喪失〜再愛 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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「綾ちゃん……大丈夫?」
すすり泣きをしたまま黙り込んでしまった彼女。神は優しく声をかけた。
ぐすっ‥‥
「会いたい……彼に会って……謝りたい……
私も、好きって、早く伝えたいよ……」
「そうだね。牧さん、ずっと待ってるって。
……早く行ってあげたらいいのに。」
「うん……でも私……もう、フラれて……
嫌われたのに……
それに、どんな顔して会ったらいいのか……
勇気が出ないよ……」
「…………」
会いたい‥‥だけど、会えない‥‥
綾が抱えていた不安や悩みとは
真実を知らされ全てが明らかになった今、このまま本当に復縁できるのか? 彼に嫌われていないだろうか?
そして何より、顔を合わせる勇気が皆無だということ。
自分でも理解できないほど恋に慎重に、臆病になってしまっていたのだった。
そんな彼女を尻目に、神は真剣な表情で話す。
「綾ちゃんを嫌いに……?
牧さんに限って、絶対にありえないよ。
その手紙が何よりの証拠なんじゃないかな。」
「で、でも……」
「……知ってた?
「好き」の反対は「無関心」なんだよ。」
「え……?」
「本当に嫌いだったら、わざわざ手紙を書いたりプレゼントなんて用意しないんじゃないかな。」
「宗くん……」
「好き」の対義語は「嫌い」ではなく、無関心。
なんとも思っていない人間に対して必死にアプローチなどしないと断言した。
神はふぅ。と一息つくと、世話が焼けるなとでも言った様な困惑した表情で話を続ける。
「……天の邪鬼なんだよな、二人とも。
好きなクセしてさ。
牧さんと綾ちゃんって似てるよね。
優しすぎるんだよ、どっちも。
だからお互いに一歩引いて、お互いを傷付けてしまっている。」
「……!」
先日、藤真が発していた言葉が思い出された。
ーー‥
……相変わらず、優しいんだな。
時にその優しさが人を傷つけることもあるんだ。牧の気持ちも分かってやってくれ。
‥ーー
優しさとは時に人を励まし、あたたかい気持ちにさせてくれる。
が、時と場合によっては残酷なものでもあり知らず知らずのうちに誰かを傷付けてしまう恐れがあると‥‥
( 健司くん…… )
「それに……綾ちゃんは勇気があると思うよ。」
「え……?」
「昔、フラれたことがあるって言ってたよね。
電話ってさ、ガチャって切られたらそれでもうおしまいでしょ?
むしろ普通の告白よりも難易度が高いんじゃないかな。相手の反応が見られないって不安だよ。俺なら無理だな……」
「……!」
自分にはできないと、神は彼女の過去の行いを静かに讃えた。
自身はその相手側の反応を見るのが怖くて、電話で告白する手段を選んだというのに。
まさかの発言に綾は驚いていた。
「ねぇ、確か牧さんとは中学の頃に出会ったんだよね。どっちが告白したの?」
「中三の春に……せ、先輩の方から……」
「そっか……じゃあ、今度は綾ちゃんが牧さんに告白する番だね。」
「えっ……告白……?」
「うん。電話してみたらいいんじゃないかな。例の男にした時みたいに。」
「!」
「さっき、好きってちゃんと言えたよね?
そっくりそのまま伝えなよ。
牧さん、きっと喜んでくれると思うよ。」
等身大の自分を、想いを‥‥
自分の言葉で精一杯伝えてくれた牧へ。
今度は綾がそれに応える番だと、きちんと気持ちを伝えるべきだと彼は言う。
「牧さんと、俺の分まで幸せになってねって、約束したよね……?」
「うん……私、頑張ってみるよ……!」
その後、宗くんは笑ってた ‥‥ーー
( 真実を打ち明けてくれて、本当にありがとう。
私は貴方を振ってしまったのに……
そのフラれた相手の相談に乗ってあげて、
元気づけようと楽しく場を盛り上げてくれて、
極め付きには告白をするよう促してくれて……
宗くん……本当はきっと、すごく辛いよね?
無理して笑ったり……してないよね……?
ごめん、ごめんね……
でも……
ありがとう……
貴方のおかげで、俄然勇気が湧いてきたよ。
まだすごく小さいけど……
こんな、ひとかけらの勇気しかないけど……
彼ともう一度、しっかり向き合ってみるね。
今度こそ逃げないで、ちゃんと伝えるから。
踏み出して行くから…… )
神の言葉の一つ一つが、綾の荒んだ心をじわりじわりと溶かしていった。
一度は諦めかけた愛しの彼への恋心。
一歩ずつでも着実に、きちんと想いを伝えよう。そう胸に誓った彼女は
「宗くんって、すごいね。」
「え?」
「心の引き出しをそっと開けてくれて……
いつもいつもピンチの時には助けてくれる。
やっぱり、宗くんは救世主だね!」
「……!」
以前、学校の体育館で綾に言われた言葉が頭をよぎる。
ーー‥
神先輩、声をかけてくれてありがとうございます!
もうどうすれば良いのか分からなくなっちゃって……先輩が救世主に見えちゃいました!
‥ーー
「宗くん、本当にどうもありがとう!」
ニコッと微笑み、感謝を告げた。
神宗一郎という人間は本当にすごい。
なぜなら相手の気持ちを察して寄り添い、その人によって最善策は何なのかを瞬時に考え一番良い方向へと導いてくれるから。
それもごく自然に、さり気なく‥‥
頭の回転の早さや思いやりの心を持った救いのヒーローだと率直な感想を述べた。
「……友達なんだから、助けるのは当たり前だよ。
それに俺は、どこにでもいそうな
単なるバスケ好きで平凡な高校生だよ。」
彼女の笑顔を目の当たりにした神は
照れ臭さからか、視線を逸らしてそうぼやいた。
「ううん。宗くんはちっとも平凡じゃないよ。
私なんかよりも、ずぅーっと、非凡だよ!
いつも人一倍努力してるの知ってるもん!」
綾は視線を逸らすことなく、そう返した。
彼女のそんな優しさや純朴さ、素直さに
彼の心拍数は上がるばかり。
「綾ちゃん、ありがとう……」
ー そして
そろそろ出ようか。と告げた後、神はひとり会計を済ませに行った。
綾も財布を提示し支払う意思を見せたのだが
「誘ったのはこっちなんだし、ここは俺に払わせて。」
と、またしても奢ってもらってしまった。
牧と付き合っている時にも思っていたことだが
彼も神と同様、色々な場面で女性を立て紳士的に接してくれていた。
そんなスマートな立ち振る舞いにいつも感心していた綾はいつか才色兼備で素敵な大人の女性にと、密かに憧れを抱くのだった。
ー 店を後にした二人は
「宗くん、今日は本当にありがとう。
お金……払ってもらっちゃってごめんね。
たくさんお話できて楽しかったよ!」
「気にしないで、男なら当然だよ。
俺もすごく楽しかった。
どう? 少しはデート気分を味わえた?」
と、自分よりも背丈の低い綾の顔を覗き込む様にし、そう茶化した。
「えっ……デート……だったの……かな?」
「少なくとも、俺はそのつもりだったんだけどな。」
「え……」
何度言われても慣れない、デートと言う一つの単語。綾はまたしても頬を赤く染め、彼の目を見た。身長差によりどうしても上目遣いになってしまう。
( 可愛い…… )
「宗くん?」
照れ隠しなのか、神はすぐに話題を変えた。
「さーて。
今日もシュート練習、頑張らないとな。」
「……私も付き合おうか?」
「ううん、綾ちゃんはダメだよ。藤真さんに言われたでしょ、早めに帰って休めって。
長いものには巻かれろって言うしさ。
それに……危ないから送っていくよ。」
「あ……そうだったね、ありがとう。」
こうして神は綾を自宅まで送り届けることに。
ただの友人ならば、通常ならばそこまですべきではないのだが人間、一度頭に血が上ると何をしでかすか分かったものではない。
牧の元恋人も同様であり、警戒が必要だ。彼なりに彼女を守ろうとしていた。
ーー
「近々、武園との試合があるんだ。
もし来られたら応援に来てね。」
「うん、いいよ。
……だけど、武園かぁ。女の子の黄色い声援がすごそうだね。
もし私が同じ制服を着て群衆の中に紛れ込んだとしたら、きっと見つけられないよね?」
試合の応援に来てほしいと綾を誘った。
もちろん、その時までに牧との関係が修復していればの話であるが。
彼女は二つ返事で了承した後、冗談まじりでこの様な疑問を投げかけた。
「何それ、新種のゲーム?」
「う~ん。間違い探しみたいな感じ?」
「ははっ、間違い探し?
綾ちゃんって突然そういう話振ってくるから面白いよね。」
「そ、そう?」
「うん。一緒にいて飽きないっていうか、話題が尽きないと言うか。とにかく楽しい。」
ーー‥
只今より、
お肉どんぶり屋さんを開店しま~す!
‥ーー
以前、綾の自宅に招待された日。ガチガチに固まった清田の緊張を解そうと、一風変わった発言をしていたことを思い出す。
目配りや気配りをし尚且つ場を和ませる。
そんな思いやりの心を持った彼女に神は癒されていた。
「ありがとう。」
「きっとそういう所が、牧さんや藤真さんも……」
「え、健司くん……?」
それから先は、言えなかった。
なぜ、今ここで藤真の名前が挙がったのか。
綾には理解できなかった。
神は話が脱線してしまったことに詫びを入れ、先ほどの問いかけにこう答えた。
「ごめん、何でもない。
それに俺……見つける自信、あるよ。」
「本当? 試合中でも?」
「うん。」
「ふふっ。すごーい、さすが宗くん!」
「……!」
もしかして千里眼の持ち主? と、綾は茶化す様にして笑う。
数時間前までは泣き崩れていたのに‥‥
全ての憂いが晴れた様な、爽やかな表情をしていた。
そんな彼女の笑顔が以前手にした写真とそっくりで神は再び顔を赤くしていた。
( 本当に、自信あるんだけどな…… )
ヨリを戻すのも時間の問題かな、と天を仰ぎながら心の中でそうぼやいた。
嬉しいような、悲しいような‥‥
何とも言い難い複雑な心境だった。
二人並んで歩く、見慣れた街並み。
何の変哲もないこの景色。
一人でいる時とは違う風景に見えるのはどうしてだろう?
今彼女のそばにいるのは牧ではなく自分であり、視線の先にいるのも自分。
それは紛れもない事実。
舗装された道を歩く度に別れの時間が刻一刻と迫り、焦りを感じていた。
ふと視線を落とすと、隣で楽しそうに笑っている綾。
あと少しで楽しい時間は終わってしまう。
この笑顔を独占できなくなる‥‥
そう思うと、切なくて、苦しくて
神の胸をぎゅっと締め付けた。
「…………」
「宗くん、どうかした?」
「ううん……何でもないよ。」
「大丈夫? 元気出してね!」
「綾ちゃん……」
途切れることのない、この想い。
そして、胸のざわめき。
仲の良い後輩でも友人でもない。
少し前から抱いていた不可思議なこの気持ち。
これは " 恋 " なのだと‥‥
神はついに確信したのだった。
( やっぱり……負けたくないな…… )