喪失〜再愛 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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「とりあえず、お茶しない?」
藤真から綾を託された神。
あれから二人は会場を後にした。
彼のその一言をキッカケに「PEACE」という
まるで隠れ家の様な佇まいの喫茶店に訪れていた。壁には絵画が、壁際には大きな花瓶に入ったバラの花が飾ってある。
BGMにはクラシックをアレンジした品のある音楽が流れていて雰囲気が良い。お客もカップルが数組おりなかなかの人気店だとうかがえる。
店員に奥の席に案内され綾はソファー席に、神は椅子に腰かけ、対面式で話し始めた。
「素敵なお店だね。宗くんは、よく来るの?」
「ううん。俺もここは初めてだよ。デートにはピッタリな場所かなって思ってさ。」
「えっ……デートって……」
「牧さんや信長とはデートしたことあるよね。俺も綾ちゃんと一度してみたかったから、好都合かな。」
「そ、宗くん……?」
俺が誘ったんだけどね、と付け足す神。
まるでデートの様だとさらっと言いのける彼に綾は思わず頬を赤く染めた。
「……ウソウソ。綾ちゃん、お腹空いてるでしょ?
せっかく来たんだし、何か食べようよ。」
「そうだね。
じゃあ、これにしようかな……?」
「いかにも喫茶店って感じのメニューだね。いいんじゃない?」
現在の時刻は午後二時過ぎ。
ちょっぴり遅めのランチにしようと提案した神。卓上に備え付けてある小さなメニュー表を見て綾はとある料理名を指差し、注文をした。
こうして神と二人きりになるのは夕方の公園で告白の返事をして以来。
彼らは各学校のジャージを身にまとっている。端から見れば部活帰りにデートをしている初々しいカップルの様に見えるのであろう。
目の前の彼は、愛おしそうに彼女を見つめている。
「試合、お疲れさま。」
「ありがとう。」
「まさか相手チームの応援をするなんてね。俺もビックリしたよ。やっぱり、綾ちゃんは天使だね……」
「え……?」
以前、高頭監督から綾が「コート上の天使」と呼ばれていることを初めて耳にした海南の選手たち。もちろん神もその肩書きに驚いていた。
が、それ以前に彼は彼女がとても気遣いのできる心優しい女性であることを知っていたため
この場合の「天使」とは、どちらかと言えば後者の理由が挙げられる。綾の頭上には疑問符が浮かぶばかり。
「それに髪の毛、切ったんだね。」
「うん。変じゃないかな……?」
「ううん、すごく可愛い。似合ってるよ。」
「あ、ありがとう……三井先輩には、こけしみたいって言われちゃったけどね。」
「!」
「……ははっ、なんだそれ。ひどいなぁ。」
でもね、褒め言葉みたいだよ? と綾はクスクスと笑いながら話す。三井の名に少しばかり動揺した神は突如真顔になり、その言い草に失笑していた。
先日‥‥例の女性によってばら撒かれた、綾と三井が二人で楽しそうに笑い合っている一枚の写真を思い出していたのだった。
( 三井さんか…… )
「お待たせいたしました。」
すると、先ほど注文したものが運ばれてきた。
その品とは三角形にカットされた、小ぶりで食べやすいサイズのサンドイッチ。
中の具材はタマゴにツナ、カツの三種類。
そして飲み物はウーロン茶とオレンジジュース。グラスには氷が数個入っており、それらがぶつかり合う音色が清涼感と初夏の爽やかさを感じさせた。
「いただきまーす!」
パクッ‥‥
「すごく美味しい~! 宗くんも食べようよ!」
「うん……」
手を合わせて挨拶をした後、サンドイッチを両手で持ち幸せそうに頬張る彼女。神は返事をしたものの、何か思い詰めた様な表情でゆっくりと口を開く。
「……ねぇ、三井さんとは、よく話すの?」
「? うん、私に罪滅ぼしをしたいんだって。」
「え……? 罪滅ぼし……?」
「前にね、私の腕時計を壊しちゃったことをすごく気にしてるみたいなんだ。」
「…………」
以前、綾が路地裏で親衛隊の面々にリンチされていた際に大事そうに握り締めていた、牧からの大切な贈り物。
あの時、神は同じ現場にいた流川から不良だった三井らが湘北バスケ部を潰しにかかっていたことや彼女が非常に悲しんでいた事実を聞かされ衝撃を受けていた。
最愛の人からのプレゼントを壊された上に様々な人間から暴力を受け、挙げ句の果てにはその最愛の彼に勘違いをされ嫌われたと思い込み、大粒の涙を流し塞ぎ込んでしまっていた綾。
神は当時の自分の行いを再び省みると同時に彼女の気持ちを察し、とても胸が痛んだ。
( 綾ちゃん…… )
「昨日、先輩とレストランで一緒に食事して……
そしたらね、牧先輩が彼女さんとキ、キス……してて……泣いてもいいよって言ってくれたの。すごく……嬉しかった……」
「!?」
綾は俯きながら昨夜の出来事を簡潔に話した。衝撃的な告白の連続に、神は非常に驚いている。
「え……綾ちゃん? 今、なんて……」
「……すごくスタイル良くて、キレイな人だったなぁ。」
「!」
" 牧先輩 " という呼び名に戸惑いを隠せない神。すぐに疑問を投げかけるが、当の彼女は遠い目をしながら彼の発言に覆い被せる様に独り言のごとく呟く。
「好きな人ができたのなら……
正直に言ってくれればよかったのに。」
「……ちゃん。」
「美男美女だし、お似合いだよね。
宗くんも、会ってみたらきっとそう思う……」
「綾ちゃん!!」
ビクッ!
神は言葉を遮り、叫んだ。
突如発したその大声に驚く彼女。
怒りや悲しみ、そして切なさ。
そんな様々な感情が混ざり合った様な
彼は何とも言えない表情をしていた。
「それ……本気で言ってるの?」
「え……」
「あの人は……綾ちゃんとは比べ物にならないよ……
それに俺も、信長も牧さんと、お似合いだと思って……二人の間に付け入る隙なんかないって
だから諦められたんだよ……?」
「そ、宗くん……」
ーー‥
俺は……俺はっ……
牧さんのことを好きな綾さんが、大好きだったんだ!!
‥ーー
先日、体育館で清田が牧に涙ながらに叫んでいたことと同時に失恋した日の記憶が嫌でも思い起こされた。
( 牧さんにだけ向けられる、幸せそうな横顔が
キラキラした、君のとびきりの笑顔が
大好きだったんだよ……?
この想いを、無駄にはしないでほしい…… )
ーー‥
私……紳ちゃんが……彼のことが、大好きです。
これからも、彼のそばいて支えてあげたい。
‥ーー
「……っ
あれだけ……紳ちゃんって……
大好きだって、そう言ってたじゃないか!!」
「!!」
「あ……ごめん……大きい声出して……」
辺りを見渡した神は今いる場所が店の中だということに気付き、次第に落ち着きを取り戻していった。
「ううん、私の方こそ……無神経なこと言っちゃったみたいで、本当にごめんね。」
でもね……と、綾は話を続ける。
「現に今、彼女さん……いるし……
あの光景を見てから……彼のこと、そんな風に呼ぶ資格なんてないんじゃないかって。
頑張って忘れようともしたけど、結局できなくて……辛くて……」
ーー‥
あの時、こう言ってたのに。
もう俺のことは忘れてくれ。すまない……
さっきも、会場で
綾……会いたかった……
あんなに必死になって
どうして、わざわざ私に会いに……
離すものか!!
‥ーー
「綾ちゃん……」
もう " 紳ちゃん " とは、呼べない‥‥
今、自分は彼女ではないのだから。
離れてしまったのだから、当たり前のこと。そう思わざるを得なかった。
それほどまでにダメージは、別れの代償は大きかったのだ‥‥彼女はその小さな肩をより一層すぼめてもう限界だと言わんばかりの切なく、苦しそうな表情をしていた。
しばらくの間、二人の会話は無くなり
テーブルの上に並べられている食品にも手を付けず、店内に流れている陽気な効果音も彼らにとっては悲壮感が漂う様な、そんなメロディーに聞こえていた。
ー そして
焦燥感にかられた綾は神の顔をしっかりと見つめ、今まで胸に留めていた疑問をついに彼にぶつける。
「ねぇ、宗くんは何か知ってるんでしょ……?
教えてよ……!
あやふやなままじゃ、納得いかないよ。
これには何か事情が……思惑があるんじゃないかって思うの。お願い……!」
と、綾はテーブルの上に乗せていた神の手をギュッと握った。
「……!?」
どうしても真実が知りたい。
この心のモヤモヤを取り除きたい。
あの日、海南の皆はなぜ様子がおかしかったのだろう?
彼がとても悲しそうな顔をした理由は?
綾は様々な真相を突き止めたくて仕方がなかった。
( 手……小さいな……震えてる…… )
突然、手を握られた神はドキッとして顔を赤くしている。
初めて触れた、彼女の手。
女性特有の柔らかさに、肌の温もり。小さくて可愛らしいその掌は小刻みに震えていた。
「…………」
「……宗くん?」
「うん……知ってたよ。
牧さんと、別れた……って。」
「!」
「ねぇ……あべこべゲーム、しない?」
「え……?」
彼の突然の申し出に、綾は拍子抜けをしてしまった。
「参加してくれたら、全部話してあげるよ。」
「わ、私……ゲームなんてやってる場合じゃ……」
「そっか。なら教えてあげない。」
「!? そ、宗くんの意地悪!」
「うん。ひょっとしたら俺って、好きな女の子をいじめたくなっちゃうタチなのかもね?」
「えっ……」
ハハハ……と、楽しそうに笑っている神。
一方、" 好きな女の子 " という言葉に反応した綾は顔を赤くしてしまった。
「顔真っ赤にしちゃって、可愛い。」
「か、からかわないで……」
「じゃあ、やってくれる?」
「う、うん……」
「ありがとう。」
半ば強制的に参加する羽目になってしまった綾。
彼の意図が掴めないままだが、きっと何か考えがあってのことなのだろうと腹を括ったのだった。
「俺がこれから幾つか質問をするから、
綾ちゃんは好きか嫌いか、の二択で答えてね。好きは嫌い、嫌いは好きって意味だよ。分かりやすいでしょ?」
「……うん、分かった!」
淡々とルールを説明する神。
やる気になったのか、素直に応じる綾に彼は思わず笑みがこぼれた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「じゃあいくよ。料理は、好き?」
( えっと……あべこべだから…… )
「き、嫌い!」
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「花は好き?」
「うん、好きだよ!」
「あ……! 違っ、嫌い。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「バスケは好き?」
「!」
「好き……じゃなかった、嫌い……だよ。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「……じゃあ、俺や信長のことは嫌い?」
「! も、もちろん嫌い……だよ?
お友だちとして……」
( 綾ちゃん。 )
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ー そして
「……牧さんのことは……?」
「す、好き……!!
あ……! ち、違っ、たぶん……
嫌い……だと、思う……」
「……違うでしょ?」
「え……?」
「 " 大嫌い " (大好き) ……だよね?」
「……!!」
「はい、これでゲームはおしまい。
付き合ってくれてありがとう。」
「そ、宗くん……
今までの質問って、もしかして……?」
そう。彼女がとても素直な性格であることを逆手に取り、この様な遊びを企画した神。
胸の中にしまい込んでいた牧に対する本当の気持ちを自覚するためのキッカケになり、綾の心をそっとすくい上げたのだった。
「気が付いた?
綾ちゃんがなかなか自分の気持ちに正直になってくれないからさ。試すようなことして、ごめん。」
「ううん、おかげさまで……私……」
「好きって、言えたね。」
「!」
「前にも言ったよね……?
俺にだけは嘘をつかないで、って……」
ーー‥
牧さんのこと、好きだって、大好きだって、顔に書いてあるよ……
お願いだから、俺には嘘はつかないで……
そんな悲しい顔は見たくない。
綾ちゃんの笑顔が……大好きだから……
‥ーー
曇りのない、真っ直ぐな彼の気持ち。
未だ綾の心に鮮明に、しっかりと残っていた。
「うん……宗くん、ありがとう……」
「どういたしまして。
綾ちゃん、実はね……」
約束通り、神はすべてを打ち明けてくれた。
以前、綾からプレゼントされた手作りの栞。
移動教室の際にうっかり落としてしまい、そこから事態が悪化してしまったこと。
諸悪の根源である雨宮かおりという女は、牧が過去に付き合っていた人間だということ。
復縁を迫られており、従わなければ彼女を酷い目に遭わせると脅されていること。
傷付くのは自分だけでいい。
未来のために泣く泣く別れを選んだこと。
非常に後悔している様子だったこと。
高頭監督との約束を守ろうとしていること。
そして
彼女を愛している、と‥‥
「……嘘……そ、そんなことが……!?」
彼の口から告げられた予想だにしなかった衝撃的な出来事の数々。
これらは全て、紛れもない真実。
彼女を愛するが故の、苦渋の決断だったのだ ー
「本当だよ。
それに、前にこんなこともあったんだ。」
ーー‥
綾のことを好きな奴がどれだけいようと、俺には関係ない。蹴散らすのみだ。
だが……俺もあの笑顔には何度も心を救われている。それは確かだ。
これからも、ずっと、ずっと守り通したい。
綾は誰にも渡さない!!
俺は、二度と綾を泣かせたりはしない。
離さないって、そう誓ったんだ。
しっかり白黒つけてくれると信じている。
本来ならば今すぐにでも振られて諦めてところだがな。
綾の性格上、長期戦になるかもしれんな。
優し過ぎるんだ、アイツは……
‥ーー
「そんな……」
自分の知らないところで語られていた、
彼が抱いていた、決して揺らぐことのない
愛する人への気持ち。
綾は急に何かを思い出したかの様に傍に置いてあったカバンに手をかけ、ある物を取り出した。
それは、先ほど会場で牧から手渡された紙袋。
「! 綾ちゃん、それって……」
「うん……開けてみるね。」
淡い期待を胸に抱き、開封する。
中には綺麗に包装された小箱が入っていた。
フタを開けると、そこには
四つ葉のクローバーの形をあしらった、
小さなブローチとペンダントが‥‥
「……!」
「わぁ……キレイ……!」
綾は思わず声を漏らした。
グリーンとシルバーのカラーを基調とした四つ葉に複数のラインストーンが煌めき、綺麗な輝きを放っている。
「ん? これは……?」
さらに便箋が添えられていることに気が付く。
「手紙かな……?
綾ちゃん、読んでみて。」
「うん……」
綾は、ゆっくりとその手紙を読み上げた。
「……親愛なる、綾へ。」