黒白を争う 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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― この日の放課後
怒涛の湘北との戦いを経て、次なる敵は陵南。
しかしながら相手に臆することなく常に頂点を目指す。今日の海南大も当然の様に、基礎に根付いたハードな練習が行われていた。
「牧さん! その顔、綾さんとウマくいったんすね!」
「ああ。心配かけて悪かったな」
合間にパワフルな野生児が先輩に向かい声をかける。おとといまで自身の気持ちがハッキリせず路頭に迷い葛藤し、憤りを感じていた。
最愛の彼女と心を通じ合えたことで暖かな光を感じた。
悩んだ顔をした彼はもう、いない。
「今朝、アイツと特訓してきた」
「「 特訓……? 」」
「スリーポイント、ですか」
「ああ。本人のたっての願いらしいからな」
「…………」
体験入部の際、今いるこの場所でレクチャーしたこと。
夕方の公園にて習慣化しているシューティング練習の補助をしてもらったこと。
頑丈なガラスを突き破り、本来の姿を取り戻してもなお習得に向け努力し続けている話を耳にした神は
そこまで顔には出ずとも掌を軽く握ったまま武者震いをしており、自身も便乗したいという思いであふれていた。
「いいっすねー。
俺もかわいい彼女と朝練したいっすよー」
「信長、2人の邪魔しちゃ悪いよ」
「あ……それもそっすね……」
が、せっかくの2人きりの時間の邪魔をしてはならないと、神はすかさず後輩に指摘をするが
「いや、大丈夫だ」
「「 ……! 」」
「協力したいんだろ。綾に」
「ホントにいいんすか?」
「牧さん」
「ああ。誰か誘いたいらしいからな」
――‥
綾さんのためなら、どんなことでもやってやる!!
バスケはカッケーんだ! 楽しーんだ! 最高なんだ! ってところを見せつけてやる!!
俺も、ボーイフレンドとして協力させてください。バッドエンドには、絶対にさせない。
‥――
意外性を突かれた2人は少々驚いていた。
流川たった1人に20点もの失点を与え、苛立ちと焦りの色を見せていた直近の湘北戦。バスケットはとにかく楽しい。スリーポイントをマスターさせたい。最悪な終わり方にはさせない‥‥!
あの日、清田と神は大事なガールフレンドに力添えをしたいと熱量の高さを見せていた。
快く応じた理由は単に知人を呼ぼうと言っていたからではなく、後輩たちの意思を目の当たりにした牧は
その想いはきっと彼女の喜びとなり同時に成長につながると考えたのだろう。
「それに、元コーチを見習って頑張ると張り切ってるぞ」
「綾ちゃんらしいですね」
「コーチ……? ハッ! 」
心の底から羨ましがり、思いがけぬ返事に嬉々としていた清田だったがそれは束の間の喜びだった。
コーチとの発言に試合前の桜木の一言が浮かび上がり、苦虫を噛み潰した様な顔に一変してしまう。
――‥
ふん、なんたって俺は綾さんの専属コーチだからな!
‥――
「赤毛ザル……!」
「その桜木も、猛特訓してるそうだ」
「へぇ」
「あっ、あの野郎にコーチなんて無理だったに決まってる!! この清田がシュートのコツを教えてやりますよ!!」
奴に務まったとは到底思えねえ、と異常なまでに敵対心を燃やす清田。自身こそコーチに適役であり、彼女に手取り足取りシュートの仕方を伝授すると大きく出た。
「ほぅ、自信満々だな。
2本とも外した奴の発言とは思えんな」
「ゔっ……
牧さ〜ん。それは言わない約束っすよ〜……」
対湘北戦のフリースロー。会場内はシンと静まり返り、絶好の機会という場面で彼は2本とも外すというミスをやらかしてしまったのだ。
痛いところを突かれ冷や汗をかくが、詫びの印と言うべきか。直後、良い知らせが耳に飛び込んでくる。
「清田」
「はい」
牧はバッシュの紐を蝶結びに縛ると、流し目でこう尋ねた。
「お前も来るか?」
「え?」
「慰安旅行ってやつによ」
「慰安旅行……?」
綾に手渡したというペアチケット。その有効期限は日に日に迫っている。誘った張本人である仙道もしくは藤真か、はたまた湘北の面々か。
その対象は不明だが、先を見据えた様な発言だ。
「俺も行くよ、横浜」
「な、なんすかそれ!? 聞いてないっすよ!!」
「仙道がさ……『 仙道!? 』」
「一体何のことすか!?」
「綾の言う素敵な人が見つかるんじゃないか?」
神と通話中、彼女がうっかり口を滑らせた陵南の天才の名。
突然の3大ワードに仰天しっぱなしの清田。それは不思議がっている暇もないほど頭上に積み上げられていた。
水族館に遊園地。その施設名までは聞かされぬまま先輩たちの会話内容に置いてけぼりにされ、綾に後日詳しく聞こうと一旦口をつぐむのだった。
「ありがとうございます。明日はよろしくお願いします」
「牧さん! 色々ありがとうございます!」
「おう、朝は早いからな。寝坊するなよ」
「「 はい! 」」
だかしかし、特訓そして旅行まで。
次々に許可をもらい良いこと続きの彼はラッキーボーイだ。
「神さん。なんか今日の牧さん、えらく太っ腹っすね」
「うん。綾ちゃんのお陰かな」
「なるほど……」
( 愛の力ってやつか……? )
今日の牧は顔色も機嫌が良く、大盤振る舞いと言い切れるほど随分と気前が良い。監督の言う通り、牧が大黒柱であるなら綾は精神的支柱。
2人きりの朝練は彼の心の安寧にも繋がっているのだ。
― そして
「牧さん」
「何だ、神」
失恋の傷跡はいつまで残り続けるのか。神は練習を再開しようとする相手の手足を止め、しんみりと問いただす。
「運命的な出会い……いつか俺にも訪れますかね、牧さん」
「さあな。相手次第だと思うが……
お互いが運命なんだと思えばそうなんだろ」
「運命……」
――‥
清田くんも、先輩たちがギスギスしてたら色々やりにくいと思うよ……?
その原因になったのは、私だけど……ごめんね。
……ううん。
だって紳ちゃんは、私の運命の人だから……!
‥――
" 運命 "
背中を押した人物は自分にもそんな奇跡的な出会いがあるかと尋ねれば、男女2人して共通の言葉が返ってきた。
if‥‥もしもの世界線。
彼女は、俺のことを好きになってくれていただろうか。
綾への想いを完全に断ち切った今、以前までの確執は確実に無くなった。いつまでも私情でチームメイトに迷惑をかけられない。
牧をライバルとし、バチバチと静かに火花を散らしていたことを彼女も気に留めていたから。
――‥
綾ちゃんが運命の人だと思うなら、行ってください。
‥――
( 運命って……この間から何のことなんだ?
横浜? 仙道? 慰安旅行……?
さっきから、色々情報量が多すぎねーか!?
俺の知らないところで一体何が起きてんだよーー!?
綾さん!! 一から全部教えてくれよーー!! )
― また、今朝の別れ際
2人はこんなことも話していた。
――‥
「紳ちゃん、今日は付き合ってくれてどうもありがとう!
久しぶりに一緒にバスケができて、すごく幸せで……とっても楽しかった!」
「綾……俺もだ……」
「嬉しい……これからは、堂々と応援できるんだね……」
「ああ……」
口に出してはいけない。強くなれない。
牧の決意を台無しにしてしまう。
だが、父親と以前より親しくなれた今それは無駄な心配であり何より彼女の言葉が彼の気持ちを一番に動かした。
当初父親は牧のことを大したことのない選手だとタカをくくっていたが試合を目の当たりにして以来すっかり考えを改め、素晴らしいプレイヤーだと評価。
もう会えないと思っていたぶん観戦できる喜びはひとしおだ。
「湘北は武里とか。幾らか点差が開くと思うが」
「そうかな?」
「ああ。目に見えている」
勢いがあり、また得点力の高い湘北に武里が勝てる見込みはないと己の見解を示した。また、男の名に再びヤキモチを焼かれないよう綾は手で素早く口元を隠す。
「仙道さん……あ……
陵南との試合、楽しみにしてるね!」
( 綾…… )
‥――
終盤は好敵手の藤真の話で終わってしまい後味の悪さを感じていた牧だが、彼女の近況や意思などを知ることが出来いくつか収穫はあったはず。
彼とて有意義な時間を過ごせたことは間違いない。
( 仙道……
未だに奴の企みが読めんな……
湘北と陵南。どっちが勝つかは分からんが
予選後の行楽となれば慰安旅行ってことになるだろ。
そして藤真は、きっと奴は告白を……
こればかりは……自分の口で言わなければダメだ。
またもアイツの微笑みに救われた。
もう奴らに心動かされることはないだろう。
想いをしっかり受け入れてやれ、綾……
――‥
どっちにも勝ってほしいし、負けてほしくないよ……
‥――
それだと勝負をつける意味がなくなるだろ……
これは大真面目に、避けては通れない道なんだ。
もちろん俺は挑戦を受ける。
そして、必ず勝たねばならん。
綾……
その日が来たら、俺と藤真……どちらかジャッジしてくれ。
頼むぜ…… )
「アメリカのこと、どう思う」
「え? アメリカ?」
突如、寡黙な男から発せられた静かな問い。
対して天使の回答は‥‥?
まだ蝉は鳴かずとも、この夏への入口は出口でもある。陵南戦の2日前。残り2校とも勝ち抜かなければ全国への道は断たれてしまう。
勝利を飾り、笑って出口から出て来られるかどうかは彼らの腕にかかっているのだ。
「へぇ、牧と朝練を?」
あの日から湘北の天使は通常運転。お辞儀とてきちんと行い、すっかり元通りに。
噛み砕いて話すことはないが例の体験入部とは違い特に秘密にする必要もないため、自身も牧とともに特訓中であることを明かした。
素直すぎる性格ゆえにそれを隠せず、またひとつ新しい思い出ができたことが顔に出てしまっているのだろうか。
「綾さんと2人で!? な、なんてうらやましい……」
「お前も2人きりでしてただろ、桜木コーチ」
「ぬぬ……」
「あの時は楽しかったね!」
「ハイ……! とっても……♡
邪魔が入らなければ、もーっと楽しめたんですけどね」
「なにぃ!?」
「にゃろう……」
「まあまあ……!
2人とも、ケンカは良くないぞ、なっ」
副キャプテンの木暮は桜木の視線の先の三井と流川をなだめる。血の気の多い彼らを説得させ、まとめ上げることは一苦労でありその心労は計り知れない。
彼のおかげで部の均衡が保たれていることは確かだ。
「私の課題も、てんこ盛り……
一生懸命な桜木くんに刺激されて、自分も頑張らなきゃって思ったんだ」
「綾さん」
牧や仙道に向けた討伐宣言、先日の練習試合で明らかになった己の新たなる課題。そしてバスケットに本気で情熱を注ぎ、リスタートした表れだと一目で分かるこの坊主頭。
" 今はまだ手探りの状態だけれど、徐々に形にしていきたい "
積極的な姿勢の彼に良い刺激を受けた綾は、まさに元気モリモリ。課題クリアのため自身もやる気を引き起こしたと語る。
「それで収穫はあったのかい、綾ちゃん」
「はい! すごく……!」
彼女の充足感を得た顔を見れば結果は透けて見えているはずだが、海南の主将自らが直々に特訓したと聞けば同じポジションならびに頂上を目指そうとする彼の興味を引かないはずがない。
宮城はそう言葉を促し、結論を急いだ。
未完成の状態であれど
シュートの仕方やコツをだいぶ掴めてきたこと。
そしてハイライトは、何と言っても3ポイントシュートを1本入れることに成功したこと。
綾はこれらの事を大まかに話した。たった1時間足らずで悲願のシュートを決められたことは非常に嬉しく、これからの練習にもより熱が入ることだろう。
また、部員たちがエネルギーに満ちあふれる中、彼女の心の中も躍動的で幸福感という喜びで満ちていた。
彼と2人きりの甘酸っぱい濃密な時間を過ごせたこと。
肩を抱かれ、彼の腕の中に長い間いられたこと。
――‥
お前は俺と藤真、どっちに勝ってほしいんだ……?
頼む。その時は勝利の女神として、勝敗を見届けてほしい。
‥――
( 紳ちゃん……なんであんなこと……
私からしたらどっちも、心も身体も同じくらい強いのに。
それなのに、勝負なんて……
紳ちゃんに勝ってほしいよ。ほしいけど……
明日も一緒にバスケできるなんて、本当に夢みたい。
ありがとう……
あの日、君は精神的支柱だって高頭先生は言ってたけど……
支柱どころか精神的負担になってない……?
私も、貴方には遠く及ばないけど
負けないくらい頑丈な盾になるからね。)
藤真の話題が上がった際、健司くんとまたも男の名前を発していたが2人が何故そこまで対決をしたいのか、しなければならないのか。それがどうしても気になって仕方がない。
その回答はできないまま朝の時間を終えたが、緊迫感が取れた今では心の中でぽろっと本音を漏らし、また牧への配慮がちらりと見られた。
どちらに勝ってほしいのか。
そして、そばで見届けてほしい、と‥‥
ジャッジを下すなんて、小さな花の存在である自分1人だけが微笑むなんて。
透き通ったハートを持つ者には、きっとできない。
恋人の急な頼みにきちんとした返事ができず、思い悩む綾‥‥
言葉はその人の人間性や感性、思想がモロに出る。何の考えも無い小手先の言葉をかけることは彼女にはできなかった。
また、牧が赤木の足を気にかけていたことを伝えると
「キャプテンの怪我のことも心配していました」
「ふっ、もうピンピンしとるわ」
敵に心配してもらう義理はないと即答するもそこまで嫌な顔はしていなかった。
また、あの腫れ具合は2、3日で完治するものではないはず。
個人的には牧に負けていない。けれども、試合は敗北という結果に終わったばかり。
本人の性格もあるが素直に喜ぶことはできないのが現状か。
「だからって無理すんなよ、赤木」
「そうですよ、赤木先輩!」
「ほう。ゴリ、完全復活……!」
「バカタレが。復活したのは春野だろーが」
「キャプテン……」
三井や彩子も声を上げ、怪我の回復に努めるよう訴える。それほどチームの大黒柱が抜けることは一大事だ。
もちろん綾としても同意見であり見上げるほど高い赤木の顔をしっかりと見据え、こんなことを口にした。
「念には念を入れて、武里戦では出場しないで休んでてくださいね」
「分かってる」
「このあと、桜木くんとまた特訓ですよね?
私もお手伝いします!」
「……!」
「そうか、すまんな。早朝練習もして疲れてるのにな」
「いえ、大丈夫です!
だけど、ホントはちょっぴり眠いです……ふわあ」
突然小さなあくびをする彼女に、ピリピリした空気が若干和らいだよう。言葉の緩急の差に部員たちは唖然としていた。
「春野?」
「綾ちゃん」
「綾さん……?」
「んな呑気な……」
「どあほー……」
無理せず休んでほしい。自身も特訓の手伝いがしたい。暗黒の淵から甦った天使の口からはこんな言葉が飛び出した。
負傷した試合当日、何も手を施せず非常に歯痒さを感じていた。昨日の昼休みとて動揺し通しで、ただ傍観しているだけだった。
父親譲りの石頭でもある綾。一度口にした今はテコでも動かない様子だ。
( 正直だな……
働き者かと思えば、まったく緊張感がなっとらん!
……しかし、完全に持ち直したからもう心配いらんって顔だな。春野。
牧とマンツーマンならば上達できること請け合いだな。
あの男以上に成長速度が早そうだ。)
「そうだ、明後日の朝、桜木くんのお家に電話かけるね!」
「えっ! 綾さんが!? 俺にモーニングコールを!?」
「うん! 大事な決勝戦の真っ最中だもん、絶対に遅刻しないようにね!」
「ハイ……!」
さらには大変身を遂げた彼にモーニングサービスまですると言い出した。先ほどから未来の展開を先読みし、行動に結びつけている綾。
これも精一杯マネージャーとして努めようとする気持ちの表れなのだろうか。
( 一緒に特訓できる上に、そんなサービスまで!?
まさに天使だ……♡
やさしい、きれい、かしこい の3拍子がそろってる……!
メガネくんには悪いが、ゴリとマンツーマンより捗るってもんよ。
基礎ばっかよりシュート練習の方がおもしれーからいいけど
綾さんがいてくれれば格段に楽しくなること間違いナシだぜ!
おっしゃあああ!! 見ててください、綾さん!!
このジーニアス・桜木の大器を……!! )
――
「それでは解散!!」
「「 ありがとうございました!! 」」
天才に課せられた1日600本のゴール下からのシュート練習。部活後、綾は宣言通り桜木の特訓を手伝っていた。木暮も共に行いどんな状況でも狙えるようデモンストレーションをしている。
そんな中、体育館の端から彼女を呼ぶ声が。
「おい」
「楓くん? どうかした?」
クイクイと招き猫に招かれる様にして、彼のもとへ。
「言えたのか、本音」
「あ……うん……
これも全部、楓くんのおかげだよ」
最愛の人に、さみしかったと言えた。
受け入れられたその瞬間、哀しみの涙は嬉し涙に変わった。
" 無言の「ありがとう」"
走り去ってからというもの、言えずにいたことを命令通り打ち明けられたのかと問う。
お礼は不要だと吐き捨てていた流川に言葉ではなく、心からの感謝の気持ちを込めてそう伝えた。
「それに私、あのとき錯乱しちゃって……」
「別に……」
――‥
紳ちゃんが、呼んでる……
何の意味もなく、あんなこと……
どうしよう……! 楓くん……!
私が、我慢すれば、いいだけで……
さみしくなんか……
‥――
「あの桜並木……トクベツな場所なのか」
「うん。とっても……」
背中を押され、連れていってもらった牧との思い出の場所。
" さみしいって言えば "
これで通算4度目の命令か。流川には会話の最中必ずと言っていいほどパスカットをされてしまう。しかし、彼のあの一言が一助となったことは確か。
以降、彼がこの手の話に固執することはなかった。
――
" アメリカのこと、どう思う "
「どうって……楓くん、語学留学するの?
それとも、ホームステイ……?」
「違っ……」
近いうちに渡米してしまうのかと当てずっぽうに話すが、少々淋しそうな声色に流川はすかさず否定した。
その反応に安堵したのか、直後率直な個人的感想を述べる。
「とにかく自由だし、ハンバーガーも大きくて食べ応えがありそう!」
「ハンバーガー……」
自由の国・アメリカ。
両手を構え、ジェスチャー付きで肉厚のビーフやバンズを頬張る動きを見せる。流川はと言うと、思わぬ返答に真顔でぱちぱちとまばたきをしている。
「それに、バスケの本場で……
あ……この間の発言って、もしかして……」
「…………」
――‥
俺は、あんたのずっとずっと先を行く。
‥――
彼女が先ほど言いかけたこと。
牧に向かい吐き捨てた例のセリフ。あれは、アメリカを意識した発言だったのか? と。
もう彼女を困らせる様なことはしたくない。失いたくない。
流川が部員たちがいる前で彼女を手招いた理由は、相手を思いやってのことだった。
また、ここは体育館の一角。桜木が日々彩子や綾と基礎練習に勤しんでいる場所だ。彼はコソコソと身を潜める様な真似はせず、相も変わらずシャープな瞳でジッと彼女の顔を見つめている。
「もう……誰にも負けねえ。
もっと強くなる。とことん強くなって……」
「え……強く……?」
バスケット発祥の地へ出向き、もっともっと強くなりたい。
誰よりも上を目指したい。
渡米することが彼の野望なのだろうか? 明確なことは分かりかねるが、その力強い望みを知ることができた。綾は疑問をぶつけようとしたが続く接続詞に問うことをやめてしまう。
「それで……」
「?」
( おめーを笑わせられれば、それでいい…… )
「楓くん……?」
最後の言葉は、言わなかった。
バスケットでお前を笑顔にできるなら、自分に笑いかけてくれるなら、それだけでいい。何処へ行こうと相手が誰だろうと負けはしない。頑張れる。
鋭い眼力からはそんな情熱が見て取れる。
この体育館や試合会場をも透過し、彼が見据えているものは
きっと
海を越えた先の、遠い遠い、まっさらな景色 ―
― そして‥‥
「お前の夢……なんだ」
「夢……?」
泉のごとく次から次へと湧き出る、無口な男が繰り出す質問のオンパレード。
おそらくこれが最後の尋問となる。4つのうち、1番と断言していいほど言い淀んでいる彼女の回答を待つ。
「え、えっと……」
「…………」
流川の気持ちを考慮し、何度も彼の目を見ては口籠る。
「おめーの気持ちはとっくに知ってる。
何を言われても傷ついたりしねえ。だからもったいぶらずに言え」
" 結果がどうだろーが、俺はどうもならねえ。
辞めない限り部員のままだ "
( 辞めたりしたら承知しねえ…… )
何を言われても、どんな答えだろうと動じない。今の関係とて何一つ変わらない。これは水戸のことを言っているのか、ためらう様子を前にハッキリそう言い放つ。
昨日、教室の騒々しさに眠りを妨げられ瞼を開けば目先に綾の悲壮感漂う横顔が。友人から単なる級友に成り下がってしまったことを踏まえ、自身はあの様なことにはならないと言うが彼女にその意は伝わっただろうか。
「う、うん。誰にも言わないでね……?」
コクンと首を下げる。辺りをきょろきょろと見回す綾。誰かに聞かれては都合が悪いことなのか。
「楓くん、ちょっと耳貸して?」
「ん……」
187と背丈が高く、身長差のある2人。
流川は上体を斜めに下げる。
背伸びをして口元に手を添え、綾が囁いたことは
「紳ちゃんの、お嫁さん……!」
「……!!」
( ヨメ…… )
これは流川への答えであり、彼女の明確な意思。
告白の返事ではないものの、その夢はあなたは眼中にないと遠回しに振っている様なもの。相当ショックな一言だったかもしれない。
と思いきや、先ほどの発言通り彼は心も体も一切微動だにしていなかった。
「ハッ……! 綾さんが、ルカワに耳打ちを……!?」
その時、ボールがリングにぶつかり
フロアにころころと転がる音が響く。
「おのれルカワ……!! 綾さんと一体何を……!?」
「桜木!」
「あのバカっタレが……! もっと集中せんか!」
300本中、残りあと数十本というところで練習を放棄した男に赤木は憤慨している。
茶々を入れに来たのだろうか。解散後、帰宅せず流川が残っていた理由はもちろん綾のため。
振り向くタイミングが悪く、ちょうど耳元でこしょこしょと内緒話をしている時に2人仲良く密談‥‥ではなく雑談していることに気付いた桜木はその光景に完全に頭に血が昇り、光のごとく早足で綾のもとへと向かう。
「綾さん!! こんなキツネと2人だけで何を……!?」
「えっ、桜木くん……!?」
難癖をつける桜木の顔を見て瞬時に背番号が浮かんだのか、アセアセと咄嗟に思いついた言葉は意外なものだった。
頬を染め、慌てた様子でその場限りのあからさまな嘘をつく。
「ゆっ、ゆうべ見た夢の話をしてたの……!
10年後の自分を見たんだけど……!」
「な、なーんだ! ハハハ……!
そーいうコトだったんスか!
ん……? 10年後……?」
( 嘘ついたりしてごめんね。桜木くん……
だって、だって……
夢は紳ちゃんの奥さんになること……なんて、
そんな……
恥ずかしくって言えないよ〜! )
「あのことはナイショだからね?」
「……おー」
囁かれてからというもの、桜木のガヤも何も耳に入らない。
大人の女性に成長した綾の幻が見えたのか。
ブーケを手に純白のドレスをまとった、思わず息を呑むなんとも美しい花嫁姿。
バージンロードの先に待つ新郎さらには誓いのキスを交わす対象が牧であろうとその様なことは頭になく、流川はしばしボーっと今現在の彼女の横顔を見つめていた。
( 25の綾……まぶしい )
嘘も方便。こればかりは素直さよりも己の恥ずかしさの方が勝り、夢を見たと言ってこの場をやり過ごし事は丸く収まったのだった。
明日はどういった内容になるのか?
10年先の未来よりも、大事なのは目先の、明日からの自分。
彼と2度目の特訓そして残り2試合に向け、綾は頑丈な心と共に意気込みを表すのだった ――。