喪失〜再愛 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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元 武石中のスーパースターであり
天性の才能を持つ3Pシューター・三井寿。
彼は綾に対し、今まで言いたくても言えなかった胸の内を告白した。
「おい、春野。ちょっといいか……?」
「三井先輩、何ですか?」
「あの日……俺がぶっ壊しちまったお前の腕時計のことなんだけどよ……
このまま何もしないんじゃ申し訳が立たねえし、いつまで経っても胸のつかえが取れねえんだ。
頼む……俺に罪滅ぼしをさせてくれ……!!」
「「!?」」
さかのぼること、約10分前‥‥
ーー‥
放課後、体育館へやって来た綾。
部活中でも、やはりこの話題で持ち切りだった。
「えへへ……
この方が動きやすいと思って、切っちゃいました!」
「「!?」」
一同は驚き、目を丸くしている。
端から見れば普通の女子高生が単にヘアスタイルを変えただけのこと。何ら問題はない。
だが綾は安西監督も認めるほどの魅力たっぷりの選手であり、海南大附属の帝王・牧紳一が心を許したただ一人の女性でもある。
もちろん湘北バスケ部員にとっても大事な存在。気に留めないはずがなかった。
また、笑ってはいるがどこか元気が無く、上の空といった感じの彼女を心配していた。
「今日の春野は元気がないな。
なんだか、無理して笑っているような……
大丈夫なのか?」
「確かに、様子が変だな。」
「あのコ、気遣い屋な所があるから何を言っても「大丈夫です」の一点張りで、何も話してくれないのよね……」
そう話す木暮、赤木、彩子の三人。
かく言う本人は体育館の隅で桜木に指導をしているため、会話の内容は聞こえていない。
「それにあの髪型には驚いたな。
まぁ、大方予想はつきますよね、三井さん。」
と、彩子の近くにいた宮城は三井に話を振る。
「あ? 動きやすいと思ったから切ったんだろ?
他に理由なんかねえだろ。」
「「!?」」
三井を除く4人は絶句した。
( こ、この人は……
女心ってモンを何も分かってねー……!! )
( おいおい、三井…… )
( たわけが……! )
ハァ……と、彩子は溜め息をつく。
三井には女心というものが理解できない様だ。
「先輩、髪は女の命なんですよ……!?
その大事な長い髪の毛を
バッサリ切ったってことは……!」
「イコール、失恋した、ってことだな……」
「!?」
洞察力の鋭い宮城は、真剣な面持ちでそう呟いた。彼も伊達に女子にフラれてきたわけではない。
「ま、マジか……!?」
驚きの声を上げる三井。
やっと事の重大さに気付いた様だ。
「そういや、三浦台戦で倒れた時も
意味深なことを言ってたよな。牧がよく分からない時があるとか何とか……?」
「ああ。やはり、神奈川No.1の男と付き合うには荷が重すぎたんじゃないのか?」
「そうですか? 私には、あの牧が束縛するような人間には見えないんですよねぇ。」
あんなに好き合っていたであろう二人が別れたなど俄かには信じ難い上級生たち。青天の霹靂とは正にこの様なことを指すのだろう。
「あ! 流川、アンタ綾と最近仲良いでしょ? あのコのこと、何か知らない?」
流川の姿が視界に入った彩子は、彼に問う。
この二人は中学時代の先輩後輩の仲で気心が知れており、且つ流川が綾に片想いをしていることも熟知している。
彩子は思わず顔をニヤつかせた。
「……んだよ。
アイツ……
今朝、近所のバスケコートにいたんすけど、一人でずっと立ち尽くしてました。
それで……俺にバスケは好きかって、聞いてきた。」
「「 !! 」」
「アイツ、思ってることがすぐ顔に出るから、一瞬で分かった。牧と何かあったな……って。」
と、流川は今朝あった出来事を話した。
桜木と楽しそうに練習をしている綾を切なそうに見つめていた。
「「 流川…… 」」
「そうか……
明日は大事な試合を控えてるんだ。なるべく私情を挟みたくはない。その話には極力触れないでやろう。それが今の春野にとって、一番良い治療法なんだろうからな。」
「赤木……」
「赤木先輩……」
「ダンナ……」
" きっと、時が解決してくれる "
赤木はそう伝えたかったのだろう。
ーー‥
彼がもっと男に警戒心を持てって……
嫌われちゃったら、立ち直れないですよ……
‥ーー
以前、そう話していた綾のとても不安そうな表情が三井と流川の脳裏に焼き付いていた。
(( ……… ))
そして時は戻り、三井は深々と頭を下げた。
「先輩、そんな……頭を上げてください!」
バスケ部襲撃事件の際、綾は牧からプレゼントされた大切な腕時計を三井の手により壊されてしまっていたが
その大破した時計に隠された真実のメッセージにより、二人の絆は更に深まった。そのため特に気に留めずにいたのだが三井自身は今の今まで自責の念に駆られており罪を償いたいと考えていたのだった。
「三井さん……」
「ミッチー!」
「三井……!」
「……!」
一同は突然の展開に驚いている。
元不良でプライドが高く、負けず嫌いな三井が年下の女に頭を下げ詫びを入れたいと、男のケジメをつけたいと申し出ている。彼は頑なに頭を上げようとしない。
「ど、どうしてもって言うなら……
私に3Pシュートのコツを教えてください!
あと……この後、夕ご飯を奢ってください!」
「「!?」」
「は……? 晩メシ……?」
三井は綾の意外な返答に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「実は昼間、水戸くんに誘われて……
高宮くんたちも来るって言ってました。
18時半にダニーズで待ち合わせしてるんですけど、先輩も良かったらご一緒にと思って……」
( あのおせっかい野郎どもか…… )
「ああ、いいぜ。」
三井は微笑みながら、快く引き受けた。
「本当ですか? 嬉しい~!」
「む、綾……」
綾は快諾してくれた三井に手放しで喜んだ。
流川はそんな彼女の言葉に苛立ちを覚える。
「なにーっ!? おのれアイツら、いつの間に綾さんとそんな約束を……!?
綾さん! お、俺も行っていいですか!?」
「桜木、テメーは地道に基礎練やっていやがれ! ンな何人も奢れるほど余裕ねーよ!」
「なんだと、ミッチー!?」
「せ、先輩……! 二つ目のは冗談ですよ。
大変な金額になっちゃいますから……」
三井の本音を聞いた綾は人数分の清算をお願いしようなどと言ったセコい考えは毛頭無く、単なるジョークだったのだと慌てて弁解をした。
「春野……」
「そうだ、楓くんも一緒に行かない?」
「いや、俺はいい。」
「そ、そっか……そうだよね。
楓くんはウチのエースだし、明日は大事な試合だもんね。
私も時間まできっちり頑張らないと!
よーし、練習練習!」
誘いを断られ、一瞬だけシュンと悲しい顔をした綾。その表情を流川は見逃さなかった。三井に対し嫉妬心を抱いてしまったのだ。
( チッ…… )
ー そして
部活も終わり、制服に着替えた綾は体育館を後にした。
薄暗い中、二人きりで店へと急ぐ。
「み、三井先輩、待ってください……!」
ズボンのポケットに手を突っ込み、一人でスタスタと歩いていってしまう三井。
綾とは30cmほど身長差がある。一歩の幅が広く、追いかけるのがやっとの状態だった。
「ん? ああ、悪ぃ。」
そのことに気が付いた三井は
すぐさま車道側に寄り、綾の歩幅に合わせた。
「ふぅ……ありがとうございます。
先輩って、身長いくつあるんですか?」
「あー、確か184cm……だったかな。」
「そ、そうなんですね。
彼と、同じなんですね。そっかぁ……」
綾は三井を見上げ、あらためて背丈を確認する。尋ねてみると、なんと牧と同じ身長であることが分かった。
入学後‥‥彼と制服デートをした日のことをほんの少し思い出してしまった。
( 紳ちゃん……
あの日も、こうして並んで歩いたっけ…… )
「…………」
物憂げな表情で隣を歩く彼女に、三井はそっと声をかける。
「なあ、その髪型……」
「え?」
「なかなか似合ってると思うぜ。
" こけし " みたいでよ。」
「!? なっ、こけしって……
も~っ、三井先輩!
それって褒めてるんですか?
それとも、けなしてるんですか?」
突然の衝撃発言に綾はショックを受けながらも、プンプンと怒りを露わにしている。女性への褒め言葉としては余り適していないと思われる三井のそのセンスに度肝を抜かれていた。
「ああ? 決まってんだろ、褒めてんだよ。
動きやすそうでいいと思うぜ、俺も。」
「! 私も、先輩のその髪型スポーツマンらしくてとってもお似合いだと思います!」
褒め言葉なのだと分かった途端、綾は三井の顔をしっかり見てそう言い放った。
「……なんでお前は、そんな小っ恥ずかしいことを面と向かって堂々と……」
「先輩?」
嘘偽りのないまっすぐな彼女の言葉に圧倒され、思わず顔を赤くしてしまう。
ー その後、しばらく歩いて
「それより、お腹空きましたね!
お店に着いたら何を頼みましょうか?
洋風のファミレスだから……
やっぱりハンバーグとか、カレーですかね?」
う~ん、と顎に手を乗せて考える。
「ベタだな、ガキかよ。
お前、俺の奢りだってこと忘れんなよ?」
そう言って三井は綾に対し悪戯な笑みを向ける。
「だから、あれは冗談で……「いーから。」」
「お前の分だけは出してやる。
好きなもの食えよ。大体、女に金を払わせるなんて男としてカッコつかねえからな。」
( そのセリフ……確か、清田くんも…… )
「じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になりますね!」
綾は三井の顔を見て笑った。
街灯や信号機、自動車のライトなど
辺りは町のネオンの光で包まれていたが
しっかりと彼女のその表情を確認できた。
「やっと、笑ったな。」
「え……?」
「お前が元気無いって、赤木や木暮達が心配してたんだぜ。」
「そ、そんな……すみません。」
何を言われても聞かれても、虚勢を張り平気な顔をしていたつもりだったのに。またしても皆に迷惑や心配をかけてしまった事実に、綾はその小さな肩を落とした。
その時‥‥ふと試合会場で
三井が牧に挑発とも取れる発言をしていたことを思い出した。
ーー‥
テメェ……恋人だか何だか知らねーが、あんまりウチのマネージャーを虐めんなよな。
これ以上コイツの腕が鈍ったらどうしてくれんだよ?
コイツから笑顔を奪ったら、許さねえ……
‥ーー
「先輩……あの時、どうしてあんな……」
「なあ、春野。」
突如、三井はピタッと足を止めた。
「……?」
「牧とは、いつから付き合ってんだ?」
「え……?
いきなり何を「いいから答えろ。」」
態度を急変し、綾の顔を見つめる三井。
「中三……からです。」
「へぇ……どっちから告白したんだ?」
「彼の方から……です。」
しばらく沈黙の状態が続いた。
「せ、先輩……? さっきから話が見えない……」
「フラれたんだろ、牧に……」
「!!」
心臓がドクンと跳ねた様な気がした。
オブラートに包まず、ストレートに言葉を投げ付けてくる三井。未だ心の整理が済んでいない綾の体は、小刻みに震えている‥‥
「ちゃんちゃらおかしくねーか?」
「え……?」
「自分から告白しておいて、自分から振るか?普通……」
「!?」
三井は異論を唱える。
まるで獣を捕らえる様なその強い眼差しは、綾の瞳をしっかりと捉えて離さない。
「き、きっと……
他に好きな人ができたんですよ。
私なんかよりも綺麗で、ふさわしい人が……」
「アイツが……
牧自身が、そう言ったのかよ?」
「!!」
「いえ、特に……何も……」
言われてみれば、あの時‥‥牧は多くを語らなかった。むしろ必死に沈黙を貫き通していた様にも思える。
それが何故なのかは今の綾には全く理解し難いものだった。
「春野……
俺は、女心ってモンはよく分かんねえし
恋愛経験も少ないけどよ……
きっと、何か事情があるんじゃねえか?
お前には言えない何かがよ。」
「私には言えない、事情……?」
三井の考えが確かならば‥‥
どうして自分には言えないのだろう?
相談してくれなかったのだろう‥‥?
「……っ」
別れ際に見た彼の切ない表情を思い出し、再び泣きそうになってしまう。
ー すると
ぐぅぅぅぅ~‥‥‥
「「!?」」
綾の体内から空腹のサインが聞こえた。
「な、なんでこんな時に……!
はっ、恥ずかしい……」
「ぶっ……ハハハハハ!!
今、この状況で鳴るか? フツー。
お前、ほんとに腹減ってたんだな。
ハラまで正直なヤツ……」
先ほどまでの張り詰めた空気はどこへやら。
突然のことに綾は顔を真っ赤にして慌てふためき、三井は目に涙を浮かべて爆笑している。
彼らの傍にいた通行人も何事かと驚いていた。
「三井先輩、笑い過ぎですよっ!」
「悪ぃ悪ぃ。
おっ、そうこうしてる間に店に着いたみたいだぜ。」
「24H営業中」と書かれた
街中では見慣れた店舗の看板が目に入る。そう、二人はいつの間にか目的地の近くまで来ていたのだ。
綾は先ほどの気恥ずかしさから早足で店内に入っていってしまった。
その後ろ姿をやれやれ、と言った表情で見つめていた三井は‥‥
( バカヤロウ、
これが笑わずにいられるかってんだ。
めちゃくちゃ素直で、笑った顔が可愛くて
こんなにおもしれー女を振っちまうなんて
牧の野郎、一体何を考えてんだ……? )
牧の真意が掴めない三井。
謎は深まるばかりだが、綾がほんのわずかでも以前の元気を取り戻してくれた様な気がして、思わず顔が綻んだ。
「「 いらっしゃいませー! 」」
水戸たちと待ち合わせをしているレストランへとやって来た綾と三井。店員にその旨を伝えると
「よっ、春野さん。昼間はどーも。
予約席、確保しておいたぜ。」
「水戸くん!」
水戸の姿を発見し、安堵した綾。
案内された場所は窓側のソファー席。
ここは大人数に適していて、尚且つ店内全体が見渡せて居心地が良いのだ。
「綾ちゃん、久しぶり~。」
「元気だったか?」
「おっ、髪切ったんだ、可愛いねえ。」
「え……うん、元気だよ。
高宮くんも大楠くんも野間くんも、元気だった? 今日はお招きありがとう!」
「「 どういたしまして~! 」」
桜木軍団のメンバーと久々に顔を合わせた綾。
野間の言葉に顔をほんのり赤く染め、笑顔と共に感謝を述べた。
「ん? ミッチーじゃねえか。」
「よう、コイツに急きょ誘われてな。」
水戸は三井の姿を見て驚いていた。
( 二人きりで、来たのか…… )
ちなみに、綾はソファー席の端っこ。隣には水戸が、向かいの席には三井が椅子に座っている。ちゃっかり綾の隣をキープした水戸に対し、高宮たちは顔をニヤつかせヒソヒソ話をしていた。
( 良かったな、よーへー! )
( ずっと待ってた甲斐があったな。)
( まあ、報われない恋だけどな。花道も。)
「外食なんて久しぶりだな~。
私、もうお腹ペコペコで……」
「そっか、部活明けだもんな。お疲れさん。春野さん、何にする?」
「うーん。じゃあ、このパスタとサラダのセットにしようかなぁ? いいですか? 三井先輩。」
「そんなんでいいのか? もっと食えよ。また腹が鳴っても知らねーぞ?」
「せ、先輩……!」
「え? 春野さん、なんでミッチーに?」
メニュー表に載っているパスタの写真を指差し、注文してもいいのかと尋ねた綾。
三井にからかわれて再び顔を赤くしていたが、その表情はとても楽しそうだ。
その一方で頭上に疑問符が浮かぶ水戸。二人はここに来るまでの経緯や出来事を話した。
「へぇ、罪滅ぼし、ねぇ……」
水戸はテーブルに頬杖を突き、綾の横顔をじっと見つめる。
ーー‥
これを自分だと思って大切にしてほしいって……すごく嬉しかった。
身に付けていれば彼がそばにいてくれてるような、そんな気がして、ずっとお守り代わりにしていました。
こうなる運命だったんですよ、きっと。
‥ーー
( あの日の出来事は、きっと一生忘れられないと思う。
春野さんが牧にプレゼントされたっていう大事な時計を壊され、ひどく落ち込んでいたのを鮮明に覚えてる。
当時、何て声をかけたらいいのか上手い言い回しが思い付かなくて俺はただ黙って見ていることしかできなかった。 )
罪を償いたいと頼み込んだ三井の考えは同じ男として気持ちは理解できる。
が、二人の急接近ぶりに複雑な心境の水戸であった。
「ん……?」
注文の品を待っている間
綾は窓際に飾ってあった、とある一輪の花を見つけた。
「芍薬の一輪挿しだ、かわいい……♡」
それは赤色の芍薬(シャクヤク)の花。
透き通ったスマートな花瓶に入っており、綾はそれを自分の前に置いて眺めた。
人差し指で花びらをそっと撫で、香りを嗅ぐ。
( バラの匂いがする…… )
「春野……」
「春野さん……」
その一連の動作がとても可憐で
三井と水戸は彼女の虜になっていた。
「あれ? そんな所に花なんてあったか?」
「全然気が付かなかったな~。」
「お前はさっきから食ってばっかりだからだろ!」
「春野さんって、花が好きなのか?」
「うん。お花って見ていて癒されるし、今がどんな季節かすぐに分かるじゃない?
それに……誰にも見られることもないまま枯れて行くかもしれないのに。
ひとりでに一生懸命に咲いたんだよね。
強いよね。私もそうでありたいなって思う。」
「「……!」」
一同は驚いた。
どうしてあの牧が彼女に夢中になっていたのか。少しだけ分かる様な気がした。
綾は話を続ける。
「それにね、芍薬の花言葉は「慎ましさ」なんだって。あとは花の色によって違うんだけど、
この場合は赤だから……あれ……?
ごめん、度忘れしちゃった。何だっけ?」
「赤?「湘北」か?」
「赤っていえば、やっぱ「ゴリ」だろ!
赤木だから!」
「いやいや、花道の頭の色だから「天才」とか「単純王」じゃねーか!?」
「ぷっ、あははは、何それ~。
そんな花言葉、聞いたことないよ~!」
三人のトンチンカンな回答の連続に、綾は腹を抱えて笑った。
ー その後
待ちに待った料理が運ばれてきた。
クリームパスタとミックスサラダに、温かいスープのセット。高宮たちは、ピザにポテトフライにカレーライスなど色々とオーダーしていたらしい。
「わぁ、美味しそう! いただきます!
ん~、美味しい~!」
幸せそうに料理を頬張る綾。
三井と水戸はその姿を愛おしそうに見つめている。
「先輩も水戸くんも、どうしたの?」
「いや、うまそーに食うなぁって思ってよ。」
「そうですか?」
「確かに。
花道がここにいたら大変だったかもな。」
「桜木くんかぁ。
今ごろ基礎練習、頑張ってるんだろうな。偉いよね。一緒にご飯食べたかったな。」
ふと、居残りで特訓している桜木のことを思い出した。
「ダメだよ綾ちゃん!
花道が来たら、俺たちの分まで全部食われちまう!」
「え、そうかなぁ?」
「それに、何たってまだ初心者なんだからな。基礎は大切だろ。」
「そーそー、その基礎練が嫌になって部活を抜け出したこともあるんだぜ?」
「え、ウソ……?」
男たちは過去の出来事をテンポ良く話し出した。
「部室の掃除をさせられたこともあったよな。」
「ああ。そういやあったなー、そんなことも。
ゴリに入部を認めてもらいたくてな。
結局一人で徹夜してボールを磨いたりコートをピッカピカに掃除したりして、何とか認められたらしいぜ。」
「あの桜木が?
へぇ、根性あるじゃねーか。見直したぜ。」
「そうだったんだ。そんな過去が……」
彼と離れ離れになって以来、バスケに対して若干引き目を感じ臆病になっている自分。
桜木のバスケに対する情熱が詰まったエピソードを耳にして、自身も今のこの状況を屈服したいと‥‥綾は素直にそう思った。
そして
気が付くと時計の針は20時を指していた。
不思議なもので、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
「春野さん、今日は付き合ってくれてありがとな。楽しかったぜ。」
「うん、私もすっごく楽しかった!
三井先輩も、ごちそうさまでした!」
「別に、礼なんていらねーよ。」
「春野さん、家まで送るよ。
俺は専属のボディガードなんだからな。」
「は?」
「水戸くん、いいの?」
「もちろん。お姫様は黙って騎士に守られていればいいんだぜ。」
「えっ……」
水戸の紳士的な優しさに、綾は顔を真っ赤にした。
( なんだ? コイツら、妙に親しいな…… )
etc(エトセトラ)の三人はそんな水戸の顔を見て、またしてもニヤニヤしていたのだった。
ー そして
綾は席を立ち、何の気なしに窓の外に目をやると……
「しっ、紳ちゃん……!?」
思わず声がこぼれた。
先日別れを告げられてからと言うものの
この数日間、姿形も、思い出も、好きだという気持ちも‥‥
一度たりとも忘れることはなかった、できなかった、愛しの彼が目と鼻の先にいる。
綾は無我夢中で、駆け足で店を出た!
「おい、春野!?」
「春野さん……!!」
「「 綾ちゃん! 」」
はぁ、はぁ‥‥
( 紳ちゃん、待って……どこに行くの? )
息を切らし‥‥
体力の続く限り、彼に会いたい一心で
必死で、必死で、追いかけた。
街の喧騒の中、そんな彼女に気が付くはずもなく人気の無い路地裏に向かい
闇夜に消えてゆく人影が、二つ‥‥
そして
街灯の下、牧と見知らぬ女は‥‥キスをした。
「!!」
「え……紳、ちゃ……」
ドサッ‥‥
綾の思考は完全に停止した。
持っていたカバンを路上に落としてしまった。
「「!!」」
「まさか……綾!?」
牧は首に回されていた女の手を瞬時に払い退け、目を見開いて驚いている。
( え……? 誰……? この人……
今、キス……してた、よね……? )
「初めまして。春野綾さん。
私が紳一の新しい恋人の、雨宮かおりよ。
今いいところなんだから邪魔しないでよね。」
「!?」
「春野さん……!」
「ま、牧……!?」
初めて顔を合わせた二人。
彼女は薄ら笑いを浮かべながら見下す様にそう言い放つ。綾の後を追い、駆け付けてきた水戸と三井もこの光景に目を疑った。
気が動転して頭の中がグチャグチャになり、どうしたらいいのか分からない。
ただ一つだけ分かることと言えば、この場にいてはいけないということ‥‥
「……ま、" 牧先輩 " 、
こんな所で会うなんて……奇遇ですね。
お邪魔してごめんなさい、それじゃ……」
思わず声が震える。
綾は、この場から逃げ出した‥‥
「綾!!」
牧の叫びも虚しく、彼女は闇の中に消えていった。
「春野、待ちやがれ!!」
「テメェら……許さねー!!」
三井は猛スピードで綾を追いかける。
水戸は凄まじい形相で二人を睨み付け、捨て台詞を吐き去っていった。
( なんだ……
やっぱり、好きな人、いたんだ……
スタイル良くて……お似合いだったな……
ははっ、私、馬鹿みたい……
なんで逃げちゃったんだろ……?
本当に好きなら、祝福してあげなきゃ……
でも、頑張ったほうだよね……?
ちゃんと、笑えてたよね……?
牧先輩って言って……決別できてたよね……?
紳一 …… )
もうどのくらい走ったのだろうか。体力の限界が来て、立ち止まり俯いていると‥‥
ハァ、ハァ‥‥
「春野……!!」
「三井……せんぱ……」
「泣けよ。」
「!!」
「これもお前への罪滅ぼしになるなら
俺の胸ぐらい、いくらでも貸してやらあ……」
三井の声かけに、緊張の糸がプツンと切れた。
「ゔっ……
うわぁぁぁぁ!!
紳ちゃん、紳ちゃんっ……!!」
綾は三井の胸の中で、泣き続けた。
( 先輩は……
私が泣き止むまで、ずっと黙ったまま
そばで見守ってくれていた…… )