黒白を争う 編
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夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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― 翌日
いよいよ決勝リーグ第2戦・第1試合は10時から。
開始時間が刻一刻と近付く。空席は見られず、4強のうち3チームが一堂に集う熱戦を見届けようと観客側にも熱が入っていることが分かる。
この後に試合を控えている海南と陵南。
綾は壁際に並ぶ陵南の選手らにぺこっと会釈をし、その後すぐ恋人に向けて笑顔で手を振ると
( 紳ちゃん!)
( フッ…… )
「……なんか、ウチと向こうと温度差が……
仙道、お前何かやらかしたのか?」
「いんや、何も」
「おおお!! ウワサの海南の牧さんと、天使の綾さん!!
なんや、こんな時にもラブラブっぷりを見せつけてきはりますなぁ……あー、うらやましい」
微笑み合う2人の姿に関西弁の男は腹の底から羨ましいと声を上げた。
目には見えない赤い糸で繋がっている両者の愛情の度合いは高く太く、ちょっとやそっとの力では千切ることはできない。
陵南側によそよそしくしている理由。それはおそらく、以前学校へ突入したことや仙道へラブレターの返信を先延ばしにしてしまい適切に扱っていないこと等、個人間の申し訳なさからだろう。
すっかり気を許している主将の魚住は彼女のある1点に目を光らせていた。
「春野か……あの日から、垢抜けたな。目の輝きがまるで違う」
「そうですね、魚住さん」
視線の先は天使の満ち足りた表情。
翔陽との戦いの日とでは雲泥の差であり、それはそれは濁りの無い瞳をしているから。
魚住の言葉に乗っかる仙道は、ふっとほくそ笑む。
「やっぱりそうや!! 藤真さんのあの一声ですわ!!「自信を持て!!」っちゅう……」
「うるさいぞ! 彦一!」
誰もが驚いたであろう、不意を突いた藤真の一声は迫力ある牧のダンクはもちろん、綾の揺らぐ心を正しき道へと導いたのだ。
「すんません、越野さん……
あれ? そういえば桜木さんの姿が見当たらんけど一体どこに……
あの人のことだけに、気になる……」
「仙道がこっち見てるわよ。藤真の時みたく手振ってやんなさいよ」
「えっ……彩子さんを見てるんじゃないですか?」
「どー考えてもアンタでしょ……」
少々頬を赤らめる綾と、どつかれる相田。
お笑いコンビの様なやり取りに、1つ上の越野と彩子は半ば呆れ顔だ。
そんな中、重要なことに気が付きメラメラと苛立ちの炎を燃やす男が‥‥
「あんのバカは一体どこで何をやっとるんだ!!」
「春野! 今朝、桜木にモーニングコールをかけたんじゃなかったのか!?」
「はっ、はいっ! 朝7時にかけたんですけど、何度試しても繋がらなくて……」
「ゼータク者……」
流川のぼやきが綾の焦り声に降りかかる。
おととい桜木の自宅にモーニングコールをかけると宣言した彼女は実行に移すも、一向に出る気配がなく断念。
寝坊か、それとも留守だろうか。不安が走る一行。試合を目前にして彼は一体どこへ行ってしまったのか?
それからというもの桜木が不在の中、試合は通常通り行われていた。
特訓時の牧の発言通り、武里とはかなりの点差が開いていた。これには相手チームも愕然。選手らは早々に息が上がり、既に勝負は見えていた。
出来る限り点差を開いて勝つと掲げていたふくよかな体型の監督は、ラン&ガンの攻め方で次々とゴールを決める湘北の勢いに圧倒され驚きと戸惑いの色をみせる。
― その時
残り時間5分というところで、観客のどよめきが。
「見ろ! 桜木だ!」
「ワッハッハ!! なんだあの頭は!?」
「おもしれーっ!!」
白のユニフォームにスポーツバッグを引っ提げ、息を弾ませた人物が会場入りを果たす。
「「 !! 」」
「げげっ! あと5分……」
「花道!」
「桜木!」
「どあほぅが……」
坊主頭の登場に館内は爆笑の渦に。壁際に佇む男たちは、その奇抜なヘアスタイルに目を丸くしていた。
実にインパクトがあるが、湘北の一味はというと既に見慣れているため珍しくも何ともなく、たった今大遅刻した男の頭上に赤木の鉄槌が下された。これも彼らにとっては見慣れた光景だ。
「今朝も200本やって……
そしたらよ、いつの間にか寝ちまって……」
「桜木……」
「寝るな! バカっタレが!」
「桜木くん……試合当日も早朝特訓を……?」
理由を聞けば、彼はひとり自主練習に取り組んでいたが急な眠気に襲われたらしい。
3日間のハードスケジュールをこなした後であるから驚きだ。真のバスケットマンである桜木花道。それほど、この度のシュート練習に熱が入っている証拠か。
( さすが元コーチ……
遅刻は良くないけど、偉いなぁ……
シュート練習、今までの内容に比べたら絶対楽しいもんね。
私も負けてられないな。もっともっと頑張らなきゃ! )
しかし、どんな理由であれ遅刻は厳禁。とても褒められたものではない。当然の様に出場許可は下りず。
「お前は今日はもう出さん!」
「なにっ!? ゴリ……!」
「わざわざ敵に手の内を見せることもない」
「ハッ……」
目を見開き、最後の相手である陵南チームを見た。
そこには魚住や仙道といった馴染みのある堂々たる顔ぶれに加え、新たなる敵になるであろう謎の男の姿が‥‥
呆然と立ち尽くす中、彩子が試合の傍らで桜木へとある告げ口をしていた。
直後、彼はもう1つ失態を犯したことに気が付く。
「もー、ドジね。せっかく綾がアンタの家に電話かけたってのに」
「ぬっ、電話……?
ハッ!! やっ、やってもうたー!!」
その瞬間、目にも留まらぬ速さでベンチ横で声援を送る綾のもとへ駆け寄る。
「綾さん!! すみません!!
この天才としたことが、とんだミスを……!!」
「え?」
コールの一件を完全に忘れていた彼は試合にも出られない上に大ショック。両手足をピンと揃え、謝罪の言葉を口にした。これに対して彼女の反応は
「ううん、気にしないで。それより、ピッポッパ……」
「ぬ……?」
「桜木くん! 朝だよー! おはよう!」
「じーん……綾さん……♡
おっ、おはよーっス!!」
綾は右手を耳に当て、さらにはボタンの電子音を口真似し本来ならば今朝にする予定だった通話の真似事をしてみせた。
機械を介さない可愛らしい生声は、モーニングならぬアフタヌーンコール。
お咎めを受けるどころか毒気の無い笑顔に癒され、桜木の表情はぽわんと緩んだ。
( すごい。あの怖い桜木くんが、素直に謝るなんて…… )
( さすが春野。)
( ウチの天使だー…… )
意中の女性を前にしてタジタジになる大男を横目に、ベンチに座る1、2年の控えメンバーたちは面を食らい、また頷いたりとリアクションは様々だ。
「まったく……」
「何とか穏便に済みましたね。木暮先輩」
「ああ。やれやれだ……」
( やはり、ゼータク…… )
2人の子供染みたトーク内容に甘やかすな、とでも言った様な表情の赤木。扱い上手な応対に感心する者や、事情を知らない両サイドの選手らはポカンとしている。
中でも、牧だけは彼女が楽しそうに笑う様子にひっそりと口元をほころばせていた。
「「 やったー!! これでまた全国に近づいたぞ!!」」
ゲームセット!
数分後、館内全体にブザーが無情にも響き渡る。湘北は武里に120 ― 81 と40点もの差をつけ圧勝。
全国への切符獲得にまた一歩近づき、一行は歓喜の声を上げるのだった。
「行くぞ!!」
「「 おおっ!! 」」
「行くぞー!!」
「「 おうっ!! 」」
次なる試合に向け、海南と陵南の雄々しい号令がこだまする。
綾は湘北スタメンのアフターケアをする最中、武里の選手たちの悔しい気持ちを推し量っていた。共にここまで登り詰め、戦い合った仲間だということを忘れてはいけないからだ。
そして、戦場へと勇ましく歩む牧の横顔を見つめながら、皆とその場を去った。
( 紳ちゃん……
みんな、頑張って……!! )
――‥
― 6月25日・ 金曜日
試合前日の2日目の朝練ではどういったことが起きたのか。また、どんな成長が見られたのか。時は昨日の早朝に巻き戻された。
( はっ、はっ……
よし、あともう少し……! )
本日も一切くすみの無い晴天で、絶好の特訓日和。昨日と同じ午前5時を少し回った頃。
綾は今、持久力をつけるため小走りで軽く息を上げ、もはや馴染みとなった屋外のバスケットコートへ向かっている。
( 今日こそ一番乗りできそう!
って、あれ? 誰かいる……? )
日頃から待たせてしまっていることもあり、逆算し自宅を早めに出発していた。気張って20分ほど前に到着するも、既にコートには一際背丈のある人影が。
「ナイッシュー! 宗くん!」
「! 綾ちゃん」
この日も正確無比なシュートに惹き込まれる。
そこにいたのは、先日男友達になったばかりの神だった。
どの分野でも自分以上に優れた者がいる。それを体現する様に彼は誰よりも一足先にコートへと出向き、自主練習までしていたのだから驚きだ。
努力の人なのだと彼女もそう思わざるを得ないだろう。
「おはよう! まだ誰もいないかなぁって思ってたから、びっくり!」
「おはよう。綾ちゃんのためなら、いくらでも早起きするよ」
「えっ」
これらの会話内容を事情や間柄を知らぬ第三者が聞けば、ほぼ確実に勘違いするであろう返しに目をきょとんとさせる。
「最悪な結末にはしたくないからね」
「宗くん、ありがとう……」
先を越されていたにも拘らず、悔しがる様子は微塵も見られない。そればかりか、つい最近までバスケットに心を閉ざしていた自身にスリーポイントをマスターしようと話してくれた彼に、綾は感謝を口にした。
「何度見てもすごいなぁ……
シュートした瞬間、ボールがリングに吸い込まれていくみたい。外すことなんて想像できないくらい的確だね」
「…………」
彼女は知らない。彼も今後一切、明かすことはない。
告白の返事をした、あの日。
涙で両眼の視界がぼやけ、500本目のシュートを外してしまったことを‥‥
清々しく清涼感のあるベビーブルーのシャツを着た男子は、ベビーピンクの優しくあたたかみのある服をまとった女子の顔をしっかりと見据え、やわらかな口調で語りだす。
「湘北との試合前……」
「え?」
「自分でもよく分からないんだ。
あの時、なんで呼び止めたんだろう。衝動的に身体が動いたとしか思えない。
なかなか回復しなくてさ。
この病気、治してよ。綾ちゃん」
( 宗くん……? )
失恋の傷にはどんなものが一番有効なのか。
友人になりたてホヤホヤの神とのやり取り。2人は男友達や先輩後輩以前に、振って振られた関係だ。
「ごめん、急にこんなこと言って」
「ううん。大丈夫……」
朝の弱い日差しが双方の顔面に当たるも難しい問いに綾は頭を捻り、まるで夕暮れ時の様なしんみりとした雰囲気に。
恋の手当てをしてほしいと言われ、返答に困っていると
「良い特効薬があるといいんだけどな」
「えっ、えっと……次の恋、とか……?」
「恋か……」
「それか、失恋ソングを聴くとか……逆効果だったらごめんね」
「そんなことないよ。ありがとう」
今度CDでも借りに行こうかな、と即座に返した。
頬を染めてはダメだと先日穏やかなトーンで注意を受けていた綾はあれから神に対して赤くすることはないものの、この様な場で失恋の相談を受けるとは夢にも思わず本人の目を堂々と見ることができなかった。
「何が逆効果なんだ?」
「……!」
症状に効く具体例を挙げた直後のことだった。どんな色にも敵わず、何者にも染まらない漆黒色のシャツを着た低い声の主が、2人の会話に割って入った。
「あ……紳ちゃん」
「牧さん」
「今朝はずいぶん早いな。綾」
牧の姿を目にした瞬間、綾の身体はガチガチに硬直してしまう。
「お、おはよう……」
「おはよう」
昨日、流川からの問いに嫁になることだと答えた彼女。
自身の発言を思い出しては感情が高揚し、どうしようもないほど赤くなる。
「ん? どうした?」
「うっ、ううん! なんでもないよ……!」
― この時
なんでもなくないだろ、と大きな手が熱源の一部である額に触れた。
「昨日から熱でもあるんじゃないか?」
「……!」
熱の有無を確かめる彼を前に、彼女の感情はさらに高ぶってゆく。
牧はというと出来る限り接触を控えているものこう連日赤面していると、体調面が気掛かりなのだろう。後輩の前だろうとその何気ない動作を迷うことなくやってのけた。
「おはようございます。
今、失恋に効く薬が無いかって話してたんですよ」
ここですかさず助け舟が。
綾の態度とは正反対に動じることなく笑みを浮かべ、彼女の恋人に向け会話内容を包み隠さず話した。
失恋のダメージを引きずりながらも、男友達としてきちんと線引きをしようとしている表れだろうか。
「何? 薬だと?」
「宗くん……」
彼のおかげで綾の体温は急激に下がり、あれだけ硬くなっていた身体も解放されていた。
( 反応が相変わらず分かりやすいね。
俺のために頭をひねってまで対処法を考えてくれてありがとう。
見てるこっちが恥ずかしくなるくらい、初々しいなって思うよ。
……綾ちゃんの前では自然体でやり過ごしてるつもりだけど、君にはどう映ってるかな。
信長みたくキレイさっぱり忘れられたら、きっと楽なんだろうな…… )
( 宗くんはあんなに冷静でいるのに。恥ずかしい……
思わず声が裏返っちゃった……
真面目な相談だったのに、あんまり良いアドバイスができなくてごめんね。
一瞬だけ、白いタキシード姿の紳ちゃんが見えたような気がした。
楓くんに聞かれたとは言え、あんな大胆なこと……!
それにあの時……
好きな人をバラそうって言われて
目が合ったのは、偶然じゃなかったのかな……? )
― そして
今居る場所は以前にも4人で集まったことがあり、この男にとっては特に思い入れが強いはず。
「神さん! おはようございまっす!」
「おはよう、信長」
「清田くん! おはよう!」
「ゔ〜〜っ、綾さん!!」
「え……清田くん?」
愛の告白をし、キッパリと振られ男友達へと切り替えた潔の良い清田は挨拶の返事をすっ飛ばし、綾に会って早々ぐわっと顔を近付けた。
「綾さん!! 運命って何なんすか!?
仙道に横浜に慰安旅行に、もう何がなんだか……!!」
「慰安旅行……?」
あれこれミックスされた疑問の嵐に冷や汗を飛ばしていると、餌を求めてやって来た小鳥たちが逃げるように空へと羽ばたいていった。
話が二転三転して互いに混乱しがちなところで、牧の鉄拳が彼の頭頂部に降ったのだ。
「近いぞ! 清田!」
「紳ちゃん」
「すっ……すんません」
「ごめんね。まだ清田くんに声かけてなかったよね」
主催者である仙道がペアチケットを片手にひとり湘北まで来校し、予選後に遊園地や水族館のある施設まで集団で行こうと誘いを受けたこと等
この機会にと、綾は神と清田の2人に事の経緯を簡略的に伝えた。
「ペアチケット……」
「なっ、なんで仙道が綾さんを……?」
「仙道さんに悪いことしちゃって、断れなくて……」
「…………」
牧は誰とも視線を合わさず、彼女の感情を理解する様に傍らに佇み聞き手にまわっていた。
「悪いことって……?」
「津久武戦のあと、ラブレターをもらって……」
「「 え!? 」」
あの日の突然の恋文。仙道の励ましに触れたのは、恋人を牧先輩と他人行儀な呼び方で呼び、心を閉ざし、喪に服した様な暗闇の世界を彷徨っていた頃のこと。
「タイミングからして、励ましに来てくれたのかなって思うんだ。なのに私……バスケットや自分のことで頭がいっぱいで、返事を怠ったりして……
その手紙も紳ちゃんに没収されちゃったし……」
「綾さん……」
「綾ちゃん……」
「でも、大切にしてくれてるみたいだから……ねっ?」
「ああ」
ようやく顔を上げ、目を合わせる綾と牧。
相手の気持ちになって物事を考えられる人だと、現在でもただただ彼のことを信じていた。
仮に自身が同じ立場ならば粗末な扱いをされてはたまったものではない。よって廃棄することはないと、そう語っていたから。
「悪い虫の1人ですね」
「まあな……」
「え? 悪い虫?」
嫌いになりそうだと藤真が牧に言い渡す際、偶然耳にしたと話していた彼。やはり元気づけやリフレッシュにと勧誘したというのが有力だ。
先ほどから綾の疑問が浮上するも今の返答により、2匹ほど存在する虫の1つは仙道であることが発覚した。
「もし良かったら、清田くんも一緒に行こっ!」
「もちろんすよ! この清田信長、張り切って行かせていただきやす!」
「本当? 嬉しいな〜!」
「まったく。張り切るのも良いが、そろそろ始めるぞ」
「「 はい! 」」
おおよそ話がまとまったところで、痺れを切らした牧が後輩たちに向かい声をかける。
「今が1番の踏ん張りどころなんだ。
上達できるかどうかの瀬戸際だからな」
( 紳ちゃん…… )
「はい! 牧キャプテン!
みんなも! ご指導よろしくお願いします!」
「ああ、よろしくな」
「もちろん」
「お願いしやす!」
大きな声で元気良く挨拶し、お辞儀をする綾。牧は愛しき人の願いを叶えようと以前よりも数段パワーアップさせる気満々だ。
そして、何よりも他の誰よりも必ず上手くなると、彼女自身が持つ可能性を信じていた。
「あのね。まだまだエアボールばかりだし、単なるまぐれかもしれないけど
昨日、スリーポイントを初めて決められたの!
これも紳ちゃんや、みんなのおかげ!」
綾は朝のきらめく日差しとともに目を輝かせ、昨日の特訓のレポートを報告すると
「そうだったんだ、すごいな」
「さすが牧さん! 綾さんもスゲー!」
「ありがとう……!
スリーポイントだけは宗くんに1番に見せたかったから、今日お披露目できるかも?」
( 綾ちゃん。 )
神が得意中の得意とする、神技とも言えるスリーポイントシュート。難易度の高い技ではあるが、試合時に決めることができれば追い詰められた状況でも一発逆転を狙える強みとなるもの。
月夜の晩、想いを知らされる直前のこと。あの日、綾は心の救世主である彼に1番に見せたいとその様に話していたが
「牧さんと一緒に練習して入るようになったってことは、最初に見たのは牧さんだよね。
そうなると、俺は2番目だね」
「あ……」
「だけど、始めに(やり方を)教えたのは俺だから、実質1番になるのかな」
「……そういうことで、見てほしいな……」
「うん。いいよ」
ところがどっこい。意気込みを見せるも正論を突かれ、まんまと彼の術中にはまり何も言えなくなってしまう。
端正な顔立ちの神は立ち回りも上手く、表情を崩すことなく混ざり気のない清らかな笑顔で話す。
また、訂正をする様に順番的には2番だと言うが気遣ってか綾の顔を立て、本日初めて目にするであろうシュートへの期待に胸を躍らせていた。
「綾」
「あ……これ、女子用の……ありがとう……」
「フッ……さすがに今朝は半袖で来たか」
牧からボールを手渡されたと同時に、恰好についてまたも話題を振られた彼女は
「うっ、うん。
昨日の反省を生かして、上だけ……」
さすがに学習したのか。今朝の綾の服装は、半袖シャツに通気性の良いジャージの長ズボン。
未だスカートめくりの件を牧に言えずにいる彼女は上半身のみ軽装で下半身は昨日に引き続き武装したまま。それまでは運動着といえばこれがデイリーコーディネートとなりそうだ。
神と清田の2人は屈伸やスクワット等、軽くストレッチをする傍ら前回とは違うやけに肌を隠した様な露出度の低い衣服に、少々違和感を覚えていた。
――
今朝は何も持ってこなくていいと、牧から事前に連絡を受けていた。
どうやら気遣いは無用ということらしい。ボールはもちろんのことタオルの差し入れも同等であり、彼は自宅にて清涼飲料水をビニール袋に複数本詰め持参した模様。
「今日は人数がいるからな。久々に2on2でもやるか」
「!」
「えっ……牧さん、個人練習はいいんすか?」
前置きは終わり、先ほどの主将の一声を機に今回の目的である朝練に取りかかることに。
「個々の練習も大切だが、実戦経験はもっと大事だ」
「紳ちゃん……」
実戦では待ったなし。試合中に点を決められなければ意味をなさない。
経験や場数を踏むことが最も重要だと断言する男の意見に合意した彼らは、自然とコートの中心へ。
「作戦会議するから、1分だけ待って!」
「「 作戦? 」」
ついにティップオフ!
両者ともにセンターサークルに立ち、試合開始かと思いきやコートの隅に移動した清田と綾は腰を屈め、ヒソヒソと小声で作戦を練っている。
「清田くん、前回はダンクさせてもらえなかったから、今日こそ絶対決めよっ!」
「ダンクっすね! 了解っす!
海南のスーパールーキー・清田にまかせんしゃい!」
ダンクは十八番だと、得意げに親指を立てる。
「いつも負けっぱなしじゃ悔しいもん! やるからには絶対に勝とうね!」
「おっ、おっす!」
頼りにしてるね、と純粋な笑顔で持ち上げられた彼の表情は自信に満ちあふれ、鼻息も少々荒い。
こうして結託を組んだ2人は勝利を誓い、いざ試合へと臨むことに。
「いつでもいいよ、綾ちゃん」
「うっ、うん」
1年組の先攻からスタート。
ダン、ダンと辺り一帯にバウンド音が響く。ほのかな朝の風に吹かれながら、あるタイミングを待つ綾は神にぴったりマークされている。
身長や体格、体力など身体的な男女差はあるが、例のバスケットマン教室ではメンバーたちとその差をモノともしない連携プレイを魅せていた。
過去にはディフェンスの切り抜き方が巧いと牧に太鼓判を押されたこともあり、互いに侮れず、辺り一帯に緊張感が漂う。
「綾さん!! パーース!!」
「清田くん!」
そんな中、綾は一瞬の隙を突き、ゴールポスト付近に立つ仲間に届けようと、ボールを青空に目がけて放った‥‥!
( 速いっ! )
そのまま空中でばしっと受け取り、男はリングの中へ力強く叩き込んだ!
「わぁ……! これって……!」
「アリウープ……!」
「おっしゃあ!!
やりましたよ!! 綾さん!!」
「うん! すごいすごーい!」
「…………」
( ちいっ…… )
たった今、心の中で舌打ちをしたことは誰にも分からない。
綾の喜ぶ顔に、あの日に胸に誓ったことが頭に浮かぶ。勝負事には負けたくないタチだとも昔に語っていた牧。彼女の前で自分以外の者がダンクを決めることを露骨に嫌がっており、ムッと眉をひそめていた。
「綾ちゃんの一声は、確実にチームの強みになりますね……」
「そうだな……清田を手玉に取っちまうとはな。これで、ますます勢いづくぞ」
「そうですね」
ワーキャーと2人がシュート成功の喜びに狂喜乱舞する中、牧と神の先輩コンビは綾の作戦であろう俊敏なプレイにそんな言葉を漏らしていた。
「行くぞ、神! 反撃だ!」
「はい!」
先ほどのダンクは牧を刺激してしまったらしい。
公式試合ではないにしろ、先手を食らってしまってはただの遊びというわけにはいかず。
負けず嫌いの血が騒ぐのか。その目はやる気全開だ。
「清田」
「はい」
「さっきは手柄を与えちまったが、今度は本気で行くぞ」
「はっ、はい!」
その言葉の重みにごくりと息を飲む。
完全にしてやられた様であったが、先ほどの失点はスロースターターの彼からすればほんの小手調べに過ぎないのか。
ここから、神奈川の帝王・牧紳一の本気モードに突入だ。
「綾さん! ハンズアップ!」
「うん……!」
つい先ほどまで浮かれていた顔は何処かへ消えた。
深く腰を下ろした清田は、すぐさま綾へ指示を出す。
仕切り直し、本腰を入れてかかる男たちはまるで容赦なし。神を経由したボールはノールックパスやバックパスなどの上流テクニックにより、再び牧の手元へ。
「ほっ……」
「させるかぁ!!」
「私もっ!!」
相手のファウルを誘う得意技のバスケットカウントでは高速スピードで迫り来る巨体に一瞬だけ怯むも、綾は清田と同時に体当たりのごとく垂直に跳び上がった!
「キャッ!」
「! 大丈夫か!?」
「「 綾(ちゃん)さん! 」」
男の体幹はブレることはなく、頑張って抑え込んだ努力も虚しくボールはお手本の様にゴールへ。
牧の身体にぶつかって跳ね飛ばされた彼女の背中はゴールポストに衝突し、地面に尻餅をつく。
「大丈夫……
えへ……ちょっと無理しちゃった」
「……無茶をするな」
着地した牧はすぐに綾のもとへ行き、さも当然の様に彼女の手を掴み、優しく身体を起こす。
清田には神が近寄り手を差し伸べていた。
「紳ちゃん、コントロールうますぎるよー……」
「そうか?」
「うん」
その後、牧はボーナススローも軽々と決めた。
割と最近まで不和が生じていたとは信じ難い先輩組のナイスプレーに圧倒された2人は
「くそっ……!」
「ごめんね。また負けちゃった……」
実力の差を見せつけられ、3-2とあっさり勝敗がついてしまった。あからさまに悔しがる様子を前に、綾はしゅんと落ち込んでしまう。
「前にも言いましたけど、全然綾さんのせいじゃないっすから!
……やっぱスゲェって痛感してますよ。牧さんと神さんは別格だって……」
「うん……そうだよね。
少しは手加減してくれたのかな? 清田くんは才能があるけど、私には到底勝てっこないよー……」
「綾さん」
「綾、」
前回と同じく自身を責め、謝罪する彼女に清田は励ましの声をかけ、もうじきやって来る夏の陽射しの様な大層満足げな笑顔を見せた。
「悲観することないっすよ!
綾さんの名案のおかげでアリウープを決められたワケだし、満足っす!」
「清田くん……」
達成感を感じられたと話す彼に、同調する声が上がる。
「清田の言う通りだ」
「!」
「俺は特別手加減したつもりはないけど、実際抜かれちゃったしね。どんな作戦を立てたのか興味あるな」
「みんな……」
体験入部時の1ゲームも然り、あらためて普段おっとりしている彼女からは想像できないスピード力に感心した神は、一体どんな作戦会議をしたのかと興味津々だ。
「えっとね、ドリブルが得意な紳ちゃんに、ロングシューターの宗くん。清田くんは、何と言ってもすっごく高いジャンプ力!
それぞれみんな得意分野があるでしょ?
特に紳ちゃんは4人がかりじゃなきゃマークできないくらいだもん。
いくら守備を強化したって得点できない。だから守りは諦めて、攻撃に専念しようって作戦を立てたんだ!」
「へぇ……すごいな」
「なるほどな」
今回の様なゲームでは、大人数による守備は不可能。それでなくとも海南の主将の動きを封じることは難しい。牧は中から切り込み、神は外から打ち込む。そして、シュートを得意とする清田。
ガンガン攻めてくる一方でディフェンスは甘くなりがちだ。それならばと、流川の様に徹底的に攻め入っていく戦法をとったそう。
痩せても枯れても第2の正式なマネージャー。
困難の真っ只中にいても、湘北の天使はきちんと試合の流れや選手たちの動きを見ていたのだ。
また、日常的に問題児を相手にしていることもあり、味方を手のひらで転がすことにも長けていた。もちろん当人はそんなつもりは微塵も無い。
「みんなが本気になったら、誰にも負けないね!」
「ああ、そうだな。
明日は攻めて攻めて攻めまくるぞ!!」
「「 はい!! 」」
明日の試合に向けて気合いを入れる中、彼女はふと思ったことを口にする。
「負けちゃったけど、良かった。
紳ちゃんと宗くんがもうギスギスしてなくて……」
「え?」
「綾ちゃん」
「綾……」
それは神から聞かされていたことだった。
2人が同じチームメイトとして連携をとり、何事もなく接していることが嬉しかったのだろう。
対立した原因は自身にあると気負いしていた綾は、ほっと胸を撫で下ろしていた。
( 何も心配はいらん。
どれだけ不仲になろうとも、神はチームの一員だ。それは恋愛に限ったことであって引きずったりはしないさ。
男ってのは気付けば自然と和解してるもんだ。
確執があったともわざわざ言う必要もないだろうしな。
それにしても、一時的に殻に閉じこまってたが感覚や判断力も地続きで何ひとつ鈍っちゃいない。
綾こそ本気になれば、たとえダブルチームであったとしても容易く切り抜けちまうだろうな…… )
1年コンビのリベンジマッチはバスケットカウントを阻止できず3点を許し、結果はまたしても後輩組が敗れた。だがしかし、それぞれ何かしらの収穫があり、なおかつ良い汗をかけた模様。
途中でスリーポイントシュートのチャンスが来るも、かする程度で容易に決められないままミニゲームを終えた。
( 結局、1本も入らなかった。
悔しいけど、実戦はそんな簡単にはいかないよね……
昨日紳ちゃんが言ってた放物線を描くようにって、あんな感じなんだ。手慣れてるなぁ。
私も上手くなりたい! 早くみんなに追いつきたい……!
でも、見られてるって思うと少し緊張しちゃう…… )
( 綾さん……? )
― そして
ここからはメインである個人練習へ。
3人の視線をひしひしと感じる中、ボールを両手にフリースローラインに棒立ちする綾。
その姿に清田の目が光る。実戦にて特訓の成果を発揮できず、残念がる彼女は少しでも早く彼らと同じ立ち位置に立ちたいと焦りを感じ、肩に力が入ってしまっていた。
「綾さん! リラーックス!」
「わっ」
突如、かぽっと頭に帽子を被せられる。
「清田流! バスケがうまくなるまじないっすよ!」
「え……? おまじない……?」
「やってる間、ちゃんと被っててくださいよ! 綾さん!」
「うん。ありがとう……」
アリウープを決められた礼だろうか? そのキャップは野生児である彼が普段から愛用しているもので、さらには固くなっている異変に勘付いていた。
何にせよ、彼女のためにと行動を起こしたことは確かだ。
( リラックス……そうだよね。
肩に力が入り過ぎてたみたい。
少し力を抜いて、落ち着こう。
清田くんも、桜木くんと一緒で魔法使いみたいだなぁ…… )
元コーチに並ぶ第2の魔法使い。
困難を乗り越えようと奮起していたが、もうあの様な巨大な壁は存在しない。野生的な青年の自信たっぷりな笑顔に緊張が解れた綾は呼吸を整え、目先のゴールネットだけを見つめて意識を集中させた。
するとどうだろう。視界が狭まり、真正面にあるゴールだけが見えるように!
劇的に視界が良くなり、焦点も定まった。
いつもの調子を取り戻した彼女は10あるうち8本のシュートを決めた。
また、その後すぐに行ったスリーポイントでは空中で見事な曲線を描き、なんと2発連続でリングをくぐらせることに成功。
「入った……! 入ったよー! 宗くん!」
「やった! 綾ちゃん!」
真っ先に神の顔を見た。
半日でいいからと先輩に頼み込み、夕暮れ時の公園で共に行った無謀ともいえる500本のシューティング練習。
始まりは、武園戦にて綾が対戦校のセーラー服を着ていなかった罰というもの。その目的はバスケットへの自信回復と勇気づけるためであったが、神にとってはあくまで彼女と会う口実に過ぎなかったのだ。
スリーポイントを絶対にマスターさせたい。
彼のその想いに応え、1本でも決められるようになりたい。入れることができたなら、1番に見てもらいたい。
歓喜の声を上げる彼女に彼の表情も自然とほころび、嬉しさを分かち合う。
互いに望み、思い入れのあるものだからこそ、より一層成果を得られた感動であふれていた。
「おめでとうございます!」
「やったな、綾」
「ありがとう!」
― この時、清田と視線を合わせると
「清田くん」
「はい」
「息の根。ホントに止められちゃったね」
「えっ」
「あの時は負けたけど、今度あたる時は負けないよー!」
「……!」
そう言って綾は笑った。
海南戦では黒星となったが、次こそは ――。
事件当日、彼が口走ってしまった例のNG発言。
先ほどの2on2もそう。彼女とて全く悔しさを感じていないわけではなかった。復活を遂げたからこそ、負けたことに責任を感じていたのだ。この悔しさは次なる試合に向け糧となり、新たな勝利へとつながることだろう。
「のぞむところですよ! 何遍でもかかってきなさい!」
「うん!」
「…………」
( 本当にやったね、綾ちゃん。
昨日、牧さんとの朝練で何か教わったのか……
捉え方、構え方、膝の使い方。
どれも完璧で文句のつけどころがなかった。
控えめな君は、そんなことないよって言うだろうけど
もう俺が教えることはないね。
マスターするのも時間の問題かな。
……そうなると、支えは要らなくなるだろうから
友達としての関係は希薄になるね。
少しさみしい気もするけど……
提案してくれた失恋ソング、どんなやつにしようかな。
どうせなら、とことん泣ける曲がいいな…… )