喪失〜再愛 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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いつか……こんな日が来るんじゃないかって思ってた。
貴方は全国でも有名で、将来が約束された
いわば日本バスケット界の期待の星。
私なんかと一緒にいても、貴方の足を引っ張ってしまうだけ。
メリットなんて何ひとつ無いのに。
それなのに……
ーー‥
俺が好きなのは、綾……お前だけだ。
この先…何があっても絶対に、だ。
俺を信じていてほしい。
なんで、こんなに涙が出るの……?
お前は……充分過ぎるほど、綺麗なんだ……
俺にはもったいないぐらいイイ女だと思ってる。
どうして、切なくて、胸が苦しくなるの……?
"神奈川No.1" の肩書きも、気にするな。
俺の顔に泥が塗られたって構わない。
お前にはずっと笑っていてほしい……
ただそれだけだ。
それは、きっと……
私が紳一の新しい恋人よ。
‥ーー
イヤだ、イヤだよ……
私以外の女性(ひと)を、見ないで……
私のことだけを見ててよ……
紳ちゃん……!!
ー その日の夜
綾の携帯電話にメールが三件届いていた。
( カナちゃんと、宗くんに、健司くん……! )
――――――――――――――――――
To : 綾
今朝、綾の髪型を見てから
一日中ずっと考えてたんだけど
もしかして、牧くんと別れちゃった…?
話したくなければ話さなくてもいいよ。
けどさ、私たち友達じゃん?
困った時はできれば相談してほしいな。
P.S.
明日の試合、私も応援に行くよー!
マネージャーの仕事、頑張ってね。
ついでにイイ男も探すわ。(ニヤリ)
――――――――――――――――――
To : 綾ちゃん
こんばんは。俺から綾ちゃんにメールするの、初めてだよね。ちょっとだけ緊張しちゃうな。
明日の試合、応援してるから頑張ってね。
あと大事な話があるんだ。
試合のあと、俺に付き合ってほしい。
じゃあ、風邪ひかないようにね。おやすみ…
――――――――――――――――――
To : 春野
夜分遅くにごめんな。
ついさっき練習が終わって帰ってきたんだ。
明日の湘北との試合、楽しみにしている。
悔いの残らぬよう精一杯やるつもりだ。
マネージャー業も大変だろうが、頑張れよ。
お互いにベストを尽くそうぜ。
あれから、牧とはうまくいってるのか…?
何かあったらすぐに言えよ。
俺は春野の一番の味方だからな!
じゃ、また明日な。おやすみ。
――――――――――――――――――
( みんな……ありがとう…… )
友人のカナには近々相談に乗ってもらい、じっくりと話を聞いてほしい。そう考えていた綾は申し訳ないと思いつつも、ありきたりな言葉を用いて返信をした。
海南の神とは男友達の仲だが、彼は牧の後輩にあたり、さらには同じチームメイト。
" 大事な話 "というのが気にかかる。
今回の件について何か詳しく知っているのではないかと、勘を潜っていた。
藤真とは先日、連絡先を交換したばかり。心が沈んでしまっている今、彼からのメールは彼女にとって非常に励みになっていたのだった。
ーー
衝撃的だった昨日という日にサヨナラを告げ、夜が明けた。
ついに迎えた
インターハイ神奈川県予選・準々決勝
湘北 対 翔陽戦。
今朝の天気予報では晴れのち曇りとなっていたが、綾の心は未だ晴れないまま。
牧にもバスケに対しても卑屈になってしまっている状況だが、試合に私情を挟むわけにはいかないと必死に自分を押し殺して臨む。
ー ここは湘北高校の控え室。
綾はベンチに座っていた三井におそるおそる声をかけた。
「あ、あの……三井先輩……」
「春野……昨夜はちゃんと眠れたのか?」
「は、はい。おかげさまで……
あの時、先輩が来てくれなかったら……
そばにいてくれなかったら……
堕ちる所まで堕ちてしまっていたと思うんです。
本当に、ありがとうございました……!」
「!」
( あれから……
先輩の胸の中で、涙が枯れてしまうんじゃないかって言うぐらいたくさん、たくさん泣いた。
彼の新しい恋人と名乗る謎の女性。
とてもじゃないけれど、あの場所にいたくなくて思わず逃げてしまった。
彼とはもう、別れたのに。
振り向いてなんて、くれないのに……
私は……何をしたかったんだろう……?
その後、約束通り水戸くんが自宅まで送ってくれた。
私ってば、" 彼 "を支えるどころか
周りの人たちに心配や迷惑をかけてばかりで、つくづく情けないな。
みんな、本当にごめんね…… )
綾は三井に深々とお辞儀をして感謝を述べると同時に、心の中で自身の不出来さを呪っていた。
すると
「……まだ終わっちゃいねーよ。」
「え……?」
「お前への罪滅ぼしだ。
牧と早くヨリを戻せよ。お前がいつまでもシケた面してっから、終わりにできねえんだよ。」
「…………」
「でもまぁ、昨日の今日だからな……辛いよな。とりあえず元気出せよ。」
「三井先輩……」
「今日の試合、余裕で勝ってみせるからよ。」
と、三井は優しく微笑みながら
綾の頭にポンと手を置いた。
そんな二人の姿を見た部員たちは‥‥
「綾……」
「三井さん?」
「なっ、ミッチー!
綾さんに触るんじゃねぇ!!」
「ああ? うるせーな。」
「三井……
翔陽をナメていると痛い目に遭うぞ。」
「そうだぞ。俺なんて、緊張してなかなか眠れなかったんだからな。」
「まったく情けねえ連中だ。
翔陽ごときにおたおたすんな。」
「何!?」
急に立ち上がり控え室を出ようとする三井に、綾は声をかける。
「先輩、どこへ……?」
「……便所だよ。」
「!?」
その直後、綾の顔は真っ赤に。
聞かなきゃ良かった、と少し後悔した。当人は口ではああ言ってはいるが、やはり強豪校との試合を前にして多少なりとも緊張しているらしい。
「ったく、あの人は女の子の前で……」
「綾……あれから、何かあったんだな。」
「おい、流川……!」
「楓くん。」
宮城がそう嘆いた後、流川は綾に話しかけた。彼女を傷付けぬようプライベートな話を避けたかった赤木は制止しようとしたのだが‥‥
「大体の予想はついてる。
今は言いたくないだろうから、
今度……詳しく教えろ。」
「ルカワ!?」
「「 流川…… 」」
「……うん、今度ね。分かった。
みんな、今日の試合、必ず勝ってね!!」
「「 おうっ!」」
「絶対に、勝つ!」
一方、トイレの個室にこもっていた三井は衝撃的な言葉を耳にする。
「なぁ、春野っていう湘北のマネージャー、知ってるか?」
「ああ。海南の、牧の恋人らしいな。」
「!」
翔陽の選手たちの話し声が聞こえた。
「ああ、花形から聞いたんだけどよ……
藤真の奴、どうやらその女のことが好きらしいぜ。」
( 何!? )
「藤真が? 本当か?」
「ああ。あいつ結構モテるくせに、どんな女からの告白も断ってるらしい。」
「へぇ、なんともうらやましい話だな。」
「まったくだ。その春野って女、どんなツラしてんのか楽しみだな。」
動揺した三井はドアを素早く開けたが
そこには誰の姿もなかった。
( そういえばアイツ、この間…… )
ーー‥
彼も藤真さんも三年生で最後の夏ですからね。簡単には勝たせてくれないんじゃないですか?
二人とも、どちらも大切な人なんです。
試合になったらどっちを応援したらいいのか……
って、こんなんじゃマネージャー失格ですかね……?
‥ーー
それに加え、未だ記憶に新しい津久武戦の試合会場。
牧に肩を引き寄せられて顔を赤くし、藤真や花形達と去っていった綾。
彼らと一体どんな関係なのかは不明だが、藤真がずっと彼女を見つめていたことはハッキリと覚えていた。
恋する男の目を、していたからだ。
( 春野……! )
三井の心は、揺らいでいた。
ー そして観客席では
「水戸くん、やっほー。」
「西東さん。」
「綾と湘北の応援にきたよ。
バスケのルールとかは全然分かんないけどね。
あ、赤木晴子ちゃんだっけ?
私、綾の友達の西東カナ。よろしくー!」
「綾ちゃんの?
こちらこそ、よろしくね。」
「藤井です。よろしく。」
「私は松井。よろしくね、西東さん。」
カナは水戸と晴子の間に座る。
男女問わず気さくに接する彼女は晴子や一緒にいた友人たちともすぐに打ち解けた。
昨日、水戸から事情を聞かされていた桜木軍団たちは皆、神妙な面持ちだ。
「昨日からさ。綾、変なんだよね。
突然ショートヘアにしたり授業までサボったり……それに、明らかに動揺してたし。
やっぱり牧くんと別れたんじゃ……?」
「え!? そ、そんな……」
晴子は驚愕した。
先日、会場の外で見つめ合っていた綾と流川。
きっと流川が告白をしたのだろうと何となく気付いていた。
とても胸が痛んだが、ひょっとしたら彼女は自分以上に傷を負っているのかもしれない。そう考えたら、何ともいたたまれない気持ちになった。
ーー‥
もしね、楓くんが私のことを好きだって言ってきたとしても……
私は彼以外の人とは付き合えないよ。
負担にはなりたくないし、辛い時には支えてあげたい。
彼のことが、大好きだから!
‥ーー
「綾ちゃん……」
「それ以上に、色々とヤバそうなんだ……」
「「 え……? 」」
憂いを帯びた表情で、いつかの綾の言葉を思い出していた晴子だったが
水戸の危機感迫る声色に疑問を抱いた。
( ゆうべの出来事は、衝撃的だった。
春野さんがいつの間にかミッチーと仲良くなっていたってだけでも驚きなのに、血相を変えて飛び出して行った先で牧が知らない女と一緒で……
極め付けに、彼女はミッチーの胸の中で子どものように泣きじゃくっていた。
もう何が何だか、よく分かんねーよ……
自宅まで送り届けたのはいいが
その間……彼女はずっと俯いたままで笑顔が消えていた。
だけど、俺は約束したんだ。
春野さんを必ず守る、ってな。)
あの二人には、きっと何か裏がある。
と、水戸は持ち前の勘の良さが働いた。
「とりあえず、今は湘北を応援しようぜ!」
「「 そうだな! 」」
「洋平くん……」
「「 水戸くん…… 」」
彼が無理して取り繕っている様に見えて、彼女たちは切ない気持ちでいっぱいになったのだった。
ーー
「す、すごい人……!」
「気迫からして、違うわね……」
会場入りを果たした両チーム。
会場内はほぼ満員で、たくさんの人々が応援に駆けつけている。
「闘魂」の横断幕を掲げ翔陽の応援団は皆、声を揃えてエールを送っている。
さすが海南に次ぐ強豪校だと思わざるを得ないほどの熱狂ぶりだ。
そんな中、彩子と共にマネージャーとしての業務をこなす綾。
ふと翔陽ベンチに目をやると
牧との出会いの架け橋となった大切な友人・選手 兼 監督であり主将の藤真と目が合った。
( 健司くん……! )
綾は彼に向かって大きく手を振った。
「!」
( ふ、可愛いヤツ…… )
藤真もつられて、小さく手を振り返す。
当時から綾の良き相談相手となっていた彼は彼女の髪型と浮かない表情を見て、一瞬で何かを悟った。
「どうした? 藤真。」
「! 花形……いや、何でもない。」
突如、副主将の花形に話しかけられ
ハッとした藤真は、少しだけ顔を赤くした。
そして再び冷静で落ち着いた監督の顔に戻る。
「……見てたんだろ、春野のこと。
既に周知の事実だからな。もう隠す必要もないんじゃないか?」
「そうか……参ったな。」
「へぇ。あの女が、牧の恋人か……」
「なかなか可愛いじゃねぇか。藤真も隅に置けないな。」
「よせ、これから試合だぞ!
決勝リーグに進み、海南と当たるのは
俺たち翔陽だ! 気合い入れていけよ!」
「「おうっ!!」」
そして、決勝リーグ進出を賭けた大一番
翔陽との試合が始まった。
( みんな……頑張って!! )
対する翔陽は、スタメン4人が190cmを越える長身のチーム。
それにより湘北はなかなか思う様に動けずにいた。動きの固いメンバーの面々に、流川はパスが出せないと一喝。触発された彼らは本来の動きを取り戻す。
後半戦に突入し、点差を開げられていた湘北が見事逆転。
そしてついに
翔陽のエース・藤真がコートへ‥‥!
「!!」
( し、紳ちゃん…… )
突然の事態に、綾は戸惑っていた。
藤真の登場を機にコートを囲む様にして海南と陵南の面々が現れたのだ。
紫と黄色のジャージに身を包んだ大柄の彼がすぐ視界に入り、綾の心を掻き乱す。
昨夜起きた出来事が頭をよぎり
胸の奥がズキッと傷んだのが分かった。
彼女は牧から目を逸らす。
( 綾…… )
牧は申し訳なさそうに、切なげな表情で
ずっと綾の姿を見つめていた。
「あれ、綾ちゃん髪切ったんだ?」
「ほんとだ!
ショートの綾さんも可愛いっすね。
ねぇ、牧さん……?」
「……ああ、そうだな……」
彼女の髪型の変化に気が付いた二人。
清田の問いかけに牧は覇気の無い声で返した。
( 綾ちゃん……やっぱり、ショックだったんだろうな…… )
先日、牧と対立し怒りを覚えた神はあまり先輩と口を聞こうとしない。
もちろん試合となれば別だが、綾の気持ちを考えたら当然の行為だった。
早く彼女に真実を伝えたい‥‥
そんな強い思いとコート内に現れた藤真の存在が気がかりだった。
( 大切な友達、か…… )
一方、海南の向かい側にいる仙道は
( 綾ちゃん……
あの手紙、読んでくれたのかな。)
以前、津久武との試合後に
仙道は彼女をおもむろに抱き締めた。
そして小さな紙切れに綴った、綾への恋文。未だ何の音沙汰もない様子に彼はウズウズしていた。
「ついに出てきやがったか……」
「藤真……」
「来い、ホケツ……!」
( コイツが……藤真…… )
「この野郎……」
ーー‥
藤真の奴、湘北のマネージャーのことが好きらしいぜ。
‥ーー
本人を目の前にして、試合前の会話内容が頭から離れない三井。
そして
「っしゃあ!!」
巧みなドリブルでディフェンスを軽々と出し抜き華麗にシュートを決める。
選手としてコートに立った藤真は、エースとしての存在感とその威力を大いに発揮していた。
「湘北はベスト4にはまだ早い!!
さあ、来い!」
「「 なんだと!? 」」
藤真は力強い眼差しで、湘北のメンバーたちを煽る。
そして
綾の顔を見て、ふっと笑った。
「! 健司くん……?」
綾は「藤真健司」という男のプレイを久々に目の当たりにした。
中からでも外でも攻撃に入っていける上に、スリーポイントも狙えるサウスポー。
さらには一年の頃からプレイングマネージャーとして常に冷静沈着で統率力も持ち合わせており、選手たちからの信頼も厚い。
中学時代、当時のチームメイトたちと頻繁に試合会場に足を運んでいた綾は改めて彼の凄さを実感していた。
( 健司くん……やっぱり強い……
でも、負けるわけにはいかない…!! )
「三井先輩、大丈夫ですか!? すごい疲れが……!」
気が付くと、三井の息がひどく上がっていた。綾は可能な限り彼に近寄る。
「……情けねえよな……ベンチの一年坊にも、お前にまで心配させちまってよ……」
「そんなこと……私がゆうべ、走らせて……
体力を使わせてしまったせいで……」
「バカヤロウ。そんなんじゃねえよ……
春野……お前も当時、諦めなかったんだろ……?」
「え……?」
「俺も、最後まで諦めてたまっかよ。」
「三井先輩……!」
「こういう展開でこそ、俺は燃える奴だったはずだ……!!」
その瞬間、三井の目の色が変わった。
恩師である安西監督からの言葉と
先日体育館にて聞かされた、最後の最後まで決して諦めない。土壇場で部員たちへのエールを送ったという綾の熱意が、彼の心を奮い立たせていた。
そしてスタミナ切れの中、三井は4本連続でスリーポイントを決めた‥‥!
流川の速攻からのダンクに惜しくもファウルとなってしまったが桜木が渾身のダンクシュートを豪快に決め、会場が沸いた。
「楓くん……! 桜木くん……!」
ー 残り時間は約2分。
思わぬ湘北の猛威に翔陽の選手たちは疲れ果て勝機を失っていた。
そして、綾はふと悟った。
( このまま湘北が時間稼ぎをして繋いでいれば、確実に勝てる。
だけど、最後なのに……
諦めないで、ベストを尽くして……!! )
気付いた時には、声が出ていた。
「健司くん……! 翔陽……!
最後まで、決して諦めないで!!
頑張って!!」
「「!? 」」
「「 コート上の、天使……!! 」」
前代未聞の発言に会場は騒然。
綾は、叫んだ。
今出来る限りの大声で相手チームの翔陽へ向けて最大限のエールを送った。
( そうだ……
俺は……俺たちは……これが最後の夏なんだ!
最後まで、ベストを尽くさなければ……! )
ーー‥
みんな、まだ落ち込むには早いよ!
今まで一生懸命練習してきたじゃない、ベストを尽くそうよ!
もし負けてしまったとしても……
この経験は無駄にはならない。
きっと、自分の糧になるはずだから……!!
‥ーー
一年の頃、宿敵である牧と観ていた
中学女子バスケットボール・県大会の決勝戦。
当時、彼女の放った言葉が
恋焦がれるキッカケになった、綾の思いが‥‥藤真の胸を疾風のごとく貫いた。
「最後まで、諦めるな……!! 行くぞ!!」
「「 藤真!!」」
藤真は選手たちに一喝した。
時間が刻一刻と迫る中、残り時間10秒を切り、花形が最後のシュートを放った。
が‥‥ボールはリングに入らず
無残にも試合終了を知らせるブザーが鳴り響く。
「「 勝ったぞーー!!
決勝リーグ、進出だーー!! 」」
62 – 60 結果は、なんとわずか2点差。
湘北のメンバーたちは勝利に歓喜した。
対する翔陽は皆、あふれんばかりの悔し涙を流す。
「ありがとう、ございました……!」
( 健司くん…… )
男性が‥‥藤真が流す涙を、初めて目の当たりにした。
今まで彼は、彼らはどんな思いでチームを引っ張って来たのだろうか。
きっと、強豪校としてのプレッシャーや責任感を抱え想像以上の努力を重ねてきたであろう。
綾は、ずっと藤真の姿を見つめていた。
ーー
試合後‥‥疲れ果てた湘北のメンバーは控え室の床で熟睡していた。
「このまま、寝かせておいてやろうぜ。」
「そうですね。みんな、アンタのために頑張ったんだからね。」
「木暮先輩、彩子さん……」
彩子は宮城にユニフォームを被せた。
綾は一人一人の寝顔を見て感謝の意を込めながら、腹部にそっとタオルをかけてあげた。
( みんな、お疲れさま…… )
ー その後
綾はひとり翔陽の控え室へと急いだ。
「春野……」
「あの……藤真さん、いますか?」
「「!!」」
ドアを開けた花形と、部員たちは驚いた。
「……お前たち、行くぞ。」
じゃあな、藤真と二人の気持ちを察した花形は仲間たちに声をかけ、この場を後にした。
控え室で二人きりとなった綾と藤真。
藤真は敗北した悔しさ、気まずさからか‥‥綾とは目を合わさずに話し出す。
「……カッコ悪いところ、見せちまったな。」
「ううん……そんなこと、ないよ。」
ー そして
スッ‥‥
先日、藤真に貸してもらったハンカチを差し出した。
「この間の……お礼。
健司くん……肩、貸してあげる。
もっと泣いても……いいんだよ……?」
「!!」
「春野……」
ハンカチを受け取った藤真は
綾の小さな肩に頭をもたれる様にし、体を預けた。
「よく、頑張ったね……」
今の彼女の一言で
様々な重責から解放された様な気がした。
俺たちの、夏は終わった‥‥
綾の肩を、大粒の涙で濡らす‥‥
まるで天使の様な優しさが、温かさが、身に染みた。
( 春野……好きだ…… )
心の中で、何度も、何度も
愛を叫んだ ‥‥