空っぽの心〜獅子奮闘 編
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夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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これは、ひと月ほど前。春先の出来事。
湘北高校の体育館内で起きた例の暴力事件。
それにより大切にしていた腕時計が大破し、彼女の心にもヒビが、傷を負ってしまっていた。
しかしケガの功名とも言うべきか。盤面裏に忍ばせた愛する人へのメッセージ。きっとあの一件がなければ隠された真実に気付けずエンディングを、結末を迎えていたのかもしれない。
そんな入れ違いの‥‥
すれ違いの恋の、ラストDAY。
ーー‥
もう一度、言おう。
綾のことが好きだ。大好きだ!
俺は、ずっとお前のそばにいる。
これからも、
俺のそばで笑っていてくれないか……?
はい……! 喜んで……!
‥ーー
どこまでも長く続く、桜並木。ここは牧と綾にとって大切な場所。
太陽が一日の終わりを告げる橙色の夕焼け空。コンクリートの小さな階段を下りた先には小川が流れ、自然に囲まれたこの風景に表情も自然と笑顔になり身も心も癒された。
そして、この思い出の地で二人は芝生に座り
互いの絆を深める様にとあることを語らい合っていた。
「時計……こんな風にしちゃってごめんなさい。紳ちゃんがわざわざ私のために、お祝いにくれたものだったのに……」
「いや……気にするな。
それよりも、お前が無事でいてくれて本当に良かった。」
「紳ちゃん……」
「二度とあのようなことが無いように、キツく言っておくからな。」
「え……でも……」
「俺の彼女を傷付けた代償は大きいぜ。」
「……!」
" 俺の彼女 " という言葉に胸がドキッとした。
主将の牧率いる海南大附属高校バスケット部・公式ファンクラブ(?)の親衛隊。事実が発覚した後、暴力を振るった彼女たちに対し牧はひどく憤りを感じていた。また、綾はまるで自分が壊してしまったかの様な言い方をしていたが実際は三井の手によって破壊され、さらには今の今までお守り代わりに大切に身に付けていたということも分かっていた。
以前、体育館裏で神と対立した際の
ある発言を思い出していた。
ーー‥
綾ちゃんは、身体にも心にも深い傷を負ってしまった。
その傷を癒してあげられるのは、
牧さん……あなただけなんです。
綾ちゃんの心には、牧さんしかいません。
きっと、ずっと、これからも……
一秒でも早く抱き締めてあげてください。
‥ーー
「…………」
切なげな表情で彼女の顔を見つめる牧。
そして、そっと声をかけた。
「なあ、綾。」
「ん? なに、紳ちゃん?」
「今から二人で……ルールを作らないか?」
「え? ルール?」
「ああ。俺たちだけのオリジナルのルールだ。」
二人による、二人だけの、二人のための特別な決まり事。
突然の提案に彼女は少し目を丸くしていたが、牧は真剣な顔つきで話を進める。
「決してお前を……綾を束縛したいわけじゃない。すれ違いはもうたくさんだ。
それに、二度とこんな思いはさせたくないからな……」
「紳ちゃん……」
それは念頭に置いておいてくれ、と懇願する牧。
「わかった、いいよ!」
こうして始まった彼と二人だけの創作ルール。
それは質の良いガイドブックや恋愛の指南書にも掲載されていない特別なもの。これさえ取り決めておけば海南と湘北、いや極端な話、全国各地どこにいてもどんなに離れていても心は一つに‥‥さらには物理的な不安もなく互いの存在を身近に感じることができる。
親睦をより深めるためにも欠かせない事柄だ。
「数は、どうするか……」
「う~ん。じゃあ、4つにしない?」
「4つ?」
「うん。紳ちゃんの背番号!
私ね……初めて会った時から、ユニフォームの数字がすごく特別なものに思えたの。
だって、紳ちゃんの努力や苦労がたくさん詰まってるんだもん!」
「……!!」
そう言って、彼女はとびきりの笑顔を向けた。
牧のエースナンバー・4 。
これはチームのキャプテンであることを指すと同時に、努力の結晶であり名誉ある番号だ。
出会った頃は12、交際を開始した時には8‥‥と一年からレギュラーの座をもぎとってきた男。そんな彼の背中をずっと見守り続けてきた綾にはとても思い入れのある数字なのである。
「……サンキュ。なら、4つにするか。」
牧は顔をほのかに赤らめていた。
が、きっと彼女には気付かれていないだろう。
オレンジと茜色が混ざった様な、この景色が
夕焼け空が、その紅くなった頬を
覆い隠してくれたから‥‥
ー そして
「1つ目は、そうだな……
お互い、隠し事はしないことだな。」
「うん。そうだね、隠すのは良くないよね!」
良い事も、悪い事も‥‥どんなことだって構わない。包み隠さず話してほしい。
1つ目の取り決めとして相応しいものであると同時に牧の切なる願いでもあった。
「2つ目は、どうするか?」
「ん~……これは基本中の基本かもしれないけど、ほうれんそう……かなぁ?」
そう言って、人差し指を顎に当てながら話す。
「なるほど。報告、連絡、相談か。
そうだな、バスケットでも日常でも基礎は大事だからな。事実、俺たちも基本を忘れぬよう心がけている。」
続いては栄養価の高い野菜、などではなく
" 報連相 " 。
伝えることの大切さは恋人同士でもチームメイトの間でも同等であり、重要な項目。常に初心を忘れず基本に忠実であることが、インターハイ常連校の強さの秘密なのだろう。
( 紳ちゃんのこの横顔……好きだなぁ…… )
この先の闘いを、未来を見据えている様な彼の凛々しい横顔。胸の奥がドクン、と高鳴った。
「3つ目は、信じること……じゃないか?」
「うん……そうだね、私もそう思う。」
後輩に抱きかかえられている姿を目撃し
誤解され、弁解の余地も無いまま
もう話しかけるな、などと吐き捨て突き放される始末。一度は心が離れてしまった二人だが互いの真実に気が付き信じ合った結果こうして再び巡り会うことができた。
何者かに導かれた様なこのキセキに当然のごとく意見が一致したのだった。
ー そして、佳境を迎え‥‥
「いよいよラストだね。4つ目は?」
「1つ目と被るかもしれんが……
もっとも、これに限っては心配無用かもな。」
「え……?」
どういうこと? と軽く首を傾げる彼女に対し、ほくそ笑む牧。4つ目のルールとは、果たして‥‥?
ーー
「 " 嘘をつかないこと " だ。」
「!」
「綾は " 超 " がつくほどの正直者だからな。嘘はつけないはずだ。」
彼女は驚くほど素直でありとても正直な性格。また、幼い子どもの様なピュアな心の持ち主であることも知り尽くしている牧は特に問題ないだろうと断言した。
「そうかなぁ……?
嘘の1つや2つ、つけるもん!」
さらっと小馬鹿にされた様な気がして頬を膨らませた。
上述した性格に加え、少々頑固なところも持ち合わせている綾。こちらも負けじと、そう言い切った。
「ほぅ……面白い。
なら試しに、俺に嘘をついてみろ。」
そう言って、まるで挑発するかの様に話した。
「え……今から?」
「ああ。それに、10秒ルールでな。」
「!? そ、そんな……
紳ちゃんの意地悪……せめて30秒~!」
突如、嘘をつき騙してみろと煽ってきた牧。
さらにはバスケットのルールに則りもれなく時間制限まで付いてくるらしい。
時間を無駄に消費すると反則になってしまう、時と場所に関する基本のルール。バイオレーションとならぬよう秒数は常にチェックし気をつけなければならないのだ。
わたわたと慌てる綾だが
こうしている間にも「7、6、5……」とカウントされている。試合(ゲーム)は既に始まっている模様。
彼女は残り数秒というところで
「どうしよう。いきなり言われても……
う~ん……あっ! これから、大雪が降るよ!」
「……!」
マンガやアニメーションでの表現方法によく用いられる、灯りの点いた電球が綾の頭上に浮かび上がった。
人差し指を天に向け咄嗟についた嘘はあまりにも容易く、牧は目を丸くして驚いていた。
「今は春先だぜ。それに神奈川は滅多に雪など降らん。よって、嘘だな。」
「ゔぅ……」
すぐに嘘だと見破られ、ガーンと肩を落とす綾。
が、今度こそ! と再度考え込む彼女の様子に
隣にいる牧は数をかぞえながらも楽しそうに‥‥とても優しい表情で見つめていた。
( フッ……必死だな…… )
何事にも一生懸命に取り組む綾。
そんな姿勢に、ひたむきさに前々から好感を持っており、愛おしさを感じていた。
ー そして
「私、実は男の子なんだ!」
「……嘘だな。長髪で、そんな華奢な体をした男など俺は今の今まで見たことがないぞ。」
おそらく考えに考え抜いたのであろう、耳を疑う様な発言に驚きを隠せない。
「それに……」
「えっ、紳ちゃ……?」
グッ‥‥
「!?」
牧は綾の肩に腕を回し、引き寄せた。
「野郎なら、こんなことをされても顔を赤くしないはずだぜ。」
突然の出来事に綾の顔はみるみる真っ赤に。
ドキ‥‥
ドキ‥‥
( 紳ちゃん……? ち、近い…… )
筋肉質でたくましい彼の太い腕。ガッチリと固定され身動きが取れない。
顔がすぐ近くにあり、心臓の鼓動が段々と早くなっていくのを実感していた。
「ここ、外だよ……? 人前で、恥ずかしいよ……」
非常に恥ずかしそうに、そう呟くと
「とっくに30秒過ぎたからな、反則だ。」
「えっ……」
2つ目の嘘を考えている間に、どうやらタイムオーバーとなってしまった様だ。
未だ密着したままのこの状況に彼女は
「もうっ、紳ちゃんなんて、嫌い……!」
「俺の目を見てもそんなことが言えるのか?」
「……っ」
牧はこちらを真剣な面持ちで見つめている。
気恥ずかしさから、綾はそっぽを向いてしまう。
目の前の彼を「嫌い」などとこれも考え抜いた嘘なのだろうか。
「綾……」
男らしく、且つどこか大人の色気も併せ持つ愛しの彼の低音ボイス。これ以上、そんな甘い声で囁かれては身が持たない。
耐えきれなくなり、ゆっくりと顔を戻すと
「俺は、お前のことが好きだ……」
「紳、ちゃん……」
ようやく腕を解放され、互いに見つめ合う。
牧は芝生の上に置かれていた
小さな手をギュッと握り締めた。
そして顔を傾け、彼女の口元に迫り
唇と唇が触れ合うまで、わずか数センチ‥‥
が、その柔らかな感触は味わえなかった。
「!?」
あと一歩のところで、離されてしまったのだ。
とんだおあずけをくらった綾。
明らかに残念そうな様子に
牧はハハハ、と声を出して笑った。
「どうした? そんなに俺としたかったのか?」
「うん……キス、したかった……」
( ……あっ! )
つい、正直な気持ちがこぼれてしまった。
「フッ……やはりお前にゃ無理だ、綾。」
その後も、笑い声が、笑顔が、絶えなかった。
目の前に広がる燃える様な夕焼け空。
そんな熱い口づけをちょっぴり期待していた。
彼は紳士であり女性に恥をかかせる様な人間などではないことは分かりきっている。
牧は彼女が周囲の目を気にしていることに加え
頬を染める様子が可愛らしくて、愛おしくて
ついついからかってしまった。
( 嘘をつくなんて……
紳ちゃんを騙すなんてこと、できないよ…… )
彼を嫌いだなんて、真っ赤な嘘。
嫌いになるなんてこと、ありっこない。
それからというもの、牧は今までよりももっと会う回数を増やすと宣言してくれた。
今後も交際を続けていく上で大切な4つの約束事。
これらはすべて彼らの基盤となり、後々の物語に繋がっていく非常に重要なもの。
ずっと忘れられない。忘れてはならない。
大切な思い出に、一日になったのであった ー