喪失〜再愛 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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アイツと一緒に見る景色は、どんなものだって新鮮に思えた……
ーー‥
ねぇ、紳ちゃん!
私たち、あと少しで付き合って一年になるね!
私……紳ちゃんの彼女になれて不安なこともたくさんあるけど、本当に嬉しい!
大好きな人と好きなことを共有できるんだもん。これ以上の幸せなんてないんじゃないのかな?
この澄み切った青空に、そよ風も
あそこにいる小鳥やワンちゃんも
みーんな、私たちをお祝いしてくれてるみたい!
な~んて……変かな?
どんなに見慣れた場所や景色だって
捉え方次第で、見方が変わるんじゃないかなぁって思うんだ。
ふつつか者ですが……
これからもよろしくお願いします。
‥ーー
お辞儀をして恥ずかしそうに笑う綾。
二人が交際をスタートしてから一周年。
彼女が高校に入学したのと同時に迎える、大事な記念日。
その当時の記憶は、まるでつい先ほど起きたことの様に鮮明に思い出されていた。
( 綾……… )
三年ほど前‥‥
無理矢理とも言えるほどの猛アプローチにより半ば強制的に交際する羽目になった、牧と同学年であり元恋人の雨宮かおり。
先日、海南の体育館に突如として現れた彼女は二人の仲を引き裂こうと企み、己の欲望のためにまたしても牧の前に立ちはだかった。
湘北対翔陽戦のあと、藤真と対立した牧は会場を後にした。その足取りは非常に重く、ずっと浮かない顔をしたまま‥‥
とある待ち合わせ場所へとやってきた。
その場所とは街中の小さなフラワーショップ。
大きな駅前にある花屋の様な派手さは無いが、店先には四季折々の花々が並んでおり不便さは全く感じられない。地域密着型の店舗としては十分なクオリティだと言えるだろう。
「かおり。」
「紳一!? 遅いじゃない! 今までどこほっつき歩いてたのよ! 待ちくたびれたわよ!」
「……悪い。ちょっと野暮用でな。」
そう、二人はデートの約束をしていたのだった。待ち合わせの時間にほんの少し遅れた牧は謝罪をしたが、まさか彼女に‥‥綾に会っていたとは言えるはずもなかった。
ましてや、プレゼントやラブレターを手渡したなどと口が裂けても発言してはならない。
その理由は無論、大切な女性を守るためだ。
「ふーん。まぁいいわ。それより、どうして待ち合わせ場所が花屋の前なワケ!?」
「それは……」
先ほどからずっと怒り口調のかおり。
自分でも何故ここをセレクトしたのか分からなかった。おそらく‥‥
以前、綾と何度かこの花屋を訪れたことがあり、記憶に根付いていたからなのかもしれない。
「…………」
「紳一?」
神妙な面持ちになり黙りこくってしまった牧。ふと店に目をやると、ある花が視界に入った。
( あの花は……! )
それは
何者にも染まらず純白で、且つ花びらの小さな6月の今が咲き頃の、カスミソウだった。
複数の蕾が開花し可憐に咲き誇っている。
「なぁ、かおりは花に興味あるか?」
「はぁ? 全く興味ないわ。
すぐ枯れるし、手入れとか面倒だし。
って、花なんてどうだっていいじゃない! せっかくのデートなのよ? 楽しみましょ!」
「……そうか。」
全く関心がないと即座にそう言い放つかおり。牧は、先ほどから例の花を見つめたまま。
思い出すのは愛する人の‥‥綾の笑顔。
( 以前、こんなことを言っていたな…… )
ーー‥
「紳ちゃん、見て~!
カスミソウがこんなにいっぱい!
綿菓子みたいにフワフワしてて可愛いよね。」
「綿菓子? お前は本当に花が好きだよな。」
「うん、大好き!
一つ一つは小さくて一見物足りない感じがするけど……花束にする時にね、他の大きなお花と合わせると際立ってすごくキレイなんだよ~。」
「ほぅ……」
そう活き活きと話す綾。牧はズボンのポケットに両手を突っ込みながらも興味津々に話を聞き、その横顔を見つめている。
その時‥‥弱い風がふわっと吹いた。
そよ風になびく、サラサラな長い髪。
綾はごく自然にその髪を耳にかきあげた。
「……!!」
その仕草がやけに色っぽくて、牧は顔を赤らめた。
時折り見せる、純情な少女の中に潜む女の色気。思わず生唾を飲み込んだ。
「紳ちゃん? どうしたの?」
「……いや、どうもしていない。大丈夫だ。」
「そう? それなら良かった!」
( 不意打ちはマズいな…… )
牧は未だ赤面させたまま、隣にいる彼女にバレない様に片方の手を顔に被せていた。
当の本人はそのことには気付かず話を続ける。
「カスミソウ、白くて小さくて……
主張し過ぎないところが良いよね?」
「ん……?」
「紳ちゃんは大きなバラで、私は小っちゃいカスミソウ。
私も、脇役でいいんだ。
紳ちゃんのお邪魔にならないように、陰でそっと見ていられれば。ずっと……」
「綾……」
途端に儚げな表情をして自分たちの関係を花束に例えた。
花びらを優しく撫でながら話す彼女に、牧は
「それなら……俺は安泰だな。」
「え……?」
綾は頭を上げ、彼の顔を見た。
「たとえ小さくとも、俺のそばには……
周りにはいつも笑いかけて勇気づけてくれる人がいる。だから、ずっと前を向いていける。」
「……!」
「それに、その脇役がいてくれるからこそ主役が引き立つんだぜ。」
「紳ちゃん……」
「お前は決して邪魔なんかじゃない。」
と、優しく微笑みながら綾の頭に手を置いた。
名脇役がいるから、陰で支えてくれる人がいるからこそ頑張れる。前へ前へと突き進んで行ける。
牧にとって彼女は大切なパートナー。
咄嗟に心の内を察し、励ましの言葉をかけたのだった。そんな親切な気持ちに胸を打たれた綾は、しみじみとこう呟く。
「すごいなぁ……紳ちゃんは、大人だなぁ。」
「そんなことはない。たった二つ差だろう。」
「うん、そうだけど……落ち着いてるっていうのかな? 貫禄みたいなのがあるよね。
いつも見習わなきゃって、そう思ってるよ!」
「サンキュ。
俺も、綾の知識にはいつも驚かされている。花や料理のことなどはあまり詳しくないからな。勉強になるよ。」
「えへへ……ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい!
私たちって考え方が似てるのかなぁ? 紳ちゃんと話すの、とっても楽しい!
自然と笑顔になっちゃうんだ。」
「ああ、俺もだ……」
‥ーー
今度、紳ちゃんの部活がオフの時に……
長いお休みが取れたら、お花畑に行きたいな。
たくさん摘んで花冠にしたいんだ。
似合うかな?
お弁当も作って、写真もいっぱい撮りたいね。
二人で一緒に行こうね!
約束だよ、紳ちゃん……!
‥ーー
過去に交わした、綾との約束。
カスミソウの花言葉は
「清らかな心」や「無邪気」‥ーー
子どもの様にはしゃぐ彼女の姿が、声が、笑顔が‥‥二人で過ごした思い出がとめどなくあふれ、牧の脳内を埋め尽くす。
お互いがお互いを必要とし、尊敬し高め合う。
そして何よりも、大事なのは
" 一緒にいて楽しい " ということ‥‥
( っ……綾……!!)
牧の心は‥‥もう、限界だった。
ーー
その後、街の喧騒から離れた二人は
あまり人気の無い野原の道を歩いていた。
「見て、新作のルージュ。
この口紅の色、なかなか良いでしょ?
高かったんだから。」
収納していたポーチから購入したばかりだと言う口紅を取り出し、牧に唇を強調して見せた。
「…………」
化粧が濃く、外見ばかりを気にしているかおり。以前からこの様に事あるごとに自分を猛アピールしていた。
そんな彼女に嫌気が差した牧は、返事をせず目を背けていた。
無視をされ、全くこちらを向いてくれない彼。
その態度に腹を立てたかおりは、ついにその怒りをぶつけた‥‥!
「紳一! あなた、さっきから変よ!?
私が何を言ってもずっと上の空じゃない!!
ねぇ、聞いてるの!?
黙ってないで答えなさいよ!!」
「もちろん聞いている。あまり騒ぎ立てるな。」
「なっ、何ですって!?」
やっと返事をしてくれたものの、彼はやはり目を合わせてはくれなかった。
その視線の先は
野道にひっそりと咲く、小さな小さな花だった‥‥
「ふーん。花、ね……
なるほど、そういうことだったのね。
これを見てあの女を思い出すのなら、こんなもの、こうしてやるわ!!」
牧がずっと浮かない顔をしていた理由。
それが判明した瞬間
かおりは、花をグシャッと踏み潰した!
「!!」
「なっ、何てことを……!!」
突然の事態に、牧はとんでもなく驚いている。
突如として生命を断たれた、何の罪も無い一つの植物。
見るも無惨なその光景に‥‥
「フン、あなたが悪いのよ。」
何か大切なことを思い出すかの様にハッとした。
どんなに小さな花だって、大輪の花を咲かせる資格を持ってる……! よね?
愛しの彼女による激励のメッセージ。
以前、かおりの手によってボロボロにされてしまった例の栞。
あの日以来、牧はずっと大切に保管していた。
そして‥‥
ーー‥
私ね、綺麗なものを綺麗と言ってくれる人が好き! 趣味や価値観も同じ人がいいな!
それって……牧さんが、そうなんですね……?
うん……
‥ーー
一時も‥‥忘れることはなかった。
感性や価値観が同じ人が好きだと
照れ臭そうに話していた、彼女の姿。
今後もずっと一緒にいようと
守り抜くと誓った、たった一人の最愛の女性。
( 綾……!!)
彼の心の中にもう憂いは‥‥迷いなどなかった。
「相変わらず、性根は腐ったままか……」
「え? 何よそれ?」
牧はかおりときちんと向き合い、真剣な表情で話し始めた。
「かおり……悪いが、今すぐ別れてくれ。」
「はぁ!?」
「お前には、ほとほと愛想が尽きた。
二度と俺たちの前に現れるな!!
例の写真もすべて処分させてもらう!!」
「や……約束が違うじゃない!!
紳一!! 自分が何を言ってるか分かってるの!?
私を裏切るのなら、あの女の身包みをはいで、滅茶苦茶にしてやるんだから!!
それでもいいって言うの!?」
「……それでも構わん。」
「!?」
「俺のこの手で……身を挺してでもアイツを……綾を、守ってみせる!!」
「なっ……!」
「アイツがいないと……
アイツでなければ、ダメなんだ……!!」
「し、紳一!!」
「……じゃあな。」
かおりに背中を向け、立ち去っていく牧。こうして元恋人に再び別れを告げたのだった。
そしてこの出来事は
当然の如く、彼女の逆鱗に触れてしまった。
( 許さない、許さないんだから……!!)