喪失〜再愛 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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ーー
二人が喫茶店を出る少し前のお話。
幸福を呼ぶとされる四つ葉のクローバーのアクセサリーに、牧の想いがたくさん詰まった直筆のラブレター。
綾はそれらを大事そうにカバンの中にしまった。
また、真実を全て受け入れた彼女の表情は入店直後とは打って変わって実に清々しく、晴れ晴れとしていた。
「安心したら何だかお腹空いちゃった!
宗くん、今度こそ一緒に食べよっ!」
「……うん、そうだね。」
未だほぼ手付かずのサンドイッチ。
憂いが自信と勇気に変わった今、無性にお腹が空いてしょうがない。
" 腹が減っては戦はできぬ "
昔の人はよく言ったもんだなぁ、などと悠長なことを考えていた。
そう、恋する乙女だって戦と同じなのだ。
「あーーっ!」
「ど、どうしたの?」
突如、綾が叫んだ。
もちろん店に迷惑のかからない声量で。
ただならぬ様子に動揺した神は、慌てた口調で尋ねた。
「オレンジジュースが……
氷で薄まって水みたいになっちゃった……!」
「へっ……?」
彼女の思わぬ回答に、神は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしていた。
「ゔぅ、美味しくない……
まだ一口しか飲んでなかったのに……」
うるうると目に涙を浮かべ、肩を落とす
綾。本人は相当ショックだった様だ。
その光景を見た目の前の彼はというと‥‥
「ぷっ……」
「そ、宗くん?」
「くくっ……綾ちゃん、面白すぎ……」
笑いをこらえるのに必死だった。
大声を出したいのを我慢して耐えている様だ。
「も~っ! そんなに笑うことないじゃん!」
「ごめんごめん。何事かと思ったよ。」
頬を膨らませ、プンプンと怒りを露わにする綾。滅多に見せないその貴重な姿を目の当たりにした神は謝罪をしつつも、とても楽しそうだ。
「せっかく、宗くんとお話しながら楽しく飲もうと思ってたのに……」
シュン、と途端に伏し目がちな表情になる。
( 綾ちゃん。)
「そっか、気が利かなくてごめん。
最初から氷抜きにしてもらえば良かったね。もうひとつ追加で注文しようか?」
「ううん、宗くんのせいじゃないよ。
それに余計なお金かかっちゃうし……遠慮しとく。」
彼女の本音を聞いた神は自分の過失だと詫びを入れた。その後、うーんと腕を組み、何か良い打開策はないものかと考え抜いた末にあることをひらめいた。
それは‥‥
「俺のウーロン茶も薄まってるけど、お茶だからそんなに被害がないみたい。
なんなら、交換しようか?」
「!」
( なんてね。そんなことしたら、間接キス…… )
そう、彼が思いついた策とは、単純に自分の飲み物と交換すれば良いのでは? ということ。
しかしお茶であってジュースでない。
また、それは「間接kiss」を意味している。半分勢いとジョークのつもりだったのだが‥‥
「飲みかけだし……さすがに嫌だよね、ごめん。」
「いいの!?」
「え……?」
まさかの反応に思わず声を漏らす。
「じゃあお言葉に甘えて、交換してもらおうかな? ごめんね、私が早く飲まなかったばっかりに……」
「え……う、ううん……」
綾は顔の前で両手を合わせ、申し訳なさそうに神を見る。その仕草に胸が高鳴った。
そして綾はグラスを交換した後、先ほどまで神が使用していたストローの先端に躊躇することなく口を付け、何も無かったかの様に残りのウーロン茶を飲んだ。
「!!」
「美味しい~!
ほんとだ、お茶なら多少薄くなっちゃっても大丈夫だね、ありがとう! 宗くんも飲んでいいよ?」
すっっごく薄いけどね、と舌を出して苦笑いをする綾。
彼の心臓の動悸は激しくなる一方で、おさまることを知らない。
「う、うん……」
ドキドキ‥‥
ドキドキ‥‥
( 信長や牧さんにも……すごく罪悪感が……
でもこんなチャンス、もう二度と無いかもしれない……
それに、こんな至近距離で見つめられたら嬉しいけど……断れない…… )
そう、少し前から綾にずっと見つめられている神。彼の頭の中はパンク寸前だ。
「宗くん?」
「じ、じゃあ……いただくね。」
ゆっくりとグラスを持ち、ストローにそっと唇を付けた。
ゴクッ‥‥
「美味しいね、このオレンジジュース……」
そのまま飲み干した神を見て、彼女は
「え~? 嘘だよ~。あんなに薄かったのに。全部飲んじゃうなんてすご~い!」
そう言って、綾は口元に手を添えながら満面の笑みを向けた。
「!」
( 綾ちゃん、可愛いすぎる……!
お互い、間接キス……しちゃったね。)
「ねぇ、今の俺たちだけの秘密にしない?」
「え? 飲み物を交換したこと?」
「……うん。」
突然二人だけの秘密にしようと言い出した神。が、肝心の彼女は事の重大さに気付いていないらしく、首を傾げていた。
「いいよ? じゃあ、指切りしよっ!」
「指切り?」
「あ、待って! ……もし、守れなかったら?」
秘密を守れなかった場合は一体どうなるのか?
何かお仕置きはあるのかと突如不安に駆られた綾は、おそるおそる神に尋ねた。
「うーん。針千本はさすがに可哀想だから、毎日シューティングの練習を1000本とか?」
と、悪戯な微笑みを向けながら地獄の様な事柄をさらっと言いのける。
「む、無理無理~!
私、絶対に口外しないからね。約束ね!」
「「 秘密をバラしたらシュート練習1000本!指切った!」」
「えへ、これでOK! 二人だけの秘密だね!」
「!!」
二人は小指と小指を絡み合わせた。無邪気に笑って話す彼女に、神は全身が真っ赤になるぐらい熱をもった。
「もう俺……どうなっても、いいかも……」
「そっ、宗くん、大丈夫?
顔が真っ赤だよ? 熱があるんじゃ……!?」
( 綾ちゃんが鈍くて良かった…… )
天真爛漫な綾に翻弄されっぱなしの神。
おそらく公式試合よりも緊張したであろう今回の出来事。
極端に濃度が低下したジュースを交換し合ったと言う、彼女にとっては何でもない決まり事。
まるで子どもの様に戯れあって
二つの小指で交わした、小さな小さな約束‥‥
本当は帰したくない。
このまま俺だけのものにしたい。
その笑顔をずっとずっと……見つめていたい。
薄まったオレンジジュースは
初恋のように甘酸っぱくて優しい味がした ‥ーー
この日のシュート練習は
万が一の時のために1000本を目標に張り切って行った? 神なのであった。