と、憧れの存在である藤真。
タダ事ではないと一瞬で悟った、対立する両者の姿。
自分の口からは言えないとそう言い切っていた仙道の真剣で、やるせない表情。
同じ場面や光景を第三者として見ていた神。牧の想いを全て知らされた時と同様、頼みの綱はもう彼だけだった。大丈夫かな、と心配そうな声色で話す彼女に
「……大事な県予選の最中なんだよ?
そんな物騒なこと、しないと思う。
それに、藤真さんは牧さんに宣戦布告と
きっと……自分の気持ちを………」
「! 宣戦布告……? 気持ち……?」
「ううん、何でもない。
綾ちゃんは知らなくてもいいんだよ。」
「宗くん……」
( 君のことを、綾ちゃんのことが好きだって、決意を表明してたんじゃないかな。
あの時の藤真さんの目は……
綾ちゃんを見つめる瞳は……俺と同じ目をしていたから。)
「愛されてるよね、綾ちゃんは。」
「……?」
人生、知らない方が良いこともある。
その方が今まで通りの生活を‥‥安寧な日々を送っていけるから。
綾は藁にもすがる思いだったが、またしても上手くかわされ腑に落ちない気分でいた。
しかし先ほどの神の一言で、自身に非があるのかもしれないと藤真に対しある決心がついたのだった。
以前、牧と引き合わせてくれた大切な友人だと豪語していた彼女。今ここで本人の気持ちを伝えてしまってはいけない。言ったところで何のプラスにもならない。それよりも自分のことを知ってほしい、見てもらいたい‥‥そんな欲望が心を占拠する。
「それより……今度の試合、応援に来てくれるって言ってたよね?」
「うん……! もちろん……!」
明後日に控えた、海南と武園高校との試合。
避けては通れないこの手のバスケの話題に綾は戸惑いつつも明るい声でそう返した。
「俺……すぐに見つけるから。
綾ちゃんが来てくれるなら、頑張れるから……!」
「えっ……宗くん……?」
「また……に、なれないかな。」
「……?」
( 二人きりに、なれないかな…… )
「俺……君の元へ飛んでいくから。
綾ちゃんのこと、守るから……!!
何かあったら、必ず連絡してね。」
「うん、ありがとう……」
天使にふたたび恋をした ‥――
その心の叫びは
それはそれは純粋で、まっすぐで、優しくて。
告白とも見受けられる少年の切なる想いはたった今‥‥電線を通じて確実に伝えられた。
友人としてか、はたまた異性としてなのか実際にどう思われているのかは分からない。
ただこれだけは、この気持ちだけはどうしても声を大にして伝えたかった。
― そして
「宗くんは、水族館とかって興味ある……?」
「え? 水族館?」
突然の質問に、話の切り替えに目を丸くした。
「突然どうしたの?
もしかして綾ちゃんの方からデートのお誘い?」
「う、うん……そんなところ……かな。」
「……!」
まさかの返しにドキッとした神だったが‥‥
「あのね、ある人に誘われて……一緒に……」
「そっか……
ある人って、まさか……三井さん?」
「え? 三井先輩?
違うの、仙道さんがね……」
「!?」
「あっ……!」
うっかり口がすべってしまった。
それはまるで誘導尋問に引っかかってしまったかの様に、ごく自然に出た言葉だった。
" 仙道 " この固有名詞に彼は驚いている。
「ごめんね、何でもないの。
今言ったことは気にしないで、忘れて!」
「そう言われるとますます気になるなぁ……」
( あの時……紳ちゃんが言ってたこと、やっぱり正しかったんだ。
急に三井先輩の名前が出てきたから、つい……
宗くんは察しが良いから
もしかしたら今ので勘付かれちゃったかな?
試合に集中してほしいし今度で……いいよね。)
嘘のつけない " 超 " がつくほどの正直者。
綾はデートに誘われたことは言わなかった。もちろん仙道に非があるわけではない。
その理由は、ただ一つ。
余計な雑念などは捨て、試合に臨んでほしい。
ただ‥‥それだけだった。
「牧先輩のことも、色々と本当にありがとう!
じゃあ明後日、会場でね。おやすみなさい……」
「うん。綾ちゃん、おやすみ……」
( ハァ……緊張したな……
綾ちゃんって、やっぱり勇気あるよな。)
通話後、切られなくて良かったと心から安堵した。部屋のベッドに身を預ける様にして横たわり、様々な思いを募らせる。
( 水族館……?
仙道に、デートに誘われた……?
一緒にって
それはつまりグループデートってことだよね?
もうすぐ試合を控えてるからって
気を遣ってくれたんだろうな、きっと。
今度、月が、満月が出ている日に……
君と二人きりになる機会があったら……
俺も……自分の気持ちを…… )
パタン‥‥
携帯電話とまぶたを静かに、ゆっくりと閉じた。すると‥‥澄み渡った星空の様に
キラキラと光り輝く綾の笑顔が、横顔が鮮明に浮かび上がり、彼の胸を焦がした。
ーー‥
……宗くんって、すごいね。
心の引き出しをそっと開けてくれて……
いつもいつもピンチの時には助けてくれる。
やっぱり、宗くんは救世主だね!
宗くん、どうかした?
大丈夫? 元気出してね!
‥ーー
( 救世主、か……
牧さんと仲直りしたんだ、良かった。
……これで、いいはずなのに。
あの横顔が、好きなはずなのに。
こんなはずじゃ、なかったのに。
おかしいな。
この気持ちは、もどかしさは、何なんだろう。
" 恋わずらい " ってやつなのかな。
綾ちゃん、俺……
君のこと……まだ好きでいても、いいかな……? )
息を吹き込み‥‥力いっぱいふくらませた破裂寸前の風船のような、恋心。
ある一点を切なそうな表情で見つめる。
それは、未だ処分しきれずにいる彼女の中学時代のフォトグラフ。
この時、神は思った。
写真の件はもう少し黙っていよう、と。
窓から望む美しい星空に、ひとしきり
やりきれない思いを巡らせていた ー