喪失〜再愛 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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( 春野……お前のことが、好きだ…… )
君が好きで、好きで、大好きで……
切なくて、こんなにも涙がこぼれるんだ……
「藤真さんのことが、好きです!
私と付き合ってくれませんか……?」
「ごめん。気持ちは嬉しいが
好きな子がいるから、君とは付き合えない。」
どんな女子に告白されても、言い寄られても、
大量のチョコレートを貰っても
何ひとつ響かない。
自分が好きな人に好かれなきゃ、意味がない。
だが……
その人は、宿敵であり、友でもある
" 牧 紳一 " という男の、恋人。
彼女と知り合った時から、分かっていた。
薄々、勘付いていた。
二人は惹かれあっている……とな。
だから俺は、この気持ちに蓋をした。
時には兄のように、時には友のように接し
困った時には、いつでも手を差し伸べる。
大輪の花のように可憐に咲く、その笑顔。
正直悔しいが、彼女をそんな笑顔にできるのは
牧……お前だけなんだぜ……
春野 綾。
素直で、優しくて、表情豊かで
とても物腰が低く、一緒にいて楽しい
俺の……大好きな人。
君の悲しむ顔を見るぐらいなら
このままずっと、片思いのままでいい。
その方が、ずっといい。
君の幸せが、俺の幸せなのだから……
ーー
「……肩、ありがとな。」
彼女の優しさに胸を打たれた藤真。
静かな空間の中‥‥
しばらくしてから二人は椅子に並んで座り、目と目を合わせて話し始めた。
「ううん、私……健司くんには出会った時からお世話になりっぱなしで……
いつか恩返しをしなきゃって思ってたから。」
「春野……」
「それにね、今まで計り知れない努力をしてきたんだろうなって考えたら、居ても立ってもいられなくなっちゃって……
健司くんが少しでも元気になってくれたなら、良かった!」
「……!」
綾はそう言って澄ました笑顔を向けた。
が、どこか覇気の無い様子に心配になった藤真は真剣な面持ちで尋ねる。
「何か……あったんだろ?」
「え?」
「俺はこれでも一応、監督なんだ。
出会った頃のように何でも相談してほしい。
俺たち、" 友達 " だろ……?」
「!」
「それとも、俺じゃ力不足か?」
「健司くん……」
彼の言葉に感化された綾は、眉を八の字に下げて俯きゆっくり、ゆっくりと‥‥胸の内を明かしていく。
「ううん……じ、実はね……
つい最近、悲しいことがあったの……
その日以来、バスケを嫌いになってしまいそうで、辛くて……」
「…………」
「でも、それがどうしてなのか分からなくて。
私……マネージャーなのに。
健司くんとだって、牧先輩……とも、バスケがあったからこそ出会えたのに……」
「牧、先輩……?」
「あ……! 今のは気にしないで……」
綾のしまった! といった表情と牧への呼び方の変わり様に、藤真は瞬時に何かを感じ取った。
ーー‥
藤真さんは、バスケ……お好きですか?
ああ、もちろん。
私も大好きです!
‥ーー
過去に、彼女に聞かされたことを思い出す。
「無理して、好きにならなくてもいいさ。」
「え……?」
「一度、リセットしてもいいんじゃないか?
そうして初心に返れば
おのずと答えが見えてくるはずだ。」
「初心に……返る……?」
「ああ。今一度、自分を見つめ直すんだ。」
( 自分を、見つめ直す…… )
ー この時、綾は思った。
何故、私は「バスケットボール」というスポーツが好きなのだろう。
カッコイイから、可愛いから、などといった子供染みた一種の感情なんかじゃない。
だからと言って趣味や特技と言った自分のステータスを上げたいというわけでもない。
きっと理由はただ一つ。
ただ単純に、純粋に、" 好き " だからなのかもしれない。
だとしたら、この心にポッカリ空いてしまった穴は、隙間は‥‥
一体、何なのだろう?
どうして埋まらないのだろう‥‥?
「…………」
「春野? 大丈夫か……?」
黙り込んでしまった彼女に藤真は優しく声をかける。
「うん……大丈夫。」
「私……一番肝心な事を忘れてたかもしれない。
さすが健司くん、凄く説得力があるね。
少しだけ肩の荷が下りたような気がするよ。どうもありがとう……!」
藤真の適切なアドバイスに感銘を受けた綾は、今できる精一杯の笑顔を向けた。
「……どういたしまして。
俺は、一番の味方だと言っただろ。
元気、出してな……」
「うん、ありがとう。
変なこと言い出しちゃってごめんね。」
「いや……」
「私、もう行かなきゃ……
疲れてるのに、あんまり長居したら迷惑だよね。」
そう言ってスクッと立ち上がる。
「もう、行くのか……?」
藤真は‥‥
とても名残惜しそうに、そうぼやいた。
「うん……今日の健司くん、キラキラしてて、とってもカッコ良かったよ!
じゃ、またね!」
「……!」
そして翔陽の控え室を後にした。
綾は、牧と別れてしまった事実は一切口にしなかった。
試合直後に重い話をするのは申し訳ないと気が引けたのか、或いは自身が思い出すと辛くなるからなのか。うっかり口がすべらないよう慎重に言葉を選んで話をしたつもりだった。
が、彼にはすべてお見通しだった。
( ……分かってる。
君は素直だから、嘘がつけないことぐらい。
あれほどうらやましくなるほどに
" 紳ちゃん "
と、親しげに呼んでいたのにな…… )
彼女が去った後、藤真はしばらくドアを見つめていた。
ー その後
何気なく通路を歩いていると
「!!」
心臓の鼓動が急スピードで一気に早くなっていくのを感じる。まるで金縛りにあったかの様に硬直し、体全体から冷や汗が出るような、そんな感覚に陥った。
必然か、偶然か
はたまた運命のイタズラか‥‥
「綾……」
愛しの彼が、そこにいた‥‥
二人きりになったのは別れを告げられた、あの日以来。
綾は牧から目を逸らし、怯える様にして話し始めた。
「だ……ダメですよ、牧先輩……
彼女さん……いるのに、名前……
もし、こんなところを見られたら……!」
綾は声を震わせ逃げる様な態度を取った。牧はとっさに腕を掴み、力を込める。
必死に抗いその手を振り払おうとするが
「や、離して……!」
「離すものか!!」
「!!」
牧は声を荒げた。
「……じっ、自分勝手過ぎるよ……!
突然別れようだなんて言ってきて、こんな……
私……あれからずっと、ずっと、苦しくて……
忘れたくても忘れられなくて……
あの雨宮って人は、一体何者なの?
私には言えない事情があるんでしょ?
だとしても、せめて相談ぐらいしてほしかった……!
ちゃんと説明してくれなきゃ、分かんないよっ!!」
「……!!」
牧はハッとし、繋がれていた腕を離す。
綾は大声で叫び目の前の彼に不満や思いの丈をぶつけた。
話すにつれて段々とボルテージが上がり、次第にぽろぽろと涙があふれてくるのが分かった。
ぐすっ、ぐすっ‥‥
大好きなはずの彼を前にして
切なさや悔しさ、苦しさといった感情がぐるぐると渦を巻いて止まらない。今の彼女には、もう泣くことしかできなかった。
「綾……あ、アイツは……!」
牧は突如泣き出した綾の姿にうろたえ、何かを言いかけた、その時
「牧さん……!
もうやめてあげてください!」
「神!」
「宗くん……」
後ろを振り返ると、そこには神の姿が。
綾の叫び声を聞いたのか、慌てて駆けつけて来たのだろう。ほんの少し息が上がっている。彼は険しい表情で牧を睨みつけた。
「彼女、嫌がってるじゃないですか。
……綾ちゃん、こっちにおいで。
メールで大事な話があるって言ったよね。
こんなところじゃなんだから……行こうよ。」
ぐすっ‥‥
「う、うん……」
「もう大丈夫だから、泣かないで……」
そう言って綾の目を見て優しく微笑む。まるで壊れ物を扱うかの様に、小さな背中にそっと触れた。
ー そして
「綾、これを……お前に……」
「え……?」
牧から差し出されたそれは茶色い小さな紙袋。
突然の贈り物に驚いた綾は、躊躇し疑問を抱きながらも、しっかりと受け取った。
「それには……
今の俺から、お前への全てが詰まっている。」
「あ、ありがとう……」
「…………」
真面目な性格ゆえに
この様な状況でもきちんとお礼を言う綾と、受領してくれた事実に安堵する牧。
別れを告げた日と同じく牧はあまり多くを口にしない。現在の立場上、おそらく彼女に罪悪感や後ろめたさを感じているのであろう。
その光景を目の当たりにしている神は、複雑な心境だった。
ー すると
「やはり、そういうことだったのか。」
「「!?」」
一同は驚いた。突如、先ほど控え室で別れたはずの藤真が現れたのだ。
翔陽高校のカラーである黄緑色のジャージに身を包んでいる。
「藤真……!」
「藤真さん……!」
「健司くん……?」
「取り込み中のところ、悪い。
人の叫び声がしたから気になって駆けつけてみたんだが、まさかお前らがいるとはな……」
そう言った後、綾のもとへ歩み寄る。
「春野……今日はお疲れ様。
湘北の決勝リーグ進出、おめでとう。
いささか驚いたが、俺たちの応援までしてくれて嬉しかった。早めに帰ってゆっくり休めよ。
……またな。」
藤真は、とても優しい表情をしていた‥‥
「う、うん……ありがとう。
健司くんも、お疲れさま。」
「神、あとは頼む。」
「藤真さん……」
藤真に話しかけられた神は、彼がこれから何をしようとしているのかを瞬時に察した。
「……綾ちゃん、行こう。」
「宗くん、待って……」
二人はこの場を立ち去ろうとしたが綾は一度だけ立ち止まり、後ろを振り返った。
しかし‥‥牧も藤真も目を合わせてはくれなかった。
( 紳ちゃん…… )
二人は急ぎ足で去っていった。
ーー
かつて「神奈川の双璧」と呼ばれ、現在の神奈川に時代を築き上げてきた牧と藤真‥‥
この二人の間には今までに無い異様な空気が流れていた。
つい先ほどまで彼女に向けていた優しい表情は消え、藤真は態度を豹変し牧を睨みつける。
そして‥‥!
「牧……お前、一体どういうつもりだ!!
春野を悲しませたら容赦しないと、俺はそう言ったはずだ!!」
「……!」
ガッ‥‥
藤真は牧の胸ぐらを掴み、叫んだ。
「っ……当時、俺がどんな思いで身を引いたか、分かってるのか!?
アイツをとびきりの笑顔にするのも、悲しみの底に突き落とすのも……
牧……!! お前のさじ加減ひとつなんだぞ!!」
「俺は、俺は……
決して飾らない、
ありのままの彼女が好きなんだ!!」
「ふ、藤真……」
綾に一方的に別れを告げ、傷付けてしまった事実を知り藤真は激怒した。
さらに‥‥
胸の中にずっと抱いていた彼女への想いが爆発した。
本人には絶対に知られてはならない
鍵をかけてしまっていた
大切な、大切な、この気持ち。
牧は藤真の心の内を知ってはいたが
別れてしまった今、何も言い返せずにいたのだった。
そして以前、綾を自宅に招いた日のことを思い出していた。
ーー‥
もう一年くらい会ってないから、元気かなぁって。
そう思っただけだよ。
もしかして、妬いてくれたの……?
藤真さんとは、ただのお友だちだよ?
私のことなんて恋愛対象として見てないんじゃないかな。妹みたいな感じ……?
‥ーー
( ……綾…… )
「……バスケを嫌いになってしまいそうだと、懺悔していたぜ。」
「な、何……!?」
予想外の発言に驚きを隠せない牧。
「お前が関係しているんじゃないのか?」
「…………」
「悪い。取り乱してしまったな。
……じゃあな。」
藤真は落ち着きを取り戻し颯爽と去っていく。
牧は、俯いたまま
しばらくその場に立ち尽くしていた‥‥
ーー
藤真は会場を後にし、帰路についた。
歩きながら、ふとポケットに手を入れると綾に返してもらったハンカチが。
手にした瞬間、甘い花の香りが彼を包んだ。
彼女の肩にもたれかかった時と‥‥同じ匂い。
ーー‥
よく、頑張ったね……
健司くんが少しでも元気になってくれたなら、良かった!
キラキラしてて、とってもカッコよかったよ!
‥ーー
急に立ち止まり
周囲を見渡し誰もいないことを確認した。
そして、そのハンカチにそっと口づけをした。
大好きな彼女を想いながら‥‥
( 春野……ありがとな…… )