黒白を争う 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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「牧さん! 藤真さん! どちらも頑張って!」
空っぽの館内に甲高い山吹色の声が響く。
青い単色のジャージを身につけ、黒髪のポニーテールを揺らす。
牧、藤真そして声の主である少々幼い顔つきの綾。3人の男女がバスケットコートの中心にて友情を誓い合った、あの日のこと‥‥
――‥
「すごい……背、お高いんですね」
「ん……?」
「腕の筋肉も……」
「……!」
綾は太く黒く、また筋肉質な腕を触った。
純粋な好奇心だろうか。一番背丈のある彼の身体に興味を示していた。
一方で、意図しない突然のボディタッチに牧の頬はうっすらと赤く、目を丸くして相手の顔を見ている。
「あっ……ご、ごめんなさい!
調子に乗って、軽々しく触ったりして……」
「いや、別に構わんが……」
「本物のスタープレイヤーは、やっぱり違うなって思って……」
「春野……」
その会話と感想を間近で見聞きしていた藤真の声が漏れる。
県下No. 1、2の名実ともに人気を誇る海南、翔陽。
選手になりたいと憧れ入部する者はもちろんサポーターの数も凄まじく多い。彼らはまだ1年と言えど驚異の新人と謳われるほどの実力者であり、人気を博している。
我に返った彼女は個人的に好意を持つ人間も多数いるだろうと、自己の願望を語りだす。
「私……もしお付き合いができたら、彼氏にたくさん尽くしたいなって思ってるんです」
「「 ……! 」」
「お弁当を作って青空の下で食べたり、サプライズをしたり、記念日には手紙を書いたり……
もちろんバスケも一緒に楽しめたらいいなって。
あ、マフラーやセーターを編むのもいいかも。
って、重いですかね……?」
「いや……そんなシチュエーション、俺も憧れるよ。女子らしくていいんじゃないか」
「そうだな。俺もどちらかと言えばなるべく尽くしてやりたい派だな」
愛が重すぎるかもしれないと付け加えるも、揃って肯定し同意見という返事が。
2年後、綾は牧へこの言葉の通りのことを実行しており、漠然と掲げた理想像は現実のものに。
この先、良いことだらけではない。だからと悪いことばかり起きるわけでもない。
よって、愛が重過ぎるなどということはなかった。
この時の少女はまだ知らない。後になってやっと分かる。未来の恋人は、贈り物だけに限らず彼女のどんな叫びであっても受け止められる海のごとく心が広く、また、誠実の塊の様な人間であることを‥‥
「そうなんですね……お二人の彼女になれる人は、きっと幸せなんだろうなぁ。いいなぁ……」
( あの人とも、そうだったらよかったな…… )
と、彼らの発言に羨ましがるも
ほんのわずかだが、綾は初恋の人物である港の顔を思い浮かべていた。
2人は見逃さなかった。
その悲しそうな表情を‥‥
「…………」
「大丈夫か……? こうして知り合えたのも何かの縁だ。俺たちと一試合しないか?」
「えっ……」
「名案だな。たとえ一瞬だとしても、バスケをしていれば憂いも晴れるんじゃないかな」
「牧さん。藤真さん」
この場へ無理に引き止めてしまった感じは否めないが、と続く。
牧を紹介するから待っていてほしいと、試合観戦も兼ねて会場に留まるよう引き止められ入り浸る羽目になった綾へ、未来の翔陽キャプテンは謝罪の意を示した。
「そんなことないです。ありがとうございます……!」
「それならよかった。
よし! 内容はフリースロー10本勝負ってのはどうだ?」
「ほぅ」
「フリースロー……」
「それで、負けた奴は自分の秘密をバラすんだ」
「何?」
「秘密を……?」
一種の遊び心か。話を仕切り、敗者に秘密を暴露してもらおうと提案する藤真。捉え方によっては何かを確認するための策の様にみえなくもない。
「たとえば……好きな人、とか……」
「「 !! 」」
目を見張る綾はチラッと前方かつ上側を見た。
すると、牧と目が合った。
向こうも瞬間的に彼女の方を見ていた。
藤真はというと、またしても両者の様子をうかがっていた。
‥――
( あの日……
どちらも勝負がつかなくて、結局引き分けに終わって……
私は遠距離が苦手だから断ったけど
もし紳ちゃんが負けてたら、かおりさんのことを言ってたのかな。
あの時、目が合ったのは偶然だよね……?
健司くんは、あの頃から片思いしてる人のこと…… )
藤真の提案に少々動揺していた綾。
その理由は言うまでもなく、フリースローを含め遠距離からのシュートが大の苦手であり、やらずとも結果が見えていたから。
せっかくの誘いだったが丁重に断り、コートサイドからの応援に徹していたのだった。
これらは各々が片思いをしていた頃の出来事。
幼少期から勝負事には勝たねば気が済まないタチだと話していた牧に、海南には負けじと野心や向上心を持つ藤真。
10本中すべてゴールを決め、勝ち負けはハッキリせず終了となった。仮に敗れた場合、彼らはどんな秘密を明かしていたのだろうか。
― そして翌日
武里戦の前夜。自分の部屋の隅で、綾は親友のカナと電話で何やら話し込んでいる。そばには色違いのハートのクッションが。
以前はピンク色であったが、今回は青色のものだった。
「なにそれ! 女の敵……!」
「…………」
女性同士、そして気の置けない友人だからこそ言えることだろう。先日水戸に返事をしようとするもスカートをめくられ中身を見られ、中途半端に終わってしまったことを伝えると
「あんなこと言うなんてひどくない? なんか別の人格に変わったみたいだったし」
「ん……あの時はショックだったけど、今はさみしいって気持ちのほうが強くて……」
「さみしい?」
また、不貞な行為をはたらいたことはもちろん例の突き放した様な発言に対し、彼女は水戸の綾への熱い想いを知っているだけに非常に不可解な様子で鎮まらない怒りを吐き出していた。
「……今だから言うけど。あんなに綾のこと想ってるって言ってたのに」
「え……」
「隣にいる資格はないし、高嶺の花だってさ」
「高嶺の花……」
( 水戸くん……
だから、ああやって突き放して……
なんで嫌われようとしたのかまでは分からないけど
私のために、考えに考え抜いてくれたんだ…… )
返事が済むまで内に抱く想いを言わない様にしていたのか。今になって彼のストレートな気持ちを聞かされ、ハッとする。
綾が逃亡した直後のこと。
彼女には別れてもなお忘れられない好きな男がいる。
ならば当然、諦めなければならない。点と点とがすべて繋がるわけではないにしろ、自身が嫌われ役になろうとした彼の動機と真意に確実に近付いていた。
次いで、試合の話題に。
「明日は頑張ってよね、試合!」
「うん……ありがとう」
「牧くんと仙道くんの勝負も気になるけど、私だけ湘北の制服着てたら浮きそうだし、やめとくわ」
「えっ、そんなことないよ」
「いーのいーの。仙道くんのプレイだけなら、明後日に堂々と観れるし♡」
試合後、控え室に寄らないかと言われ、綾はあまり気が進まない様な表情で了承した。
以前から仙道に興味関心を示すカナ。観戦よりもそれが目当てか。さらに友人は例の疑問点を突く。
「仙道くんからラブレターにデートのお誘いかー。
彼氏持ちって分かってるのにアタックしてくるって、何か思惑があるとしか思えないんだけど?」
「思惑……?」
――‥
以前、藤真から聞かされた。
バスケットを嫌いになりそうだとな……
わりィ。実は昨日、牧さんと藤真さんが2人で話してるのを聞いちまったんだ。
別に、盗み聞きしてたんじゃないぜ。
‥――
単に元気づけようとしたのだろうか。
綾自身も、なぜあのタイミングで体育館へと訪れたのかと疑問に思っていた。
最近になって牧により知らされた。湘北に敗れた日、藤真からバスケットへの迷いを聞かされていたことを。
また、仙道もその場に居たということも。
それならば合点がいく。
だがしかし、デートしようと誘いに来たのは何故なのか。ただのついでか、激励か。あるいは別の何かのためか。藤真との発言も含め、彼が抱く考えまでには至らず。
この時、すったもんだあったが彼女は報告がてら父親の試練を乗り越え、恋人との距離の件が無事に解消したことを話した。
「マジ!? 親まで味方につけたとか、最強じゃん!!」
「うん。カナちゃんが言った通り、本当に何とかなったよ! ありがとう!」
それに対し、感謝の意を伝えると
「感謝とかいいって。
それよか、フレンチキスはした?」
「フレンチ?」
「一応言っておくけど、料理のことじゃないから」
唐突に問われ、パッと脳内に浮かんだであろう洋風コース料理のイメージを容赦なく断ち切った。
互いの身体に顔を赤くし視線を逸らしたりと、まだまだウブさが見られる牧と綾。自称恋愛マスターの友人はどうにも2人の進展具合が気になる様だ。
帰り道の川沿いや帰宅時、そして特訓後でも‥‥
近頃の彼の態度や行動を振り返ってみると踏みとどまっていることは丸分かりであり、自身に気を遣わせているのだと妙な確信を持っていた。
「あ……そうだよね。
深いキス……のことだよね?」
「そーそー」
「……恥ずかしくて、冗談だってはぐらかしちゃった。
でも、ちゃんと言ったよ。
ディープキスがしたい、って……」
「ふんふん、それで?」
「良い雰囲気だったけど……お互い冗談ってことで終わっちゃって……それに、いきなりじゃ心の準備が……」
「…………」
( なにそれ。純朴すぎる…… )
ガラス張りの密室から脱出し、バスケットへの迷いを打ち砕かれてもなお、心の壁という障壁が2人の間に立ちはだかる。
綾の言う大人のキスはなかなかに高難度だ。
「まぁ、口の中に舌を入れるって綾にはハイレベルなのかも。
情熱的なキスだし、もっと良いムードでしたいわよね。分かる分かる」
「えっ……情熱的……?」
彼の盾になると心に決めた綾。
今度こそ、まどろわない。拒絶もしない。
左手で拳をつくり、その奥深な口付けも含め「その時」に対し受け身になると以前より強く意気込んでいた。
( 情熱的……
今は準備中だから、ドキドキし過ぎちゃうけど
怖い気持ちもあるけど、次は絶対大丈夫だから……
今度はちゃんと! 紳ちゃんの要望に応えるから……! )
また、先日藤真と初顔合わせをするも簡素な自己紹介を済ませそそくさと姿を消した友に、彼も横浜へ来ることを話すと
「藤真健司も!? マジ!?」
「うん。だけど紳ちゃん……昨日は呼ぶなって言ってて、でも横浜には誘うのは賛成だ、って……
どうしてなんだろ……」
――‥
夢物語に終わるだろうが、俺は彼女の心を手に入れたいと思ってる。
‥――
( あっちはいいけど、こっちはダメ……
なんでそんな両極端なんだろう……?
何か協力できることないかな……?
切り離せない大切な人だから、私も大切にしたいな。
仲を切り裂くことはダメだけど
健司くんは健気でピュアでまっすぐで……
その女の子は、よっぽど魅力的なんだね。
どうにもならないのかな…… )
切実に彼の切ない恋を応援したい。
しかし、その想い人には彼氏がいるらしくどの様にサポートしたら良いのか。
また、言いふらすのは如何なものかと3年間慕い続けている人がいるとは明かさず、藤真へ密かに協力ができればと考えていた。
「近いうち「何か」の意味がきっと分かる、って……」
「…………」
これらの発言をヒントに、途端にカナの驚いた顔は真顔に変わった。
「そりゃーライバルがいたら面白くないからに決まってんじゃん」
「え、ライバルって……」
「藤真健司は、アンタが……!」
「?」
「あー……ごめん。今のはナシナシ!」
「カナちゃん?」
今しがた失言した「ライバル」はノーカウントだと早口に。決着時、最愛の女神に微笑んでほしいと頼み込んだ牧であったが、頑なに真の理由は言えないと明かすことはなかった。
( " 恋の " ライバルだって、また口が滑っちゃうとこだった。やばやば、気をつけなきゃ。
仮に言ったところで、キョトン顔しそうだけど。
牧くんはキャプテンが綾のことを好きって完全に理解してるわけね。
当日告白させて、とっとと振っちまえってことかも……
アンタを懸けて戦うってことだと思うけど?
やっぱ鈍い…… )
「……本当に敵対してるのかな」
「え?」
「2人はお友達だと思ってたのに、決着なんて……」
「え……? 決着って何何? どーゆーこと?」
― そして
通話を開始して数十分。いよいよ核心に迫ってゆく。
「なんでそんな重大(おもしろそう)なこと黙ってたの!?」
「面白そう……?」
「私のために争わないで……! 的な?
なにそれ、少女漫画の王道じゃん!!」
カナは先ほどと同様、いやそれ以上のビックリ顔で捲し立てている。通話中でなければくわっと友の顔面に迫って来ているであろう重要度の高いビッグニュースに食い付き、必然的に声を大きくしていた。
「え? 私のため……? 違うよ、紳ちゃんはどっちが強いかを確かめることだ、って」
「…………」
別に秘密にしてたわけじゃないよ、と申し訳なさそうに話す。
恋人の言葉を鵜呑みにしている彼女はその目的はあくまでどちらの実力者が上か、ランク付けをするためだと信じきっているよう。
通話相手はハア、と呆れた様に大きくも深い吐息を漏らす。
「……で、どっちに勝ってほしいわけ?」
「ん……そこなんだけどね……」
――‥
次に奴に会うのは、雌雄を決する時だ。
お前は俺と藤真、どっちに勝ってほしいんだ……?
‥――
傍に置かれた青いハートを片手でぎゅっと抱きしめる。
彼らは彼女がここまで表情を歪ませ、また胸を揺さぶられていることを知っているのだろうか。
「迷ってる、って感じ……?」
「うん……どっちも、大切な人だから……」
「綾……」
判定してほしい。最後まで見届けてほしい。
しかし、そう安易に決められず、回答はできない。
昨日から迷いに迷い、例の発言をズルズルと引きずっていた。
水戸に仙道、藤真。そして、牧。
こうして親友にリアルタイムな心境を明かした綾。
現在の時刻は20時。通話口から漏れる音声は極端に小さく、サイレントな夜は東の空からの日の出を待った。
そして、夜が明けた ――。