空っぽの心〜獅子奮闘 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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一番好きな人とは
運命の人とは結ばれない。
こんな言葉を耳にしたことがある。
初恋は実らないって、本当なのかもな……
近頃、湘北や各高校で噂になっているらしい海南の牧と春野さんの熱愛ぶり。
美男美女カップルでうらやましいだとか
明るく素直で優しくて、可憐で
とびきりの美人・可愛い子なんて言われてる。
入学早々、ダチになってくれって言ってきた時はさすがにビビったけどな。
今考えてみりゃ噂が立つ前から知り合いになれて超ラッキーだったのかもしれねーな……
そんな遅咲きの彼女は、
俺らの自慢のガールフレンド。
二人が別れたって耳にして以来、
救いようがないほどに落ち込んでいて、見るに耐えなかった。
女の子が大事な髪の毛を切っちまう時は、どんな意味かぐらい俺にだって分かる。
前に告白した屋上で元気づけようとくっちゃべってメシに誘ったはいいが、その先で
まさか、あんなことが起きるなんてな……
これを彼女に……春野さんに見せたら
「わぁ、キレイなお花がたくさん!
水戸くんって勉強熱心なんだね!」
なんて言って……俺に微笑んでくれんのかな?
話に花が咲くといいなと、切実にそう思った。
ー その日の夕方
「オレは~天才~! バスケットマン~~」
ハードな練習を終えた桜木は、その大柄な体を揺らし上機嫌な様子でいつもの帰り道を歩く。
道の途中で友人と出会い自らが作詞作曲したと言うオリジナルソングを鼻高々と唄っていた。
「やけにご機嫌だな、花道。」
「何かイイことでもあったのか?」
「毒キノコでも食ったんじゃねーだろうな。」
「頭突きなんて喰らわしたもんだから、頭のネジが緩んでおかしくなっちまったか?」
と、後方から茶々を入れる男たち。桜木の良き理解者でもある水戸とetc(エトセトラ)の‥‥
「「「 おい! その他扱いすな!! 」」」
失敬した。大楠、野間、高宮の三人。
彼らは和光中時代からの悪友であり、日々バスケット一色に染まっていく彼の今や名サポーター(?)だ。
「フン。バカモノが。
君たち、昨日の試合を見ていなかったのかね?この天才・桜木による華麗なるダンクを!
なんたって俺はジーニアスなんだからな、ナーッハッハッハ……!!」
「「 ジーニアス……?? 」」
突如、彼の口から発された1つの英単語に彼等は目を丸くした。
ーー‥
最後のダンクも……惜しかったね。退場処分になっちゃったけど、迫力満点で凄かったよ。
私、すっごく感動したもん。
さすが桜木くん、ジーニアスだね!
‥ーー
( 優しくて、ホント可愛いよなぁ。綾さん……
よっしゃあ! これからも期待に応えねば! )
朝摘み果実の様にはじける綾のとびっきりの笑顔が思い出され、顔を赤くする桜木。
だらしなく鼻の下が伸び何とも締まりのない表情になってしまっているが
次の試合では更にカッコいい姿を披露すべく、拳を胸に当ててひとり意気込むのだった。
そんな中、彼はとある疑問が浮かんだ。
「そういやお前ら、めずらしく部活に冷やかしに来なかったな。どこか行ってたのか?」
「冷やかしとは失礼な!」
「それがさ~。聞いてくれよ、花道。
大変だったんだぜ。
洋平のやつ柄でもないクセしてあんな所に……」
「そうそう、どうしてもって言うからよ~。」
「ばっ、ばかやろ……!」
突然の振りに水戸は慌てた様子で顔を赤くした。何のことだかサッパリ意味が分からず顔をしかめる桜木。
「なんだそりゃ?」
とりあえずメシだ、メシ! と問い詰めることなく今回の目的地である行きつけのとある店舗へと向かった。
彼は5試合連続退場という既成事実をすっかり忘れてしまっている様だ。
沢山の人々が行き交う市街地にその店を構える、ある一軒のラーメン屋。彼の頭の色と同等、真っ赤なのれんに書かれた「満腹ラーメン」の文字。昔ながらの佇まいで地元の住民に愛されている人情味あふれた人気店だ。
磨りガラスの引き戸を開けると胡麻油の芳しい香りが店内に充満していて、食べ盛りな年頃である彼らの食欲をグッとそそった。
「「 らっしゃい! 」」
威勢の良い声が室内に響き渡る中、男たちはすぐさまカウンター席の丸椅子に腰掛けた。
「あ~~腹減った。
え~っとね、俺は、ラーメン特盛り!
それがメシで、オカズは餃子と炒飯とホイコーロー! おばちゃん、替え玉ももちろん特盛りでよろしく!」
「俺は、これとこれとこれと……」
「「 あ、俺らはラーメンで。」」
「あいよ。」
「すげー食欲だな。そんなに食えるのか?」
次々と食べたい物をオーダーする彼ら。
特に桜木と高宮は相当空腹なのであろう、幾つもの品数を頼んでいた。水戸はテーブルに頬杖を突き半ば呆れた様な表情をしていた。
すると、何者かがこちらに話しかけて来た。
「おっ、キミは湘北の桜木君じゃないか!」
「ぬ……?」
「兄ちゃんデッカイ身体してるねえ。
その派手な赤頭のおかげですぐに分かったよ。湘北高校、順調に勝ち進んでるみたいだな。
よし! これを祝して餃子一皿サービスだ!」
「「 おおっ! マジか!」」
これは嬉しい誤算だった。
気前の良い店主の中年男性が湘北の勝利を讃え、注文した品と一緒におまけだと言うアツアツの餃子が乗った皿を差し出してきた。
新聞の影響はこの様な所でも効果テキメンだ。
「話が分かるな、オヤジ!
この天才率いる湘北バスケ部は正に敵なし。これからの活躍も是非見ていてくれたまえ!」
「うんうん。
若いってイイね~、夫婦共々応援してるよ。」
( ゴリめ……やはりこの俺も有名人じゃねーか。まぁ、綾さんには負けるけど…… )
部活中、主将である赤木に有名なのは彼女の方であると優劣をつけられた桜木。彼はもう単なる不良少年ではない。
バスケットの世界に足を踏み入れ、魅せられた
" バスケットマン桜木 " なのだ。
常に自信家でありスーパースターを目指す彼。知名度が低いなどと言われる筋合いはないし、そう認めたくもなかった。
ー その後
彼らは美味しい中華料理に舌鼓を打った。
が‥‥水戸はあまり箸が進まず
先ほどから何やら思い詰めた表情をしていた。
「あの時、春野さんはどうしてあんなことを……」
「……!」
( それに……あの訴えかけるような目は…… )
真顔で小さく呟く水戸に、ピタッと桜木の手が止まった。
「正直、俺も気になってた。
明日にでも直接聞こうかと……」
「「 何だ? 一体何の話だよ? 」」
事情を知らない三人は怪訝そうな顔をした。桜木は手短に済ませたいのか、今朝起きた事柄を簡略化して説明した。
綾は新聞に掲載されたことを
まるで自分のことの様に喜んでくれて、感動したとまで言ってくれたこと。
さらには先ほどの " ジーニアス " の単語も彼女の受け売りだと言うこと。
そして水戸に何かを伝えようとしていたことも‥‥
( へぇ~、綾ちゃんに呼び止められたのか。)
( しかも上目遣いでねぇ。
そりゃあ大抵の男ならイチコロだな。)
「でもよー。実際、綾ちゃんは花道じゃなくてあの藤真って奴のことばっかり見てたぜ。」
「だよな。試合中も「健司くん」って下の名前で呼んでて、応援までしちゃってたしな。」
「それに、牧とは別れたって……」
「……!」
この時、綾が辛い胸の内を意気消沈とした冴えない表情で語っていたことを思い出していた。
( ホケツ君に、ジイ……!! )
「くっ……おのれセンドーめ! 許さん!」
「「 は? 仙道?」」
( ハッ……!
今、あのことをコイツらに話す必要はねえな。これじゃただのオシャベリ君じゃねーか。この俺を差し置いて綾さんと食事に行った罰だ……!! )
昼休み中、水戸らに二人が別れたと言うショッキングな事実を知らされた桜木だが
ベラベラと内部事情を公にするのは綾に対して失礼なのではと器に入ったスープと一緒に言葉を飲み込んだ。
先日、彼らに出し抜かれたことを相当根に持っている様だ。
「なんでもねーよ、気にすんな!」
「何だよ、もったいぶってねーで教えろよ!」
「「 そうだそうだ! 」」
「うるせー!
誰がテメーらなんかに教えるか!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ輩に、水戸はやれやれ、と苦笑いをしていた。
椅子から降りて制止しようとしたその時、花瓶に生けられたある花の存在に気が付く。
「 ん……? あれ、その花って……」
「ああ、これ? これはシャクヤクよ」
それは、芍薬の花。
清純でクリーンなイメージを連想させる、例えるならば天から舞い落ちる雪の様な、天使の羽の様な透明感のあるまっさらな白色。以前に見た赤色ではないが、綾が愛でていた花と同一のものだった。
突如、店主の夫人が得意げに話し始めた。
「アタシはこう見えても、若い頃はミス湘南なんて呼ばれててね。みんなが羨むとびきりの美人だったのよ~。ねぇ、アンタ!」
「昔の話だろ。それも大昔の。」
「な、なんですってー!?」
「やめないか、お客さんの前で……」
(( なんだこりゃ、メオト漫才ってやつか……? ))
呆気に取られる5人。おしどり夫婦である二人の
この様な痴話ゲンカ(?)が繰り広げられるのも個人が経営する店舗ならでは。
チェーン店では絶対と言い切れるほど目にする事はないであろう、ある意味で貴重な光景だ。
「立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花……ってね。
いわば " 高嶺の花 " ってやつだったのよ~。ほほほ……!」
「……!」
「高値の花? 何だ、高いのか? いくらだ?」
「「 花道…… 」」
水戸の全身に衝撃が走った。
桜木の言い間違い・捉え方の違いに三人はがっくりと肩を落とす。
「知り合いにべっぴんさんがいるなら、今度ココに連れてきな。また何かサービスさせてもらうよ。」
この瞬間‥‥彼女のふわっとした優しい笑顔が脳裏に浮かんだ。
ーー‥
水戸くん……!
‥ーー
( べっぴんさん、か…… )
ーー
店を後にした彼らは‥‥
「あ~、食った食った!」
あれから桜木は5杯ものラーメンを平らげた。
男子高校生の、スポーツマンの胃袋は尋常では無いことがうかがえる。
このまま帰路につくのかと思われたが普段通っている道とは違った方向に足を向ける水戸に大楠は声をかけた。
「ん? 洋平、一緒に帰らねえのか?」
「悪ぃ。俺ちょっとコイツに用があるから。」
「ぬ?」
( なんだなんだ? )
( 喧嘩か? 決闘か? それとも乱闘か? )
( 怪しい……こっそり後をつけてみようぜ!)
時刻は午後7時過ぎ。
辺りはすっかり暗くなり、二人は特に何を語るでもなくいつもの路地を並行して歩く。
しばらくして水戸は途端に歩行を止めた。
ズボンのポケットに両手を潜ませ
一定の距離を置き、ゆっくりとその口を開く。
「なあ、花道……
俺……お前に言わなきゃならねえことがある。」
「なんだよ洋平、あらたまって……」
真っ暗闇の中、外灯はぼんやりと光を放つ。
その淡く頼りない光はスポットライトを当てる様に彼の真剣な表情を照らしていた。
「お前とは中学ン頃からのマブダチで
嘘はつきたくねえ……
だから、この際はっきり言っておく。」
「……?」
背景に流れるは、虫の声。
ヒグラシの鳴き声だけが虚しく鳴り響く。
この夏の訪れは時に切なさや物悲しさと言った心情を連れてやって来る。
「 俺……春野さんのことが、好きだ。 」
「!!」
「告白もとっくに済ませてある。
返事はいいって、とりあえず今は保留ってことになってる。」
「…………」
黙り込む桜木。彼は間髪を入れず話を続ける。
「今日一日、ずっと考えてたんだ。
今朝……何であんなことを言ったのかって……
彼女に元気がねえのも、たぶん
ファミレスに行った時に……牧と一緒にいた女が関係してるんじゃねえかとにらんでる。」
段々と話の辻褄が合い頭の整理がついてきた。
あの時、牧が見知らぬ女と一緒にいたと
確かに彼女はそう言っていた。
そして三井が言葉を濁らせていた理由も‥‥
「これは俺の予想だが
春野さんは……きっと、俺らに助けを求めて……」
( 洋平…… )
伏し目がちな表情でそう話す友の姿に、彼は
「……分かってらい。」
「……!」
「最初っから、バレバレだっつーの。
それにあのキツネ男め……
隠し事など、やっぱり綾さんが嘘をつくワケねーんだ!!」
( は、花道……! )
この瞬間、水戸は顔を上げた。
二人は中学の頃からの腐れ縁で親友でもある。彼女に片思いをしていることなど
とっくのとうに気付いていたのかも知れない。
謎の女の一件も、真意までは分かり兼ねるが助けを必要としてるならば当然、助けるまで。
流川の言っていたことは
真実なのか、はたまたデタラメ(嘘)なのか。
あまり信じたくはないが心の中にかかった霧が晴れ、気分がスッキリした桜木なのであった。
「ハハ……そうだよなぁ。
フラれたとはいえ、過去に50人もの女の子に恋してたんだもんなぁ。
あ、違うか。51人だったか?」
「洋平……!」
「記念すべき50人目は葉子ちゃん。
んでもって、お次は晴子ちゃんで……」
水戸は途端に笑顔になり、友が女の子にフラれた人数を指折り数える。
桜木の顔は次第に真っ赤になっていった。
「は、晴子さんのことは……別に……」
「?」
「……まあ要するに、
俺らには " 敷居が高い " ってことだ。」
「シキイが高い……? おい洋平、
さっきから高値の花とか、一体何のことだ?」
「天才……いや、ジーニアスなんだろ?
それぐらい自分で考えろよ。」
「ぐっ……!」
そう言って笑い合いながら二人は再び歩き出した。足取りは非常に軽く、宙にふらりと浮いている様な、そんな感覚だった。
電柱の陰に身を隠し
一部始終を見聞きしていた三人は‥‥
( アイツら……俺たちも助太刀するぜ! )
( 洋平が、花道に堂々と片思い宣言とは!
こりゃますます面白くなりそーだ! )
( だけど……いくら別れたとはいえ
難しいんじゃねーのか?
女心は複雑だって、聞いたことがあるぜ。)
( うーむ。こりゃもう直談判しかねーな! )
(( だな! ))
ー そして
帰り道の途中、水戸は空を見上げた。
通学カバンを左脇に携え、もう片方の掌を満天の星空に向けてそっと伸ばした。
「ん? 何やってんだ?」
「……別に、何でもねえよ。」
ーー‥
こうやって大空に手をかざすとね、大切な人と離れてしまっても、どこかで繋がってるんだなって思えて嬉しくなるの。
だって、同じ地球(ほし)の下にいるんだもんね!
‥ーー
春野さん……俺、フラれてもいいさ。
って、もうフラれんの確定してるか。
別れちまった彼氏が、牧のことが……
ずっと忘れられないぐらい好きなんだもんな。
昼間、街中にある本屋を片っ端から見て回ってようやく探し当てた、一冊の花図鑑。
一見、薄っぺらいように見えるが
なかなか読み応えがありそうなんだ。
給料前で金もそんなにねーしな。
俺にはこれぐらいの手軽さが丁度良いんだ。
アイツらが言うように
読書なんて柄でもねーけど……
彼女と何か共通点をつくりたかった。
そして、少しでも元気になって
いつもの笑顔を取り戻してほしい。
遥か山頂に咲く、欲しいと思っても摘むことは出来ない花……か。
確かにそうなのかもしれねえな。
けど、不安や悩みの種を除くことなら……
諸悪の根源である雑草を刈り取ることなら、俺にだって可能なはずだ。
考えてばっかいてもラチがあかねえ。
明日、思い切って聞いてみるとするかな。
俺らの大切なガールフレンドに……
いや、憧れのマドンナにさ……