喪失〜再愛 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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綾はその後、いつもの様に学校へ登校した。
ガラッ‥‥
「「!!」」
教室の扉を開けた瞬間クラスメイト全員の視線が刺さる。いや、自宅を一歩出た瞬間から皆の注目の的だった。
そんなにこの髪型がおかしいのかと綾は肩を落としたが、実際はそうではなく
この可愛いらしい容姿に魅せられていたのだ。
当の本人は全く自覚していない。
「ちょっ……綾!? その髪型……!!」
親友のカナがすぐさま話しかけてきた。
「カナちゃん、おはよう。
えへっ。もうすぐ夏だから、邪魔になって切っちゃった!」
と、舌を出して笑った。
「!?」
「春野さん、おはよ。」
「綾さん……!?
お、おはようございます!」
「二人とも、おはよ~!」
水戸と桜木も挨拶をした。
彼女に想いを寄せる桜木は、顔をほんのり赤くしている。
「ぐぅ……」
教室の隅の席にいる流川は、案の定
机に突っ伏して熟睡していた。
今朝、彼女と過ごせたことが嬉しかったのか。どことなくいつもより気持ち良さそうに眠っている様に見える。
( も~、さっき寝ないでね、って言ったばかりなのに。仕方ないなぁ。)
彼の寝顔を見た綾は、小さく笑った。
「春野さん、髪型どうしたの?」
「めっちゃ可愛い~! 似合ってる!」
「へー、ショートも似合うじゃん。」
綾の元にクラスの男女たちが一斉に群がる。
入学当初からサラサラなロングヘアが印象的だった彼女が大変身したのだから驚きだ。
ましてや" 牧紳一の彼女 "として広く噂されている綾。生徒たちや教師からも、ちょっとした有名人の様な扱いを受けていた。
「そうかな……? ありがとう。」
「いやいや、切っちゃった! じゃなくて!
……牧くんと、何かあったの?」
ようやく話せるタイミングを掴んだカナは核心を突いた質問をした。
ドキッ‥‥
この様な雰囲気になることは大体予想はしていたが、実際に聞かれると気が動転してしまう。
キーンコーン、カーンコーン‥‥
「ううん……! 何もないよ!
た、単にイメチェンしたかっただけだから。
ほらっ、もうすぐHRが始まっちゃうよ~!」
と、綾は明らかに動揺していた。
己の演技力の無さに呆れてしまうほど、彼女は嘘をつくのが下手だった。
顔の前でパチンと両手を合わせ
カナに向かって、とある合図を送る。
( ごめんね、カナちゃん。近々、ちゃんと話すから……今は聞かないで。お願い……! )
( 分かったわよ。まったく…… )
カナは綾の気持ちを察し、それ以上詮索するのをやめた。
ーー
綾は4時間目の授業をサボり、ひとり屋上で風に当たっていた。
( ん~、いい風……! 気持ち良い~! )
青い空に、白い雲‥‥
まるで絵に描いた様な景色が広がっている。
少し遠くの方には飛行機雲が通った形跡も確認できた。あまりの清々しさに腕を伸ばす。
手を空にかざし、物思いにふけっていると
「優等生がサボりなんて、いけねえなぁ。」
「み、水戸くん!」
驚いて振り返ると、桜木軍団のリーダー格である水戸の姿が。
「ま、俺も似たようなモンだけどな。」
と、さり気なく綾の隣に立つ。
普段から真面目に授業を受け成績優秀で周りの人間からの信頼も厚く、温和で心優しい性格。
一切そつが無い様に見える彼女なだけに
にわかには信じ難い出来事だ。
ーー‥
俺……春野さんのことが好きだ。
勝手なこと言ってるって、分かってる。
彼氏がいるのも知ってる。
けど、どうしても伝えたかった。
春野さんを想う気持ちは、その牧って奴にも負けてないと思うぜ。返事はまだいいから……
今はボディーガードでいさせてくれないか?
絶対に守ってやる。何があっても、な……
‥ーー
以前この屋上で抱きしめられ、愛の告白をされたことを忘れはしない。
綾は返事をしなくてはいけないと考えていたのだが、なかなかタイミングが掴めず
ずっと先延ばしになっていたのだった。
また、目と目を合わせて会話をするのは久々で互いに少し緊張していた。
「水戸くんとこうやって話すの、久しぶりだね。元気だった?」
「ああ。元気っちゃあ、元気かな。
春野さんは、あんまり元気無さそうだな。」
「え……そ、そう? そんなことないよ。」
「さっき、手を空に……」
「うん……こうやって大空に手をかざすとね、大切な人と離れてしまっても、どこかでつながってるんだなって思えて嬉しくなるの。
だって、同じ地球(ほし)の下にいるんだもんね!
って……見られてたんだ!?」
わわわ、恥ずかしい、と
途端に顔を赤くし慌てふためく綾。
「春野さん……」
そう話す彼女の横顔がとても綺麗で儚げで‥‥男は目が離せなかった。
「そうだ、前に三井先輩たちが攻めて来たとき……体を張って守ってくれて、すごく嬉しかった。あの時はどうもありがとう! 水戸くんって強いんだね!」
綾はお辞儀をして、感謝を述べた。
「どうってことねえよ、あんなの。
ザコばっかりで退屈しのぎにもならなかったぜ。」
「すごーい! 余裕だね?
でも今さらだけど、話し合いだけじゃ解決できなかったのかな。暴力なんて、良くないよ……」
バスケ部襲撃事件が起きたあの日
神聖なバスケットコートで、皆が血を流した。
水戸らが謹慎処分を買って出てくれたから良かったものの一時はどうなることかと思っていた。
暴力ではなく示談で解決を図れなかったのだろうかと、綾は率直な疑問を持ちかけた。
「男にはやらなきゃならねえ時があるんだ。
それに、正義を振りかざすには力も必要なんだぜ? 自分の好きな女ぐらい、自分の手で守らねーとな……」
と、余裕を含んだ笑みを浮かべ、綾を見た。
「そ、そっか……」
" 自分の好きな女 " という言葉と、目の前の彼の視線に顔を赤くしてしまった。
「でも……
あんな光景、もう二度と見たくないよ……
水戸くん、あまり無理しないでね。」
「ああ、ありがとな。」
ー そして
「……なぁ、この間の試合のあと、泣いてたよな。流川と何かあったのか?」
「敵わないなぁ、水戸くんには。」
真剣な面持ちで見つめてくる彼に、綾は降参と言った半ば諦めの表情で話し出した。
「告白、されたの。キスも……」
「え……」
「でも、返事は分かってるから、しなくていいって。
ごめんね。水戸くんにも告白の返事をしなきゃいけないってずっと思ってたの。
それなのに……長い間待たせちゃって……」
段々と声のトーンが下がっていく。
「彼氏と、別れたんだろ……?」
「えっ……ど、どうしてそれを……」
予想外の発言に綾は驚く。
「顔に書いてあるぜ?
だけど、好きで好きで仕方がない、ってさ。」
「そっ、そんなこと……」
「春野さんをずっと見てきたんだ。それぐらい分かるさ。だから……俺もまだ返事はいいよ。」
「…………」
「言っとくが、その弱みにつけ込んでかっさらおうなんて考えは1ミリも持ち合わせてねえからな。」
「!」
「今は、自分のほうが大変だろ?
もっと自分の気持ちに正直になれよ。」
「水戸くん……」
水戸は彼女を優しい表情で見つめていた。
「そうだ、今日部活が終わったら
メシでも食いに行かないか?
高宮たちも春野さんに会いたがってんだ。」
「そうなんだ、うん、いいよ!」
水戸は、おもむろに綾を食事にと誘った。
明日は大事な一戦を控えている。
そう分かってはいるが、一人でいると" 彼 "との思い出が頭をチラつかせ、どんどん気持ちが沈んでいってしまう‥‥
そんな自分が嫌で、二つ返事で引き受けた。
「よっしゃ、決まりだな。じゃ、また放課後にな!」
「うん……!」
午後はサボんなよ、と言い放ち、去っていった。
髪型の変化や授業をすっぽかしたと言うだけで、一切悩みを打ち明けていないのに
彼は綾がずっと思い詰めていたことを見抜いていた。
それだけ彼女のことを強く想っているのだろう。
流川や仙道に続き、水戸までも‥‥
簡単に心を見透かされてしまっている事実に情けないやら、恥ずかしいやら。
綾は何とも言えない気持ちでいっぱいだった。
( 水戸くん……
わざわざ励ましに来てくれたの?
やっぱり私、顔に出ていたのかな……?
ほんの少し心が軽くなったような気がするよ。
どうもありがとう。
貴方にも、いつかきちんと返事をしないといけないよね。
自分の気持ちに正直、か……
無理して忘れなくてもいいってこと……?
紳、ちゃん…… )
「好き」という名の、バラバラに散らばったパズルのピース。
周囲の人たちの優しさ、温かさに触れ
少しずつ、少しずつ‥‥組み合わさっていく。
綾の心にわずかに変化の兆しが訪れていた ー