喪失〜再愛 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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ここは、綾の部屋。
ベッドの上で横になりボーッと天井を眺め、例の腕時計を胸の位置で握り締めている。
昨日の出来事があまりにもショックだったのか‥‥食事も睡眠もまともに取らず、未だ整理できていない牧への気持ちが浮遊していた。
ーー‥
綾……別れよう。
もう俺のことは忘れてくれ。
‥ーー
彼の発した言葉が何度も何度も頭をよぎり、離れない。離してくれない。
綾の心中は絶望や失望感、喪失感であふれ、悲しみの淵を彷徨っていた。
( あれから、悲しくて、淋しくて、虚しくて……
一晩中ずっと泣いていた。
突然別れようだなんて、どうして……?
私がこんなだから、
愛想尽かされちゃったのかな……
それとも、他に好きな人が……
もう……こんな物、持っていたって……!! )
綾はガバッと体を起こし、腕を真上に振りかざして腕時計をゴミ箱に投げ捨てようとしたが
ハッ……
ーー‥
綾、高校入学おめでとう。
俺からのお祝いだ。受け取ってくれ。
いつもそばにいてやれず、すまない……
この時計を俺だと思って大事にしてくれ。
たまには彼氏らしいことしてやらないとな。
俺も、綾のことが好きだ!
ずっとそばにいたい。離れたくない!
I love you…
俺の真剣な気持ちだ。受け取ってほしい。
‥ーー
( 紳ちゃん……! )
綾は、瞳を閉じて牧との記憶を思い起こしていた。
ーー‥
昨年、二人が付き合い始めてしばらくして。
学校の帰り道。
茜色の夕日を背景に海沿いの道を歩いている。
「綾、高校はどこを受験するか決めたのか?」
「えっとね……まだ本決まりじゃないけど、湘北にしようかなって考えてるよ。」
「湘北……赤木がいるところか。」
「赤木さん……?」
初めて耳にする名前に、首を傾げる。
「以前、試合を観に行ったことがあってな。
凄い素質を持ったセンターだと思うんだが不運にもチームメイトに恵まれていないようでな……
奴はきっと、どん底から這い上がってくる。そんな予感がするんだ。
湘北と勝負できる日が待ち遠しいぜ。」
「そうなんだ……
紳ちゃんが一目置いてる人がいるなんて、ますます興味が湧いちゃうな。
その赤木って人を、敵視してるの?」
「まあな。
結局のところ、お前がどこを受験しようと勝手だが……ウチ(海南大)に来ないか?」
牧は立ち止まり、綾の顔を見た。
「うん……ありがとう。
私も一緒の高校がいいなって思ったんだけど、海南って偏差値高いでしょ?
私、そんなに頭良くないし……推薦枠があるわけでもないしさ。無理なんじゃないかなって。」
「……いや、俺はお前の頭が悪いなどと思ったことは一度もない。むしろ博識だと思うがな。」
「そうかな? ありがと。
それにね……私、あの雄大な海が好きなの。」
と、綾は夕日によって照らされたキラキラと光る美しい水面を指差した。
「湘北は海が間近にあって、家からも近くて色々好都合かなって。」
「海か……確かに、湘南の海はいいぞ。
波乗りには最適だぜ。」
「え? 紳ちゃん、サーフィンが得意なの?
全然知らなかった~! そっかぁ、
だからそんな小麦色に焼けてるんだね。」
「まあな。今度、綾も一緒に行くか?」
「うん! 行きたい行きたい!」
「わかった、約束しよう。」
ー そして
「敢えて、高校を離れるのもいいかもね?」
「どういうことだ?」
「会う度に、お互いが色々新鮮に感じられて……楽しいんじゃないかなって。」
「!」
「それに海南はバスケの強豪校だし……
元々、紳ちゃんとは忙しくてあんまり会えないって分かってるから。
夏にはインターハイもあるし、全国に行くんでしょ?
私……紳ちゃんの負担にはなりたくない。
だから距離を置いた方がいいんじゃないかなって思うんだ。」
綾はそう俯きながら話す。
次第に声のトーンが下がっていき、元気が無くなっていくのが分かった。
「綾……そんなことは……」
「あ、あとね! 湘北は制服が可愛いんだよ~。
ウチの中学はセーラー服だから、ブレザーに憧れてるんだ。目指せ! 花の女子高生~~!」
突如、彼に心配をかけぬ様にと明るく振る舞う。手をグーにし腕を天に向かって伸ばした。
「……フッ、ほんと面白い奴だな、お前は。」
そんな彼女を、牧は優しく微笑みながら見つめている。
「そう? だって、青春を謳歌したいんだもん!
どんな出会いが待ち構えてるのかな、って考えるだけでワクワクしちゃうよ。」
「そうか。青春を謳歌、か…
俺も他の奴らも皆、貴重な三年間をバスケに懸けてるんだよな……
そう考えてみると、なかなかに感慨深いものがあるな。」
「……私、紳ちゃんのこと、ずっと応援してるからね。」
「ん……?」
「貴方のことも、バスケも、大好きだから……!」
「綾……ありがとう……」
‥ーー
ぎゅっ‥‥
綾は腕時計を両手で大事そうに握りしめた。
ーー‥
お前の気持ちも考えずに、悪かった。
そんな泣き虫じゃ海南のユニフォームはとれないぜ、綾……!
プレゼント、大切にするよ。ありがとう。
あの顔は、なかなか傑作だったな。
もう少しパンチがあってもよかったかもな?
ハハハ……
‥ーー
貴方の優しい声、笑顔、温もり……
今までずっとずっと……彼だけを見てきた。
蘇る、たくさんの思い出の数々。
けれど、もう……彼の瞳に私は映らない。
いつまでもこのままじゃいけない。
辛くても一歩ずつ踏み出していかなくちゃ……
コトン‥‥
机の上に飾ってある
牧との2ショット写真。時計と一緒に
綾はそっと、引き出しの中にしまった。
今まで……愛してくれて、どうもありがとう……
私……ずっとずっと、貴方のこと、忘れない。
幸せになってね、紳一 ……