空っぽの心〜獅子奮闘 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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ーー‥
アイツのためでも、藤真って奴のためでもいい……
ずっと、俺のそばで笑ってろ。
‥ーー
( 今朝……綾にぶっきらぼうな態度をとった。
ガキみてえだって、思われてもいい。
無口で、生意気で、無愛想だとか……
周りの奴らにどう思われようがカンケーねー。
壊れた腕時計の詫びを……罪を償いたいらしい(三井)先輩と仲良さげだった上に
試合当日も奴の……
藤真のことを気にかけてばかりでイラついた。
部活を辞めたりしたら、俺だって承知しねえ。
元気出せって、笑ってろって言ったのに
アイツは最近……俺の前で笑わなくなった。
試合の前日も、コートに一人きりで……
長かった髪が短くなってた。
特に何もないって、言ってた。
俺がダンクをしたあと、振り向くと
なぜか辛そうな……悲しそうな顔をしていた。
けど、自転車で送ってやるって言ったら
嬉しそうに笑ってた。
体が震えてる……って背中越しでも分かった。
牧と別れたんだなって、すぐに理解できた。
どあほぅが……無理して笑ってんじゃねー。
あの日も……
アイツが倒れたときも……
俺なら……あんな思いなんてさせねーのに。
ーー‥
……ねぇ、楓くんはバスケ、好き?
‥ーー
バスケットも、綾のことも、好きだ……
何であんなことを聞いてきたのか細かいことはよくわかんねーけど……
アイツはきっと今……高い壁にぶち当たってる。
それで、その問題にたった一人で挑もうと
解決しようとしている気がする。
悩みも苦しみも、すべて俺が蹴散らしてやる。
だから……
これからも、ずっと…… )
昼休みの間、綾はとある教室を訪れていた。その教室とは、1年1組。
湘北高校男子バスケット部の主将ゴリこと
赤木剛憲の妹・晴子のいるクラスだ。
友人であるカナから「晴子ちゃんたちが心配してたよ」と小耳に挟み、足早に向かったのだった。
( 晴子ちゃん、いるかな? )
ちなみに綾の教室は10組。
自分のクラスとは正反対の場所にあり、棟を跨がねばならず移動するのも一苦労だ。
( あっ、いたいた! )
教室にたどり着き、室内を見渡すと‥‥
( 翔陽戦の流川くん、カッコ良かったな……♡
活躍すればするほどファンも増えるだろうし、複雑よね、私としては……
それに、流川くんには心に決めた人が…… )
晴子は切な気な表情で頬杖とため息をつき、机の上に置かれたノートに絵を描く。
作業に夢中になっていると
「どあほー。」
「!?」
「綾ちゃん!?
び、びっくりした……」
突然現れた綾の存在に驚く晴子。漫画に吹き出しをつけるかの様にセリフを、流川の声真似をしてみせた。
「驚かせちゃったみたいでごめんね。
その絵、もしかして楓……流川くん?」
気持ちを汲み取り、敢えて苗字で呼ぶ綾。
そう、晴子が描いていたものとはデフォルメされたユニフォーム姿の流川のイラスト。
シャーペンで描かれたそれは彼の特徴を上手く捉えており、絶賛片想い中の彼女にはおそらく容易いものなのであろう、さすがと言えるほど酷似していた。
「うん。で、でも、ただの落書きよぅ!」
「そうなの? すっごく上手だからビックリしちゃった。
それに " ため息をつくと幸せが逃げるぞ " って流川くんが言ってたよ!」
「……!」
だから元気出してね、と
さり気なく気遣い励ます綾。
彼女の言葉には全くと言っていいほど悪気は無いのだが‥‥今の晴子には胸の奥に突き刺さる様な、そんな感覚がしてならなかった。
「……ありがとう。綾ちゃん、私に何か用事?」
「うん。晴子ちゃんに会いたくて来たんだ!」
「え……? 私に……?」
「うん!」
( 綾ちゃんは……
なんて素直で、正直で、優しい人なんだろう。
牧さんと別れて辛いはずなのに。
流川くんも、きっとこういうところが好きなんだろうな。
……こんな風に考えてちゃダメよね。)
会えて嬉しい、とにっこり微笑む彼女。
晴子は、一瞬でも嫉妬心が沸いてしまった自分に嫌気が差してしまっていた。
そして‥‥綾は本題に触れ始めた。
「あとね、私と先輩……
彼のことで余計な心配をかけちゃったみたいで謝りたくて……ごめんなさい。」
「え、先輩って……牧さんのことよね?
こんなこと聞いたら失礼かもしれないけど……
どうして……? 本当に別れちゃったの?」
「うん、一度はね……」
「!?」
「でもね、また付き合えることになったんだ。
だからもう大丈夫!」
「そうなの? 良かった……!」
意を決し、牧との関係を尋ねた晴子。
二人が別れたのではないかと耳にしてから気が気じゃない彼女だったが、真実を知りホッと肩を撫で下ろした。
悩んで、迷って、苦しんで‥‥
彼は心を痛めながらも、待っていてくれた。
自分を快く迎え入れてくれた。
赤い糸で繋がっている様な……
そんな運命的なものを感じていた。
「流川くんのことも、ごめんね。」
「え……?」
「キューピッドになってあげるって約束したのに何ひとつできてなくて……ごめんなさい。」
「そ、そんなこと気にしなくていいのよぅ!」
晴子の想い人である湘北バスケ部のスーパールーキー・流川 楓。
彼女の気持ちを知った日から何とか二人を良い関係に、恋が成就してほしいと願い自ら手助けの役を買って出た綾だったが‥‥
そう上手く事は運ばなかった。
それどころか自身が告白をされた上に何度も危機から救出され、下の名前で呼び合う始末。
申し訳なくて何度も謝罪の意を表した。
ー そして
「……本当に、どあほぅなのかもね?」
「え?」
「試合中に私情を持ち込んで、振り回して……
今後もマネージャーとしてやっていけるのかなって不安で……あまり自信が持てなくて……」
「綾ちゃん……」
綾は切なげな表情で、胸の内を打ち明け始めた。
「今朝もね、校門前で色々あって……
退部届を差し出してきたら承知せんぞ! って、キャプテンに喝を入れられちゃったんだ。」
「えっ、お兄ちゃんが……!?」
「うん。晴子ちゃんのお兄さんってすごく寛大で、優しい人だよね。」
「!」
「遠回しに私のことを励ましてくれたんだよね、きっと。
すごいよね。心に迷いがないっていうか……
一貫性があるというか……やっぱり彼が一目置いている人は違うなって……」
「牧さんが、お兄ちゃんのことを?」
「うん……心の底から、バスケをこよなく愛してるって感じがしたの。
私も胸を張ってそう言えたら……思えたらいいのにな……」
「綾ちゃん……」
そう語る彼女の表情は憂いを含んでいる様などこか寂しげな様子で、相槌を打つのがやっとだった。
晴子の兄である赤木と、綾の恋人である牧は互いを良きライバルとして認め合っている。
神奈川No.1である彼が一目置いていると言うことは、すなわち全国でも通用するプレイヤーだと既に決定付けている様なもの。
兄と同じくバスケが大好きな晴子は、もっと深い話を聞きたかったのだが‥‥
「それに、流川くんもキツネじゃ……
冷酷な人間なんかじゃないと思う。」
「え? キツネって……」
突然の流川の名前と、動物との関連性がピンと来ない晴子の頭上に複数の疑問符が浮かんだ。
ー すると
「誰がキツネだ、どあほぅ。」
「「……!!」」
「楓くん……」
「るっ、流川くん……!」
突如、女子生徒の憧れの的である流川が姿を現した。噂をすればなんとやら‥‥
まさかの本人の登場に驚く二人。
彼はドアの枠に肘を掛け、不機嫌そうに眉をひそめジッとこちらを睨みつけている。
( どあほぅって、やっぱり私のことだよね……? )
いつまでもくよくよしていてはダメだと、自分に落ち度があると自覚している。
が、本家本元である彼のこの名台詞。実際に本人を前にして言われると、そこそこにショックが大きかった。
「……ちょっと来い。」
付き合えと親指を立て、廊下を指差している。
「えっ……で、でも……」
急な誘いに不安になった綾は、流川と晴子の顔を交互に見やる。
「綾ちゃん、いいのよ。一緒に行ってあげて?」
晴子はそんな彼女の気持ちを察したのか‥‥
笑顔でそう促した。
「晴子ちゃん……ごめんね。」
「ううん、気にしないで。またね!」
貴重な休み時間は残りわずか。
教室を後にしようとしたその時‥‥晴子は流川の顔を見上げ、話しかける。
「る、流川くん……
次の試合も、決勝リーグも必ず応援に行くわ。練習頑張ってね……!」
「……どーも。」
( キャーッ! 流川くんと会話しちゃった♡ )
意外や意外、返事をしてくれるとは思ってもみなかったのだろう。
両目をハートにし、大興奮の晴子。
「綾、行くぞ。」
「う、うん……」
( いいなぁ。嬉しそうだったな、流川くん…… )
二人が去り行く際に見た、彼の横顔。
とても優しそうな表情に思えた。
彼女が抱えた悩みに寄り添ってあげてほしいと切望する晴子であった。
ーー
彼に連れて来られたのは先ほどの教室から割と近くの位置にあった、がら空き状態の資料室。
そんな場所に、流川と二人きり。
マネージャーだとはいえ、牧と復縁を果たしたばかり。
この様な状況は如何なものかと‥‥その狭間で思い悩み、戸惑う綾。
周囲の目をやたら気にしている彼女は、不安そうな表情で話し始めた。
「あの……楓くん、ごめんね。
私、あんまり二人きりには……晴子ちゃんや親衛隊の人たちにも、悪いよ……」
「シンエータイ……?
あー、あの女どもか。
カンケーねー、そんなの。気にすんな。」
「…………」
「あの日以来……
アイツらには釘刺してある。安心しろ。」
また何かしてきたら容赦しねえ、と鋭い目付きでそう話す。
以前、路地裏で暴力を振るった彼女らに対し
流川は裏で無言の圧力をかけていた。
「そ、そうなんだ……でも……」
「…………」
当時、傷を負ったのは自分なのに。
常に相手の事を優先して思いやるその優しさに正に " 天使 " なのだと‥‥胸が苦しくなった。
また、今朝から不機嫌そうにしているのは何故なのか?
おおよそ見当はついているが、長い沈黙に耐えきれなくなった綾は思い切って尋ねてみた。
「それに、今朝は一体どうしたの……?」
「……翔陽の……」
「え?」
「ヤツの応援なんかしてんじゃねー……」
「? ヤツって、健司くんのこと?」
「…………」
「本当にごめんね。
かくかくしかじか、色々あって……
全部あとで……部活の時に話すから。」
「牧とも、やっぱり何かあったんだな。」
「うん……」
「この間から二人きりになるなって言ったり、なってもいいって言ったり……意味わかんねー。」
「…………」
女のことは、よくわからん。と嘆く。
藤真との関係は‥‥?
牧とは一体何があったのか‥‥?
そして彼女が思い詰めた表情をする理由とは?
本音を言えば放課後までなどと勿体ぶらず、今すぐにでもそのワケを知りたかった。
一番に、自分に‥‥教えてほしかった。
以前、彼氏だと名乗った上に試合会場で壁際に追い込み、強引に唇を奪った流川。
彼女が嫌がることはもう二度としたくない。
が、二人きりでいられる時間には限りがある。
焦燥感に駆られた彼は綾の顔をしっかりと見据え、今ある思いの丈を伝えた。
「おい、綾……」
「ん?」
「突然いなくなったりすんな。」
「え……?」
「オメーは試合のあと……いつもどこかに行っちまう。」
「……!」
「隠し事もすんな。
悩みがあるなら正直に言え。苦しいなら苦しいって、泣きたいなら思いきり泣けばいい。
前にも言ったろ。あんまり無理すんなって……」
「楓くん……」
「嫌なことばっかり続くわけねー。
そのうち良いことがあると……思う。」
「そ、そうかな……」
「だから……オメーは笑ってりゃいいんだ。
笑え。」
「え……命令なの?」
「命令だ。」
「ぷっ……デジャブだね?」
以前にもこんな風なやりとりがあったような?
まさかの展開に、思わず吹き出してしまう。
同時に過去の記憶が鮮明に思い出された。
ーー‥
……楓。
えっ?
入学式の時……素敵な名前だって……
嬉しかった。だから、これからはそう呼べ。
え……命令なの?
命令だ。
流川くんって、あ……
楓くんって面白い人だね!
‥ーー
入学早々、屋上で起きた例の一件。
保健室で傷の手当てをした際に紡がれた彼なりの‥‥ぶっきらぼうな流川によるコミュニケーションであり最大級の(?)愛ある言葉の数々。
自分の好きな人には、彼女には
ただただ笑っていてほしかった ー
「楓くん、ありがとう……」
「!」
そう言って、綾は小さく微笑んだ。
ー その後の彼らはと言うと
「目が……しぱしぱする……」
「え?」
ぱちぱちと何度も瞬きをして
ふわぁ、と大きな欠伸をする。
「昨日の夜、ずっと綾のことを考えてたから……
弁当も食ったあとだから、余計に眠い。
昼寝……付き合え。」
試合に勝ったは良いが、姿を消した彼女のことが気がかりでなかなか寝付けなかったらしい。
床にあぐらを組んで座り、自分の膝をポンポンと叩く。
バスケットと同じくらい睡眠が好きな流川。
‥‥どうやら膝枕をしてほしいらしい。
「え……!? だ、ダメだよっ、こんな所で……
もうすぐ授業始まっちゃうし、行かなきゃ!
それに、私……彼が……」
「む……アイツには、してやんのか。膝枕。」
頬を紅潮させながら話す彼女に、しかめっ面で尋ねる。
「う、うん……」
( ウラヤマシイ。)
リンゴの様に真っ赤に染まった、綾の顔。
この時、流川は悟った。
" 牧との関係は問題無し " ‥‥と。
これが正しいのか間違っているかは分からない。
彼女の隣にいられるのが、自分だけに久々に笑顔を見せてくれたことが嬉しくて‥‥
次第に流川の機嫌も緩和していくのであった。