最大の試練 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
この手を離したくなかった。
2人きりでもっと、一緒にいたかった。
――‥
俺が桜木なら、何も言わず放っておいてほしいと思う。
好きな女であれば、なおさらな……
‥――
細い肩に置かれた、肌のぬくもり。
あんな結末になろうとは誰が予想しただろう。
互いの接触はこれが最後となってしまうのか。
「紳ちゃん……」
「…………」
年上として、時に経験値の高いプレイヤーとして、またある時には恋人として
常にどんと構え繊細な彼女の気持ちに寄り添ってきた牧。そっとしておくのが一番だと伝えるが
「だ、だけど……ほっとけないよ。
人間だもん、誰にだってミスはあるよ。
私……やっぱり行ってくる!」
好きな人に慰められる。男にとっては喜ばしくもあり悲しくもある。彼の言うそれが最善の策だとしても、天使が黙って見過ごすはずがなかった。
牧は、名残惜しそうに手を離す。
その大きな手が肩から離れると、小走りで数歩先へと移りそこで一度だけ足を止める。
「6日後の武里戦、上で応援しててね!
陵南戦、私も精一杯応援するから!
またね! 紳ちゃん……!」
一緒にいる時間が長ければ長いほど離れるのが辛くなる。
別れ際、綾はとびきりの笑顔を見せた。
( 綾…… )
手元にある貰ったばかりのプレゼント。呼び止めることも追うこともなく彼女の背中を見つめる。辺りにはヘアオイルの甘い香りが漂い、男の鼻をかすめた。
バスケットへの迷いは吹っ切れても、恋愛となれば話は別。相手がいるからこそ成り立つ。よって片一方だけの問題ではない。
6日後にはまた会える。
彼を信じている。が、こればかりは望みが薄い。
( バイバイ、紳ちゃん…… )
心の中では、泣いていた。その心の涙は
しとしとと霧雨の様に彼女の胸の中に降り注いだ。
精神を強く持っていなければ、こぼれてしまう。
淋しくてたまらないという
本当の気持ちも、本物の涙も‥‥
その後、チームメイトたちと合流し解散。
あちこち捜索するも結局この日は足取りが掴めず断念。
きっと家に帰ったのだろうと、綾も帰宅した。
― そして翌日
「チュース!」
「お、いいわよー! 綾!」
放課後。コートに入る前の一礼と
桜木直伝の大きな声での挨拶は欠かせない。
「「 おお……! 」」
「彩子さん、それは……?」
「あんたの彼氏にしてやられたからね、書いてきたのよ」
「すごい、達筆ですね!」
「でしょー」
「最高♡」
傍にいた宮城の声が響く。
彩子直筆の " がけっぷち "
昨日の海南戦。白熱した試合は黒星に終わった。
残る椅子はたった1つ、武里と陵南との試合。どちらにも勝たねば全国への道は閉ざされてしまう。
よって、もう負けることは許されない。
これは模造紙だろうか。条幅の書道用紙以上に書かれたその太く大きな文字は、湘北チームにとってのプレッシャーおよび危機を知らせる警告標識の様なものだった。
「うーっす」
「先輩方! チュース!」
「春野」
「お、おう」
「春野……」
早速、桜木に教わった挨拶を交わす綾。
体育館の入り口には三井と木暮、そして松葉杖を抱えた赤木の姿が。元気さあふれる応対に驚いている。
この様な意気揚々とした姿を見るのは三井が部活動に復帰してきた時以来だ。
壁に貼られた文字と試合のスケジュール表に目をやると
「武里と陵南、2度も負けてたまっかよ。
お前ら、残り全勝でいくぞ!!」
「「 はいっ!! 」」
( あと5日…… )
牧のことが脳裏に浮かぶ。
互いに試合を控えているが、一観客として
遠目から彼の勇姿を眺めるだけ。
プライベートで会うことは‥‥もう、できない。
( ちっ、何がデートだ……! )
( 仙道め…… )
( 野郎、ナメんな……! )
( にゃろう…… )
( え? みんな、どうしたの? )
下を向く綾とは対照的にメンバーたちはメラメラと闘志を燃やしている。
その訳は以前体育館を訪れた仙道が県予選後にデートに行こうなどと発言をしたためであり、その絶大なる自信に格下に見られていると捉えたからだ。
― すると、赤木があることに気が付く。
「ん? 桜木はどうした?」
この日、館内には大きな違和感があった。
燃えさかる炎の様な頭をした者がいない。横柄な態度に加え、自己肯定感が非常に高いあの男が。
「今日は、欠席でした……」
「…………」
誰もが次なる試合に向けて決意を新たにする中、ずるずると過去を引きずる桜木の話題に。
「まだあのパスを気にしてんのか、あのバカは……」
「いなきゃいないで静かでいい」
「楓くん……」
いない方が好都合だとつぶやく。
流川が部活を休むことは全くと断言できるほどにない。
眠くて眠くて仕方がない退屈な授業を乗り越え
ボールと触れ合えるこの放課後は、彼にとってこの上ない憩いの時間なのだろう。
「あの、私……桜木くんがどこにいるのか、なんとなくですけど、分かります」
「本当か?」
ファウルをした際、挙手をする様にして言葉を発した。皆が一斉に声のする方を向き注目を浴びる。彼女は大体見当がつくと言うが‥‥
「はい。一緒に来てくれるかどうかまでは保証できませんが伝えることを伝えたら、すぐに帰ります……!」
「春野……大丈夫なのか、1人で……」
( キャプテン…… )
神妙な表情をする赤木。
負けてはならぬ戦いを目前にして、部員1人のために貴重な練習時間を割くことはできない。ならば比較的手が空いている自身が行けばいいという結論に至ったよう。
「赤木キャプテン。私、小さい子どもじゃないですよ?
それに……今の自分があるのもコーチのおかげです。
なんたって、バスケットウーマンですから!」
「……!」
もう、以前までの自分じゃない。
何よりも彼には色々と恩がある。だからこそ、どうしても一目会っておきたい。
例の天才バスケットマン教室。赤木は木暮や三井から事の内容を聞かされていた。課程を無事終えた彼女は、口調まで桜木に似てきているから驚きだ。
「……そうだったな。アイツのことはお前に託す。
だが、万が一ということもある。
何かあればすぐに連絡すること! いいな!」
「はい! 分かりました!」
例の事件が起きてからまだ日が浅い。
牧の大事なパートナーを預かる身として、身体を気遣っての発言だったがその思いやりの心は伝わっただろうか。
頭の冴える彼女。きっと重々理解しているはず。
それから、キャプテンは踵を返した。
誰もが気付くことはなかった。密かに口角を上げていたことを。バスケットをこよなく愛す彼にとって、あの一言は嬉しかったに違いない。
「綾」
すると、近くに立っていた流川が口を開く。
「楓くんも、分かるよね?」
「まあ、少しは……」
直後、綾は床に置いてあるボールを手渡し体育館を去った。
( ちっ、ほっときゃいーのに……
綾に手間かけさせんな、どあほぅが。
……オダマキか…… )
ボールには桜木と綾の名前が。
同じバスケットマンなら、バスケットウーマンならばきっと分かる。おおかた予想はついているはず。
本能的にあの場所へ向かうだろう。
困っている人を見過ごせない ―
春野綾という人間の大半は、優しさでできていると言い切れるほど慈愛に満ちている。
流川は過去に彼女と手を合わせ、そして重ねられた自身の手の甲と手の平を交互に見つめるのだった。
バスケットの楽しさを牧が、皆が思い出させてくれた。
桜木とは同じクラスメイト。本日は授業も出なければ部活にも出てこない。
主将・赤木に許可を取りまた一任された綾は部活を抜け出し、間違いなく彼がいるであろう場所へ。
「桜木コーチ!」
「なっ……綾さん……!」
その名付け親は、意中の女性の明るい声そしてコーチの名にすかさず反応を示す。先日譲り受けたものだろうか、白のTシャツとデニムジーンズといった私服姿だ。
居心地が悪いのか回れ右をして身体を前に向き直してしまった。
桜木は再び金網にもたれかかる様にして敷地内のバスケットコートを見つめている。三井が言っていた通り、昨日の失敗を大分引きずっている様子。
「学校、サボっちゃダメだよ〜」
「…………」
って私が言えた口じゃないかぁ、と
以前授業をすっぽかし青空を眺めていた優等生は乱れた前髪を触った。
爽やかな初夏の風を受け、向かった先は
ある日の早朝時、突如として現れたヘルメット男・南郷に出会った場所だった。
歩道に立つ2人。触れようと思えばいつでも触れられるほどの至近距離。
非常に図体の大きな彼だが心は異様なまでに繊細だ。
背を向け、こちらを振り向こうとしない。
「あの紳ちゃんを吹っ飛ばしてのダンク、びっくりしちゃった! 大迫力でとってもカッコ良かったよ!」
「……!」
「私のために、ありがとう……」
( 綾さん…… )
真のスラムダンク。強烈な一撃に会場中が沸いた。
残り1分という切羽詰まった状況で、神奈川No. 1の牧を相手に勇敢に立ち向かっていった桜木。
あの場面は約束を取り交わした彼女の胸の中にも強く刻まれていた。
「励ましの天才に、私の励ましなんて……
薄っぺらい言葉しか浮かばないけど……」
「ぬ……?」
拭っても拭いきれない哀しみを抱いてからというもの試合の真っ最中でさえ激励の言葉をかけられ、心を救われていた。
桜木に依然50人もの友人がいると思い込んでいる綾。
" 励ましの天才 "
馴染みのない言葉に不思議に思った救世主は、ゆっくりと後ろを振り返る。
「弘法も筆の誤り……」
「コーボー?」
「猿も木から落ちる、って言うよね?
どんな人にもミスはあるよ!
だから……落ち込まないで」
「…………」
綾は分かりやすい例えに言い直し、2番目に伝えたかったであろうメッセージを口にした。
――‥
失敗を恐れずに頑張った結果だね!
今日の桜木くん、とーってもカッコ良かったよ!
最後のダンクも……惜しかったね。
退場処分になっちゃったけど、迫力満点で凄かったよ。
私、すっごく感動したもん。
さすが桜木くん、ジーニアスだね!
‥――
バスケットに対する心の隙間は完全に塞がれた。
単に聞き慣れない言葉たちに反応しただけではない。
彼女はいつだって邪険に扱わず、良かった点を褒め称えてくれる。
本来の明るさを取り戻した天使の笑顔を少しでも視界に入れておきたかったのかもしれない。
「猿……ですか」
「あ……!
別にね、桜木くんが清田くんに赤毛猿って呼ばれてるからじゃないよ?」
言った直後に勘付いた綾は、自身も猿呼ばわりしていると勘違いされないよう話した。
すかさず桜木に対しても同じ類ではないと否定すると
「つまり……
メッシュ猿も野猿も、ボス猿も……ミスはあると……」
「うん。私みたいな一般庶民にも」
完璧な人間なんていない。どんな人にもミスはある。
狙ったわけじゃなく、対象とする人物とことわざが偶然一緒だったというだけ。
恋焦がれている女性がただの庶民なわけがないと言い終えることなく声と声とが重なる。
「そんな、綾さんが庶民なんてことは……『むしろ、みんな失敗ばかりじゃないのかな』」
「……!」
「紳ちゃんも……」
「ジイも? ……ハッ!」
牧をOB呼ばわりした彼は先日、綾に口も利かないと集中砲火を喰らったばかり。いかん! とでも言いたそうな焦った表情で咄嗟に口元を隠すが
「もういいよ、ジイでも。
だけど、猿って……そんなに種類があったの?
ごめんね、笑っちゃいけないのに。
桜木くんと一緒にいると楽しくて、つい……」
「綾さん」
不穏な空気になるどころか、時間差で吹き出す綾。この様子から恋人を「ジイ」呼ばわりされてもさほど気にならなくなったことがうかがえる。
「猿」彼がつけたあだ名のほとんどがこれで
笑うところではないと分かっていても笑いが込み上げてしまう。
だがしかし、一緒にいて楽しいと言われてもなお表情は晴れず真顔のまま彼女の笑顔を見つめていた。
「ジイも……牧紳一も……最初はミスして怒られて、上手くできない自分が嫌で投げ出しそうになって挫折して。その繰り返しだったはずだよ?」
「…………」
――‥
体育館の隅で基礎練習ばかりでつまらないと感じていたし、練習量も想像以上にハードで正直辞めたいと思うこともあった。
中学最後、高橋中との試合で負けて
有終の美は飾れなかったが、高校でリベンジを果たそうってアイツと誓いを立てたんだ。
もちろんその頃にはもう退部しようなんて頭は無かったよ。
バスケットが心から好きなんだと気付いたから……
赤木は、一度たりとも辞めたいと思ったことはないと言っていたよ。
脱帽したよ……
全国制覇に懸ける熱意は並大抵のものじゃない。
みんな、挫折を味わったからこそ
下積み時代があったからこそ、今があるんじゃないかな。
きっと彼氏も……海南の牧も苦労してきたはず。そしてバスケットが心底好きなはずだ。
‥――
皆一度は通る道。
特訓の際、木暮もその様なことを語っていた。
牧紳一という男を1から10まで知り尽くしているわけではない。が、交際当初から今までてっぺんを目指そうとする彼の背中を見続けてきた。
下積み時代があるから、苦難を乗り越えたからこそ今がある。
自身とて現在進行形で体力作りや遠距離からのシュートなどに取り組み苦戦している最中。
みんな同じだよ、と失敗を恥と思わないよう諭す様にして伝えた。
― そして
「そうだ、これから雲行きが怪しくなるみたいなの。桜木くん、傘持ってる?」
「いや、今日は手ぶらで……」
「なら、これ貸してあげる。
大事な身体なんだし風邪引かないようにね!」
天気は下り坂。遠くの空に黒雲が見える。
雨が降るみたいだと知らせると同時に、桜木に折りたたみ傘を差し出した。
体に一切触れることはない。あくまで雨具を渡すだけ。
「じゃあ、体育館で待ってるから! またあとでね〜!」
「えっ、あの、これ……」
両手をブンブンと大きく振り、駆け足で去っていった。
( 綾さん……わざわざ、俺のために……? )
嵐の前の静けさか。
やわらかな風に揺られざわつく木々と木の葉と、男心。
この時、コートから2人の姿を見ていた謎の男が。
( アイツら……
仙道に一目置かれてる男と……
仙道が一目惚れしたっていう女…… )
( 桜木くん……やっぱりあそこにいたんだ。
一目でも会えて良かった。
紳ちゃんは、やめておけって言ってたけど……
あの日の私とおんなじだね。
誰だって1人になりたい時、あるよね。
だけど、迎えに来てくれる人がいて嬉しかったから……
ありがとうを伝えられて良かった。
ずっと、待ってるから。
気が向いたら、部活に来てね……! )
無理に連れ戻そうとせず、元気を出して、とは言わず
体育館で待っている、と‥‥その言の葉だけを残し彼女は足早に体育館へと戻っていく。
しかし日中、彼が学校に来ることはなかった。
――
地面に叩きつける様な雨。彼は今の今まで一体どこにいたのだろう。ずっとあの場所に佇んでいたのか。
それは誰にも分からない。
午後8時過ぎ。
暗闇の中、傘も差さず降り止まぬ冷たい雨にぴくりとも動じず校門をくぐり抜け、とぼとぼと部室へと向かう。
電気も点けず窓際に座り込み
例の折りたたみ傘をじっと見つめ、何やら思い詰める。
( だけど……
あそこでミスをしたから負けたんすよ……
俺のミスのせいで…… )
― すると
突然、部屋全体が明るくなる。
何者かが入ってきた。
「何やってんだ、どあほぅ」
「ルカワ……!」
部活を終えてもなお、ひとり練習に明け暮れていたのか。
視線の先の人物は好敵手である流川だった。
憎たらしさ100パーセントの男の登場に自然と目つきが悪くなり、表情が歪む。
( コイツも過去に挫折を……
いやいや! 何を考えてんだ、俺は……!
テメーに同情なんてこれっぽっちもするかってんだ! )
「…………」
誰しも挫折を味わったことがある。綾に日中言われたことを危うく目の前の男に照らし合わせかけたが、頭がそれを受け入れず。
全身が水浸しなため、廊下や床には雨水の道しるべが。
先日彼女とともに清掃した部屋も今ではひどい有り様だ。
流川は桜木が大事そうに持つある物を見た。
「拭け」
沈黙が解き放たれたと同時にタオルを放る。
「アイツはずっと待ってた」
「なに!?」
「そのカッコを見たら、どんな顔をすると思う」
「……!」
――‥
桜木くん……!? 大丈夫!?
びしょびしょだよ……!
傘、使わなかったの? ほんとに風邪引いちゃうよ……!
‥――
「……っ、綾さん……」
青ざめた顔が脳裏に浮かぶ。
あれから部活の終了時刻ギリギリまで桜木の帰りを待っていた。
余計な心配かけんな、とでも言ったニュアンスか。
綾の代弁をする流川。これらの言動また行動は彼女の気持ちを一番に考えてのこと。
水玉柄のポップな可愛らしい傘。
いかにも女性もので、綾の私物だと流川は秒速で判断した。
オダマキは室内の隅にあるボトルに生けられている。
机の上には枯れて色を失った数枚の花びらが。
その中の1枚を利き手の掌に乗せ、ぎゅっと握る。
相手の反応などお構いなし。その後、シャープな瞳の男はスタスタと歩いていってしまった。
「あっ! 待て!」
――‥
追いかけて来てくれたのが、桜木くんで良かった!
ごめんね。待った?
やっぱり桜木くんは、優しいね。
オダマキって、花びらが星の形になっててすごく可愛いと思わない?
どうかみんなが怪我をしませんように。
小田くんの足が1日でも早く治りますようにって、祈ってる。
みんなのことを信じて、勝利を願ってるから……!
私は、大きな豪華客船に乗ってクルージングしてる気分だったよ!
だって、現にちゃんと助けに来てくれたよね?
‥――
終始笑顔の彼女が頭の中を駆けめぐる。
この時‥‥雨粒だろうか。
桜木は、目に後悔の涙を浮かべていた‥‥
そっと傘を机の上に置いて退室し、大急ぎで後を追う。
――
色褪せてしまった花びらを握り締め、彼らは体育館へ。
空模様だけでなく
ここでも雲行きが怪しくなり不穏な空気に一変。
「性格悪いテメーが俺のミスに何も言わねえとはおかしい! 同情ならいらねーぞ、そんなモン!」
「あ? 同情?」
「だいたい名前で呼んでること自体、気に入らねえんだよ!」
誰もいない館内に男たちの怒号が響き渡る。
「ボディガードのはずが、綾さんを……!
昨日も俺のミスのせいで負けたんだ!」
「どあほぅが……負けたのは、俺の責任だ。
スタミナが続いていれば昨日は勝ってたはずだ……!」
「なに!?」
「……ああなったのも、俺のせいだ。
鎖をつけてでも、綾のそばにいてやるべきだったんだ!!」
――‥
おっきい……バスケをしてる人はみんな大きいのかな?
この手でたくさんの試合を競り合って……勝利を掴み取ってきたんだね。
オダマキっていうんだけど、知ってる?
今の私じゃこんな薄っぺらい言葉しか言えないけど……決勝リーグ、頑張って……!
か…… かえでくん…… 助けて……
湘北ーー!! 頑張ってーー!!
うん……楓くん、本当にありがとう……
‥――
( ずっと横にいてくれた
アイツに報いるためにも、もっとうまくなりたい。
陵南……仙道にはもう、負けねえ……!! )
負けたのは、あくまでも自分のせい ―
控え室での宣言通り、彼は彼女が実行できずにいた見上げるほど高い壁を打ち破った。
" ありがとう "
あの時の感謝にどれほどの気持ちが込められていたか。
しかし、勝利を掴み取ることはできなかった。
牧はもとより発覚してしまった。体力の無い自分という鉄壁が立ちはだかっていることが。
失踪寸前にオダマキの存在を知った流川。
赤木や彩子たちから花言葉を調べたと聞き、心は完全に折れていないことを知る。
綾は牧への気遣いと謝罪の気持ちから、隣に立つことを拒否していた。
無理強いをしなかったのは大事に想っているからこそ。
が、行使すべきだった。
狙われていたとは知らず、目を離した隙に輩に連れ去られてしまった。守れなかった。無力だった。
何かを庇っているとは予測していたが彼女の身にまさかあの様なことが起きるとは。
震える手に温かな手を重ね、声を張り
感謝を述べていた天使に報いるためにも、武里そして
陵南の宿敵には何としても勝たねばならない‥‥!
「守れなかったのも、負けたのも、どっちも俺のせいだ!!」
「いや、俺だ!!」
「「 俺だ!! 」」
憤りを感じ、拳と拳でやり合う流川と桜木。
あのパスは本来なら赤木に行き渡るはずだった。
スタミナが切れ最後までコートにいられなかったこと。
1年の問題児による本音と本音のぶつかり合い。
己のミスの主張そして綾への申し訳のなさをこれでもかと吐き出していた。
あいにく花は枯れてしまったが
それにより後悔の涙も枯れ、渇き切っていた心は水気を取り戻す。
さらに桜木は、この度の敗戦をバネに
次こそはと勝利への決意を明らかにするのだった。