空っぽの心〜獅子奮闘 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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涙って、本当に不思議。
悲しいことがあった時だけじゃなく、こんな風に嬉しさで、幸せで満ちあふれている時にも出てきちゃうんだもん……どうしてなんだろう?
ーー‥
そんな泣き虫じゃ、海南のユニフォームはとれないぜ、綾……!!
‥ーー
こんなだから「泣き虫」って言われちゃうのかな。
いつまでもずっと隣にいられるように……
恋人として誇りに思ってもらえるように……
もっともっと努力して、彼の名に恥じない相応しい人間にならなくちゃ。
私もこの涙と、雫と同じなのかも知れないね。
貴方の一言二言ですごく嬉しくなったり、とても悲しい気持ちになったりするんだよ。
紳ちゃんは泣いたりすること、ないのかな……?
互いの想いが通じ合い、無事に復縁を果たせた二人。
牧の電話番号やメールアドレスを消去することなくそのままの状態にしていた綾。
以前の様にとはいかなくとも奇跡的にこうして話ができているのは
おそらく必死に彼のことを忘れなければと思っていた反面、心のどこかでヨリを戻したいと願っていたからだろう。彼女の心の中に存在する、ほぼ完成形に近い状態のジグソーパズル。
あと残りわずかとなった空白のピースは、共に協力しながら当てはめていけばいい。
しかし光あるところに影がある様に
喜びが半分あれば、不安も半分ついて回る。
綾は牧には言えない
一人で解決しなければいけない問題があった。
その問題とは‥‥?
ーー
「翔陽戦、しかとこの目で観させてもらったよ。
これで決勝リーグ進出か。湘北もついにここまできたか……なかなかやるな。」
「そ、そうですね……!
特に楓くんと桜木くんのダンクシュート、凄かったですよね。桜木くんは惜しくも5ファウルで退場になっちゃいましたけど……」
「確かに、あれは惜しかったな……
流川も実力はあるだろうが、いかんせん単独でのプレイが目立っているように見て取れた。
エースがあの様子では先が思いやられるな。まだ二人とも若い証拠だ。」
「そうですか……?
私にはそんな風に見えなかったなぁ。エースの定義って、一体何だろう……?」
「そうだな……
たった一発のシュートでチーム全体を乗せられて、ムードを掴んでこそ真のエース。その定義に気が付いていない奴は、まだまだ甘いということだ。」
「なるほど……奥が深いんですね……」
牧は落ち着いた口調で今日の試合を振り返る。
桜木、流川のルーキーコンビに対し手厳しい意見や感想を述べた。王者・海南大附属の主将としての風格を思わせる発言だ。
彼らはまだ一年生。伸びしろがあるにせよ、自分には到底及ばないと実力の差を打ち明けた。
また、バスケットの話に移った途端に
綾の声色が、様子がおかしくなったことを一瞬で悟っていた。
これこそが今現在、彼女自身が抱えている問題であった。
別れを告げられたあの日からバスケに対して楽しさや、やりがいを感じられなくなってしまっていた。
以前の彼女なら、すぐさま対抗心を燃やし勝ち気に満ちた発言をしてきたはずなのに。
動揺しているのか早口になり、覇気が無くなった様に感じていたのだった。
「それにしても……
あの場面でまさか敵に檄を飛ばすとはな……
相変わらず先の読めないヤツだな、お前は。」
「…………」
「おい、綾……?」
試合終了間近、相手チームに声援を送った綾。
そのまさかの行動に会場にいた誰もが驚いたであろう。無論、牧もその内の一人だった。
急に黙り込んでしまった彼女を心配し、そっと名前を呼ぶが‥‥
「翔陽のみんなに……
健司くんにも、諦めてほしくなくて……」
( 綾……お前…… )
「奴と……」
「え……?」
「藤真とは……何か話したのか?」
「!」
牧は、分かっていた。
綾は、知らないでいた。
二人の出会いのきっかけとなった大切なバスケットを
彼女が嫌いになってしまいそうだということを‥‥
そして
彼は、既にその事実を知っているということを‥‥
「は……はい。
以前ハンカチを貸してもらったお礼に肩と、ちょっとした相談事を……
私……少しでも彼の役に立ちたくて。」
「そうか……それは、さぞ嬉しかったろうな。」
以前、津久武との試合会場で手渡された
藤真の私物である水色のハンカチーフ。
そして対湘北戦でラストに大粒の涙を流した翔陽の選手たち。
牧には彼女の気持ちが、気遣いが、優しさが手に取るように理解できていた。
それゆえに藤真を恋敵だと分かってはいても
「ちょっとした相談事」などと言って話の内容を明白にしようとしない綾にも、両者を責めることはできなかった。
「そうだったらいいんですけど……
試合直後にお邪魔してありがた迷惑だったかなって、ちょっと反省してます……」
( 余計なお世話などとは思っていないだろう。
激励に向かったことにより、藤真は……
ますますお前のことを、好きに…… )
「近いうちに、決着をつけねばならんな……」
「え? 決着……?」
意を決した牧は、そう小さく呟いた。
惜しくも湘北に敗れてしまった翔陽。
よって、海南と当たることは不可能となった。
それでは決着をつけるとは
一体どういう意味なのだろうか。
彼の真意が掴めず、疑問符がつく綾。
以前にもそんなことを言っていた様な気がするがこの時は特に深く追及することはなかった。
今はその意味合いよりも他に、気にかかっていたことがあるためだ。
「あの、牧先輩……」
「何だ?」
「先輩は人前で泣いたりしないんですか……?」
「……!?」
牧は受話器の向こうで驚いた顔をしていた。
が、彼女が何故こんな質問をするのか理由を聞いてくることはなかった。
二人の運命的な出会いから、約二年。
極力バスケの話題を避けたかったのもあるが綾は牧が涙するところを一度も見たことがなく、この機会に知っておきたかったのだった。
ー すると
「男はそう易々と泣かないものだ。
これは俺だけかもしれんが……
男が涙するのは
勝負に敗れた時と、好きな女を失った時……
この二つだけだ。」
「そ、そうなんですね……
先輩は心身ともに本当にお強い方ですよね。すごいなぁ……私なんて、しょっちゅう泣いちゃってるし……」
ダメだなぁと、小さな声で呟く。
( 紳ちゃんも……ひょっとして
私と離れ離れになって、淋しかったのかな。
一人で……泣いたのかな……?
健司くんも、ものすごく悔しかったよね…… )
彼の言葉に衝撃を受けた綾は
牧や藤真の心情などを考え、やるせない気持ちに苛まれていた。
「…………」
一方、牧は彼女の言葉に何を思ったのか‥‥?
わずかに沈黙の状態が続き
そして‥‥彼は愛しき人の名を呼んだ。
「綾。」
「はい……」
「神の口から全てを聞かされたんだろ……?
頼む……極力、一人きりにならないでほしい。」
「え……先輩……?」
突然の忠告と警告に戸惑いを隠せない。
深刻な物言いに綾は思わず息を呑んだ。
牧は話を続ける。
「アイツは、結構ヒステリーな女でな……
今ごろ相当頭にきているはずだ。
いつ、どのようなことを仕掛けてくるか分からない……用心しておいてほしい。」
「そ、そんな……」
「このような事態に陥ってしまい……
そばで見守ってやることもできず、重ね重ね申し訳ない。
もしお前の身に何かあったら、俺は……!」
( 紳ちゃん…… )
服従しなければ、彼女を酷い目に遭わせる。
脅迫にも近い猟奇的なその発言。
綾は初めて聞かされた時からとてつもない恐怖を感じていた。
歯を食いしばり、わなわなと拳を震わせ非力な自身を恨む牧。
そんな彼の口述に対して、彼女は
「先輩……そんなに自分を責めないでください。私なら、大丈夫です!」
「……!」
「牧先輩には言ってなかったですよね。
私……体力をつけようと思って、少し前に朝のロードワークを始めたんですよ。
もちろん、食事もしっかり摂ってます!」
試合直後に倒れてしまった彼女は
毎日、とまではいかないがその日以降、早朝ランニングを懸命にこなしていた。一念発起した理由は周囲の人々に再び迷惑をかけない様に体力作りと、そして牧の恋人として少しでも相応しい女性に近付くためであった。
「もちろん、怖くないと言えば嘘になっちゃいますけど……私、今までずっと貴方に甘えて、頼ってばかりだったから……
自分の身は自分で守らなきゃダメですよね。
だから、心配ご無用です!」
と、彼に心配をかけぬよう明るい声で話した。
ーー‥
私……また倒れたりみんなに迷惑かけないように
たくさん栄養摂って、たくさん体力つけるよ!
紳ちゃんに嫌われたら、イヤだもん……!
‥ーー
歳上だからと言って、いつまでも
彼に甘え続け、頼ってばかりではいけない。
牧には、綾が今無理して笑っているのだと
さらには必死に恐怖心を隠し、強がっている様に思えて仕方がなかった。
「綾……」
( 宗くんの言う通りにして……
電話をかけてみて、本当に良かった。
もし目と目を合わせて話していたとしたら
この不安定な気持ちも、強がっているのも
全部……すぐ顔に出ちゃって
貴方に……
紳ちゃんに、きっとバレてしまうから…… )
「綾……無理をするな……」
「え……?」
彼女の言葉や気持ちとは裏腹に
牧は静かに、とても優しい口調で話しだした。
「甘えられる時は、存分に甘えてもらって構わない。
それに男は女に頼られたい生き物なんだ。
一概にそうとは言い切れないかもしれんが……
少なくとも、俺はそう思っている。」
「せ、先輩……」
「だからもう、一人で抱え込むな。
どんな些細なことでも
何かあれば、すぐに連絡してくれ……!」
( どうして……?
なぜ、貴方はそんなに優しいの……?
そんなこと言われたら、期待しちゃうよ……
たくさんたくさん、甘えたくなっちゃうよ……? )
「はい。ありがとう、ございます。
じ、じゃあ……
牧先輩、私のこと……守ってくれますか……?」
「当然だ……!
お前が全力で応援してくれるのなら、
俺も全力で守り抜いてやる。
この命に代えても、必ずな……!!」
" 愛する人を守り抜く "
遠慮したり、虚勢を張る必要なんてない。辛い時や苦しい時、悲しい時には
たくさん甘えて、たくさん頼ってきてほしい。
己の身を削ってでも‥‥
命を懸けてでも守ると約束してくれた彼に、今までの人生の中でこれ以上にない感銘を受けた綾。
( 紳ちゃん……本当に、ありがとう……… )
その後、二人は眠りに就いたのだった ‥ーー