黒白を争う 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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― 翌日
やわらかなそよ風が頬を撫でる。
湘北高校・ランチタイム兼昼休み。日照りの良い正午の空はぽかぽかと暖かく、眠りこけてしまうほど何とも気持ちが良い。
「水戸くん……話したいことがあるの。
良かったら、一緒に来てもらえる……?」
「……分かった」
廊下にてある人物をやや緊張気味に誘った綾。優先順位としてこの一件を早急に実行せねばと簡単に昼食を済ませ、ある場所へ共に歩みを進めた。
淋しかった。バスケットを一緒にしたいとハッキリと言えた。昨日、自分の想いや望みを伝えることができた。
そんな彼女はもうひとつ、気持ちをハッキリさせてくると言う。
この屋上は、彼女を呼び出した時と同一の場所。
今や状況はガラリと変わり、相手の気持ちに応え、伝達し、また受け止める側という双方の今後における人生において大事な一場面となっている。
牧と別れたばかりの頃。己のことは後回しでいいからと自分の気持ちに正直になれ、と励ました。
桜木軍団が一番に現れ
そして真っ先に彼女を助けに入ったのが、この男。
ボディガードであり自称・近衛兵だという水戸洋平だ。
今日この日‥‥
彼に告白の返事をするために。
名を伏せたのは、きっと牧を気遣ってのこと。が、本人にはとっくに見透かされてしまっている。
そして、嘘のつけない綾。
告白されたことを言い当てられるのも時間の問題だろう。
「えっと……水戸くん、あのね……」
「…………」
何を考えているのか。男は相槌も打たず口も聞かず、ただ真正面を見据えたまま。綾はというと本筋に触れるタイミングをうかがっている。
「ずっと言わなきゃ言わなきゃ、って思ってて……元気づけてくれて……助けてくれて……それで……」
このまま心地の良さを維持したまま事を終わらせることができればどれだけ良いか。
一定の距離を空け、たどたどしく話を切り出した
次の瞬間‥‥!
「きゃあ!!」
「おっ! 縞柄……! これで上下拝めたな。
彼氏にもこんな下着で誘惑してんのか?」
がばっと勢い良くスカートをめくられ、逆三角形の薄い布地が丸見えに。
水戸はスカートの裾を掴みながら黒い縞模様のそれをニヤニヤした目つきで凝視している。
「俺は不良だってこと、忘れたのか?」
これは風の悪戯ではなく、彼のイタズラ。
自然の力ならまだしも、まさか人為的にとは予想外だっただろう。
綾は両手で即座にスカートの中心を押さえ防御体勢に。
「〜〜っ……」
10秒も満たない間のことだった。
答えを受け取りたくないのか跳ね除けられ、頭の中は羞恥心であふれ返り何も考えられなくなっていた。
「水戸くんなんて……もう知らないっ!!」
「……!!」
これまで先延ばしになってしまっていた告白の返事をやっとこさできると思っていたのに。
もうそれどころではなくなり、彼の胸部をぐっと力強く押さえつけ、その場を立ち去ってしまう。
( 春野さん…… )
女子の腕力など痛くも痒くもないはず。しかし、普段の喧嘩とは全くの別物。彼女の攻撃はどんな一撃よりも重くのしかかり、心の中にまで痛みが響いていた。
水戸はしばらくの間、シャツ越しに胸部に手を当て出入り口を見つめていた。
( ひっぱたかれたってよかったのによ……
あの日のこと思い出させちまったなら、悪りぃ……
なんだよこれ……
胸の中が猛烈に痛え……
俺は、たった1回の「ごめんなさい」も聞けねー
度胸なしのビビりな男さ…… )
あのあと綾は顔全体を赤く染め、落ち着かない素振りでひとり体育館へと向かっていた。
近付くにつれ、バッシュの軋みやボールのキャッチ音なども身体全体に響くほど大きくなってゆく。
「47! 48! 49! 50……!」
( 桜木くん。キャプテンも…… )
館内では、赤木が桜木に付きっきりでゴール下のシュート練習をしていた。
「ナイスシュート……!」
「ぬ?」
「ん?」
「あっ、アナドレリンちゃん、大放出だね……! バシッと決めて、会場中をビックリさせちゃお……!」
「……!!」
「春野?」
彼女の登場に男たちの動きが止まった。
非常に驚いていた。元コーチである桜木は特に。同時に、言い間違えるはずのない言葉に赤木は疑問を抱く。
「桜木くん? 赤木キャプテン?」
「……春野。いつものお辞儀はどうした」
「え? あっ……! すみませんっ、私っ……!」
「別に謝らんでもいい」
「は、はい……」
( ナゼなんだ……!? あの綾さんが……!!
おかしい!! コレはどう考えても絶対におかしい!! )
違和感を覚えるのも無理はなかった。
全校朝会やレクリエーション、セレモニー等
様々な用途で使用される体育館。よって何も悪いなんてことはない。
上履きのままだという靴の種類の問題ではなく
一度たりとも欠かすことのなかったお辞儀をせず、コートに足を踏み入れたから。
この些細な行動だけで、混乱状態にあることが明確に。
「綾さん、顔も……何かあったんスか?」
「うん……水戸くんに……」
「ぬ? 洋平? 洋平に何かされたんスか!?」
「うっ、ううん……! そんなんじゃ……!」
精一杯首を左右に振る綾。
熱があるのでは、と依然赤面したままおさまらない様子に涼しげなタンクトップを着た男は訳を聞くが
ついぽろっと出た親友の名にこの謎を解明するヒントを着々と得ていた。
― さらに
「ス……」
「す?」
( 酢? 巣?)
「すっ、数学! 5時間目は数学だったよね!」
「あの……音楽だったよーな気が……」
「えっ、そうだっけ……」
「春野……?」
牧により裏付けされた隠し事のできない根っからの正直者。
そして優秀な人間でもある彼女だが、午後からの時間割を見事に間違えてしまう。
「なんか、今日はちょっと調子が悪くて……」
「綾さん……?」
( 昨日、はっきりさせてくるって宣言したのに。私……何やってるんだろ…… )
「春野、無理をせんでいい。今はただの昼休みだからな。だがこの男にとっては、貴重な時間だ」
「キャプテン……」
「ゴリ」
異変に勘付く赤木。
彼は以前から綾の体調をちょくちょく気にかける発言が目立つ。例の事件のあとではなおさらだ。恋人がいるとはいえ将来的に男性不信や恐怖症になってしまうことを危惧しているのだろうか?
はたまた同じ2つ下の妹を持つ身としての配慮か‥‥
「そっ、そうだよね。私のことはいいから、練習続けて?」
「そうだ! いいから続けるぞ! 桜木!」
「おっ、おうよ! 残り50本!
綾さんがいるってだけで、やる気出まくりでい!」
「桜木くん……ごめんね。今はお役に立てないかも……」
「とんでもないっス!」
それからと言うものコート上の天使はコート外で立ったまま彼の特訓風景を眺めつつ、顔や頭の火照りを冷ますことに。
コートがもう一面空いている。
その片側のコートを使い正反対に遠距離シュートの練習をすることも可能だったが、桜木のサポートすらできない始末。こんな調子では入るものも入らないと判断し今回は断念。
パスを受け取って即ボールを放ち、バックボードを経てゴールネットを通り抜ける。
リズミカルな音は渡り廊下を歩いている時から響いていた。
が、所々そのリズムが崩れることが‥‥
( むむ、いかん! どーしても気になってしまう……! )
「桜木」
「む……?」
「その春野がいるだけでフォームが乱れるようでは、真のバスケットマンとは言えんな」
「なぬ!?」
と、赤木は彼女に聞こえぬようやや小さめの声で嘆く。
壁には天才の特別特訓メニューの模造紙が貼られており、朝6時から200本、昼食後100本、部活後300本と桜木は来たる武里と陵南戦に向け3日間日夜の猛特訓。びっしりと練習スケジュールが詰め込まれている。
すべては即戦力をつけるために。確実に点を狙えるようただひたすらに反復練習を行っていた。
そして、やはりメインディッシュは美味しい。
隅での地味で地道な練習とは大違いで
たとえガムシャラだとしても、彼は実に楽しそうにシュート練習に取り組んでいた。
左手は添えるだけ ――。
ボールが手に渡ったと同時にその構えになってなければダメだ、とみっちり身体に染み込ませる様に叩き込む。
敗北を味わったことで、彼の中で何かが変わったのか。
意外にも教えを素直に聞き入れていた。
だがしかし、好きな人が自分を見ていると分かれば断然気になってしまう。それでなくともミステイクばかりが続き不調となれば、染み込ませかけのフォームもしばし崩れてしまう。
――
時間が経つにつれ彼女は冷静さを取り戻し、また恥じらいは追々不安へと変わってゆく。
( 今日から3日間特訓メニューびっしりで、ものすごく頑張ってるなぁ、桜木くん。
キャプテンも本調子じゃないのに。休み時間まで使って付き合って、それほど桜木くんに期待を寄せてるんだ。
お手伝いするどころか挨拶も。
この間気付かせてくれたお辞儀だって……
こうやって突っ立って見てるだけで、何ひとつ協力できてない……とんだ役立たずでごめんね。
だけどシュート練習にステップアップできて良かったね! どことなく、楽しそう♡
はぁ。またやっちゃった……
逃げちゃった……
下着……思いっきり見られちゃった……
びっくりして反射的に身体まで押しちゃったりして……
大丈夫かな。痛くなかったかな……?
それよりも、じゃないけど
あれじゃあまともな返事になってないよ……!
何より、水戸くんと気まずくなっちゃった……
要望なんて、気を使う必要なんてないのに……
制限が無くなっただけで満足なのに。あそこでずーっと色々考えてたのかな……また風邪引いちゃったら大変だよ。
今回も泣いたりして、ごめんなさい。
お花も海もパーティもどれも考えたけど
あれが私の本心だから……
同じ空間に一緒にいられるだけで幸せなんだもん……
紳ちゃん……
ずっとぎゅって、恋人つなぎをしてくれた。
少し恥ずかしかったけど、嬉しかった。
大きくて分厚くて、包まれてる感じがして
すごく安心できて……
深いキスがしたいって、ついに言っちゃった……!
それ以上のことなんて恥ずかしくて言えっこないよ〜!
ってことは、ひょっとして
紳ちゃんも私と同じで照れ臭くてできないのかな……?
暗くてよく分からなかったけど
若干頬っぺたが赤かったような。気のせいかな……?
ーー‥
我慢できないかもしれんぞ。
試してみるか……?
‥ーー
別れ際……路上で、家の前で抱きしめて
深いキスするのかなって一瞬だけ期待しちゃった。
お互い隠し事はしないって決めてるけど
もしかして、ためらってる……? 絶対我慢してるよね……?
前に倒れた時だって……あんな切ない顔、しないで……
私も、させちゃいけないよね。
桜木くんが言ってた重い槍、だよね?
紳ちゃんは優しすぎるから
まさか私の体調のこと気遣ってくれてて……?
こういうのって、隠し事にあたるのかな……?
埋め合わせとか、さみしかったとか私ばかり感情を伝えて、要望ばかりで……
もし次に “ その時 " がきたら……恥ずかしすぎるけど
今度は私が、紳ちゃんの要望に応えなくちゃ……!
ーー‥
単刀直入に言う。牧って奴のこと、好きなのか?
春野さんのことが好きだ。
彼氏がいるのも知ってる。
けど、どうしても伝えたかった……
おーっと! それ以上は言わないでくれよ。
俺の一世一代の告白だったんだからさ。
俺は見ての通り、不良だからな。
こんな卑怯なやり方しかできねえ。だけど、春野さんを想う気持ちはその牧ってヤツにも負けてないと思うぜ。
顔に書いてあるぜ?
だけど、好きで好きで仕方がない、ってさ。
言っとくが、その弱みにつけ込んでかっさらおうなんて考えは1ミリも持ち合わせてねえからな。
今は、自分のほうが大変だろ?
もっと自分の気持ちに正直になれよ。
アマドコロ……だっけか?
止まない雨はないんじゃねえかな。
俺が本を買ったワケ。
春野さんに近付きたいってのもあるが、いつもの笑顔を取り戻して……元気を出してほしかったからなんだぜ。
それに、あれこれ考え過ぎなんじゃねえかな。
腹が減ったから、食う。
おもしれーから、笑う。
上手くなりたいから、練習する。
好きだから、一緒にいたいって思う。
もっと気軽にいこうぜ。
シンプルイズ・ベスト! ってな具合にさ。
‥――
自分を不良って言ってたけど根っからの不良じゃないよね。
相手が誰だろうと一方的に意地悪するような人じゃない。
あんなこと、いつもは絶対にしないのに……
まさか
水戸くん、わざと嫌われるようなこと……!? )
― そして
突如、重い鉄の扉が開かれた。友への激励だろうか、はたまた冷やかしだろうか。また綾がいることを知ってか知らずか桜木軍団の3人が弁当を片手にやって来た。
「いやー、いいモノ見たな!」
「うんうん! 最高のオカズだな!
花道、お前もいっぺん見ておくべきだったなー、アレは」
「ぬ!?」
なんと不運か。彼らもあそこに居合わせていたのだ。
大楠と高宮の2人は非常にラッキーなものを拝むことができたとガヤガヤと大いに盛り上がっている。
「おかずって……?
あ……まさか大楠くんたちも、さっきの……見た?」
「「みたみた! シマシマの……『なっ、やめい!』」」
「……!」
その返答内容に早急にスカートを押さえた。かああ、と一気に顔全体が熱を帯びてゆく。
口を塞がれ、的を突く様で突かないその会話内容のお陰でせっかく持ち直すも、ふたたび元の状態に戻ってしまう。
「シマウマ……?
てめーら!! さては何か隠してるな!?」
「「 なんでもありましぇーん!! 」」
「おのれ……! 気が散るんだよ! さっさと出ていけ!」
「綾ちゃん! 悪い!」
気が散るからと煩わしいギャラリーを一掃し、バタンと大きな音を立てて扉を閉め切る。
代表して野間が軽く謝罪し、彼らは逃げる様にして去っていった。
( 有名になるというのは大変なのだな……
春野、本当に大丈夫なのか。
まったく、寝る暇もないほど切羽詰まってるというのに……
これでは特訓どころではないな。 )
「綾さん、やはり洋平が……!」
「……っ」
赤木の心配をよそに、辱めを受け全身を硬直させる綾。
そんな姿を見て不思議がる桜木は先ほどから様子がおかしいのは水戸が原因だと確信。
ラーメン屋の帰り道、そして事件後の友の発言を思い返していた。
ーー‥
なあ、花道……
俺……お前に言わなきゃならねえことがある。
お前とは中学ン頃からのマブダチで
嘘はつきたくねえ……
だから、この際はっきり言っておく。
俺……春野さんのことが、好きだ。
告白もとっくに済ませてある。
返事はいいって、とりあえず今は保留ってことになってる。
大事な花なら枯れないうちに早めに手を打っておけってことだ。
牧さんよ、春野さんを……俺らの天使を大事にしてやれよ!
‥――
疑いを持たれている水戸。男同士の友情にヒビが入ってしまうのだろうか。果たして彼の真意は‥‥?
放課後まで約3時間ほど。昼食の時間が終わり午後の授業が始まった。
綾の座席は良くも悪くも水戸の真後ろ。プリントを前から後ろへと配り、また回収する際や消しゴムが無作為に床に落下し拾い上げるもどーも、とあまりに素気のない返事が。彼女への態度もあからさまに変わってしまっていた。
「水戸くんさぁ、午後から急によそよそしくない?」
「そうかな……」
「明らかに変でしょ。さては、さっき何かあったとか!」
「…………」
「綾?」
と、隣に座るカナまでも異変に気付く。
その先は何も言えず、開いた状態の教科書を掴み口元を隠している。
きちんと「ごめんなさい」と言っていない ――
先ほどまで思い出すたびに真っ赤にさせていた綾。少しずつ冷静さを取り戻すも自分だけが気にし過ぎていると思い込んでいた。
授業中も至って普通だった。
というよりも、その後の水戸は他人行儀。よそよそしく何事もなかった様に平然と接している。
これには、桜木は当然のごとく苛立っていた。
今回の綾の行動や言動はすべてにおいておかしく
何か重大な出来事があったとにらみ、以降口がすべった際に出た親友の動向をうかがっていた。
「あ、水戸くん、さっきは……」
「…………」
引き続き、目の前の背中に向かい囁き声で話しかけると‥‥
「あー、そうそう。
俺、アンタとはもうダチでもなんでもねーから」
「えっ……」
「「!?」」
綾の表情が、全身が、青白く凍りつく。
言われた途端に眉が八の字に下がる。綾の心の中で、積み上げてきたものが呆気もなく崩れ落ちる様な感覚に陥った。
「これからは単なるクラスメイトってことで。
あと、メシの時間に呼び出すのもやめてくれよな。おかげで食いっぱぐれちまったぜ」
「あ……」
「コラァ! 洋平! 綾さんに向かって……!」
「なんだよ、花道」
「お前たち! 授業中だぞ!」
「ぐぬぬ……」
心配をかけないよう拳にぐっと力を入れ我慢するも、一度エンジンがかかった今、簡単にブレーキを踏むことは難しい。
「綾、ちょっと大丈夫……?」
「…………」
水戸の発言内容に室内がざわつき始めた。他の生徒たちは不審げな表情でヒソヒソと何やら呟いている。
和光中時代に後戻りしてしまったのだろうか、教師に向けた反抗的な目つきはワルそのものだ。
桜木のサポートのみならず授業さえまともに受けられず、猫背そして伏し目がちに。
彼らのやり取りの最中に目が覚めた流川は、何やら考え込み彼女の心底辛そうな横顔をただひたすらに眺めている。
こんな時だからこそ、気持ちの切り替えが大切。
が、その驚愕の一言により
大事な友人をひとり失ってしまった様な感覚に‥‥
それからというもの、彼に一切話しかけることはなかった。
ーー‥
俺だったら……
もし断られたとしても、本望だな。
無理して付き合ってほしくはない。
それに……今まで好きだった奴のことを考えていた、想っていた日々は
もちろん嫌なことや苦しいこともあっただろうが、楽しいと感じた瞬間も少なからずあったはずだ。
きっと良い思い出になるだろう。
もしかしたら、次は友として仲良くできるかもしれないぜ。
これは人によるがな……
‥――
( すごく、ショックだった……
心にズーンって一気に重みがかかった感じがした。
紳ちゃんが言ってたことって、きっとこの事だよね。
そうだよね。貴重な休み時間なのに、私……
邪魔しちゃってごめんね……
失くしものが探しても探しても
全然見つからないみたいに、喪失感が……
ふとした時になんでもない所で見つかったりするんだよね。
そんな風になってくれたらいいのにな……
水戸くん…… )
― そして放課後
「ゴリ! 少し遅れる!」
「桜木!」
「どこへ行くんだ! 桜木!」
( 桜木くん……まさか…… )
部活開始前、それだけを赤木に言い残し急ぎ足である場所へ向かって駆けていった。
「よりにもよってまたココかよ。
今日はよく呼び出されるな。つっても、男に呼び出されたってちっとも嬉しくねーけどよ」
「洋平!! 綾さんに何しやがった!!」
あれから坊主頭の男は親友を屋上に呼び出した。
以前の大雨が嘘の様に晴れており、澄み切った青空の中に雲がゆっくりと風の流れに沿って動いている。
気怠そうに言う水戸に、凄まじい剣幕で口火を切る様に話し始めた。まどろっこしい物言いは好きではないのか真っ先に物事の核心を突く。
「は? 特に何もしてねーよ。何イラついてんだお前」
「態度がヨソヨソしいんだよ!!」
意中の女性が見ている傍では問い詰めることも拳を振りかざすこともなかったが、昼間の発言に怒りが収まらない様子。桜木は悪事を暴こうと水戸を徹底的に追い詰める。
「綾さんがお辞儀を忘れるとは、絶対におかしい!! 何もねーとは到底思えねー!!」
「お辞儀……?」
「知らねーとは言わせねーぞ!!
あの時、あんな悲しそうな顔を……!!」
「…………」
直球勝負で訴えてくる友、そしてこれまで知り得なかった綾が無意識にしていたという所作。
入館時の一礼は彼女のアイデンティティの1つ。
1日限りのコーチを務めた桜木。当時、教え子にバスケットを嫌いになることはない。大切に思っている証拠だと断言。
よって大事に思っていないわけではなく
一時的であれどその自己特性を忘れてしまうほどパニックになり心が乱された表れであることが分かる。水戸には何のことだか判断がつかないと思いきや、頭の切れる彼は重要度の高いことだと概ね見当はついているよう。
" 悲しそうな顔 "
最後の言葉を機に、リーゼント頭の男はヘラヘラした表情で淡々と事の内側を暴露していく。
「サービス精神旺盛だよなァ、彼女。
特訓さえしてなきゃ花道も拝めたのにな、スカートの中身」
「なに!?」
「かわいいシマシマ柄のパンティだったぜ」
「ぱぱぱぱぱ……!?」
「なに赤くなってんだ。そんなアタマしといてピュアな奴」
「すっ、スカートめくりなんてハレンチな!!
ガキみてーなことしやがって!!」
「どっちが」
「うっ……」
頭に血が上り過ぎているためか。真っ赤な丸坊主の髪型を含めすぐギャアギャアと騒ぎ立てるところも幼い行動のひとつだと、相手のたった4文字の発言に一瞬口ごもるが
「ワレメも谷間も見れたからなぁ。肌は白いし太モモもやわらかそうで……あー、思い出すだけでコーフンしてくる……」
「!?」
事件の日も含め、これで全身のランジェリー姿を拝めた。
彼は一体何を考えているのだろうか。わざと刺激する様な発言にも思えるが
この行き過ぎた発言に堪忍袋の緒が切れた模様。もう誰にも彼を止められないのか‥‥
「ふっ、ふぬーっ!!
1発鉄拳をお見舞いしてやる!!」
まさに鬼気迫る状況だ。
鬼の形相で睨みつけ、胸ぐらを掴み右腕を振りかざした
― その時
「離せよ」
「……!」
ぴたっと動きが止まる。
「今、お前が1発でも殴ったらどうなると思う?それこそ彼女が悲しむぜ」
「ぐっ……!」
ーー‥
暴力事件の前例もあるし、こんなこと……水戸くんたちぐらいにしか言えなくて……
それに桜木くんは、もう立派なバスケットマンだもん。
ケンカなんて……絶対にしちゃダメだからね。
インターハイ予選の大事な時に
私のせいで出場停止になったり、もしバスケ部が廃部になったりしたら……私……!
もちろん、水戸くんたちなら傷付いてもいいなんて、これっぽっちも思ってない。
二度とあんな光景……もう、誰ひとり犠牲者を……みんなが傷付いてる姿なんて見たくないよ……!!
‥――
( っ……綾さん…… )
天使の悲痛な叫びの数々は、男の怒りを静かに鎮めさせた。
控えめなSOSを出されたあの日。藁をも掴む思いで男たちに救出依頼をした綾。
彼女は部員たちを私情に巻き込むわけにはいかないとかおりからの仕掛けに怯えていたにも拘らず虚勢を張り、何もないと明らかな嘘を貫き通していた。
当初桜木を呼び出さなかったのも同等の理由であり何よりも身の危険を案じていたのだ。
― そして‥‥
「しょうがねーな……」
一貫して動じず、攻撃もしなければ防御もしない。
襟元を解放され晴れて自由の身になった水戸はその一言だけを嘆くとようやく真実を語り出した。
「……俺の初恋は、終わったんだ」
「!」
「湘北には全国に行くっていうでっかい目標があんだろ。なのに、俺1人のために手間取らせるわけにはいかねーよ」
「…………」
「お払い箱になるって初っ端から覚悟はできてたんだ。
だから、どうせフラれちまうなら不良らしく
とことん嫌われてやろうってさ。ごめんなさいって言われるのが怖くてトンズラした臆病者だって笑ったっていいぜ。50回も言われたお前には勝てねーわ」
「洋平……」
彼は、そう言って力なく笑った。
生まれて初めての初恋は、結末を迎えた ――。
親友のバスケット歴と同等たった3ヶ月間の恋だった。
個人的に声をかけてきたら、それは恋の終わりを意味する。
彼女が言いたかった「答え」は初めから分かっていたのだ。
最愛の彼とヨリを戻した。
スランプという大きな山場を乗り越えた。復活を遂げ前進しようとする彼女のお荷物になるわけにはいかないと、故意に嫌われるような真似をしたと告白。
もし、己を受け入れてくれなかったら‥‥
本当は返事を聞くことが怖かっただけかもしれない。言われたその瞬間から、想い続けることができなくなってしまう。
とっくに気持ちの整理や諦めもついており
「ごめんなさい」とお決まりの言葉を言われ判決を下されるのだと覚悟はできていたのだ。
「もう行けよ、天才バスケットマン」
「ぬ……」
「こんな時ぐらい1人にしてくれよ。こちとら免疫がねーんだわ」
かつてここまで疲弊しきった友の姿を見たことがあっただろうか。
すべてを白状し、魂が抜けた男は影をバックに
しおれかけの花の様にうなだれている。
それはいつぞやに小さな手を握り締め、覚えたての知識で綾を元気づけた状況とが重なっていた。
失恋経験豊富な桜木には胸の痛みがほど嫌と言うほど分かるはず。自身とて先日敗戦のショックでひとり孤独を選び、どんな人にも一般庶民の自分にだってミスはある。だから落ち込まないで、と愛の激励を受けたばかり。
わずかに静かな時間が続く中、彼は最後の最後にこんな質問を投げかける。
「洋平」
「……なんだよ」
「後悔してんのか」
「は……?」
すっかり肩を落としていた水戸だが、相手に合わせる様にゆっくりと顔を上げる。
「告白して、後悔してんのかって聞いてんだよ!!」
「……さあ……よくわかんねーな……」
「俺はこれっぽっちもしてねーよ。
この先、綾さんに言われたとしてもだ!!」
( 花道…… )
無気力ながらも直後の言葉に強く反応を示した。
質問内容や叫び声に仰天したわけではなく、断じて後悔しないと言う迷いのない信念を持つ友に精神面および人間としての成長を感じていた。
「もう行くぜ。時間はいくらあっても足りねーんだ」
「花道、」
「あとで綾さんに謝っとけ」
「…………」
走り去る友の背を見送ると、身体の向きは変えず何者かに向けて声をかけた。
「出てこいよ。そこにいるのは分かってんだ」
「「 洋平…… 」」
なんと軍団のメンバーたちが覗き見をしていたのだ。
3人は哀れな表情で名を呼ぶだけで次の言葉が出てこない。
「なんつーかさ……恋愛ってのは、ムツカシイねぇ……
親父やお袋も、こういうのを経験してきたのかって考えたら信じらんねえよ。
お前らとバカやってる方が、俺には性に合ってるのかもしれねーな!」
そう言って振り返った彼の顔は、笑っていた。
少し涙目になっていたことは彼らだけの秘密。
見せたくない。想いを寄せていたあのコにだけは、絶対に‥‥
――
この日、彼はノートの切れ端にとあるメッセージを書き綾の机の上にぶっきらぼうに置いた。
そこにはこんな文字が‥‥
――――――――――――――――――
ごめん
――――――――――――――――――
( 水戸くん…… )
そして部活前、彼女は小さなメモ用紙を下駄箱に入れた。
郵便ポストに投函する様にして、想いを込めて‥‥
帰り際にそれを発見した水戸は
――――――――――――――――――
私の方こそ、ごめんね。
満腹ラーメン屋さん、行けたら一緒に行こうね!
ありがとう。
春野 綾
――――――――――――――――――
( 春野さん……! )
小さな手紙に記された「ごめんね」が彼女の返事なのだと、彼はそう捉えた。
面と向かって言うのが困難なら文字に起こせばいい。
記憶はいつしか色褪せ消え失せてしまうが、こうして形にすることで思い出として永年残り続ける。
桜木の最後の一言に駆られたのではなく、心から申し訳ないと思っていたに違いない。
( ラーメン屋……
白い芍薬の花言葉、なんつったかな……
後悔……? してるわけねーだろ。
良かったって思ってるに決まってんだろ。
心を奪われてから、この数ヶ月間。
自慢のマドンナに
俺みたいな雑草をがっつり意識してもらえてさ……
ありがとう、か……アンタらしいよ。
だけど、こんな時に礼なんかいらねーって。
悪りぃのは俺なんだから、謝らないでくれよ……!!
自業自得とはいえこんな終わり方になっちまって
今さらどのツラ下げて会えばいいのか、わかんねーよ…… )
もうボディガードにも、男友達にもなれない。
図鑑を見せることもない。
彼女に会うことのない世界線だったなら、こんな気持ちにならずに済んだかもしれない。
青き天を仰ぐ。水戸は、その紙切れを胸のポケットに大事そうに仕舞い込むのだった ――。
― その後
「ぬっ……綾さん……」
一切暴力はしなかった。また、彼もお年頃の男子。ちょっぴり羨ましい気持ちは隠せなかったよう。
体育館に戻り綾の姿を捉えた桜木は水戸とのやり取りの中で知り得た情報の数々に鼻血を垂らし、卒倒寸前だったことは言うまでもない‥‥
( 綾さん……好きっす……大好きっす……
俺、ゼッタイに後悔しませんから……!!)
( 桜木くん……? )