天使の舞〜悪魔の兆し 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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彼女が全てを語り尽くしてからと言うもの
この場は凍りついた様に静まり返っていた。
綾は今後どんな顔をして話したらいいのか。頭が混乱して考えが追いつかない状態であった。
そして
この緊張を解いたのは、彼だった。
「春野……とりあえずこれで涙を拭くんだ。」
「藤真、さん……」
藤真は綾にハンカチをそっと差し出した。
彼から受け取ったそれは、洗いたての洗濯物の様な小さい頃に遊んだシャボン玉の様な
そんな懐かしい香りがして鼻をかすめた。綾は牧の隣に並び、涙でぐちゃぐちゃになった目元をゆっくりと拭いた。
「綾、」
ビクッ‥‥
「!」
牧は彼女の名前を呼んだ。
" 彼との約束を破ってしまった "
その罪悪感が綾の脳内を占拠し、瞬間的にびくりと驚いてしまった。大好きな彼が怖いだなんて有り得ない。
もちろん牧には何の非も無いのだが、神経質な性格が裏目に出てしまった。
大好きな人だからこそ、嫌われたくない。
綾はとても切なそうな眼差しで、牧の目を見た。
( 綾…… )
「なぁ、場所を変えないか?」
藤真の一言を皮切りに4人は横並びで会場の外に出た。
牧はずっと黙ったまま、綾の荷物をさり気なく持ってあげていた。人目も気にせず堂々とした面持ちで歩いている。
( 紳ちゃん……? )
先ほどから、牧はあまり綾と話そうとしない。だが、彼の目つきは真剣そのものだ。
試合は無事に終わり、会場の近辺には
湘北や津久武の部員たちや晴子、桜木軍団らが集まっているのが見える。
少し離れたところには流川の姿もあった。
「「 牧……!それに、藤真に花形!? 」」
この場にいた者は驚愕した。それもそのはず。綾と共に次回の対戦高のスターたちが勢揃いしているのだから。
「安西先生、お久しぶりです。
湘北の勝利おめでとうございます。
とても良い試合を見させていただきました。」
「「ご無沙汰しています。安西先生。」」
彼らは監督に丁寧に挨拶をした。
「やぁ、牧君に藤真君に花形君。どうもありがとう。
君たちが偵察に来ていたと言うことは、やはり今年の湘北は確実に強くなっていると言っても過言ではないのかな。
もし良ければ、今度ウチで一試合していくといい。彼らにはとても良い刺激になるだろう。」
「「はい、ありがとうございます。」」
やはり元全日本の選手・白髪鬼と呼ばれた安西監督の存在はとても大きい。
「綾、目が真っ赤じゃない……! 何があったのよ……?」
「綾さん!?」
「春野!?」
「おい、大丈夫か?」
元気のない彼女を見兼ねて次々に声をかける。
「大丈夫です……
ご心配をおかけしてすみません。
みなさん、本当にお疲れ様でした。次回はいよいよ翔陽戦ですね!
私も色々頑張らなくっちゃ……!
……今日はお先に、失礼します。」
綾は心配をかけない様に必死に笑顔を作り、胸の中に潜んだ切なさをごまかした。
そして
水戸と晴子の顔を見た。
「水戸くん、晴子ちゃんも、ごめんなさい!」
「「!?」」
綾の突然の謝罪に訳が分からないと言った表情をした二人であったが
次の瞬間、彼女の視線の先にいる人物を見て、すぐにその疑問は解決した。
「楓くん……」
「綾。」
二人の間には何とも言えない空気が漂っていた。
(( ま、まさか……流川(くん)!? ))
綾の目が腫れていた理由が、これでハッキリした。
そして三井は、牧におもむろに声をかける。
「おい、牧!」
「お前は確か……あの中学MVPの三井か?」
「へぇ、神奈川No.1プレイヤーにまで俺の名が知れ渡ってるとは光栄だな。
テメェ……恋人だか何だか知らねーが、あんまりウチのマネージャーを虐めんなよな。
これ以上コイツの腕が鈍ったらどうしてくれんだよ?
……コイツから笑顔を奪ったら、許さねえ。」
三井は悪戯な笑顔で言い放ったあと
すぐに鋭い目つきに変わった。
まるで獲物を狙う獣の様な、そんな瞳だった。
( 三井先輩……? )
「……ああ、分かってるさ。じゃあな。」
牧は多くを語らなかった。
「もう行こう、春野……
赤木、試合を楽しみにしているからな!」
「全国へ行くのは、俺たち翔陽だ!」
「ふっ、たわけが……
今年こそ貴様らをあっと言わせてやるわ。首を洗って待っていろ!
……春野、お前の帰りを待っている。
問題児が二人もいるんだ。俺たちだけじゃ手に負えんからな。」
赤木はまるで全てを悟っているかの様に、彼女にそう告げた。
「キャプテン……ありがとうございます。」
綾は再び泣きそうになるのをグッとこらえ、皆に背中を向けた。
「綾、行くぞ。」
突如、牧は見せつけるように
綾の肩を強く抱き寄せた。
「「!!」」
「紳ちゃん……? 恥ずかしいよ……」
「牧……」
これには隣にいる二人も驚いていた。
「綾さん!」
「綾。」
桜木と流川は彼女を引き止めようと声をかけた。反射的に綾は後ろを振り返るが
「二人とも、ごめんね……また明日ね。」
こうして、彼らは会場を後にしたのだった。
ーー
「じゃあ、俺はこの辺で失礼するよ。」
歩いて数分したところで花形はそう言った。この三人の関係性を熟知している故なのか。
定期テストで学年1位の秀才である彼は、やはり頭が切れる。
「春野……
色々と事情があるだろうが、元気出せよ。
ウチのプレイングマネージャーが試合前に色恋沙汰で不在なんてことになったら、一巻の終わりなんだからな。」
花形は綾と藤真の顔を見て、ふっと笑った。
「おい、花形!」
「はい……花形さん、お気をつけて。」
藤真は顔を少し赤くしていた。
「牧……お前もな。」
「おう……」
「じゃあな!」
と、彼は街の中へと消えていった。
その後
特に目的地はなかったが、アテもなく歩いた先に小さな公園に辿り着いた。
小さな子ども連れの親子が遊具で楽しそうに遊んでおり、綾の顔もほんの少しだけ綻んだ。ベンチに座り一息ついたところで
彼らはようやく本題に触れ始めた。
「紳ちゃん、藤真さん……
私……楓くんに、告白されたの。」
「「!?」」
「前にね、清田くんに言われてからちょっぴり意識はしてたんだけど
まさか本当にそう思われてたなんて信じられなくて……
入学式の日に初めて出会って、同じクラスになったと思ったら今度は桜木くんと殴り合いをしてて、顔中血だらけになってたんだよ?
あの時はびっくりしたなぁ……」
綾は困った様に笑いながら、流川との出会いや過去の出来事を話した。
男たちは相槌を打ち真面目に彼女の話を聞いていた。
「それで、怪我の手当てをしてやったのか?」
「うん。居ても立っても居られなくなっちゃって、頭に包帯をぐるぐる~ってね。
前に素敵な名前だね、って話したことがあって……本人はすごく嬉しかったみたい。
突然「楓」って名前で呼べって言われたの。強制的にだよ~? おかしくって思わず吹いちゃった。」
「……その時点で、アウトだな。」
藤真がボソッと呟く。
「え、藤真さん……?」
「アイツは、その時すでに
春野のことが好きだったんじゃないか?
普通、好きでもない女に名前で呼ばせたり看病なんてしてほしくないと思うけどな。」
「そうだな。」
「そ、そんな……
あの時はまだ意識してなかったよ。その後もたくさん助けてもらったのに。
私……彼の気持ちに応えてあげられないよ。
明日、どんな顔して会ったらいいのかな……」
綾はずっと俯いたままだった。
「綾……」
「春野……」
すると
予想もしていなかった人物に声をかけられた。
「おねーちゃん、どうしたの?
このおにーちゃんたちにいじめられたの?」
「え……?」
「これ、さっきそこでみつけたの!
おねーちゃんにあげる!」
差し出されたそれは、幸運が訪れると言われている四つ葉のクローバーだった。
「げんきだしてね、おねーちゃん。」
三人は意表を突かれた。
4~5才ほどの小さな女の子に励まされるなど誰が予測したであろうか。綾は純粋な子どもの優しさに胸を打たれていた。
「四つ葉のクローバー……
よく見つけたね、どうもありがとう……!」
「「!」」
綾は地に膝を付き、女の子の目線になって感謝を述べた。
その笑顔に二人は胸がドキッとした。
「あとね、このお兄ちゃんたちはとーっても優しいんだよ。お姉さんの大好きな人なんだ……!」
「そーなの?」
「うん! ねっ、紳ちゃん、藤真さん!」
綾は二人の顔を見て微笑んだ。
「ああ……」
「春野……」
ずっと見たかった。
ずっと逢いたかった。
彼女の、その極上の笑顔に‥‥
二人の心臓の鼓動は騒がしいほど音を立てている。先ほどまで話題にしていたことなど、もうどうでもいいと感じるほどに。
ー そして
綾は、ずっと手に握っていたある物に気が付いた。
「あ……これ、仙道さんにもらった……」
ピクッ‥‥
「何……?」
「仙道……?」
「うん。牧さんと何かあったら俺のところにおいで、って。あと、天使がどうとか言ってたよ。」
「「 何……!? 」」
「何もあるワケないのにね?」
と、綾は笑って言った。
彼女は紙を開き、小さめの声でゆっくりと読み始めた。
コート上の天使・綾ちゃんへ
綾ちゃん、君のことが好きだ。
だけど、君を困らせるだけだろうから
すぐに付き合ってほしいとは言わない。
今は俺を意識してくれればそれでいい。
仙道 彰
と、下部には携帯番号とメールアドレスも記されていた。
「せ、仙道さん……!?
これって……ラブレター、だよね……?」
綾の顔は次第に真っ赤になってしまった。
「捨ててしまえ。」
「俺も同感だ。」
「えっ、紳ちゃん? 藤真さんまで……
いくら何でもそれは酷いんじゃ……」
二人の意外な反応に困っていると、牧にヒョイと紙を取られてしまった。
「あっ……!
もうっ、なんでそんな意地悪するの?
紳ちゃん……二人きりになっちゃったこと、やっぱりまだ怒ってる……?」
ごめんね、と綾は沈み込んでしまった。
「いや、別に怒ってなどいない。
邪魔者は排除する。ただそれだけのことだ。」
「ムッ。邪魔だなんて……
仙道さん、せっかく良くしてくれたのに。
それだって私のために一生懸命書いてくれたのに。そんな言い方、ないよ……!」
綾は牧に申し訳ないと思いつつも、自分を慕ってくれる彼の気持ちを踏みにじるわけにはいかないと必死で訴えた。
ー すると
「相変わらず、優しいんだな。」
今まで黙っていた藤真が、真剣な表情で話し始めた。
「え……藤真さん?」
「だが……時に、その優しさが相手を傷付けてしまうこともあるんだ。
牧の気持ちも分かってやってくれ。」
「優しさが……人を、傷付ける?」
「藤真……」
「春野……
今日は久々に会えて嬉しかった。ここまで綺麗になってるとは驚いたぜ。
俺も、そろそろおいとまさせてもらうよ。
二人の " 邪魔者 " にはなりたくないからな。」
藤真は優しく微笑みながら綾の頭をそっと撫でた。
「藤真さん……
そんな、もう行っちゃうの?」
せっかく会えたのに、と捨てられた仔犬の様な目で彼を見つめる。
「!」
「連絡先、交換してくれませんか?」
「え?」
「おい、綾……」
「藤真さんは大事なお友だちだもん。
そうすれば、すぐにまた会えるでしょ?
紳ちゃん、いいかな?」
「俺は別に……好きにしろ。」
「ありがとう!
私、紳ちゃんのそういう寛大なところも好きだよ~!」
「……サンキュ。」
こうして連絡先を交換した二人。
願ったり叶ったりな藤真の表情は、どこか嬉しそうだ。
「ふ。ほんとお似合いだよ、お前らは……
春野、もう敬語なんて使わなくていいからな。それに、下の名前で呼んでくれたら嬉しい。」
( なんで、みんな名前で呼んでほしいのかな? )
「じゃあ、健司くん……で、いい?」
「ああ、それでいい。ありがとう。
じゃ、次に会う時は試合会場でな。」
「うん……それまで、元気でね。
今日は色々とありがとう。
ハンカチも今度洗って返すからね。」
「ああ。頑張れよ、マネージャーさん。
いや、
" コート上の天使の綾ちゃん "。」
「なっ、それって……」
「牧……お前とも、今度決着をつけないとな。」
「そうだな。」
「春野を悲しませたら、ただじゃおかないからな! 覚悟しておけよ!」
彼はじゃあな、と颯爽と去っていった。
「健司くん! バイバーイ!」
綾は彼の姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
このあと、牧は綾から天使について質問攻めにあったことは言うまでもなかった。