喪失〜再愛 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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AM5:30 快晴。翔陽戦の前日。
彼は軽快な音楽を聴きながら、二つの車輪で近所のバスケットコートへと向かっていた。
その人物とは‥‥湘北のエース・流川楓。
これは彼にとって朝のルーティンなのだ。
目的地に到着し、その車輪を止める。
すると既に先客がいることに気が付いた。
「チッ……」
眠い目を擦り、せっかく早起きをしてここまで来たというのに。計画を崩された苛立ちから流川は思わず舌打ちをした。
金網越しに相手の面を拝もうとした、その時
( あれ? )
その人物をよく見ると、知り合いに似ていた。
( まさか……!? )
何かに気が付いた流川は、入り口へと急ぐ。
ーー‥
牧と付き合い始めてから数ヵ月が経過した頃。
とある週末、バスケットコートにて。
二人の共通の趣味。いや、己の全てを懸けていると言っても過言ではないバスケット。
忙しい間を縫って綾は牧によく技やコツを伝授してもらっていた。
陽の光や吹き抜ける風、そして何より、この開放感。その全ての恩恵を受け互いに笑い合っていた。
いわば愛の秘密特訓、といったものである。
「……いいか、綾。
レイアップはバスケットの基本且つ確実性のあるシュートだ。これを押さえておけば、その名の通り確実に点を取りに行ける。
お前はディフェンスの切り抜けが巧いからな、大丈夫だと思うぜ。」
「確実性かぁ、なるほど。」
綾はコート内でボールをバウンドさせて指示を待ち、牧は少し離れた場所から腕を組み仁王立ちでアドバイスを送っている。
「膝は柔らかく、ゴール下のペイントラインまで来たら踏み切って二歩目でできるだけ高くジャンプだ。
そしてボールはバックボードに当てるようにバンクショットで決めてみろ。」
「うん、わかった。1、2、3って感じだね!」
「そうだな、ステップ・ジャンプ・リリースのリズムでやるといいかもな。」
「リリース?
ボールを置いてくる感覚ってこと?」
「ああ。」
「よーし、やってみるね!
ステップして高くジャンプ、リリース……!」
タンッ、シュパッ‥‥!
「「!!」」
「入った? 入ったよね!? 」
「ああ。
ナイッシュー、綾、やったな!」
パチン! と右手を伸ばしてハイタッチをした。
「今までできなかったことができた瞬間って、すっごく嬉しいね!
紳ちゃんも教えるの本当に上手だよね。
さすが次期キャプテン! ありがとう~!」
綾は、満面の笑みと共に感謝を述べた。
「! どういたしまして。
俺は別に、何もしてないぜ。
綾の努力が実を結んだんだ。
今まで何度も練習してきたもんな。」
「えへへ……そうかな?」
「" 経験は無駄にはならない。
きっと、自分の糧となる "
……良い言葉だよな。」
「それって、県大会の時の……?
まだ覚えててくれたんだ?」
「当然だ。俺の座右の銘でもあり、
綾……
お前を好きな所の一つでもあるんだからな。」
「し、紳ちゃん……」
綾は顔を真っ赤にした。
「バスケット、また一緒にやろうな。」
「うん!」
‥ーー
二人で一つのことに熱中して、微笑み合って
そんな日々がとても楽しかった。
だけど
あの日々は、二度と戻ってはこない。
「…………」
彼と共に過ごした
かけがえのない過去の記憶。
綾は両手でバスケットボールを持ったまま、コート内にずっと立ち尽くしていた。
大好きだった彼に別れを告げられ、一人きりになった。
何故だろう‥‥?
大好きなはずのバスケが
コートが、ボールが、リングが
全て退屈な、窮屈なものに見えてしまっていた。
前を向かねば、現実から目を背けてはいけないと分かってはいるのに‥‥
( 落ち込んでいても仕方ないよね。
一歩ずつ踏み出すんだって、決めたんだ……!
明日は大事な試合なんだから。私はマネージャーとして、きちんと任務を全うしなくっちゃ……! )
そう意気込んでいると
「おい。」
「!」
「お前……もしかして、綾か……?」
「楓くん……」
流川の予想は的中した。
牧への想いを断ち切るため長かった髪の毛をバッサリと切り、ショートボブのヘアスタイルにチェンジした綾。
子どもっぽ過ぎず、ふわっとした髪型は彼女の輪郭や顔立ちにとてもマッチしていた。
「楓くん、おはよう。また会ったね。
えへ、思い切ってバッサリ切っちゃった!
どうかな? 似合う?」
「よくわかんねーけど……似合うと思う。」
「ありがとう……!」
「最初、誰だか分からなかった。
でも綾だと分かった瞬間、体が勝手に動いてた。」
「そ、そうなんだ……」
「今……二人きりだけど……いいのか?」
流川は彼女を気遣う。
以前、他の男と二人きりにならないでほしいと言う
牧との約束を綾が必死に守ろうとしていたことを覚えていたのだ。
「うん……もう、いいの。
この間は、突然態度変えちゃってごめんね。」
「別に……何かあったのか……?」
「ううん……何もないよ。」
「言いたくないなら、言わなくてもいい。
けど、元気出せ。」
「うん……ありがとう。」
ダン‥‥!
ダン‥‥!
シュッ‥‥
ドゴッ‥‥!
その後、流川は小刻みで素早いドリブルからレイアップ、3Pシュート、そして豪快にダンクをぶちかました。
綾はその鮮やかなプレイを後ろからずっと見ていた。
1on1をやろうと誘われたが
今日はあまりバスケをする気分にはなれないと、やんわりと断った。
「ふぅ……」
お疲れさま、と流川に優しく声をかけた後、綾はふと思ったことを口にした。
「……ねぇ、楓くんはバスケ、好き?」
「なんだ、そのシンプルな質問……?」
流川は突拍子もない質問内容に驚いていたが、綾の目をしっかりと見て話す。
「バスケをしている間は
俺が俺でいられるから、好きだ。……お前のことも。」
「! そ、そっか……」
何とも流川らしい答えだった。
自分本来の姿で、ありのままの自分でいられるから好きなのだと。
ーー‥
綾……好きだ……
初めて出会った時から、ずっと……
返事は……どうせ、分かってる。
だから、言わなくてもいい。
‥ーー
先日、流川に告白をされた綾。
決して忘れていたわけではないが返事は本人の希望もあり、まだしていない。
ただ‥‥バスケだけは、" 彼 "と繋がりのあるこのバスケのことだけは
「私も好きだよ」
と、すぐに返したかった。
出来事や気持ち一つで、こうも意識が変わってしまう。自分から聞いておいて共有できない
この歯痒さが、自分が憎らしかった‥‥
ー そして
「朝練は終了だね。
そろそろ学校に行かなくちゃ!
楓くん、授業中に寝ちゃダメだよ~?
いっつも先生に怒られてるんだから。」
「……頑張ってみる。
それより……お前の家、どこだ?
後ろに乗れ。送ってく。」
と、彼は自転車の荷台を指差している。
普段はロードバイクを愛用しているのだが修理中らしく、今朝は親に借りたと言うママチャリで来ていたのであった。
「ほんと? ありがとう。
自転車の後ろに乗るなんて初めてかも。
振り落としたりしないでね?」
安全運転でお願いしまーす! と、笑った。
「……たりめーだ。」
( 楓くんは、一切理由を聞かないでくれた。
黙っていてくれる、優しさ。
そんな静かな優しさが、嬉しかった。)
綾は目の前にある大きな背中を見て、心の中で彼に訴えかけた。
( ねぇ……楓くん。
本当はね、とっても、とっても……
辛いことがあったの。
私……彼のこと、ずっと忘れないって決めたんだ。
だけど、忘れなくちゃいけない。
忘れる努力を、しないといけないのに。
なのに……どうしてだろう……?
頑張っても頑張っても、できないよ……
ーー‥
オメーはすぐ顔に出るから分かりやすい。
‥ーー
もしかしたら、既に顔に出ているのかも知れない。
だけど、まだ今は……今だけは……
言わないで。
心の中を読まないで。
一度でも口にしてしまったら、きっと
あの人に……
愛しの彼に、
無性に会いたくなってしまうから……
お願いね…… )
流川の自分への気持ちを知っていながら、こんなことを考えてるなんてきっといけないことなのかもしれない。だけど‥‥
ぶっきらぼうでも、言葉足らずでも、きちんと核心を突いてくる。彼の普段通りの優しさが、現在(いま)の綾には非常に心地が良かった。
涙があふれそうになるのをグッとこらえ
運転する流川の腰に両手を回し
その身を委ねていた ー