空っぽの心〜獅子奮闘 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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「おはよー、綾!」
「カナちゃん、おはよう。」
翌朝、友人のカナと共に学校へと向かう綾。
本日の空模様は雲ひとつ無い晴天。
梅雨の時期であるにも関わらずサンサンと照り付ける太陽光。常日頃からカバンの中に折りたたみ傘を携帯しているのだが、その出番はしばらくなさそうだ。
「えーっ!? 牧くんに、告白したぁーー!?」
「わわ、カナちゃん……声が大きいよっ!」
そんな中、彼女の大声が通学路に響き渡った。
周囲にいる生徒たちは何事かと驚いている。
綾は歩きながら、牧と別れてから現在に至るまでの出来事や経緯をざっくりと話した。
カナは自身の予想を遥かに上回る展開の連続に、落雷の如く衝撃が走った様だ。
ーー
「そっか……色々あったんだね。でも、牧くんと仲直りできたんだ、良かったじゃん!」
「うん。一歩前進って感じかな……?」
「綾に合わせてくれるって言ってくれたんでしょ? 一つずつ解決していけばいいんじゃない?
それに、恋は障害がある方が燃えるのよ!」
「そ、そうなの……?」
「そうよ! そーゆーもんなの!」
気迫に押され、たじろぐ綾。
彼女は今までどんな交際をしてきたのか?
まるで恋愛のプロフェッショナルかの様にそう語る友の姿に、頼もしささえ感じられた。
「私さ……前に重荷になってるなら別れちゃえ、なんて軽はずみな発言しちゃったでしょ?
最近、綾の様子がおかしかったからもしかしたら……って、かなり責任感じちゃってたんだよね。だから元通りになったって聞いて安心したよ!」
「カナちゃん……」
綾はその言葉にジーン、と感動していた。
自分の軽率な発言に申し訳なさを感じていたカナは二人が復縁したと知り、心の底から安堵したのだった。
ーー‥
なんで!? 綾は彼女なんだよ!?
言いたいことや聞きたいことがあったら、いつでも好きな時に話せばいいじゃん!
牧くんって、そんなに小さい男なの!?
……重荷になってるなら、別れちゃいなよ。
‥ーー
以前、牧について相談を持ちかけた際に
恋人なのだから、彼女なのだから遠慮することどないと叱りを受けたことを思い出していた。
「カナちゃんのせいじゃないよ。私が、先輩の気持ちに気付けなかったから……」
「綾……」
愛しき人の未来のために敢えて身を引き、別れという決断を下した牧。
彼の優しさに気付くことができなかった‥‥
もう過去の話ではあるが
当時の自分が時たま悔しくて仕方がない衝動に駆られ、後ろ髪を引かれていた。
ー そして、話は変わり
「それにしても……何その女! マジであり得ない! 復讐とか怖すぎるでしょ!!」
「…………」
「不良軍団とか親衛隊だとか
綾ばっかターゲットにされて、酷過ぎるわよ! また集団で暴力されるんじゃ……!?」
牧の元恋人に苛立ちを隠せないカナ。
先の見えない恐怖に怖気づいてるであろう友の心配をするが
「うん……確かに怖いよ、怖いけどね……」
「え?」
「彼が……牧先輩が
この命に代えても必ず守る、って
そう言ってくれたの。嬉しかった……」
「……!」
綾は気恥ずかしさから通学カバンの持ち手を両手で掴み、顔全体を紅潮させながら話す。
そんな幸せオーラ全開と言った彼女に対し、カナは明後日の方向を向き
しらーっとした表情でこう嘆いた。
「なに、結局のろけ話?
あ~暑い暑い。かき氷でも食べたい気分だわ。帰りにコンビニにでも寄っていかない?」
「ちょっ、カナちゃん……!」
「きゃはは! やっぱりアンタは可愛いわ!」
「!? の、惚気る気なんて全然ないよ。ただ報告しただけなのに、もう!」
からかわれて頬を膨らませる綾。
先ほどから彼女の顔は甘いイチゴシロップの様に真っ赤だった。
長い長い夏休みの到来まで、あとひと月。
勉強に、部活に、恋愛に‥‥
一学期を修了するためには様々な困難を乗り越えなければならない。今が一番の踏ん張りどころだ。
「ごめんって。そんなつもりじゃないことぐらい分かってるわよ。
白馬に乗った王子みたいなセリフ、久々に聞いたからさぁ。あ~、うらやまし~。」
「お、王子様……!?」
私もそんな彼氏がほしい~と嘆くカナ。
「白馬の王子」と言うワードに、彼女は
ーー‥
俺はお前と……綾と一緒に、
もっと色々な景色を見たい。
いや、見ていきたい……!!
‥ーー
( 紳ちゃん…… )
昨夜、電話を通じて話した二人だけの甘い甘い時間。顔は見れずとも彼の優しさや温かさを感じられた。
牧の言葉を思い出し、感慨に浸る綾。
( 王子様、かぁ…… )
「もっと赤くなってるし!
さては、他にも何か言われたな~?」
「なっ、何もないよ!」
「嘘おっしゃい! バレバレなのよ!」
「ご、ごめんなさい~。」
まるで姉妹の様にじゃれ合う二人。
幸せそうな表情を目の当たりにしたカナは‥‥
( 綾、本当に良かったね。
アンタは幸せ者だよ。
牧くんも諦められるわけないよ。
もう二度と別れたりしないでよね…… )
友の復縁話に安堵すると共に、二人の仲が末長く続いてほしいと心から願うカナなのであった。
ー その後、学校の校門前に到着した二人。
すると
号外~、号外~と、聞き慣れた声が聞こえた。
その声の主とは‥‥?
白いTシャツに制服の黒ズボン姿の赤い髪。
「あれ、桜木くんじゃん。」
「……桜木くん、おはよう。何してるの?」
そう、湘北高校男子バスケット部
問題児のひとり・桜木花道であった。
「はっ! 綾さん! おはようございます!
さっき晴子さんに教えてもらったんですけど、これですよ、これ!」
「え? 今朝の朝刊の記事……?」
「ハイ! 新聞でも見ていただけましたか!?
この天才・桜木の勇姿を!!」
綾の姿に気が付いた彼は赤面し
こちらへ猛ダッシュで駆け寄り、とある一枚の紙を手渡した。そこには昨日の翔陽戦でカッコ良く決まった桜木によるダンクシュートの写真が掲載されていた。
見出しには、大きな文字で
" 翔陽敗れる " ‥‥とあった。
己の活躍が記事となり有頂天になっている彼は学校中の生徒たちにコピーを配布していたのだった。
( この新聞……翔陽のみんなも見たのかな……
ショックだろうな……健司くん…… )
「綾さん……?」
「綾……?」
記事を物憂げな表情で見つめる綾。
全国への道が閉ざされてしまった王者・海南に次ぐNo.2の強豪校である翔陽高校。
藤真や花形達の心情を考えると、胸が苦しくなって仕方がなかった。
紙を綺麗に四つ折りにし、そっとカバンの中に仕舞い込んだ。
「あ……ご、ごめんね。
" 豪快なダンクを決める湘北高校 桜木花道選手 "
だって! 新聞に載るなんてすごいねぇ。
桜木くんはウチの学校の有名人だね!」
「有名人……?」
「うん!」
桜木の活躍を讃える綾。
今朝からあまり元気が無さそうな彼女だったが自分はマネージャーでもあり、部員である彼を前にしてこのままではいけないと‥‥そして、笑顔を絶やさぬよう明るく振る舞っていた。
「そう言えば、コートに思いっきり頭突きしてたけど、大丈夫? 怪我……してない?」
「じ~ん……
綾さん! ご心配にはおよびません! このアイアンボディ桜木、まったくの無傷ですから!」
「そっかぁ、良かった~。」
「綾……
人よりも床の心配をした方がいいんじゃ?」
「え?」
昨日、4ファウルで退場を恐れた桜木は
まるで亀の様に縮こまってしまい自身の持ち味を存分に発揮できずにいた。
その時、ライバルである流川が彼に一喝。怒りの矛先をコートに向けた彼は頭突きをし自分らしさを取り戻したのだった。
怪我がなくて本当に良かったと安堵する彼女に対し、カナは呆れた声を上げる。
「ぬ……? キミは確か、綾さんの友達の……」
「……西東よ!
アンタねぇ、同じクラスなんだから名前ぐらい覚えてなさいよ、失礼ね!」
「ほぅ、西東さんか、なるほど。覚えておこう。」
「どーだか……」
綾の傍にいたカナの姿にようやく気が付いた桜木。二人は初めて会話をした。
同じクラスになり3ヶ月以上が経過したにも関わらず、名前すらロクに覚えていなかった事実に彼女は腹を立てていた。
「でも、試合の翌日なのに朝早くから登校して偉いね。
最後のダンクも……惜しかったね。退場処分になっちゃったけど、迫力満点で凄かったよ。
私、すっごく感動したもん。
さすが桜木くん、ジーニアスだね!」
「ジーニアス……?」
「うん、" 天才 " って意味だよ!」
「な、なるほど! やはり天才!
ナーッハッハッハ!!」
彼女の言葉に喜びを隠せない桜木。両手を腰に当てて、大声で高らかに笑った。
ー すると
ゴンッ!!
「!?」
「このバカッタレが!!
朝っぱらから何を馬鹿笑いしとるんだ!!」
キャプテンの赤木による鉄拳が桜木の頭上に炸裂した。
「ゴリ……! くそっ、有名人に何てことを!」
「赤木キャプテン……」
「あーあ。まぁ、自業自得よね。
あ……! 流川くん!」
ドン!!
眠ったまま自転車を運転していた流川は、そのまま桜木に向かってぶつかってきた。
「おのれ、ルカワ……!!」
「桜木くん、大丈夫……?」
「うーっす。」
「ん? 何だこりゃ?」
彼の身に次々と巻き起こる悲劇に、心配そうな綾と流川にメラメラと怒りの矛先を向ける桜木。
その途中で三井と宮城の二人も姿を現した。先ほどの記事に怪訝そうな表情で目を通す。
おおっ、バスケ部のメンバーが揃ったぞ!!
赤木か……! デケェ、すげー存在感だ……!
新聞に載ってた、赤い髪の桜木だ!
湘北~!! 今年こそ全国に行ってくれよな!!
期待してるぜ!!
部員たちが一堂に会し、人々が騒ぎ始めた。
「おっ、バスケ部のスターたちがおでましか。」
「水戸くん。」
「洋平。」
すると、この学校中の騒ぎを嗅ぎ付けたのか桜木軍団のメンバーである水戸も現れた。
「おはよー、水戸くん。
それにしても……いざこうして選手を目の前にすると威圧感ハンパないわね……
ねぇ、綾?」
「うん。そうだね……」
「……綾? どうしたの?」
「春野さん……?」
「綾さん?」
先ほどからずっと元気の無い彼女に、三人は見兼ねて声をかけた。そして綾は赤木たちの元へゆっくりと歩み寄る。
「みなさん、おはようございます。
昨日はお疲れ様でした。ついに決勝リーグ進出ですね。気合い入れて行きましょう……」
「「……!」」
「…………」
彼らとは目を合わさず、不安そうに俯きながらそう言った。その声は言葉とは裏腹に覇気が無く、とても小さな小さなものだった。赤木は黙ったまま、過去の記憶を思い返していた。
ーー‥
赤木! 仙道!
ここにいる奴らも全員!
IH予選・決勝リーグで待っている!!
俺たちを倒したければ、ついて来い!!
アイツ……
今朝、近所のバスケコートにいたんすけど、一人でずっと立ち尽くしてました。
それで……俺にバスケットは好きかって、聞いてきた。
二人とも、どちらも大切な人なんです。
試合になったらどっちを応援したらいいのか……って、こんなんじゃマネージャー失格ですかね……?
健司くん、翔陽……!!
最後まで、決して諦めないで……!!
頑張って!!
‥ーー
( 春野…… )
( 大事な準々決勝の時に……
私……あんなこと……
気まずくて、みんなの顔を見れないよ。
桜木くんは普通に接してくれたけど
赤木キャプテンも、そりゃ怒るよね。
怒られて当然だよね。
部活も……こんな中途半端な気持ちで続けていたら、絶対にダメだよね……?
ごめんなさい…… )
ー そして
「……っ」
赤木はその大きな手で綾の頭をガッと掴んだ。
あの日と同じ。牧の恋人であることを打ち明けた、入部当初の日の様に‥‥
「おい、赤木! 何して……!?」
「ダンナ!」
「「ゴリ……!」」
「ち、ちょっと!」
「……!」
メンバーたちは赤木のまさかの行動に驚いている。綾は恐怖心から反射的に目を瞑った。
( な、殴られる……!! )
「……俺も、バスケットが好きだ。
何も案ずることはない。
牧の大事な恋人を、天使を預かっとるんだ。
簡単に辞めてもらっては困る。退部届など差し出してきおったら承知せんからな!!」
「「 !! 」」
「キャプテン……」
そう言って、ふっと優しく微笑む赤木。
バスケに後ろめたさを感じ、部活から密かに足を洗おうと考えていた綾は皆の顔を直視できずにいた。
そんな彼女の思い詰めた表情を見て察したのか彼は彼なりに元気づけようとしてくれたのだ。
過ぎ去ってゆく大きな背中を見つめ、キャプテンの器の広さをまじまじと実感したのだった。
「…………」
そんな中、ずっとこちらを見つめてくる人物がひとり。後方に視線を感じた綾は、振り向くと
「あ、楓くん……おはよう。
どうしたの? 私の顔に何かついてる……?」
「!? ちょっと、綾……!」
再び下の名前で呼ぶ友に対し、驚愕するカナ。
普段から表情を変えることのない流川だが‥‥明らかに機嫌が悪そうだ。
「……別に。」
そう言って校舎の中へ歩いて行ってしまった。
( 楓くん……? )
「一体何なの?
流川くんって本当にミステリアスよね~……」
「春野さん、大丈夫か?」
「うん……」
「おのれルカワ……!! 綾さんにあんな態度を……!! 許せん!!」
「気にすることないよ、綾ちゃん。」
「……春野。放課後、ちゃんと部活に来いよ。」
「先輩方……はい、ありがとうございます。」
宮城と三井も彼女に優しく声をかけ、去っていった。
「あ! やばっ、今日、日直なの忘れてた!
綾、悪いけど先に行くわ。じゃね〜!」
「分かった、またあとでね。」
カナも彼らの後を追う様に慌てて駆けてゆく。
桜木と水戸と、綾の三人きりに。
先ほどまで大多数の生徒たちに囲まれ騒々しかったことが嘘の様に静寂を取り戻していた。
「行っちまったな。俺たちもぼちぼち行くか。」
「……そうだね。」
「綾さん、あんな冷血ギツネの言ったことなど気にするだけ時間のムダですよ!
それに、さすがのゴリも女性に手を上げるなんてことは……!」
「だよな、何考えてんのかよく分かんねえもんな、アイツは。」
「う、うん……ありがとう。」
「それに万が一、ゴリが綾さんに何かしようものなら俺が全力で食い止めますから! 安心してください!」
「……!」
「そうそう。花道の頭突きには何度やられてきたことか……
春野さん、春野さんのそばにはいつも俺が……
俺たちが、ボディガードがいるんだからな。
そこんとこ、忘れないように!」
「水戸くん……」
人差し指を立て、いつもの様に余裕を含んだ笑みを向ける水戸。先日訪れたレストランでの発言が思い出された。
ーー‥
春野さん、家まで送るよ。
俺は専属のボディガードなんだからな。
お姫様は黙って騎士に守られていればいいんだぜ。
‥ーー
ほんのり頬を赤く染める綾。
すると
キーン、コーン、カーン、コーン‥‥
朝一番のチャイムが学校中に響き渡った。
「やべっ、早く行かねーと遅刻するぞ!」
「春野さん、急ごうぜ!」
慌てて駆け出そうとする二人に、彼女は思わぬ行動に出る。
「あ……あの、水戸くん……!」
ぎゅっ‥‥
「!?」
「えっ……春野さん……!?」
綾は水戸のシャツの裾を引っ張った。
突然のことに驚き振り返ると
何かを言いたそうな‥‥訴えている様な瞳で、彼の顔をじっと見つめていた。
「あ……ううん。ごめんね、何でもないの!
一緒に教室行こっ!」
「……?」
「綾さん……?」
彼女の思わぬ行動に顔を赤くする水戸。
一体、自分に何を伝えたかったのか?
謎は深まるばかり。
( あんな仕草に……上目遣いまでされたら、マジでやべーって…… )
このドキドキ・モヤモヤした気持ちを胸に抱いたまま、悶々とした一日を過ごした水戸なのであった‥‥‥