最大の試練 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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( もう、二度と離さねえ……そう思った。
真っ青な顔してパニックになってるアイツをなだめた。
河原に着いたとき、叫びそうになった。
行くな! って。
牧を見つけたときの綾の横顔は赤くて、すげーうれしそうに笑ってて……
だから、引き止めるのはやめた。
笑わせる。それだけのことがすげームズイのに。
奴はただそこにいるだけで笑顔にできる。
俺がアイツを喜ばせるには、バスケットしかねーんだ。
バスケットしか…… )
オアシスもない乾燥しきった砂漠を延々と彷徨う。
つい最近まで煙たがれていたとは思えないほどに好感を持たれている牧。
その父親との約束が白紙となり、ビリビリに破られたとは思いもしないだろう。
そして、彼女は大事な恋人の心情も知らぬまま‥‥
「庶民シュウ!」
「桜木くん、今日はいつにも増して好調だね!」
「トーゼン! 常時絶好調の男と呼んでください!」
「誰が」
基本のレイアップシュートはお手のもの。
軽やかに技を決める桜木。黒のタンクトップを着用しているが、丸一日バスケットから離れ、そしてゆうべの一件を経てまた一歩大人になりバージョンアップした彼の頭の中はとことん真っ白。どんな色をも吸収し自分のものにしてしまうほど勢いづいていた。
順調な滑り出しだと声をかける綾。
流川はというと、すかさずいつもの一言を突きつける。
彼はネチネチと執拗に発言するタイプの人間ではないが落ち込みに落ち込んで大雨に打たれていた者は一体誰だとでも言っているような表情だ。屋上、体育館と二度も殴り合った両者は本当に調和が取れているのだろうか?
「気合い十分ね!」
「もう負けるわけにはいかないもんね!」
「おうよ! この崖っぷちに強い男・桜木花道がいればダイジョーブ! 誰だろうとドンと来いってんだ!」
「すごーい!」
「そうこなくっちゃな、桜木」
木暮や彩子をはじめ部員たちが自然と彼の近くに集い、館内には明るく大きな声が響く。
「体内のアナドレリンが分泌されまくって、朝から調子が良くてですね。
なーんかカラダがウズウズしてるんスよ」
「「 アナドレリン? 」」
さらには体調もすこぶる良く元気が有り余っていると話す。しかし、間違いに気付いた一同は
「花道、そりゃまさか " アドレナリン " ってやつか?」
「そうそう、なんたって天才に課題はつきものだからな!」
「かわいい……」
「綾さん♡」
「言い慣れねえ言葉を使いやがって。ボロが出たな」
「ウンウン」
課せられた使命は多岐に渡り、身体がウズウズして仕方がない様子。何かのキャラクターの名前を連想したのか彼女はその言い間違いを気に入ったよう。
素直な反応にデレデレするも、三井の容赦ない指摘に頬が髪の色と同化する。
「ぐっ……! う、うるせー!
フン、そーいうキミたちはあるのかね?
この天才に引けを取らない課題が?」
「あ? 俺は、先生とコイツに……」
「え……先輩?」
もう過去の一件は清算されたはず。
一度綾の顔を見たが、罪の意識を感じている彼は彼女への恩返しとして全国に連れていくという心の内を明かすことはなかった。
「俺は、いずれ神奈川No. 1ガードと呼ばせてみせる。
今日もちゃんと見ててね、アヤちゃん♡」
「ハイハイ」
また、ナンバーワンガードに君臨すると言う宮城の課題。それは恋人であり憧れでもある人物の身近にいる綾の姿を通して男たちに牙を向けている様だ。
先ほど個人としては牧に負けてはいないと再討伐宣言をしたばかり。あれだけ憤慨されても、まだ懲りずにジイと呼んでいることに彩子は疑問を投げかけた。
「そういやアンタ、彼氏がジイ呼ばわりされてても平気なの?」
「はい、もう慣れました……」
「ふーん。命拾いしたわね、桜木花道?」
「ぬっ、彩子さん……」
「けど……」
「?」
「紳ちゃんに本気で勝ちにいくなら、相当な努力が必要だよ」
「ぬ……?」
「身長も、頭脳も、経験も……
私……ひとつも勝ってるところ、無いし……
でもね。劣ってるからこそ、負けないぞって前向きでいられるんだ。それに、努力はきっと報われると思う!」
カスミソウは、バラにはなれない。
だけど、近付くことならできる。
「綾さん」
「綾ちゃん……」
「「 春野…… 」」
「…………」
彼女の根元に張りめぐされた強き思い。
たとえ彼に見劣りする箇所だらけだとしても、くじけず前に進もうとする発言にメンバーたちは一斉にうなずき、また感化されていた。
「そうだな……!」
「海南には負けちまったけど、まだ望みはあるんだ! もっともっと頑張ろうぜ!」
「おう!」
「はい!」
「さすが綾ちゃん、良いこと言う!」
( 報連相も、できないけど……
もうプライベートで会うことは無理なんだから
これも前向きに考えなきゃ…… )
「…………」
制限があるなら、許しを得られないなら
試合当日には会えるから辛抱しろと言われても結局それは会えないことと同じ。現在の状況と何ら変わりない。しかしこれは彼が自分のためを思って決めたこと。
一緒にいたい気持ちを抑え従うだけの日々。
かたや彼女は半分以上開き直ってしまっている。
あの日、2人で決めた事項も今や無効か‥‥
少し前までこの体育館が狭苦しく感じられていた綾。今なら閉め切った室内の窓を開けて開放感という名の清々しい風を肌で感じ、奥行きのある空間に見えてもおかしくないはずだが
いつだって牧のことが頭の中をよぎり、どうしても顔面に出てしまう。何となく事情を汲み取った流川は隠し切れないその切なげな顔を再度見つめていた。
― すると
「その通りだ!!」
「!」
「その通りです、春野くん」
男たちの意欲や気力が高まる中、さらに引き締まる者たちの声が響く。
「ゴリ! オヤジ!」
「先生!」
「キャプテン!」
「「 チュース!! 」」
体育館の入口に赤木と安西監督の姿が。
「赤木くんも綾くんも本調子じゃない。
君たちも試合に疲れを残さないためにも、1年生 対 2、3年生で試合をしましょう。今日はそれで終わり」
「「 試合……? 」」
「三井くん。君は、始めのうちは審判です」
「はい!」
――
ピーッ! と甲高いホイッスルの音色が響く。
三井が上空に放った開始のジャンプボールは、湘北メンバー1の跳躍力を持つ桜木の手中に。
「おっしゃあ!」
こうして始まった湘北バスケ部・上級生 VS 下級生の1ゲーム。
決勝リーグ第2戦・対 武里高校との戦いを目前に監督は軽く汗を流そうと提案した。
赤木は足の怪我がまだ完治していないため棄権。また、迷いが吹っ切れたばかりの綾に配慮しバスケットに関わらせるも少しの練習量で終了させることに。
「がんばんなさいよー! 綾! 1年! 」
「1年チーム、ファイトっ!」
「「 なんだなんだ? 」」
「はっ、晴子さん……!」
「カナちゃん! 晴子ちゃん! みんなも……!」
突如体育館脇からカナと晴子の黄色い声が送られ、その後すぐ桜木軍団の野次馬4人組も友の様子見にとやって来た。湘北のサポーターたちが集い、選手たちもいつもの調子が出せることだろう。
と思いきや、桜木は晴子の登場に赤面している。
以前彼女のことが話題に上がった際、彼はしどろもどろになり明らかに様子がおかしく、日頃鈍感な綾でさえその異変に勘付いたほど。
「あ……水戸くん……」
よお、といった風に右腕を振り上げ、綾と軽く挨拶を交わす。
今は桜木のことを考えている余裕はなかった。
水戸の姿に心がどぎまぎしてしまっているから。
ーー‥
俺みたいな雑草が生えてこないように、除草剤を撒いておいた方がいいぜ。
大事な花なら枯れないうちに早めに手を打っておけってことだ。
牧さんよ、春野さんを……俺らの天使を大事にしてやれよ!
‥ーー
( 水戸くん……
あの時、どうしてあんなこと言ったんだろ……
前は言い損ねちゃったし、まだいいって私のことを気遣ってくれてたからだよね。
今度こそ返事もお礼も、きちんとしなくちゃ……! )
自身の様な邪魔者を一刻も早く取り除け ――。
水戸は例の現場で牧にすべてを託し、諦めを思わせる様な発言をしていた。
次回こそ、と告白の返事をしようと意気込む綾だった。
「良かった。綾ちゃん、もうすっかり良いみたい」
「だから言ったろ、アイツに任しとけば大丈夫だって」
「ええ。桜木くん、すごいわ……!」
「それに、本人直々に言ってたからなァ。足りないものの答えをさ」
「そうね……会場に藤真さんが来てたなんて、全然知らなかったもの」
スランプを見事克服した綾の元気そうな姿に晴子はほっと胸を撫で下ろしていた。
憧れの人物である翔陽キャプテン自ら会場に足を運び、例の答えを大々的に叫んだ。バスケットに限り絶対的な自信を取り戻した彼女にもう怖いものはない。
ーー‥
春野さんとは、せいぜい花同盟どまりってとこかな。
彼女はさ……高嶺の花なんだ。
俺みたいな雑草には到底、手が届かねえ……
ダチ以上でも以下でもないって言ってたが
憧れの対象にも、心の救世主ってのにもなれねえ……
ずっと、あのキレイな横顔を見てきた。
けど……いくら一緒にいたくても、隣にいる資格は俺にはねえんだよ……
ああ、好きさ……
どうしようもねえぐらいにさ。
‥ーー
2人が話す中、カナは横目でじーっと水戸の顔を見つめる。友人を問い詰めた際に告白されたと照れ臭そうにしていたことに加え、風にのって消えていった男の儚い思いの丈を振り返っていた。
( 雑草かー……
水戸くんって不良軍団に属してる割に、心はピュアなのよね。意外……ルックスも悪くないし。
人は見かけによらないってホントだわ。
告ったらしいけど、綾はまだ返事してないとみた!
言うときにはズバッと言わなきゃダメだって。
ズルズル引きずるのはあまりにも残酷すぎる気が……
そんでもって、正統派イケメンの藤真健司。プレゼント攻撃とかあの叫びも然り近頃アピールしまくってるわね。でも、やっぱハッキリ言わなきゃ鈍感な綾には伝わんないわよ。
それより、今は牧くんかー……
こっちの問題は未解決のままだし……
距離を置くって、もう!
どっちも一体何がどうなってんのよ……!? )
「スラムダーーンク!!」
「「 おおーーっ!! 」」
「わぁ……!」
先制点は1年チーム。桜木は角田や安田といった上級生たちのディフェンスを恐れることなくガンガンと突っ込み、難なくゴール下からのダンクをぶちかます。
牧をも吹っ飛ばした力強いシュートにギャラリーだけでなく綾も元コーチの迫力に圧倒されている。幾度の実戦経験もあり、もはやスタメン以外のメンバーでは手に負えないほどの実力をつけていた。
「桜木くん……すごい……」
「野郎、調子に乗ってんな……」
「だけど、三井先輩があとから入るとなると
さすがの桜木くんも苦戦するんじゃ……?」
「あ?」
頭部にフェイスタオルを巻きつけ、審判としての仕事を全うする三井。自信に満ちあふれた男を不安そうに見つめる後輩に声をかける。
「桜木なら大丈夫だって。
先生にはちゃんと考えがあんだよ。他人の心配よりも自分の心配をしろよな、春野」
「先輩?」
「スリーポイント、なんせ1度も決めたことないんだからよ」
「かっ、かすりはしたんですよっ!」
神と共にプレイした際は一度も手応えを得られなかったが、先日のバスケットマン教室では一度だけネットをかすめたと訴える。
三井も同席したためバッチリ覚えているはずだが‥‥
「あの時、先輩も見て『バカヤロウ、かすっただけじゃ得点になんねーよ』」
「わっ……」
「おらっ、しっかり応援しろよ! 魔法使いのコーチが待ってんぞ!」
「はっ、はい!」
(( 魔法使い? ))
綾の顔面めがけてタオルを放った。
からかっていると認識しても良いのだろうか。この直後、三井が投入され颯爽とコートへと駆けてゆく。
( 三井先輩…… )
ーー‥
桜木くんが「大丈夫!」って言うと、まるで魔法にかかったみたいに安心するんです。
部活を辞めようとしたり怖気づいて逃げちゃったり……
戒めとして罪の清算がしたくて叩いていいよってお願いしたんです。そうしたら、桜木くんがこうしてくれて……これで同罪ですね。
だから、先輩の罪も帳消しです!
私は先輩が更生してバスケ部に戻って来てくれただけで充分なんです。だから、もうとっくに償いきれてますし
第一、罪滅ぼしだなんて……
もともと、先輩が負い目を感じる必要なんてこれっぽっちも無いんですよ!
でもね。劣ってるからこそ、負けないぞって前向きでいられるんだ。それに、努力はきっと報われると思う!
‥ーー
先ほどの前向きな言葉が印象強く残っているのか、高みを目指そうとする彼女に男の顔はほころんでいた。
( 春野……やっぱりお前は強えよ。
俺と似たようなモンを感じるんだよな。
こんなこと小っ恥ずかしくて面と向かっては言えねーが
一緒に行こうぜ、全国によ……!!)
――
「おいお前ら! 1年に負けたら腕立て100回だからな! 分かってんのか!?」
「「はい!」」
「そんな……三井先輩、厳しい……」
「ふっ、それぐらいせんと示しがつかん」
「そうよ。アンタもやる? 100回」
「えっ、遠慮しておきますっ……!」
後輩たちに発破をかけ、やる気を駆り出す三井。
あらためて持ち場に帰ってきた彼は厳しい口調ではあるがチームの一員として非常に生き生きとしていた。
「おい、桜木」
「ぬ?」
「手刀、効いたぜ」
桜木は何のこっちゃと言った不可解な表情だ。
先日、綾から受けたソフトな一撃。この男の受け売りだと話すそれは当時逃げ腰になっていた彼女が自身の戒めにと依頼した罪の清算方法であり、頭に軽く乗せられただけのもの。
本人としては清算できていないよう。だがしかし、無垢な笑顔と彼女の人柄を表す様な救いの言葉に彼の心の中で何かが変わったことは間違いない。
三井は桜木へ感謝の気持ちを述べたのだった。
( チョップ?
そういや綾さんが大切な場所だとか言ってたな……
しかし、ミッチーにはしてないはずだが…… )
――
「半人前のクセに人に偉そうに教えといて、自分はできねーのか!? コーチさんよ!!」
「うるせー! 敵の言うことは聞かん!」
監督の指示により、三井が桜木に付きっきりに。
彼はセンターとしてゴール下の守備についた。先輩の思わぬ登場に1年の部員たちはざわつき緊張が走る。
雑音を聞き入れたくないと両耳を塞ぐが、煽りに煽りコートのみならず精神状態までも牛耳る三井。バスケットマン教室の後半でもこれと同じ様な声が上がっていた。
「ったく、女 (春野) の前だからって見栄を張りやがって」
「みっ、ミッチー!」
「先輩?」
ーー‥
ウン万人の声援も、綾さん一人に敵いません。
あなたの声援はウン十万人の声援にも勝ります。
綾さん、俺は……
‥ーー
あの告白まがいのセリフをばっちり聞いていた三井、木暮そして流川。その後に続く言葉は「あなたの笑顔と真の姿を取り戻す」というもので愛の告白ではなかったが、どうやら弱味を握られてしまった様だ。
以前南郷に綾の恋人宣言をしてからというもの片想い中であることは既にバレバレで、鈍感な彼女でさえその気持ちを認知しているという事実‥‥
もっと前から、しかも清田を通して知ったとは1ミリも思うまい。三井は露骨に赤くなった桜木の顔を見ながら余裕とも取れる笑みを浮かべている。
( くそっ、ミッチーめ……
大衆の面前でわざと綾さんに聞こえるように……!
それに、リバウンドは取れるんだ!
ここからシュートを打てれば……! )
双方の経験値の差は大いにある。
綾の予想は的中し、桜木は手も足も出ない。
三井にぴったりマークされシュートコースを完全に塞がれてしまったのだ。得点を稼ごうにも彼の攻撃手段はレイアップとダンクの二通りのみ。
ゴール下に入らせてもらえず自称天才の快進撃はここでぴたりと止まってしまう。こぼれ球は取れても次の一手が出せず、次第に弱点が炙り出されていく。
「さすが三井、あれでは桜木は身動きひとつできん」
「シュートはダンクかレイアップしかないからね……」
「桜木くん、あんなに意気揚々としてたのに……」
三井の投入前まで絶好調だった男は、今や絶不調に。
― そんな中‥‥
「 1年チーム!! ゴーゴー!! 」
「「……!!」」
「「 春野さん! 」」
「綾さん!」
「了解……!」
絶対勝ってね! と交互に両腕を上に伸ばし、腹部から声を出す。
天使の透き通ったコールはどんな人物の声援よりも響き彼らのやる気に火をつけた。
恋人の牧に勝っているもの。それはきっと
あの日、桜木も述べていた気持ちのこもった大きな声と彼のモヤをも吹き飛ばした心からのこんな笑顔‥‥
( ふっ、春野…… )
「いい笑顔だ、春野くん。
これからの戦いはその勝ち気が大切です」
「安西先生」
「彼自身も課題が見えてきたようだね」
元通りになった女神のいる湘北は、強い。
彼女の勝利への意欲と微笑みに赤木や監督も釣られ笑いをしていた。
また、その発言から今回のねらいも明確なものに。
海南戦で擦り減った桜木の自信回復と新たな課題を自覚させるためだと判明したのだ。今日は簡単なゲームだけと言いつつも自己能力が不十分な箇所を炙り出しやる気までも引き出した監督に綾は尊敬の念を抱き、これらを瞬時に理解した三井にも同等に敬意を払った。
「三井が分からせてくれました」
「ゴール下の、シュート……」
「その通り」
( 先生……
すごい……三井先輩は、それを見抜いてたんだ。
課題かぁ……桜木くんも言ってたなぁ……
走り込みも、フリースローもスリーポイントも。
私も、まだまだ課題だらけ……
だけど、またみんなとバスケができて嬉しい!
……紳ちゃん……
貴方とは、もうできないのかな……
って、ダメダメ! 今は部活! 試合に集中っ!
私は成長スピードはてんで遅いし
天才でもないし、実力差がありすぎるけど
オフェンス力を強化するもの同士
頑張ろうね! 桜木くん……! )
" 心機一転、自分も返り咲きたい。
皆と一緒にバスケがしたい! "
その願いは既に現実となっている。牧のことが脳裏にチラつくも、早朝ランニングといった基礎体力作りやシュート上達に向け邁進しようと意気込む綾‥‥
― そして
「「 速攻っ!!」」
綾の声援を受け流川、桜木の高速コンビが猛スピードで敵の陣地に向かい2、3年を敢然と追い詰める。
桜木の手に渡ったボール。身体を張って教えようとしたのか流川はリターンパスを待つが2人は犬猿の仲ということを忘れてはいけない。
彼が素直にパスをするはずがなく、宙に高く跳び上がり
「……!」
「「 危なーい!! 」」
ボールをリングに思いきり叩きつけた‥‥!
そのままゴールにぶら下がったままギャアギャアと互いの身勝手さに文句をつけ、館内は騒然。
「てめー!! 邪魔しやがって!!」
「何でパスを出さねえ、このどあほぅが!!」
「2人ともやめろ! 壊れる……!」
「「 やれやれ…… 」」
「桜木くんも楓くんも、下りてよーっ!」
(( コイツとは絶対に仲良くできねえ……!! ))
もはや聞く耳を持たず。試合はどちらが勝ったのか?
こうなってはもう試合どころではないがクロスゲーム(接戦)になったことは間違いない。彼らのプライドを保つためにも、引き分けということにしておこう。
バスケットマンそしてバスケットウーマン。
明日から近距離、遠距離の猛特訓が始まる‥‥!
( 親父さんは、寛容だな……
俺を許すというのか……
だからといってあの約束を破っていいわけがない。
男に二言はないが、このままでいいとも思っていない。
だが、それではアイツが……
何年経とうと傷は癒えんだろ……
ずっとあのことを引きずって生きていくというのに。
無かったことにするのは、あまりにも残酷だ。
綾……
もっと早く助けてやれたら、あんなことには…… )
― ところ変わって
海南大男子バスケット部の練習風景。
「簡単に打たすな!
たるんでるぞ! 練習とはいえ、気を抜くな!」
今日の館内には男の容赦ない厳しい声が響く。
「牧さん……
いつにも増して、厳しくないすか……?」
「ああ、飛ばしすぎだぜ」
「僕もそう思う」
「様子が変だな……」
「「 牧さん……? 」」
「…………」
違和感を口々にする部員たち。
通常ならば穏やかな中に厳しさが感じられる牧だが、この日はその穏やかさが欠け、厳格な態度だけが残る鬼コーチと化していた。
「焦りは禁物だぞ、牧。お前らしくもない」
「はい」
「ウチは神奈川の王者。常に最高のコンディションで試合に臨むことが大前提だ。
無理が祟って赤木の二の舞になっては、元も子もないぞ」
見兼ねた監督にたしなめられる牧。
捉え方によっては、万が一怪我でもしてしまったらどう責任をとるのかといった厳しい言葉にも聞こえる。
「来たる陵南戦を前にして怖気付いたか」
「それはありません。
相手が誰だろうと、迎え撃つだけです」
" 目の前にどんな奴が立ちはだかろうとも負けはしない "
この場で、綾に強く誓ったこと。
それに加え相手があの仙道だろうと全力で闘うだろう。
「ならば……春野綾か」
「…………」
一瞬、目の色が変わった。分かりにくくも分かりやすい反応に監督は口角を上げる。
ところどころ牧の表情が優れない理由。
それは、自身への苛立ちと戸惑う心が混在し無意識に顔や行動に表れてしまっていたから。
綾の母が言った通り、既に父は許してくれていた。
次は君が娘の手を取って共に歩んでくれと昨日、堅物な父親に再度交際の許可を得た。
しかし、ああ言われても彼は一本筋を通したまま。
心の傷は一生癒えることはない‥‥
綾のことだけがネックで頭を悩ませていた。
「お前たちも、よく聞け。
健気だとは思わんか?
あの娘は心に悩みを抱えていたにも拘らず、試合の要所要所で差し入れを提供し、声を張っていたことを」
「「……!」」
メンバーたちは監督を取り囲む様にして床に座りこむ。
弁当にタオル、ドリンク‥‥
試合当日だけに留まらず練習時でも観戦時でもその都度小さな身体で大きな手土産を目一杯抱きかかえ、裏方としての役割を果たしていた。
言わば縁の下の力持ち。部員たちは彼女の言動や行動を1つ1つ振り返る中
監督は横に立つ男に目をやり静かに話を切り出す。
「先日……
勝利の女神にはなれないと、断られた」
「「 え……!? 」」
勝利の女神はどちらに微笑むのか。
どちらを応援したら良いか路頭に迷っていたことを見抜いた監督は、弱った天使の胸中をずばり言い当てていた。ゆえに海南の勝利を約束することはできなかった。
「牧……お前の例のダンクが天使の弱った心を打ち砕いたと、そう考えてもいいか?」
「……はい」
「以前約束したのもあるが……
私は、お前たちがすぐに復縁するとにらんでいた」
「……!」
ーー‥
湘北ーー!! 頑張ってーー!!
‥ーー
這い上がりたい。なんとかしてこの壁を乗り越えたい。
強くそう思っただろう。願っただろう。
ライバルが自信を持てと
彼氏のことを信じろと叫び、彼女は変わった。
覚醒し、真の姿を取り戻した女神は最終的に己のチームに微笑んだ。
また復縁をしたと分かったのは何故か。
それは武園戦の当日、本人と通路で出会したから。普通に考えても別れていたなら応援になど来ないはず。
別れてしまったのかと尋ねたあの日‥‥
牧が思い悩んでいた時点で、後悔している様子からすぐに元通りになると予測していたのだろう。
「誠に残念だが、完全に目を覚ました者に怖いものはない。湘北にとって確実に強みになるだろう。
牧、お前も男なら全力でぶつかってくる者には全力で応えようと思わんか?」
「もちろん、そのつもりです」
「うむ」
勝利に飢えている牧は根っからの負けず嫌い。藤真にも全力で挑むと綾にそう宣言したばかり。
望み通りの答えがすぐに返り、誇らしげに相槌を打つ。
「安西先生ならびに完全復帰した天使がいる湘北は強い。しかし、その湘北にウチは勝った。
辛勝だったが勝ちは勝ちだ。
この先の勝利を掴むためにも、一刻も早く平常心を取り戻せ。主将のお前がどんと構えてなくてどうする」
「監督……」
高頭監督は彼にとって第二の故郷ならぬ、第二の父親。ここぞと言う時に支えとなる中心人物だ。
低い声は厳しくも温かく、また柔軟に心を刺激した。
ーー‥
はい! これ、紳ちゃんに!
私もね、紳ちゃんのことだけを考えて選んだよ。
これには色んな感情が詰まってるんだ。
受け取ってくれる……?
‥ーー
「くっ……」
彼もまさに今、様々な感情が渦巻いているだろう。
無垢な彼女の笑顔と添えられていた手紙が思い浮かぶ。
歯を食いしばり、筋肉質の太い腕でその肌触りの優しいタオルをぎゅっと掴む。
― すると
「牧さん」
神がひとり立ち上がり、先輩に向かい話しかけた。
「彼女が運命の人だと思うなら、行ってください」
「……!」
「ん……?」
「神さん?」
「「 神……? 」」
" 綾ちゃんと2人きりになりたい "
それを許していた牧。2人がどう過ごしていたのか。
そんなことは疑問に思っていなかった。何があろうとも彼女のことを信じているから。後輩の大分スッキリとした表情を前に深追いすることもなく、こう答えた。
「神……もういいのか?」
「はい。大丈夫です。
綾ちゃんは、ただのガールフレンドですから」
( 神…… )
ーー‥
この間ね、高頭先生が
県大会のMVPには牧が選ばれるだろう、って言ってたの。すごいよね、紳ちゃん……
でも、今は距離を置いてて……
責任を全部背負い込むんだって……
そんなに詰め込むことないのに……
私が、盾になるのに……
試合が終わっても、ずっとこのままだと思うんだ。
でも、仕方ないよね。
紳ちゃんの決意をないがしろにはできないもん……
だって紳ちゃんは、私の運命の人だから……!
‥ーー
綾が言う真っ赤な糸で繋がっているのか。
事情を知る神は先ほどから何も喋らず、その二言だけを先輩に放った。
仮に先に巡り会えていたら、自分に好意を持ってくれていただろうかと尋ねたが
付け入る隙などはじめから無かった。彼女の返答に完全なる敗北を味わった彼は未だ失恋の後遺症を抱えつつも運命の糸で繋がれた愛しき人のもとへ行くよう促す。
「牧! 心を鷲掴みにしてこい!」
「監督……」
「これは監督命令だぞ! さあ、行ってこい!」
「……はい!」
一礼し、体育館の出入り口へと向かう。
「頑張れよ、牧!」
「「 牧! 」」
「「 牧さん! 」」
「綾さんによろしくっす!」
試合並みに熱気を帯びる館内。立ち上がった部員たちは見送ろうと次々と声を発した。一刻も早く迷いを振り払い、恋人と心を通わせられることを願って‥‥
こうして部活を早退きし、体育館を後にした牧はひとりある場所へと向かうのだった ―