空っぽの心〜獅子奮闘 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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ねぇ、紳ちゃん。
あの時は、まだ名前で呼び合っていたね。
夕陽に照らされた貴方の横顔がすごく素敵でずっと胸の高鳴りが止まらなかった。
この先も貴方と一緒なら、どんなに悲しみに覆われた景色でも嬉しくて、楽しくて……
喜びに満ちあふれたものに塗り替えられるんじゃないかなって、素直にそう思ったんだ。
あの日、二人で決めた4つの約束。
今でもちゃんと覚えてるよ。
過去に付き合っていた、かおりさん……のことも本当は怖くて怖くて仕方がないのに。
健司くんのことも、ちょっとした相談事だなんてはぐらかしたりしてハッキリ言えなくて……
それに
バスケのことも、分からなくなっちゃって……
隠し事をして……
嘘をついてしまって、ごめんなさい……
ーー‥
綾……無理をするな。
甘えられる時は、存分に甘えてもらって構わない。
それに、男は女に頼られたい生き物なんだ。
一概にそうとは言い切れないかもしれんが……
少なくとも、俺はそう思っている。
だからもう、一人で抱え込むな。
どんな些細なことでも
何かあれば、すぐに連絡してくれ……!
‥ーー
貴方はあんなに真っ直ぐに、誠実な対応をしてくれているのに……
一人で抱え込んじゃダメだって
正直に悩みを打ち明ければいいって、分かってる。分かってるよ。
だけど、そんなことをしたら
出会いのキッカケになったバスケが
今まで一緒に過ごしてきた日々が、思い出が
すべて無かったことになってしまうような気がしてイヤだよ……!
それに、私って本当に正直者なのかな。
自分ではよく分からないけど貴方がそう言うんだから、きっとそうなんだよね。
それならなおさら。
嘘をつけない、じゃなくて
つかなきゃいけない。
みんなを傷付けないための嘘だもん。
悪意のない嘘なら……
良い嘘なら……ついても、いいよね……?
ーー
陽は傾き、時刻は午後三時過ぎ。
放課後、少し早めに部活に来ていた綾。
Tシャツなど身動きのしやすい服装に着替えを済ませ体育館脇にひとり佇んでいた。目の前には初夏の時期であることを思わせる青葉の草木が立ち並び、陽の光の恩恵を受け凛々と生い茂っている。
この様な場所に赴いたのは何故だろう。
きっと、別れを告げられたあの日に彼と見た美しい紫陽花の花々が脳裏に焼き付いていたからなのかもしれない。
「ンな所にボーッと突っ立って何してんだ?」
「……!」
振り返ると、そこには三井の姿が。
「三井先輩……
あ……ここにはお花が咲いてなくてさみしいなって思って……今度、部室に飾りませんか?」
「いいんじゃねえか? 野郎どもばかりのむさ苦しい部屋だしな。花の一つや二つ……
それよりもお前……そうやってると
ますます " こけし " みたいに見えちまうぞ?」
「え……!?」
「観光地の土産屋とかによく置いてあんだろ、あれだよ、あれ。」
以前の様に綾をからかう三井。
古ぼけたショーケース内に展示されている、日本古来の伝統工芸品。
その中でも彼がイメージしているものはきっと漆黒のおかっぱ頭の物なのだろう。
彼女はその発言に驚きながらも憤慨していた。
「もーっ! 私、置物じゃないですから!
からかわないでください!」
「そうそう、それくらいの元気がないとな。お前らしくねえよ。」
「えっ、先輩……?」
( 何だか、前と雰囲気が違うような……? )
そう言って伏し目がちな表情をする三井。そんな彼に違和感を覚えた綾だったが
「ほら、一年は練習前にコートを掃除するのが決まりだろ。さっさと中に入った入った!」
と、半ば強制的に体育館に入るよう命じられてしまった。
「えっ……? あ、あの……」
一年生は練習を開始する前にバスケコートの清掃をすることが義務付けられている。それはマネージャーである彼女とて同じこと。
( ここには花が咲いてない、か……
春野…… )
先ほどの彼女の言葉が、頭から離れなかった。
三井の様子に戸惑いつつも
きちんと一礼をして入館した綾。すると、桜木や流川ら一年の部員たちが既に掃除を始めていた。彼女も急いで用具入れからモップを取り出し、せっせと作業に集中した。
「綾……」
「綾さん……」
しばらくして赤木や木暮を筆頭に、ぞろぞろと湘北のメンバーたちが集まってきた。
「「 ちゅーす!! 」」
「みんな……」
案の定、皆の視線が自身に集中しているのがよく分かった。また、館内は妙な静寂に包まれていた。それを打破した者はというと
「春野……サンキューな。」
「え……?」
「タオル、お前がかけてくれたんだろ。」
「三井先輩……」
湘北バスケ部のスーパーシューター・三井寿。またしても彼だった。
「はい。あ、でも宮城先輩には彩子さんが……」
「えっ、本当!? アヤちゃん♡」
「さあね。綾、余計なこと言わないの!」
嬉しい知らせに顔を赤くする宮城だったが、彩子にいつもの様にかわされ肩を落とす。
昨日の試合で激しい攻防戦を繰り広げ、見事勝利を勝ち取ったスタメンの5人は控え室で熟睡し、しばしの休息を取っていた。綾は彼らの労をねぎらう様に腹部にそっとタオルをかけていたのだった。
「そんなことより……試合の後、どこに行ってたのよ? 探したのよ。」
来るべくして来た、この質問。
その時、ふと前方に立つ流川と目が合った。
ーー‥
大体の予想はついてる。
今は言いたくないだろうから、今度……詳しく教えろ。
‥ーー
( もうこれ以上待てねー……早く教えろ。)
と、言わんばかりの表情をしていた。
( 楓くん……うん、分かった。)
二人はアイコンタクトをした。まさか翌日に教えることになるとは思いもしなかったが、日中彼に励まされた上に自身のことを考えロクに睡眠も取れなかったという事実を知り、感謝と謝罪の念が入り混じっていた綾。
それによりすべてを話そうと腹を括ったのだった。
「ご迷惑をおかけしてすみません。
あれから、健司くん……藤真さんに会いに翔陽の控え室に行っていました。」
「「 何……!? 」」
彼女の意外すぎる行き先に驚く一同。
「なるほどね……見たわよ~、アンタ。
試合前、藤真に手振ってたでしょ?」
「え?」
「向こうも満更でもない様子だったわよね~。」
「彩子さん?」
( 確かに手を振って……
振り返してくれたけど…… )
彼女の言葉に何かを察知した彩子は、顔をニヤつかせた。
綾にはその「何か」の意味がよく分からず、考えに至る前に副主将である木暮に声をかけられた。
「春野……あの時、どうして翔陽の応援を?」
「木暮先輩……」
綾は言葉を選び、ゆっくりと胸の内を明かしていった。
「せっかくここまで勝ち抜いてきたのに、簡単に諦めてほしくなくて……
それに、藤真さんとは中学二年の時に出会って
牧先輩との橋渡しになってくれた大切な友人で
そして……私の憧れなんです。」
「「!?」」
「実は……近頃、バスケに面白みを感じないというか、嫌いになってしまいそうな感覚に陥ってしまっていて……
試合のあと、彼に相談したら
無理して好きにならなくてもいいって……
一度リセットして初心に返るんだって……
そう言ってくれてとても心が救われました。」
ーー‥
無理して、好きにならなくてもいいさ。
一度、リセットしてもいいんじゃないか?
そうして初心に返れば
おのずと答えが見えてくるはずだ。
今一度、自分を見つめ直すんだ。
あれから、牧とはうまくいってるのか…?
何かあったらすぐに言えよ。
俺は春野の一番の味方だからな!
‥ーー
( 一番の味方……
あの時、そう言ってもらえてすごく嬉しかったことを覚えてる。
健司くん……ありがとう…… )
「バスケットを嫌いに……!?」
「藤真が、そんなことを?」
「牧先輩……?」
「「……」」
彼は " 憧れの人 " 。
藤真との関係やバスケへの思いをついに激白した綾。
これらは恋人である牧にも明かしていない、彼女の心の中に芽生えていた大切な気持ち。
言いたいことは山ほどあれど部員たちは静かに話を聞き、また固唾を呑んで見守っていた。
「改めてよく考えてみた結果、ある1つの結論に至ったんです。
そうだ、私はバスケが好きなんだ……って。
だけど……まるで心にポッカリ穴が空いてしまった様な、そんな気がして……苦しくて……
こんなに好きなのに、好きなはずなのに……!
どうしても隙間が埋まらなくて……」
「「春野……」」
「綾さん……」
「…………」
どうしても拭い切れないバスケへの後ろめたさと、この胸のつかえ。綾は涙が出そうになるのをグッとこらえ、今伝えられる範囲の出来事を簡潔に話した。
先日、牧に別れを告げられたこと。
レストランで窓の外に姿を見かけ、追いかけた先で見知らぬ女と一緒にいたこと。
海南の神と喫茶店を訪れ、彼の想いの全てを、真実を聞かされたこと。
無事に復縁を果たせたは良いものの、顔を合わせられず以前の様に名前で呼ぶことができないこと。
さらに、三井が胸を貸してくれたことを言おうとすると
「ばっ……春野、やめろ……!」
三井は綾の背後にまわり、慌てて口を塞いだ。
「!? せっ、先輩、どうして……?」
「……小っ恥ずかしいからに決まってんだろ。
俺のことはいーから。それよりお前、牧と……」
「え?」
三井が何かを言いかけた、その時
今の今まで珍しく黙りこくっていた桜木が、猛スピードでこちらに駆け寄ってきた。綾の両肩に手を置き真剣な顔つきで叫ぶ。
「綾さん! 洋平たちから聞きましたよ! ジイと別れて、そんな悲しい思いをしていたなんて……! それなのに、俺にはいつも通り明るく接してくれて……
顔を合わせられない……?
綾さんがこんなに苦しんでいるというのに!
おのれ、ジイ! 許さねえ……!」
「えっ、ちょっと、桜木くん!?」
牧に対し、怒りの感情を剥き出しにする桜木。
今朝、綾の様子がどこかおかしいと不審に思った彼は友人から事情を聞き出していた。背中を向け、ドスドスと大股歩きで体育館の扉の方へ向かっていく。
「どこへ行くんだ、桜木!」
「桜木花道! 戻ってきなさい!」
「このバカッタレが! 落ち着かんか!」
「決まってんだろ、海南に行ってヤローに直々に言ってやんだよ!!
テメーのせいで……綾さんがバスケットを嫌いになっちまうってな!!」
「え……!?」
桜木のこの言葉にドキッと心臓が跳ねた。
「おい! 桜木!」
「花道、よせ……! 落ち着けって!」
メンバーたちは何とか引き止めようと声を張るが、当の本人は興奮状態で誰の言葉にも耳を傾けようとしない。血気盛んな彼の怒りを鎮める策はないものかと、うろたえていると
「桜木くん!! ダメっ……!!」
「!?」
無我夢中で走り出した綾は、桜木の手をギュッと握りしめた。
「このことだけは……バスケのことだけは……
紳……牧先輩には、言わないで……!!
お願い……!!」
「え……綾さん……!?」
予想だにしなかったまさかの展開に桜木の顔は次第に真っ赤に。
( 彼にだけは……
紳ちゃんにだけは、絶対に知られたくない。
だから、もうやめて、桜木くん……! )
綾は目を瞑り体全体を震わせている。もしこのことが牧の耳に入ってしまったら出会いの発端となったバスケを彼との過去を、思い出を全否定されてしまう。そんな思いが体中を駆けめぐる。不安で不安で胸が押し潰されそうだった。
( 綾さん……! )
桜木は緊張しながらも彼女の両手を強く握り返した。
他の部員たちはしばし呆然とその光景を眺めていたが、この男だけは違っていた。
「いつまで手を握ってやがる。このどあほぅが……!」
シュッ!
怒りに狂った流川は、桜木の背中目がけて豪速球でボールを投げつけた。
「きゃっ……! 桜木くん、危ないっ!」
「へっ?」
ドン! といった衝撃音が館内に響き渡る。
「る、ルカワ……!!
テメェ、やりやがったな、上等だ!!」
「るせー。それはこっちのセリフだ。」
凄まじい剣幕で睨みつける二人。両者の間には火花が散っている様に見える。彼らの気持ちをよそに、綾は桜木に声をかけた。
「桜木くん、大丈夫?
ごめんね、私のせいで……
彼にだけは、知られたくないの。だから……」
「ハッ……綾さん!
大丈夫ですよ、痛くも痒くもありませんから!
俺の方こそカッとなって、すみませんでした。」
「ううん。分かってくれてありがとう……
桜木くんって、すっごく素直だよね。だから成長のスピードも早いんだね!」
「!!」
納得、納得、と感心した綾は彼を褒め称え、そっと優しく笑いかけた。
( 綾さんの方こそ、素直でカワイイなぁ~…… )
( チッ…… )
彼女の笑顔にホクホクと癒される桜木。先ほどの暴動は一体何だったのか? 問題児に振り回される彼らだが、何とか事なきを得てほっと肩を撫で下ろしたのだった。
「あ……もうすべてお伝えしましたし、私のことよりも目先の決勝リーグに向けて練習しないと! ですよね、赤木キャプテン……?」
己のプライベートな事情よりも、さらなる強豪校との戦いに備えて体調を万全にし
尚且つ猛練習に励まなければならない。
また、これ以上長々と話していれば
いつかボロが出てしまう。
この場を上手く回避しなければと焦りを感じた綾は、赤木の目を見つめ同意を求めた。
「ああ、その通りだ。
これからは今まで以上に厳しい戦いになるだろう。海南、陵南、武里、武園!
全国へ行くためには一位や二位にならなければ意味がないことをよーく肝に銘じておけよ!
気合い入れていくぞ、お前ら!!」
「「 おうっ!!」」
( ぬ? 武園…… )
彼女の気持ちを瞬時に察した赤木は、メンバーたちに大声で喝を入れた。今後は並大抵の練習量では済まされない。各々ウォーミングアップや走り込みなどを開始し、館内は熱気に満ちていた。
その一方で、桜木と綾は武園高校の名にそれぞれ思いを抱く。
( そういえば……海南と武園の試合、応援に行くって約束してたんだよね。)
ーー‥
近々、武園との試合があるんだ。
もし来られたら応援に来てね。
‥ーー
( 昨日の宗くん、あんまり元気がなかったような……大丈夫かな……? )
昨日、喫茶店にて同じ時を過ごした二人。
綾は神の体調を気にかけていた。そんな中、流川は一目散に彼女の元へ歩み寄る。
「おい、綾。」
「ん……? 楓くん、なに?」
真剣な眼差しでこちらを見つめる流川。
「本当に、それだけか。」
「え……?」
「オメーはまだ何か、隠してる。」
「……!!」
「「 流川 (ルカワ) ……!? 」」
核心を突く様な物言いに心臓が跳ねる。
すべてを見透かされそうな彼の強い視線に、瞳に吸い込まれそうになる。
「うっ、ううん、何も隠してなんかないよ。
楓くんの言う通りだね。
正直に悩みを打ち明けたら何だかスッキリしたよ~。どうもありがとう!」
と、感謝しつつも笑顔を向けるが
「…………」
冷や汗をかいた上に、さらには
ほんの一瞬だったが目が泳いでしまっていた。
その瞬間を、表情を、流川は見逃さなかった。
「そんな隙間……すぐに俺が埋めてやる。」
「え……?」
「バスケットでできた穴なら、バスケットで埋めりゃあいい。何も難しいことはねー……」
「楓、くん……」
流川の優しさに感銘を受けた綾だが、同時に申し訳が立たず良心が痛み、また胸の奥がざわついた。
( 楓くん……
本当のこと、言えなくてごめんね。
紳ちゃん。私、一体どうしたらいいんだろう?
みんなの優しさが身に染みて、辛いよ……
だけど貴方にも、みんなにも
" あのこと " だけは言えないよ…… )
ー その時
突如、体育館の扉が開かれた。
「「 !? 」」
「ちわーっす。」
「あ、あなたは……!」
メンバーたちの前に現れた人物は、一体‥‥?