喪失〜再愛 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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牧の心の奥底に‥‥
導火線に火を付けたのは、彼女のこんな一言からだった。
ーー‥
「紳ちゃん、スラムダンクやってみせて!」
「何? ダンクだと……?」
「うん! 私、紳ちゃんがしてるところ見てみたいな!」
とある日
闇の静寂に包まれた、海南の部活後の体育館。
恋人同士である牧と綾。
二人はバスケットコート上に佇んでいた。
「藪から棒に、どうした?」
突然の申し出に驚く牧。
使い慣れたタオルで顔全体に滴る汗を拭いながらそう話す。己に厳しく、人にも厳しく
主将としての威厳を保ちつつ、勝ちに貪欲で常に努力を怠らないストイックさも兼ね備えている。
その器たるや風貌はとても高校生には見えないほどだ。そんな貫禄のある彼だが、唯一の心の拠り所である最愛の女性を前にし、口角を上げニヤリと優しい微笑みを向ける。
「前にね、チームのみんなと試合を観てたんだけど武藤先輩と高砂先輩のダンクがドーン!って迫力があって、凄かったの!
でも紳ちゃんは一度もしないままだったから、見てみたくて……」
と、綾は両手でボールを抱き締め、やや興奮状態で当時の試合内容を振り返っていた。
その試合とは、牧が高校1年の頃。
天下の強豪・海南と翔陽の公式戦だった。
試合後、コートの中心で握手を交わし友情を誓い合った三人。今後もずっと忘れることはないであろう大切な過去の記憶。
当時、綾に淡い恋心を抱いていた牧。
もちろん彼自身もあの日の出来事を鮮明に覚えていた。
「……俺はあくまでもPGだ。
周囲の状況を的確に判断せねばならん。
それに試合中は簡単にダンクできるほど甘くはないぞ。特に男子バスケットの世界ではな。」
「そっか……そうだよね。
じゃあ、この先もずっとやらないままなの?」
「お前も経験者なら分かっているはずだが……
正確には
" やらないのではなく、やる必要がない "
という表現が正しいかもしれんな。」
そう、牧のポジションはポイントガード。
「コート上の監督」と呼ばれている様に冷静な判断力・決断力が求められる、チームのまとめ役にして中心的存在だ。それに加え、試合中の素早い展開に対応できる賢さと強い足腰・体力は必要不可欠。
184cmの長身に、パワー、ジャンプ力。
決して体力負けしないバスケにより鍛えられた強靭なそのカラダ。ドリブルやパスの上手さと言った技術面にも長けている彼には最適なポジションであると言えるだろう。
以上の点を踏まえて
ダンクを敢えてやろうとしないわけではない。だが、特にする必要もないと話す牧。
これも「帝王」と呼ばれるゆえの余裕か‥‥
「紳ちゃん……」
牧がバスケの話をする時は、決まって
勝ち気や自信に満ちあふれ生き生きとした表情をしている。綾はそんな彼の顔を見るのも好きだった。
今まで雲の上の存在だったのに。
現在では当たり前かの様にその凛々しい顔を間近で見ることが、見つめることができる。それは
" 彼女である自分だけの特権 "
なのかもしれない。
その最愛の人のダンク姿が見たかった。
遠回しに拒否された様な気がして、段々と声のトーンも下がっていく。
「急に変なこと言って……ごめんなさい。」
しょぼんと落ち込んだ様子の彼女に
「まあ、お前がどうしてもと言うなら……」
「……本当? いいの?」
「ああ、仕方ないな。」
「ありがとう! 嬉しい~!」
惚れた弱みと言うやつなのか。
綾の悲しそうな顔を見ていられなくなった牧はOKサインを出した。
喜怒哀楽の感情がすぐ表に出る相変わらずの正直さと素直さに笑みがこぼれる。
「ならば、交換条件として
綾は横から声援とリターンパスを頼む。少しは緊張感というか、臨場感がないとつまらんからな。」
「わかった、いいよ~!
だけど……緊張感かぁ。
それなら、誰かの姿を思い浮かべてみたら?
紳ちゃんがライバル視してる選手っている?」
「…………」
神奈川ナンバーワンとして全国にその名を知られている牧。
彼女の質問に対し、少しの間黙り込む。
様々なプレイヤーの顔が脳裏をよぎっていた。
ー そして
「いや……おそらく大抵の奴らはこの海南を、俺を倒そうと疎ましく思い敵視しているだろう。
だが、強いて言うなら……」
そう言って牧はこちらにゆっくりと歩み寄り、彼女の顔を真剣な表情で見つめている。
「……?」
「アイツだ。」
ーー‥
「なあ、牧。春野は本当にいい女だよな。」
「そうだな。」
「彼女と一緒にいると、何故だろうな……
とても心が落ち着くんだ。
決して自分を着飾ろうとせず、相手の波長に合わせてくれる。俺は今までそんな女性(ひと)に出会ったことがなかった……」
「貴様……何が言いたい?」
「牧……!! 俺と勝負しろ!!」
「何!?」
「お前が彼女を好きなことも、二人が惹かれ合っていることも……分かっている!」
「!」
「だが俺は……
いつかきっと……いや、必ず……!
春野の心を手に入れてみせる!!」
( 藤真……!!)
「上等だ。」
‥ーー
一人の女性を巡る争奪戦。
牧は以前から、藤真にバスケットでケリをつけようと挑戦状を叩きつけられていた。
次の瞬間、目つきが変わり腕に力を込めた。
「綾!! 行くぞ!!」
「うん! 紳ちゃん、頑張って!」
遠く離れた場所から、まるで自分の体の一部の様に巧みにボールを操りドリブルをする牧。
ダン! ダン! とフロアに激しくボールを突き、バッシュのキュッと擦れる心地良い音色が館内中にこだまする。
走りながら、綾に素早くパスを出す。
「ここでリターンだ!」
「はいっ!」
すかさずパスを返した!
そして、バスケットゴールを捉えた彼は
右手にボールを抱え、勢い良く高く跳躍し
「 うらあっっ!! 」
ドゴッッ‥‥!!
雄叫びと、凄まじい轟音と共に
リングに思い切りボールを叩きつけた!
「!!」
ゴール全体がミシミシと揺れ、その衝撃を物語っている。
「わぁ……!
し、紳ちゃん!! すごーいっっ!!
カッコいい!!」
その場で小動物の様にぴょんぴょんと飛び跳ね、大興奮の彼女。
生まれて初めて目にした
愛しの彼による、渾身のスラムダンク。
この先、一生忘れることはないであろう。
綾は嬉しさと喜びとで胸がいっぱいになった。
その表情は牧や藤真が、彼らが愛してやまない
はち切れんばかりの最高の笑顔だった ‥ーー
「……綾。」
「ん?」
「お前……バスケットは、好きか……?」
「うん、もちろん!
バスケットも、紳ちゃんのことも、大好きだよ!」
「そうか……」
「紳ちゃん?」
「俺も……好きだ。
これから先も、目の前にどんな奴が立ちはだかろうと、絶対に負けたりしない。
俺は、お前を誰にも渡さない!!」
「うん……ありがとう……
牧紳一は、すごい人だもん! 必ず勝ってね!
私も、この先どんな困難が待ち構えてるとしても、貴方だけを見てるから……
だから
これからもずっと一緒にいてね、紳ちゃん!」
「ああ……もちろんだ。」
二人はコートの中心で熱い抱擁を交わした。
大きくて厚い胸板に顔を埋め、綾も背中に両手を回した。小さな体は牧の腕によってすっぽりと包まれている。
体温が、汗ばんだTシャツのニオイが、息遣いが
そのどれもがダイレクトに伝わり、頬をほんのりと紅潮させた。
また、先ほどのダンクの余韻が残っているのか互いの心臓の鼓動は鳴り止むことを知らずドキドキしっ放しだった。
「綾……」
牧は、さらにぎゅっと抱きしめる腕に力を込める。
「紳ちゃん……? 苦しいよ~……」
「す、すまん……」
「でも……紳ちゃんのここ、あったかい……」
包容力と、広くて頼りがいのある彼の腕の中。
ここは綾にとって、一番の安らげる場所。
いつまでも、ずっとこのまま
夢見心地でいたい。そんなことを考えていた。
ー バスケットにより始まった二人の恋物語 ー
この幸せを、彼女の笑顔を守りたい。
辛い思い出になど……
奴らにダンクなど、絶対にさせん!!
させてたまるか……!!
そう心に強く誓った、17歳の春だった ー