出逢い〜告白ラッシュ 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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ピピピ‥‥
「ん~、もう朝かぁ……」
日曜日の早朝4時。
携帯電話のアラームか、或いは小鳥のさえずりか。
綾は眠りから覚めた。
春~夏にかけては日の出の時間が早く、あっという間に朝になってしまう。
ムクッと起き上がった彼女は朝のルーティンをこなし、1階にあるキッチンへ。
エプロンを着て気合いも十分だ。
「さ~て、頑張りますかっ!」
綾が張り切って作っているのは恋人の牧率いる海南大附属高等学校・男子バスケット部への差し入れだ。
ざっと見ても20人ほどいる部員のために、せっせとお弁当を作っている。
トントントン…
シャカシャカ…
コトコト…
ジュ~…
その手つきは実に軽やかなものだった。
鼻歌まじりで、大きな重箱やタッパーやスープジャーにおかずをたくさん詰め込んでいる。
( えっと、おにぎりにサンドイッチでしょ、あとは玉子焼きに生姜焼きにお味噌汁とデザートと……よし、こんなもんかな? )
「あ……これは秘密にしとかなきゃ……」
「あら、何が秘密なの?」
「!?」
突如話しかけてきたこの人物は、綾の母である。
「お、お母さん!
もうっ、びっくりさせないでよ!
……おはよ。」
「おはよう、綾。
何よ、朝っぱらからこんなにイイ匂いさせてたら誰だって目が覚めちゃうわよ。
それにしてもすごい量! 今日は一段と多いのね~。」
「そうかな? 彼に会うの久々だし、みんな頑張って練習してるから私も何か力になりたくて。
って、湘北のマネージャーなのに変だよね。」
そう言うと、フフフと母は笑った。
「ちっとも変じゃないと思うわ。
今度、湘北の人たちにも作ってあげたらいいじゃない。
それに、さっきのは牧君にあげるんでしょ?
いいわねぇ。青春よね~。」
「う、うん。」
「また家に連れてらっしゃいな。
牧君になら、安心して娘を任せられるもの。いつでも大歓迎よ。
さっ、車で送ってあげるから準備してきなさい!」
「ありがとう、お母さん。
あ……お父さんにはお弁当のこと言わないでね!
バレたらうるさくなるし、恥ずかしいもん。」
「はいはい。」
綾はサッと身支度を済ませ自家用車に乗り込み、恋人に一通のメールを送信した。
――――――――――――――――――
To : 紳ちゃん
おはよ~!
今、お母さんの運転でそっちに向かってます!
待っていてね。
――――――――――――――――――
To : 綾
おはよう。今朝も早いな。
了解、校門の前で待ってるよ。
道中気をつけてな。
――――――――――――――――――
バックミラーに映る娘の楽しそうな表情を見て、母も嬉しそうに微笑んだ。
( いい顔しちゃって。
相変わらず、ラブラブなのね……♡ )
ーー
その後、目的地の海南大に到着した。いつ見ても立派な建物だなぁと関心する。
すると、校門の前で牧の姿を発見した。
「紳ちゃん! おはよ~!」
「おはよう、綾。」
車から降りた後、ブンブンと大きく手を振りながら駆け寄る綾。母も車の窓を開けて挨拶をする。
「牧君、いつもありがとう。
ふつつかな娘だけど、これからもどうぞよろしくね。また遊びに来なさいね。それじゃ……」
「はい、また今度お邪魔します……お気をつけて。」
牧は丁寧にお辞儀をして別れた。
「紳ちゃん、久しぶりだね!
って言ってもこの間、試合会場で会ったから2週間ぶりぐらい?」
「ああ、そうだな。
ん? 何だかすごい荷物だな……
よし、俺が持ってってやる。」
牧は大きなクーラーボックスとボストンバッグを軽々と持ってやった。
「ありがとう。
朝の4時起きで、張り切っちゃった!
あとでお昼に食べてね。」
「サンキュ。恩に着るよ。
体は大丈夫なのか? あとでゆっくり休めよ。」
「うん、大丈夫だよ!」
二人は歩きながら体育館へと向かった。
中に入るとザワザワと部員たちが騒いでいる。
「「 キャプテン!
春野さん! ちゅす!!」」
この海南大・男子バスケット部にはマネージャーが存在しない。それは選手同様に練習内容が非常に厳しく、辞めていく人物が後を絶たないと言った事と関係しているのかもしれない。
牧の恋人である綾は大人気。まさに男子バスケ部界の華とも言える存在なのだ。
「みなさん、おはようございま~す!
今日も差し入れを持ってきたので、あとで召し上がってくださいね!」
牧は彼女の持つ元気パワーに
体が軽くなった様な気がした。
すると
「春野さん! お久しぶりです!」
「綾ちゃん、おはよう。今日も元気だね。」
清田と神の二人が話しかけてきた。
「おはようございます!
あのさ、清田くん。
前から思ってたんだけど……私たち同い年なんだし、さん付けしなくてもいいんだよ?」
「えっ? いやぁ……牧さんの彼女なのに、呼び捨てなんて恐れ多くてできないっすよ~。」
「別に大丈夫だよ。ウチでは
桜木くんは私のこと綾さんって呼んでるし、楓くん……あ、流川くんには綾って呼ばれてるよ。」
「「 !? 」」
「えっ……綾ちゃん、それって……」
「春野さん。」
「…………」
牧はずっと無言だった。
「紳ちゃん?」
綾は牧の顔を覗き込む。
「……いや、すまない。大丈夫だ。
そういえば、あの鞄には何が入ってるんだ?
随分とデカかったが……」
「ああ、アレね。
実は……
紳ちゃんさえ良ければ、今日は海南バスケ部の一日体験をさせてもらえないかなぁと思って。
着替えとか色々持ってきたんだ!」
「「 一日体験!? 」」
「別にね、私はスパイでもなんでもないよ。
守秘義務もあるだろうから、練習内容は絶対に他言しないって約束するよ!
ただ、自分の体力作りと
みんな日々どれくらいキツい思いをしているのか知りたくて……」
綾は俯き気味にそう話す。
最初に返答したのは、清田だった。
「そんな、女子には絶対無理っすよ!
相当キツいっすから!
やめた方が身のためっすよ!!」
「うん、俺もそう思うよ、綾ちゃん。悪いけど賛成はできないな。」
「綾、お前には無理だ。
頼むから無茶はしないでほしい。」
皆の厳しい意見が胸に突き刺さる。
「……そ、そうだよね……
ハードなの知ってて、何言ってんだろね。
みんなに迷惑かけちゃうだけだよね。
突然変なこと言って、ごめんなさい……」
綾は深く頭を下げて謝罪をした。
「邪魔になったら悪いし……
私、向こうに行くね。練習、頑張ってね。」
綾は今にも泣きそうだったが
無理に笑顔を作っている様にも見えた。
そして、体育館から走り去ってしまった。
「綾!」
「綾ちゃん!」
「……牧さん! 何で追いかけないんすか!?俺、必ず連れて帰りますから!」
清田はダッシュで後を追う。
( 綾…… )
牧はずっと拳を握り締めていた。
( 清田の言う通りだ。
俺は何故、追いかけて……引き止めなかったのだろうか。
他の男の名前を呼んだから?
無茶な頼み事をしてきたからか?
近頃の自分は、どうかしてると思う。
アイツを……綾のことを、決して嫌いになったわけじゃない。
寧ろ好きで仕方がないぐらいだ。
誰にも渡すものか……!! )
そう思った瞬間、衝動的に体が動いた。
「神! 少しの間抜けるが、すぐに戻る。
後輩たちの指導を頼む。」
「牧さん……分かりました。」
牧は急ぎ足で体育館を出ていった。
案の定、館内はざわめいていた。
(( さすが牧さん!
ここで追いかけなきゃ、男じゃないよな! ))
ーー
その後、綾は夢中で走り体育館裏まで来ていた。
幸い、辺りには誰もいない。
先ほど三人に言われた言葉を思い出し、涙がじわじわとあふれ出る。
( 湘北のマネージャーなのに、二股なんてするからいけないんだよね。
あんなこと言って、きっと引かれたよね。
今まで、みんなの優しさに甘えてた。
こんなんじゃ、紳ちゃんの彼女失格だよね。
牧紳一は、すごい人なんだもん。
私なんかより、ずっと……
彼に負担をかけてしまうぐらいなら
もう金輪際、会わない方がいいのかな…… )
ーー‥
春野のことが、好きだ。
俺と付き合ってほしい。
これからもずっと……応援していてくれないか?
‥ーー
蘇る、過去の記憶。
ちょうど一年前‥‥桜の木の下で告白された、あの日。綾の胸に刻まれた
大切な、大切な思い出。
ザザッ‥‥
「!」
突然の物音に驚き、振り返ると
「き、清田くん、どうして……」
そこには息を切らした清田の姿が。
赤く目を腫らしている綾は、か細い声でそう嘆いた。
そして
「綾さんっ!
おっ、俺は……牧さんと一緒にいる時の幸せそうな綾さんの笑顔が、大好きなんです!だから、そんな顔しないでください!」
清田は自分なりに言葉を選び、大声で精一杯の気持ちをぶつけた。
「うん……清田くん、ありがとう。」
「!!」
綾は清田の手をぎゅっと握った。
すると
「綾!!」
大好きな、彼の声が聞こえた。
「牧さん……」
「紳ちゃん……ご、ごめんなさい……」
「綾、無事だったのか。良かった。
……俺の方こそ、すまなかった。
お前の気持ちも考えず、泣かせてしまって……」
「……」
「体育館に戻るぞ。
一日入部体験、したいんだろ?
そんな泣き虫じゃ、海南のユニフォームはとれないぜ、綾!!」
「え……? ってことは、いいの……?
私、みんなの足手まといになってない?
また、ここに来てもいいの……?」
「フッ……ああ、もちろんだ。」
ありがとう、と優しく笑った綾。
男達たちは、この笑顔にめっぽう弱い。
ずっと、ずっと守っていきたい。
まだ幼いが、そんな感覚にさせてしまうほどの魅力が彼女にはある。
( 雑草は、早めに取り除かねばならんな…… )
何か一大決心をした牧であった。
そして
空気を読んだ清田は、彼女と未だ繋がれた手をパッと離す。
「ま、牧さん……遅いっすよ!
俺、先に戻ってますから!
……綾さんも! じゃっ!」
「ああ。ありがとな、清田……」
清田は顔の火照りを必死で抑え、この場から去っていった。
( 清田…… )
その後、綾に握られた自分の掌をずっと見つめていたのだった。
( 可愛いすぎだろ……はぁ…… )
ーー
その後、許しを得た綾は体育着に着替え、走り込みや筋トレ、シュート練習など
牧が絞り込んだ特別メニューをこなしていった。
「ハァ……もうダメだぁ……しんどい……」
「なんだ、もう音を上げたのか? 綾。
まだまだこんなモンじゃ終わらないぜ。
日射病にでもなったら大変だからな、飲んでおいた方がいいぞ。」
ほら、と牧はタオルとスポーツドリンクを手渡しながら鼻で笑った。
「ありがと……最初に言ったこと、ちょっとだけ後悔したかも。
やっぱり海南の練習量は半端ないんだね。
恐れ入りました……」
想定外の厳しさを身を持って体感した綾は、苦笑いをした。
「まあな……
そうでもせんと、常勝の名が廃る。
中でも神は毎日500本のシュート練習を欠かさずやっているしな。努力の賜物だ。
16年連続出場の底力を見せてやる……!
今から1試合してくる。綾は休憩も兼ねて、そこで見ていてくれ。」
「う、うん。
いってらっしゃい、頑張って……」
牧は綾の頭を優しく撫でて、仲間たちの元へと駆けていった。
「よし、行くぞ!!」
「「「 おおっ!! 」」」
ティップオフ!
試合開始の合図が出された。
牧と高砂とのジャンプボール。
ボールは牧の元へ。すかさず武藤と宮益にパスを出し、素早い動きでゴール下へと向かった彼は、シュートを放つ。
ボールは軽やかにリングをくぐり抜けていく。
「ナイッシュー! 紳ちゃん!」
「……!」
綾の声に気付いた牧は、笑っていた。
そして、ディフェンスの構えに。
清田がシュートを外すことが分かっていたのか。瞬時にリバウンドを取り、己のペースへと戻していった。
「げぇっ!」
「神! そこだ! いけぇーーっ!」
「はいっ!」
洗練されたフォームから放たれたそのボールは、綺麗な弧を描く様にしてリングへと吸い込まれていった。
( す、すごい……!!)
神の滑らかなシュートにはもちろんのこと、綾は恋人である牧のプレイに圧倒されていた。
強靭な肉体に、スピード力‥‥
さらには皆をまとめ上げるリーダーシップも兼ね備えている神奈川No.1プレイヤー・牧紳一。
やはりこの男は只者ではなかった。
彼に憧れて海南を受験する者が多数存在することも頷ける。
彼女は、そんな牧の天才的プレイに少なからず嫉妬していた。
( でも……私は知ってるよ。
紳ちゃんは、最初から天才なんかじゃない。
たくさん努力を重ねて、今までたくさん苦労をしてきたんだよね。
そして、たくさんの人たちのプレッシャーを背負ってる。
もっと力があったらな……
紳ちゃんの不安な種を、少しでも取り除いてあげられたらいいのに…… )
ーー
ピーッ!!
試合終了のホイッスルが鳴り、牧と神の二人が統率するチームが勝利した。
一同は汗でTシャツがびっしょりだ。
「くそっっ!
俺があそこでシュートを外さなければ……!」
「ははっ、ドンマイ信長。
点さえ入らなかったけど、敵ながらなかなか良かったと思うよ。」
「うむ、俺もそう思う。よくやった。」
「じ……神さん、牧さん……(うるうる)」
「「 気色悪い目で見るな!」」
と、笑い合いながらベンチに戻ると
綾が床で丸くなりながら
すう、すう、と規則的な寝息を立てて眠っていた。
「「 !? 」」
「……おい、綾、起きろ。
こんな所で寝ていたら風邪を引くぞ。」
「ぐぅ……」
綾は熟睡しているのか、目覚めない。
( 仕方無いな…… )
牧は綾の肩にそっと優しく触れ、自分のジャージを布団代わりに被せてやった。
( 今朝は4時起きだと言っていたな。
よっぽど疲れていたんだろう……
このまま寝かせといてやるか。)
「そんな可愛い寝顔して、襲われちまったらどうすんだ?」
「なっ、武藤!!」
突然の問題発言に驚いた牧は、キッと男を睨みつけた。
「じょ、冗談だっての!
ったく。帝王も女の前じゃ形無しだな。
……男の嫉妬は醜いぜ?」
「チッ、ほっとけ。」
( 綾ちゃん……確かに無防備すぎ。)
( やばっ、寝顔も可愛いな……
ずっと見ていたい…… )
「……よし、これから昼食にする!
その後は各自でウォーミングアップするように! 分かったな!」
「「「 うーす!! 」」
いただきます! と、彼らは胡座をかきながら
綾が丹精込めて作ってくれたお弁当を広げ、美味しそうに頬張っている。
男子高校生の食欲はとてつもなかった。
「この生姜焼き、めっちゃウマイっす!」
「おにぎりも最高っす!」
「味噌汁も、
かーちゃんのよりもウマくて感動……」
「ほんと、綾ちゃんは料理が上手ですね。牧さんが羨ましいですよ。」
「可愛いくて料理もできて、そんでもって
牧さんに一途なんて、完璧っすね!」
部員たちに綾の弁当は好評だった。
牧は少し照れ臭かったが
彼女のことを褒められて嫌な気はしない。
ー すると
「これは……?」
牧はボストンバッグの隅に小さめの弁当袋を発見した。
そこには丁寧にラッピングされた黄色と紫の海南カラーのリストバンドと
バスケットボールと四つ葉のクローバーが印刷された、可愛いらしい便箋が入っていた。
――――――――――――――――――
紳ちゃんへ
紳ちゃん、大好き♡
これからもずっとずっと、応援してるよ!
綾より
――――――――――――――――――
そう書かれた、彼女特有の丸みを帯びた温かみのある文字。
そしてバンダナをほどいて箱の蓋を開けると、なんと牧の顔に似せた? キャラクター弁当が詰まっていた。
玉子、ひき肉、ほうれん草の三色で展開されている、そぼろ弁当だった。
( これ……俺か? )
思わずフッと笑いが込み上げる。
わざわざ自分だけのために作ってくれたのか。
そう思うと、とても嬉しくなった。
牧は隣にいる綾の寝顔を優しく見つめながら、小さく呟いた。
「綾……どうもありがとう。」